vol.27

木の学校づくりネットワーク 第27号(平成23年3月31日)の概要

  • 第3回木の学校づくりシンポジウム報告~地域の取り組み紹介(大分県中津市)~:
    「鶴居小学校体育館における中津市の取り組み~地材地建(中津モデル)~」新貝正勝氏(大分県中津市長):
    地域材の活用が主要テーマということですが、今回私どものほうで造りました鶴居小学校体育館は総木造で、しかも伝統構法を活用し、日本古来の造り方となっております。そして、山国川流域産木材を積極的に使用するということで、いわゆる地域材を使う「地材地建」という考え方のもとに造り上げたわけでございます。
    中津市の概要をご説明いたします。中津市は大分県の北西、ちょうど福岡県との県境にございまして海、山に囲まれています。中津、三光、本耶馬渓、耶馬溪、山国とありまして、一番小さい中津が旧中津市で面積が55km2でした。中津市はこれら下毛4町村と平成17年3月に吸収合併いたしました。面積は9倍の広さ、55km2から491km2になりました。山林の割合は、旧中津市はわずか3%でしたが、合併しまして77.5%が山林とほとんど全てが山林になったわけでございます。そしてこの中をちょうど縦貫する山国川という川があります。これはちょうど山国から源流を発し、この中を通って河口に到達する、中津市だけで流域が構成されるという珍しい川にもなったわけでございます。
    さて、市域の4分の3が山林となり、今大変な状況になっているわけです。そうなりますと、考え方を変えていかなければならない。何とかして木材利用を図っていきたい。そして地材地建で公共建物にもこれを使っていきたいと考えたわけです。
    中津市の山林の状況ですが、平成8年と18年を比べてみますと、非常に大きな違いが出ていることは皆様もご存じの通りでございます。林業従事者は20%減。それから、以前は再造林を放棄するところがなかったわけですが、再造林放棄箇所は52箇所、130ha。ほとんど再造林しようという意欲がわかないというのが現状です。そういった中で木材価格も低下してきております。スギはかつて1万2800円/m3だったのが今7700円/m3、ヒノキは2万4800円/m3だったのが今1万8000円/m3というような形で木材価格も非常に低下してきている。ですから採算に合わない。採算に合わないから造林もしない。そうすると山が荒れていく。これを何とかしなければ日本の国土はいったいどうなるんだということになります。これは今、全国津々浦々で起こっている現象だと思っております。これを国家として何とか再生していく、そして豊かな森林というものをつくりあげていくことが我々にとっての使命であると考える次第であります。
    そういった中で、ではどうしたらいいのかということです。現状における山々について先ほど林野庁長官からもお話がございましたが、実は今、非常にいい木が育っているのです。ちょうど40年とか50年とかのものが一番たくさんあるのです。35年以降のところでは面積的に見ても、大変多くの木々が育っているわけで、ちょうど使い頃のいい物が使われずに放置されているのが現状であります。この現状をやはり打破していかなければならないということでございます。
    そこで公共建物、特に学校といったものに木材を使用していこうということで始めたわけであります。木材を使うときに一番困ったことは、まず、国産材と輸入材との問題です。輸入材は安いという神話があるのですね。はたして本当でしょうか。もう輸入材は安くないのです。国産材と比較しましても、国産材のほうが現状において安くなっている。しかし、一般の人はまだまだ輸入材のほうが安いと思っている方が多いと思います。そういった神話を打破していかなければならない。そして国産材が実は安い、使い勝手もいいということを理解していくことが必要だと思います。
     それからもう一つの常識があります。公共建物を建てるときにRCとか鉄骨で造るほうが普通の建て方なのだ、木造は異質なのだという考え方です。そして常識的に言えば、木造で体育館を造ることになれば、だいたい3割方高くなる。現実にそうなのです。これを変えていかなければならない。
     ですから、鶴居小学校の体育館を造るときに私どもは、どうしたらいいかということを考えました。一番の目標に何を置くか。普通に造ったときには、RCや鉄骨で造ったときと同等か、それ以下の値段で出来上がることが必要だということを一つの目標に置いたわけです。では、そういったことが果たしてできるのかということです。
