vol.19

木の学校づくりネットワーク 第19号(平成22年6月12日)の概要

  • 「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が成立:
    「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が、去る5月19日、国会において全会一致で成立した。木材利用促進の意義を、地球温暖化の防止、循環型社会の形成、山林の保全、水源の涵養、地域経済の活性化等、幅広い視野でとらえた上、そのための施策を総合的に進め、それにより林業の健全な発展と森林の適正な整備につなげることを目的とするものだが、建築への木材活用について一つのエポックととらえられる。
    ここでいう木材利用には、工作物の資材、製品の原材料及びバイオマスエネルギー等が当初案に加えられ、国内で生産された木材他を使用することとしている。主眼とされているのは言うまでもなく建築であり、促進スキームとして、国・地方公共団体が整備する庁舎、学校その他の公共建築物について、低層・小規模のものは原則として全て木造化を図ることとされている。また、内装等に木材を使用することも当然含まれる。
    注目されるのは、木材利用促進のために国の責務として、率先して公共建築物への利用に努力し、木材の適切な供給の確保のために必要な措置を講ずるということとともに、建築基準法等の規制の在り方について、耐火性等の研究や専門家の知見、外国の規制の状況等を踏まえて検討を加えた上、規制の撤廃または緩和のための必要な法制上の措置等を講ずると明記されている点である。学校建築の場合、建物面積が大きく、学校として求める空間を実現するのに、現行の様々な法的規制が木材の利用を困難にしているということが設計者から指摘されているからである。
    法律では農林水産大臣と国土交通大臣が基本方針等を定め、公共建築物における木材利用促進のための計画、整備の用に供する木材の適切な供給の確保、実施状況の確認等を行うとされている。これを促進するスキームの中には、支援措置として、公共建築物に適した木材を供給するための施設整備等の計画の認定、取組に対する林業・木材産業改善資金の特例等の法律による措置、また官庁営繕基準について木造技術基準の整備、品質・性能を確保するための木材加工施設等の整備等が掲げられている。
    法律の内容の肉付けは今後の取組に期待されている部分も多い。当初案に対して書き加えられた条項の一つに、木材利用の促進に関する研究や、技術開発・普及、人材育成等を進めることがある。WASSもその一翼を担っていかなければならない。
  • 「WASS構造部会の研究報告」:
    ■多種多様な木材、木造構法と建築形態を生かす構造計画法と構造設計法
    木造の学校建築で使用される木材は他の木造建築と同様にすぎ、ひのき、べいまつなど無垢材(製材)とすぎ、からまつ、べいまつによる大断面集成材が一般的である。これら木材は材種ごとにヤング係数、各種強度、比重など材料特性が異なり、それぞれ含水率の変動に影響される。
    木造の架構には大工を中心とした職人達の知恵、技能を結集した伝統木造構法と、接合金物、エンジニアリングウッド、部材の機械加工(プレカット)、プレハブ化など優れた技術開発の蓄積による現代木造構法が採用されている。架構形式は単材または組み立て部材の柱、梁、桁から構成される軸組やラーメン構造が一般的である。耐震要素には落とし込み板壁、面格子、筋かい、構造用合板などが採用され、大規模な床組および小屋組ではトラス構造、格子梁などで計画されることが多い。
    このように木造の学校建築では設計時に採用される木材、架構形式、耐震要素の組み合わせにより木の扱い方は多種多様となっている。
    一方、日本の建築基準法では1950年に木造建築物の設計法が初めて定められ、許容応力度計算、壁量計算が導入された。壁量計算は一般的な軸組構法による建築物に対して、一定の耐震性能を容易に確保することができ、今日まで幾度か改正されてきた。
    1981年の建築基準法改正では、設計用地震力の抜本的見直しがなされ、あわせて保有水平耐力計算が導入されたが、学校建築では建築物の高さや形状的にこの計算法が適用されることは少ない。
    2000年には、性能設計の視点から限界耐力計算が建築基準法に導入され、伝統および現代木造構法を採用した設計において用いられている。壁量計算、限界耐力計算では床組、小屋組など水平構面の剛性確保が必要となるが、その手法と構造評価手法に関する知見は少ない。
    ■木造ハイブリッド構造による学校建築の木造化への新たな取り組み
    従来の片廊下式による画一的な建築形態から、敷地の形状および高低や周辺環境を積極的に取り込み、内部空間においては教室に隣接した機能的なオープンスペース、開放的で心地よい多目的スペース、ギャラリー、図書室を演出するための吹き抜け空間、教科センター方式の採用に伴う機能的で楽しい教室移動を演出する動線を創るために、多折線、曲線、曲面を効果的に用いた自由な建築形態の学校施設が多く建設されるようになってきた。建築意匠、構造設計に果敢に挑戦し、木造でありながら棟を湾曲させうねった建築形態を実現させた事例も見られる。これら建設事例の多くは、木造と鉄筋コンクリート構造を平面的または立面的に組み合わせた混構造、異なる木造架構形式の組み合わせ、組み立て柱、重ね梁、張弦梁など単材を構造的合理性に基づきビルトアップした複合部材、無垢材と大断面集成材、LVLなどエンジニアリングウッドを適材適所に併用した構造形式などで設計されている。ここでは、これら多種多様な構造形式を総称して木造ハイブリッド構造と定義する。
    そこで構造種別、木造の架構形式、木材の使用箇所、使われ方、製材か集成材などのキーワードを設けて木造ハイブリッド構造を明確に定義するために6つのカテゴリーを設定した。その上で学校建築の木造化における構造計画法について①建築計画、②建築意匠、③構造計画、④施工、⑤木材の5つの観点から整理を行ったものを次頁から示す。
    学校建築の木造化にあっては比較的自由な架構形式に対応できる許容応力度計算が最も多く採用されているが、面材耐震要素、接合部のディテールに応じた力学モデルに関する設計資料は少なく、構造実験データの蓄積が必要であり、その定量化には課題が多く残されている。また、木造と鉄筋コンクリート構造との混構造はそれぞれ構造体の剛性が大きく異なるので、その影響を精査し、耐震性能を確保する構造計画法を提案していくことがWASSの中での重要なテーマのひとつである。
    ■木造ハイブリッド構造のカテゴリー
    <カテゴリーI:平面ハイブリッド>
    平面ハイブリッドは木造部分とRC造部分が同一階で結合されている構造である。
    (1)建築計画
    ①同一階に木造部分とRC造部分が混在するので、一般的に木造部分は教室、図書館など生徒が使用するエリア、RC造部分は職員室、会議室、事務室など教職員が使用するエリアで計画されるので諸室の配置計画、動線計画が重要である。
    ②建築面積1000m2以下の保育園、幼稚園を平屋で計画する事例が多い。
    (2)建築意匠
    ①木造とRC造のテクスチャ、部材のボリューム感の違いを生かすことで他のカテゴリーに無い室内空間を実現できる。
    ②木造部分が負担する地震力が軽減される分、耐力壁は少なくなりオープンスペースを効果的にデザインすることができる。
    ③木造部分の屋根は、雨仕舞のため屋根勾配が必要となりRC部分との屋根形状のバランスをデザインすることが必要である。
    (3)構造計画
    ①地震時、強風時に木造部分の水平変形が突出しないようにRC造部分の配置に配慮することが必要である。例えば、RC造部分を平面的に+型、L型、=型、U型、ロ型、X型、Y型、○型に配置することは有効である。木造部の水平変形が大きくなるセンターコア式は避けるべきである。
    ②木造部分が2階建ての場合、床梁を平行弦トラス構造、大断面集成材による二丁合わせ梁、格子梁などとすることは2階床組の振動障害、たわみ軽減のためには有効である。
    (4)施工
    ①木造部分とRC造部分を同進行で施工することが可能なので、工期短縮、木材調達の計画が行い易い。
    (5)木材(無垢材or集成材)
    ①2階床梁は大断面集成材、柱、小屋組は定尺無垢材を使用するなどエンジニアリングウッドと無垢材を併用する材料計画が可能である。
    ②大断面材、長尺材以外の多くの木部材は定尺で計画しやすいので、林業圏が近隣になくても木材調達が比較的容易と思われる。

