vol.20

木の学校づくりネットワーク 第20号(平成22年7月10日)の概要

  • 「木の学校づくりの手引書”こうやって作る木の学校”発行」:
    「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が、去る5月19日、国会において全会一致で成立した。それを受ける形で5月28日に文部科学省・農林水産省から「こうやって作る木の学校~木材利用の進め方のポイント、工夫事例~」が発行された。文部科学省からは少ない先進事例をもとに要点をまとめた「木の学校づくり」(1999)や木を活用する上での疑問点をQ&A形式で解説した「早わかり木の学校」(2008)など木の学校づくりの手引書が発行されてきたが、本書は昨年度WASSが伐採から竣工まで追跡調査を行った埼玉県の都幾川中学校の内装木質化事例を含む近年の研究成果や学校の事例37校がテーマ別に紹介されている。自治体担当者や設計者から収集した情報をもとに補助制度への申請期間や、特に木の学校をつくる上で課題となる木材の伐採・乾燥・製材・加工期間を見込んだ事業スケジュールモデルが提示され、歩留まりを上げる、木材を使いきる、同じ規格の材、架構、ディティールを繰り用いるなど、コストを抑える設計上の工夫も解説され、これから木の学校づくりに取り組む行政担当者や設計者にとって、より実践的な情報が盛り込まれている。
    本書の末部で今後の課題点としてあげられているように、JAS材や特定の地域の木材を意図して使うことが、実際どのように森林の循環に結びついているのかといった、社会システムのモデルとして各事例を評価する視点が求められており、今後WASSでは本書を貴重な資料として課題の分析に活用していく。 (*)「こうやって作る木の学校」は以下の林野庁URLから閲覧することができます。
    3月に長澤センター長の海外木造建築事例研究に同行し、スイスアルプスの麓、グラウブンデン州フリン村を訪ねた。標高1000mを越えるこの村の家々は周囲のモミやカラマツを用い数世代にわたり改修が続けられたため、木材の退色度合いにより村並はモザイク模様に見え、建築を維持させる村人の営みが一つの景観を生み出していることが魅力的に見えた。木造建築の各部位、部材は常に様々な劣化外力にさらされており、長期間維持するためには、環境条件に応じたメンテナンスを継続することが必須条件となる。
    80年代以降再び建てられるようになった日本の木の学校ではどうか。建設時には定期的な塗装や点検が計画されるものの、実際には木の特性に十分に配慮した施設維持費を計上する自治体は少ない。木の学校の設計者には木の特性をふまえ、長期間の使用を想定した設計が求められる。近年の木の学校の特性であるRC、S造との混構造や集成材の利用が見られる初期の学校が築後20年を迎えるなか、設計者の経験をふまえた現代の学校に見合うメンテナンスの手法の情報が蓄積・共有され、維持管理の体制づくりに向け、認識を深める時期を迎えている。日常的な清掃活動をはじめ、メンテナンスに対する
    積極な姿勢が地域のシンボルと
    しての学校に愛着を湧かせるは
    ずである。(樋口)
  • WASS建築生産部会の研究報告:
    ■木の学校づくりにおける建築生産上の特徴
    学校建築に木材を利用する場合、木造の戸建住宅やRC造などの学校と比較して、建築生産の中で一般的に以下のような特徴が挙げられる。