     そこで、木材利用が進まないことや、一般的な建て方に対して木造で建てたときにどうなるかということで、中津市木造校舎等研究会を設立いたしました。構法等の工夫により、木造校舎等を非木造より安く建設することができないのかということをテーマとして掲げたわけです。そして、市内の事業者を積極的に活用する。地元材を積極的に活用する。ここが一番重要です。それから、建築にかかる質の向上と低コスト化を図る。研究会においては民間事業者が主体となって研究する。このような形で研究いたしました。
     木造がなぜ高いかと言うと、特許を使ったりしているのです。それから乾燥にものすごい時間をかけるといったことで、実は3割方高くなることが多いわけです。ですから、無駄なことはやめようではないか。木材においても一般的に流通している木材を使っていく。乾燥にもあまり時間がかからないようにしていく。そして、特許を使わない。特許を使いますと、後々これはまた大変です。維持管理も大変です。ところが、立派な体育館などを木造で造っているところは、すごいものを造っているのです。見てみますと、特許を使っていたりして、そのことによって高くなっている。ですから、そういうことをやめようということで、研究会で研究してもらいました。
    そこで、研究会で整理されたポイントです。
    まず、無理のない材の選択。地域材で一般的に流通しているものを使おう。材種にしても材寸にしても普通に使われているものを使っていこうではないかということです。
    それから木材調達のタイミングを考える。十分な乾燥期間を確保するためにも早めの手当が必要です。これは予算とも絡んできます。予算はだいたい1年とか、長くても2年ですから、それに合わせて建築しなければいけない。新しいことをやろうとすると新たに設計するだけの時間的余裕がなくなってくるわけです。新しいことをやるためには、今回だけは特別というような時間的な設定が必要になります。ですから研究会を作って、設計者にも、こういう設計でやって下さいというようにやる時間的余裕が必要になる。
    それから在来技術の活用。地域の大工さんで対応できる技術で計画するということです。そうなれば、地域の大工さんが働く余地ができる。地域の経済効果が見込める。また、技能や技術の継承につながると考えたわけです。
    さらには耐久性、メンテナンス計画への配慮。建設コストだけではなくライフサイクルコストで考えよう。そして、ライフサイクルコストから考えても安上がりにできる。そのようなことで検討したわけであります。
    その結果、整理されたことは、中津で産出された原木を使う、中津で加工された木材を使う、中津で流通される資材・器具を使う、中津の技術者で可能な木造建築物を低コストで実現するということでございました。
    そういったことを総合して鶴居小学校体育館ができあがりました。構造的にはアーチ型の伝統的な構法で造っております。一部、鉄の棒なども使っておりますが、無くてもこれはちゃんと出来上がる構造になっているのです。今日は増田先生にもお出でいただいておりますが、増田先生のご指導を得ながら建物を造り上げていったわけでございます。
    鶴居小学校体育館の建設期間は平成20年9月から平成22年2月まで、債務負担行為により2カ年の事業で行いました。建設費は1億6729万円かかりました。ご参考までに、ちょうど同じ規模の体育館をこの数年前に造りました。それはRC造でございましたが、1億8822万円かかりました。比較しますと1割ちょっと安くできあがったわけです。ですから、やろうと思ってできないことはない。普通であれば3割方高いものが1割方安くできたという事例でございます。
    木材使用量300m3ということですけれども、これは製材に換算したもので、実際の原木ですと約600m3を少し超える。ですから、原木にして1800本の原木が使用されたわけです。そして、山国川流域産ということで、これはまた厳密なる検証を行いました。ですから、全然よその木材は入っておりません。これは本物かどうかを全部トレースできます。ものすごい長大なものについては、鹿児島まで持っていってプレカットしたわけですが、これが他のものの中に紛れ込んでしまうと困るわけです。山国川流域産と言って地材地建を標榜しているわけですから、それが他のものとすり替えられたということがないように厳密なる検証ができ、トレーサビリティが完璧に行われるような形でこれを造り上げたわけです。