    <カテゴリーII:立面ハイブリッド>
    立面ハイブリッドは下階がRC造、上階が木造のように上下階で構造種別が異なる構造である。
    (1)建築計画
    ①木造階は生徒の生活環境を良くすることを目的として使用されることが考えられるため、上階に教室、それに付属するオープンスペースなどが配置されることが多い。
    ②上下階の構造種別が変わることで、上下の建築計画に及ぼす影響は少ないと考えられる。
    (2)建築意匠
    ①木造部分とRC造部分では、それぞれの仕上げ、設備などの仕様が異なるため、上下階で意匠的な見え方が変わってくる。
    ②小屋裏が高くなるため、天井を設けずに小屋組を見せることで、独特な空間を創り出すことができる。
    (3)構造計画
    ①木造とRC造では、それぞれの剛性が大きく異なるため、上下階の剛性の違いを考慮する必要がある。
    ②2階の床をRC造としているため、梁、床組の大スパン化による梁のたわみや、床振動、上階からの伝達音の対策に有効である。
    (4)施工
    ①RC造の湿式工事と木造の乾式工事が上下で分離されるので施工計画が比較的容易である。
    (5)木材(無垢材or集成材)
    ①剛性率を考慮すると、上階では集成材を使用しラーメン構造など剛性の高い木架構にすることが有効であると考えられる。
    ②無垢材を使用する場合は、筋かいを使用するなど壁の耐力を上げ、剛性を高くすることが効果的だと考えられる。