    ①戸建住宅とは異なり規模が大きいため、短期間に大量の木材を調達し、施工しなければならない
    ②コンクリートや鉄骨などの材料とは異なり、木材は乾燥期間を必要とするため、木材の発注から納品までのリードタイムが長い
    ③公共事業の場合、事業費が単年度予算で組まれるため、伐採時期や乾燥期間などのスケジュール設定が難しい
    ④地域産材など木材の産地を指定する場合が多い ⑤木材の特徴として、特に製材の場合、基準に見合った品質の材料を揃えるのが難しいことが多い
    これらの特徴が関連しあうことで、例えば、短い準備期間で大量の良質材料を調達する必要がある、単年度予算のために十分に乾燥した木材を準備することが困難である、設計者の指定する仕様と地域の木材調達能力の間に格差がある、などの問題が発生することとなる。それに伴い、設計者・施工者・木材供給者がスケジュール、報酬、木材調達等についての多様な困難に直面することから、一連の生産プロセスを分析し、効果的なプロジェクト運営を可能としていくことは重要である。
    ここでは、学校建築に木材を利用する際の建築生産プロセスの中で、仕様書に着目して調査を行った結果について報告する。設計図書における仕様書は、発注者からの要求も含めて、使用する木材を国産材や地域産材に限定する場合の木材調達に密接に関わっており、その役割は大きいと考えられる。
    ■標準仕様書の現状
    木造建築に関連する標準仕様書の中で学校建築の木質化に関わる代表的なものとして次の4つ仕様書が挙げられる。
    ①木造建築工事標準仕様書(平成22年版)
    :国土交通省大臣官房官庁営繕部監修
    ②公共建築工事標準仕様書(平成22年版)
    :国土交通省大臣官房官庁営繕部監修
    ③公共建築改修工事標準仕様書(平成22年版)
    :国土交通省大臣官房官庁営繕部監修
    ④建築工事標準仕様書 JASS11 木工事 2005
    :日本建築学会

    右表に示すように、これらの仕様書では木材の品質について、日本農林規格(JAS)が大きな基準となっている。①~③では原則として「日本農林規格による」と表記され、JAS材を使用することが前提である。これに対して、④では最初に「特記による」と書かれており、日本農林規格は特記がない場合の品質基準という位置付けである。つまり、④の仕様書では木材の品質を設計者が指定することが前提であり、①~③と比べて使用可能な木材の範囲が広がっていることが分かる。
    ①~③は官庁営繕関係統一基準として定められたもので、国家機関の建築物やその附帯施設などに対しての適応が意図されている。学校建築の場合、公共事業であるとともに国からの補助金を受けているといった事情から、一般的にこれらの仕様書が標準仕様書として用いられることが多い。こうした背景から、仕様書作成の際にはこれらの内容の影響を大きく受けることになると考えられる。
    ■地域産材の利用とJAS材
    標準仕様書で木材品質の基準となっているJASであるが、規格の中で製材の品質として節、割れ、曲がりなどの欠点や保存処理、含水率、寸法、曲げ性能などの項目があり、等級を定めている。
    このようにJAS材は木材製品としての品質管理がなされており、構造材や内装材などの建材として利用しやすい木材であるが、一方で地域の木材を利用して学校建築の木質化を行う場合には品質とは別の問題が生じる可能性がある。
    全国の製材工場数は6865工場であるのに対して、JAS認定工場は613工場と全体の9%であり、製材生産量は全体の10~20%程度である。北海道、東北地方、九州地方を除くと、10工場以下が大勢を占めており、全くない県もある。このため、市区町村単位だと認定工場のある地域は非常に限定され、地域産材としてのJAS材の入手が難しくなる。
    また、学校建築の木質化では大量の木材が必要であり、地産を木材利用の方針とした場合には地域内の複数の工場で構造材・造作材の種類別、数量で分担して製材し、材料を調達している状況が多い。
    JAS認定工場は製材規模や必要な設備、認定のための手数料を含めた維持費などが必要となるため、地域の小規模な製材所では負担が大きく、JAS認定工場であることが困難な状況もある。
    以上より、学校建築の木質化において市区町村単位で地元の木材を利用する場合、その木材供給能力を考慮せずに仕様書の中でJAS材を指定してしまうと、JAS認定工場がなく、地元の製材業者では対応できない事態が発生する可能性が大きい。
    ■実際の事例における特記仕様書
    地域産材を利用した学校建築での特記仕様書の事例として、A中学校屋内運動場(滋賀県a市b地域)を取り上げる。この建物はRC造の構造体の上に木造のアーチ梁による小屋組を架け渡した構造であり、その部分に地域産材が利用されている。
    木材は地元産の支給木材とそれ以外に分けられており、特記仕様書内で施工者調達分についても表面仕上、含水率、樹種とともに、「木材は極力b産または、a市内にて調達した材料を使用する様努めること」と地域産材を用いることが指定されている。
    小屋組に使用する木材(支給木材)については構造詳細図にて「スギ、E70、含水率25%以下」と記述がある。これらの値は特別高品質のものではないが、大スパンのアーチ梁の安全性を確保するための指定であり、設計者の指示で品質検査の徹底がなされている。これは、建物に使用する全ての木材に対して一律にその性能を指定するのではなく、必要な部分に対して必要な性能を確実に確保するという考え方である。
    この事例のように地域産材によって学校建築を建設する場合、特記仕様書において使用する木材の産地指定や木材を供給する地域の状況などを考慮して品質を指定することは重要である。
    品質が保証されたJAS材は利点が多いが、地域産材を使用することを前提とした場合、現状では大きな困難が生じる可能性が大きい。一方で、建物としての適正な品質を保障するためには、JAS材以外の木材の性能をどのように確保するかも大きなテーマであり、特記仕様書での指定方法とともに設計者の判断が問われることになる。