    以上、鶴居小学校体育館の建設の過程について申し上げました。私どもはこれによりまして、地材地建はやろうと思えばできるという確信を持っておるところでございます。そして今、小学生が非常に喜んでおります。というのは、木のぬくもり、それから特に出来上がりたての木の香りは素晴らしいものがございます。小学生が出来上がったところに入ってきたときにワーッという歓声がわき起こったのです。そのようなことで、素晴らしい体育館を造り上げることができました。
    以上、簡単ですけれども、私からの事例報告といたします。ご清聴いただきまして、大変ありがとうございました。
    (文責:松田)
  • 第25回木の学校づくり研究会より「バイオ乾燥の概要と不燃木材への応用」講師:伊藤隼夫氏(日本不燃木材株式会社社長):
    ■火事を利用した不燃木材
    カリフォルニアの山火事で多くの別荘が燃えた。
    森の中に好んで木造の別荘が建てられる米国では火から守れる別荘をつくりたいという需要がある。就寝時間に火事が襲ってきた場合、15~30分で火が入ってくるようでは逃げることができない。もし10㎝でも、木材に不燃塗料を浸透させることができれば1時間燃えない木材をつくることができるといわれている。しかし米国農水省白書によれば、木材に塗布した薬剤は約2mmしか木材に浸透しない、木材を減圧した場合でも5mm程度しか浸透しないとされている。また木材を高温乾燥機にかけた場合、木材の中の薬剤はとんでしまい、残っている場合でもモルダーをかけるとほとんど残らないというのが現状である。これまで日本でも欧米でも塗っただけで不燃木材とする技術の開発は不可能に近いと考えられてきた。そのような背景から米国の不燃木材の研究者からの共同研究の提案を一旦は断るものの、後に火事の際の熱を利用して木の中に薬剤を入れるという発想に思い当たった。
    火事の熱を受けて木材の表面が高温になると、木の細胞の中に不燃材が入り込み、木のごく表面が燃えるだけの不燃木材となる技術である。その技術のもとには木の中の水の流れをコントロールして薬剤を細胞の中に留めるという発想があった。                                    ■木の中の水を制御する
    全ての細胞には細胞膜があり、その中には水が含まれていて、浸透圧によって水は濃い方から薄いほうに移動する性質がある。これまで木の細胞に含まれる水も浸透圧によって膜の間を移動していると考えられていたが、7年前に米国の研究者によって水チャンネルが発見された。木の細胞内にはバクテリアやウィルス、菌類等から身を守る免疫機能をもったリグニンや蟻酸などを含む結合水があり、水チャンネルが開くと結合水が細胞膜から外に出され、やがて道管を通って木の外に出てゆくことになる。高温乾燥・減圧乾燥だと木の細胞をばらばらに壊さないと中の水ができず、細胞を破壊するときに蟻酸が出てしまう。蟻酸のような酸は、バクテリアや菌類を殺せるような強さをもっている一方で、木の外に出ると、様々なところを酸化させてしまうという悪影響をおよぼすものでもある。細胞膜の中に入っている水だけを外に出すことができれば、酸化による影響を回避することができ、また細胞を破壊させずに生のままの強度を保つこともできる。水チャンネルの開閉をコントロールすることでそれを実現にしたのがバイオ乾燥の技術である。一般に乾燥後の木材の含水率は15%程度とされているが、バイオ乾燥を行えば含水率は6~7%となる。
    ■バイオ乾燥の実用性
    バイオ乾燥材は蟻酸が出ず、狂いが少ないことから特殊な木材を扱う東京文化財研究所や文化財建造物保存技術協会などで採用されている。また文部科学省が奨励し、博物館・美術館でのバイオ乾燥材が使われる動きがある。高温乾燥機を使用した場合、一週間から10日の乾燥と一週間の養生が必要となる大径木でもバイオ乾燥機の場合は2週間乾燥させて、翌日には製品として出荷することができる。浜離宮の松の茶屋では200年保つようにと注文を受け、構造材を不燃材料として処理した他、江戸時代の小屋組も背割りは入れずに処理できた。約40度で仕上げると細胞の中に入っていった薬剤が結晶化し、半永久的に細胞の中に留まる。通常30~40℃程度と高温の環境を必要としないことから、棒状のヒーター以外の機械類を必要とせず、施設も木造とすることができるため高額な設備費はかからない。現在、学校に使われている不燃系の木材の9割は外壁も含め実際に燃えてしまう。学校は学生や地域の方が使う場所。何とか燃えない安全な学校をつくれないかという思いがあり、バイオ乾燥技術の普及に取組んでいる。
    (文責:樋口)


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