    <カテゴリーIII:木造+RC造(小屋、中柱)>
    小屋組は木造トラス、のぼり梁、水平梁で構築され他の躯体はRC造で構成されている構造である。
    (1)建築計画
    ①小屋組がトラス構造の場合、トラス下に柱が立たないので比較的開放的な空間を表現でき、オープンスペースや多目的ホールなどに適用しているものが多くみられる。
    ②のぼり梁、水平梁では木造中柱で木造梁を支えることが多いが、柱断面を小さくでき、耐力壁もあまり必要としないので、教室、オープンスペースが比較的計画しやすい。
    (2)建築意匠
    ①小屋組の形状が特徴的になるため、天井を設けずに小屋組を見せることで、独特な空間を創り出すことができる。
    (3)構造計画
    ①独立柱が存在する場合は、小屋が一体となって挙動するように考慮する。
    ②中柱を設けない場合には、小屋組にトラス構造、格子梁、張弦梁などが用いられることが多い。
    (4)施工
    ①RC造の上に木造の小屋組を載せるので仮設、仮筋かいが軽微で済む。
    (5)木材(無垢材or集成材)
    ①ホール、オープンスペースなど比較的広い空間をトラス構造や格子梁で渡すときには集成材が多く使われる。しかし、トラス構造の中でも平行弦トラス、立体トラスを用いる場合は無垢材が使用されることが多い。
    ②中柱を設ける場合では、比較的無垢材の方が多く使用される。

    <カテゴリーIV:木造+RC造(吹き抜け空間)>
    RC造内に木造架構を一体化した、またはビルトインして吹き抜け空間を設けた構造である。
    (1)建築計画
    ①多目的スペース、図書室、食堂などに適用されることが多い。
    (2)建築意匠
    ①同一階及び上下階でRC造と木造が混在しているので空間の違いを積極的に表現できる。
    (3)構造計画
    ①木造部は平面ハイブリット構造と同様に鉛直荷重が支配的になるとともに、地震時の水平変形が大きくなり易い。
    (4)施工
    ①RC工事後に木造部をビルトインするため、仮設及び揚重機の使用が制限される。
    (5)木材(無垢材or集成材)
    ①吹き抜けでは大規模な空間が生まれるので、大断面の集成材が多く使われる。
    ②長尺材、大断面材が必要される計画が多いので集成材の使用が多くなる。

    <カテゴリーV:柱頭多支点柱>
    上階床または小屋組を複数本に分岐した柱頭で支えている構造。すべて木造で構成されているものと、柱の立ち上がり部分をRC造として多支点の柱頭部分を木造としているものの2つがある。
    (1)建築計画
    ①多目的ホール、食堂、オープンスペース等の比較的大規模な空間を構成する計画で用いられるケースが多い。
    (2)建築意匠
    ①単調となりがちな上部空間を多くの部材で変化をつけることができる。
    ②柱の柱頭部分に複数の部材が集まってくるのでディテールをデザインして積極的に見せることが多い。
    (3)構造計画
    ①梁の支点間距離を短くする効果がある。
    (4)施工
    ①上部に部材が多く集まるので木工事が複雑になりやすい。
    (5)木材(無垢材or集成材)
    ①構成する木部材には基本的には軸力のみ伝達するので、無垢材が使われやすい。