  • 第18回木の学校づくり研究会より-「日本の林業の実態と国家戦略」講師:梶山恵司氏(内閣官房国家戦略室内閣審議官):
    ■林業は国家戦略の重要課題
    これまでの森林・林業政策を抜本から見直すために現在、林野庁を中心として「森林・林業再生プラン」という大掛かりな改革案が検討されている。日本の森林は林齢構成から今後50年生を超える木が増えていく状況にある。そのため、林業は現段階でしっかりとした基盤を作ることによって地域経済を支える柱になるため、国家戦略の重要課題の一つとして位置づけられている。
    これからの林業として「保育から利用へ」と転換がなされようとしている。つまり、「木を育てる林業」と「木を利用しながら森林整備を進める林業」は根本的に異なり、これからは伐採技術、機械導入による工程管理、コスト計算、マーケティングなどが要求される新しい林業を築き上げることが将来に向けて重要なことであり、この政策の狙いとなる。
    ■日本の林業の現状
    林業は先進国型の産業であり、世界の木材生産量の2/3は先進国によるものとなっている。1992年以降の丸太生産量を見ると、ヨーロッパ、北米では生産量が伸びているのに対して、日本では現在まで低下し続けている。
    日本の林業が衰退した原因として、外材の導入などがよく挙げられるが、そうではなく「自分達のせい」と梶山氏は分析する。日本の木材生産量の推移のデータによると、現在まで生産量はずっと低下し続けているが、1960年代では6000万m3の木材を生産していた。実はこの生産量が問題であり、当時の日本の森林の蓄積量が20億m3だったことを考えると過伐であったということになる。当時は木材の需要が大きく、価格も非常に高かったため林業は儲かる仕事だったという背景があり、実は現在ではなく当時がある種異常な状況であったということになる。その後の生産量の低下に対して、むしろ外材は供給量の低下を補っていたことになり、林業衰退の要因とは反対の見方となる。
    ヨーロッパの林業と比較した場合、日本では林業機械を見ても問題点が浮かび上がる。ヨーロッパで使われているハーベスタ、フォワーダなどの林業機械は当然のことながら林業用に設計され、生産における効率性などが重視されている。それに対して、日本では基本的に土木用の重機を改造したものであり、効率性もさることながら安全性についても不十分なものである。路網についても同様でフィンランドでは1960~1990年代に集中投資を行って整備がなされてきた。日本では路網整備が遅れているが、山の管理のためにも早急に進める必要がある。
    また、所有者をサポートする体制も重要である。日本では所有規模が小さい、複雑であることから個人の所有者が林業の担い手となりにくくなっているが、これはヨーロッパなどの先進国に共通のことである。そのため、ヨーロッパでは森林管理の専門家や組織が個人所有者をサポートし、役割分担や連携などがうまくとられている。一方、日本でその役割が期待されていたのは森林組合だが、その大部分が公共事業に依存して活動しており、残念ながら森林管理などの専門性や計画性がないまま間伐などが進められてきた。
    ■森林・林業再生プランでの実践
    このプランでは①基本政策、②路網、③人材育成、④森林組合改革、⑤木材流通・加工・利用、⑥予算の抜本的見直し、の6つの大きな検討項目が掲げられている。これらは密接に関係しあっている事柄であり、総合的な推進が必要となるが、その中でも人材育成と森林組合改革(公共事業からの脱却)は非常に大きなテーマとなっている。人材育成については現在5つの地域での集中投資によるモデル事業が実践されており、ドイツやオーストリアのフォレスターによる指導や研修が行われている。
    新しい林業の基盤が今まさに築き上げられようとしており、今後の展開が期待される状況である。(文責:松田)


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