vol.12

木の学校づくりネットワーク 第12号(平成21年9月12日)の概要

  • 巻頭コラム:「”環境にやさしい”ことを数字で示す」村野昭人(理工学部都市環境デザイン学科准教授、環境システム工学):
    私が大学で学んでいた1990年代の前半ごろ、環境問題に関心があると言うと、少し変わった人という印象を持たれかねませんでした。今の世の中で言えば、健康のために菜食主義を貫いている人に対して人々が持つ印象と似ているかもしれません。『確かに正しいことを主張しているのかもしれないけど、現実的じゃないよ。そこまでしなくてもいいのでは?』といったところでしょうか。しかし、わずか20年足らずで時代は大きく変化し、現在では環境に関する記事を目にしない日はなく、衆議院選挙の各政党のマニフェストにも主要なテーマとして環境対策が盛り込まれるようになりました。人々の環境に対する意識は大きく変わったと言えます。
    ところが、環境に関する認識は昔からあまり変わっていないようにも思えます。例えば、『環境を守るには、豊かな生活を我慢してストイックに生きなければならない。』『環境対策は経済成長を妨げる。』『森林の木を伐ることは自然破壊であり、木を伐ってはいけない。』・・・これらの意見、私はすべて誤りと考えていますが、人々の認識を変えるのは容易ではありません。環境に関する議論がイメージ先行で進み、科学的な知見に基づいた議論が置き去りにされてしまったことが、その原因の一つと考えています。
    そこで私は科学的な知見を提供するために、木材を利用することによって、どの程度環境負荷を削減することを数字で示す研究をしています。木材は再生産が可能であるとともに、リユース・マテリアルリサイクル・サーマルリサイクルと多種多様なリサイクルが可能な貴重な資源です。低炭素社会の構築が求められている中、木材を有効利用することは大変重要な課題と言えます。
    しかし、日本は国土の約3分の2が森林という森林大国にも関わらず、木材自給率は2割程度に過ぎません。外材の輸入自由化、国産材の価格低迷などに起因する林業の不振により、適切に管理されることなく放置されている森林が増加しています。一般的に、木は植林されてから40~50年程度で成長のピーク、すなわち二酸化炭素吸収能力が最大となる時期を迎え、その後は徐々に吸収能力が衰えます。現在の状況が進めば、日本の森林のネットの炭素貯留効果が、21世紀の半ばにはマイナスになってしまうという試算結果も出ています。
    日本では1950年代、60年代に多くの植林がなされましたので、伐採・利用に適した時期を迎えています。もちろん、無秩序に伐採を進めると森林が荒廃する要因になりますので、伐採・利用・再植林をトータルで考えた森林資源のマネジメントが求められています。その方法を議論する上での材料とするために、数字で表した科学的知見を提供して行きたいと考えています。
  • 最近のトピックス:第10回 木の学校づくり研究会報告:
    2009年8月1日に行われた「第10回 木の学校づくり研究会」では、『森の力』(岩波新書)の著者で作家の浜田久美子氏より、「森と家の関係」と題して、木造住宅を建てたご自身の経験を通して、日本の林業のあり方について、海外の事例をふまえつつご講演いただきました。
    ■不健全な日本の森
    世界的には森林は減少と破壊に直面しているにもかかわらず、日本の森林は逆にありすぎて困り、手入れはされても出口がないといわれています。「木を使う」という実感が生活の中にないのが日本の現状、と浜田氏ご自身も木の家に育ちながら希薄だった木に対する意識を振り返りました。そもそも戦後の入会地の分割等で新たに私有林となった里山には、林業経営が成り立つような規模も需要もないのです。しかし、世界トップ3の木材の使用量と、世界の温帯でも指折りの植生豊かな日本が、木材の供給の8割を海外に依存するのは世界的な視野から見ても利にかなわないと、浜田氏は日本の森の不健全さを訴えました。
    ■健全なドイツとスェーデンの森
     癒しの森という日本では見られない林業、観光、医療が一体となった森林経営がみられるドイツ。生態系を考慮した広葉樹と針葉樹が混交する多様性のある森は100〜120年のサイクルで運営されており、木材生産を重視した50年サイクルの日本の森とは異なります。また平坦な地形のため、森が教会に例えられるほど伝統的に人々が森に入るスェーデンでは、80年代におこった大型機械による乱伐に対する市民活動がきっかけとなった不買運動により、自然の森を手本として生態系を重視した運営方針がとられるようになりました。一方で木質バイオマスが都市暖房のエネルギー源として利用され、木を使い尽くすシステムが確立されています。
    ■木を使い、森と触れ合うことがカギ
     今の日本の林業には、森を木材の生産の場としてだけとらえるだけではなく、多様な木の使い方を模索する発想が必要で、そのためには木に触れ、森の理想像を思い描きながら、木を使うことが大切という浜田氏の視点には、自ら参加した山作りや、木造の自宅を建設した実感が込められていました。

    「長野県川上村中学校 視察」
    長野県川上村は明治時代よりカラマツの苗木を生産し、欧州や朝鮮半島に輸出してきたカラマツの産地として知られています。今年3月に竣工したこの中学校は、学校そのものが教材であるという基本理念のもとに建てられました。地域産のカラマツの集成材を生かした大胆な樹木型の柱が印象的ですが、同県伊那地方根羽村の天然杉材、木曽地方大桑村天然ヒノキ材も使われています。出来るだけ多くの材種を用い、生徒たちが木や周辺地域の森林のことを学ぶきっかけとなればという思いと、各地の木材産地と地域材を交換し合うことで共存、交流を謀る森林トライアングル構想が結びついた形。「どこの木でも、その土地の人が、地元の木に対して何か価値をつけなければならない。」中学校を訪れる前に聞いた藤原村長の言葉が印象に残りました。

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