    <カテゴリーVI:組み立て部材>
    主に柱部材に用いられ小断面定尺無垢材の組立て柱で、内部に鉄骨を挿入したものも計画されている。また、横架材では伝統構法による重ね梁などがある。
    (1)建築計画
    ①仕切りのない多目的スペースなど大空間に適用されることが多い。
    (2)建築意匠
    ①組み立ての方法により柱の断面形状が特徴的になる。
    (3)構造計画
    ①小径木で梁部材を挟み込むことでラーメン構造が構築できる。
    ②木材間に鋼材を挿入することで、柱と梁を一体化し易い。
    (4)施工
    ①現場での組み立て作業が発生するので、組み立て場所の確保と精度管理が必要となる。
    (5)木材(無垢材or集成材)
    ①複数本の木材で1つの部材を構成するので、地域産無垢材を多く使用することができる。

  • 第17回木の学校づくり研究会報告より:「みなとモデル二酸化炭素固定認証制度について」講師:小林紀之氏(日本大学大学院教授)、早藤 潔氏(港区環境課):
    ■みなとモデル二酸化炭素固定認証制度とは?
    みなとモデル二酸化炭素固定認証制度は平成21年度から東京都港区が制度の設計委員会を立ち上げてスタートした取り組みである。港区は以前より東京都あきる野市の市有林の活用を通じて、森林の作業路網整備や木材利用を行ってきた。その中で、予算の問題や公共施設などの限られた施設のみへの使い道など「自治体としてできることには限界がある」、「民間も巻き込んだビジネススキームを作らない限り、うまくいかない」と早藤氏は感じていた。そこで木材の炭素固定能力を活かして、「港区内で国産材を使うことで、港区が木材の利用とCO2固定のダム的な役割になればいいな」ということから、「都市部・山間部の両面における低炭素社会への貢献」を目指した制度づくりが始まった。
    ■みなとモデルの特徴
    この制度の画期的な点は大消費地である「都市」と木材を生産する「地方」とが木材と森を介したネットワークで結ばれることにある。港区は以前から交流のあった山側の地方自治体(現在15ヶ所)と連携を図りながら、信頼できる木材の供給を各自治体に依頼し、公共施設を始めとして民間の建物にも木材利用を推進しようとしている。また、事業者に対して、木材に固定されたCO2の評価・認証を行うことも制度の中で大きなテーマとなっている。
    ■制度実現のための課題
    平成21年度は制度の枠組みについて検討され、今後は細かい部分の精査が行われる。一方で、これまでに制度の実現のために乗り越えなくてはならない大きな課題が浮き彫りとなってきている。
    ①国産材ならば何でもいいのか?
    木を伐採して使うだけではなく、再植林などの「持続可能性の証明」は重要な要素である。現在、山側の自治体との連携の中で各自治体にその保障をしてもらう案で検討が進められている。港区としては森林認証制度をとっている、森林施業計画を行っていることで証明をしてもらいたいところであるが、一方で山側からはそれは難しいという反対意見も出ている。そのため、各自治体独自の施業計画も視野に入れながら今後検討される見通しである。
    ②既存の流通経路をどのように扱うか?
    都市と地方とを直接的に結ぶため、産直の体制となると既存の問屋等を省いてしまう可能性がある。こうした流通経路を無視した場合、制度が成り立つのかということについては疑問符が付く。例えば問屋が役割を果たしているストックヤードの問題やそれに関連する伐期の問題がある。そして、そもそも流通関係者にとっては面白くない状況となる。
    ③企業にとっての木材利用のメリットは?
    民間を巻き込むような形で設計された制度において、開発事業者に対してどうやって国産材活用のインセンティブを与えるかは非常に重要である。条例などで強制するだけではなく、木材利用促進に繋がるポジティブな方法で実現していきたいというのがこの制度における考え方であり、炭素固定量の評価とからめて検討が行われている。


※パスワードは「wood」

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