vol.31

木の学校づくりネットワーク 第31号(平成23年7月16日)の概要

  • 木でつくる2050年ゼロカーボン社会:
    6月24日、港区の建築学会建築会館ホールにおいて木材活用推進協議会が主催するシンポジウム『木の魅力を拡げる』が開催され、世界の次世代の建築デザインに与えられるLEAF(リーフ)賞を厚木市の七沢希望の丘初等学校において受賞した建築家の中村勉氏の講演会が開催された。
    中村氏は2007 年のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告によって人工的な原因によるものであるという指摘を受けた地球環境問題について、人口増加の問題もふまえ同時に解決する取り組みが必要だと指摘した。特に基本的な理念としては、建物と敷地、建物と地域、海まで含めた様々な地域の範囲を設定して、物質を循環させることができる小さな環境世界を形成することに重点を置き、都市のコンパクト化や環境特性を活かしたまちづくりの提案が出された。
    建築のスケールにおいても小さな環境世界で自立した建築をつくることを念頭に、木材の性能の評価、自然光を活かした照明計画、地熱利用やバイオマス暖房、都市下水に頼らない排水処理など、支援エネルギーを活用した自立型の建築の提案が出された。丘陵地の地形と一体となるように配置された七沢希望の丘小学校は、自然から学ぶことを教育理念の基本としており、同時にエネルギーにおける中村氏の提案を集約した取り組みでもあった。
    (文責:樋口)
  • WASSへ投稿文:「木造公共建築をつくるためのフロー(設計者の視線から)」藤野珠枝氏:
    今年は国際森林年であり、森林・林業基本計画の変更が行なわれ、日本の森林林業の大きな転換期=森林・林業再生元年となる年。その半年が過ぎました。昨年10月に「公共建築物木材利用促進法」が施行され、公共建築物には木材を使うことが国の基本姿勢であることが示されました。平成21年12月の「森林・林業再生プラン」、昨年11月の「森林・林業の再生に向けた改革の姿」とその骨子等の公表等、いよいよ日本の森林・林業は、豊かな森をつくり、すばらしい資源である森林を多方面から活用し、それを永遠に持続してゆく方向に舵がきられました。そのひとつが山の木を活用する建築づくりです。
    「森と木と建築と市民をつなぐ」ことを目指して活動してきた私はワクワクした胸の高鳴りを押さえきれず、これまで共に木造公共建築設計の仕事をしてきた北川原温建築都市研究所とともに、建築設計者の経験と視線から木造公共建築をつくる際に必要なフロー図をつくってみました。これはWASSで目指している「どこでもだれでも木の建築づくりができるように」なるためにも役立つかな、と思えています。
    建築設計者はその文字どおり建物の設計だけをしていると思われがちですが、実際はそこに至るまでの状況整理、調整、そして竣工後のメンテナンス対応など、発注者が建設に至るまでのソフトの対応と、所有者利用者が心地よく使いつづけるためのフォローが欠かせません。“木の学校づくりネットワーク”通信30号で石井ひろみ氏がいくつかの実践例を示して下さったように、木を使った建築をつくるにはそれに加えて「木材の調達」という誰かがやらねばならない欠かせない仕事があり、それが設計者の役割・使命となることが現実には多くあります。
    「木材のコーデュネーターが必要」とはWASSのこれまでの調査等からも明らかになっている課題であり、「設計者が木のことを知らない」ともよく言われることですが、これまで長きにわたり大型の木造建築がつくられて来なかった日本の実情ではやむを得ないことで、実際に携わって来た設計者はひとつひとつを手探りでつくって来たと言っても過言ではありません。
    「木の建築をつくるにはどのタイミングで何をしなければならないか」が明瞭であれば、もとより勤勉で、学び、創ることが好きで建築設計の仕事に携わっている設計者にとっては、たとえ初めてでもそれに果敢に挑戦し、より良いものとなって成し遂げられやすくなることが見えて来ます。流れが分かれば課題が分かりその解決方法を見いだす道を探れる。設計とは常に立ちはだかる課題をひとつずつクリアして現実に建築をつくっていく仕事なので、フェイズごとにいつ何が必要かを示すこの単純明瞭なフロー (図1)が役立つのではないでしょうか。
    また、公共建築とは多くの市民が「地元にこういうものが欲しい」と構想段階から関わり、ともにつくる過程に参加し、愛着をもって利用し、自分たちで出来うるメンテナンスをするものであるべきで、これを「建築づくり」の中に組み込むことを忘れてはなりません。公共建築の真の発注者は市民です。
    この図で描いている公共建築とは、国や自治体という公が発注するものに限らず、病院や幼稚園、銀
    行、コンビニエンスストアなど民間のものであっても不特定多数の市民が利用するものは公共建築と想定しています。つまり、この図を見る方が設計者であろうと利用する側の市民であろうと発注者であろうと、誰でもどのタイミングで何が必要かが分かるように現しています。私達はまずは一市民であるということを再認識して、自分を「市民」の位置において眺めてみて下さい。
    構想→計画→設計→施工→竣工という流れの、設計と施工の間に入る「木材調達」。その時間のセッティングと、用意される木材の責任を誰が担うのか、が大きなポイントです。ここで、木材を建築工事と分けて分離発注するか、建築工事とともに一括発注するかがケースバイケースで決断されます。そして、この期間には市民が実際の山や木、製材、構造実験等を見る機会を得られれば、ともにつくる過程に参加できることにも繋がります。設計者は、どのような方法で木材調達がなされようとも、他の建築材料と同様に設計に即した的確な材料であるかを確認しなければなりません。ここでは地域の木を良く知る地元の研究機関等の協力が大きな力となります。
    木材という生物材料は他の建築材料と違って「同じものが無い」、つまりそのままでは工業製品同等には扱いにくい素材です。それが面白いとも言えます。合板、集成材、エンジニアリングウッド。工業製品にすれば扱いやすくはなりますが、「木の良さを生かす」ことが出来にくくなります。
    木の文化を持つ日本には、大工という長い歴史を持つ職能があり、また山には木を植え育て伐る=林業という職能があり、そして製材業という木の本質を知らなければ出来ない職能があります。
    山と木と建築とのつながりがほぼ途切れてしまっている現代にこれらを繋いで木の建築をつくる、という役割を誰かが担えば工業製品だけに頼らなくとも木を活かした建築づくりが可能ということ。
    つまりはどの立場の方々も、建築がつくられる流れを知り、市民の役割、山にある素材(立木→丸太)、材料となる木材(流通と製材)、そして建築(設計と施工)との関わりが見える様になれば、もっと木の建築がつくられやすくなるでしょう。このフロー図でそんなことを読み取ってもらえれば幸いです。
  • 第28回木の学校づくり研究会より:「公共建築物の木造計画・設計規準について」講師:大橋好光 氏(東京都市大学教授):
    昨年5月の「公共建築物木材利用促進法」成立を受けて、今年の5月、国土交通省の官庁営繕部より公共建築物の「木造計画・設計規準」が発表されました。大橋先生は、この基準を検討するための委員会で座長を務められました。今回は、公共建築物に関する戦後の動きを含め、制定された規準についてお話いただき、参加者と議論を交わしていただきました。その一部をご紹介します。
    ■公共建築物木造計画・設計規準
    木造計画・設計基準は今年の5月10日に公表されました。この基準は、国土交通省の営繕部内部の人が設計するときに参照する基準となります。しかし、文部科学省の管轄下にある教育施設や、厚生労働省の管轄下にあるデイサービス施設などは、それぞれの官庁の基準を優先した上で、国交省の基準を参照することになると考えられます。
    基準の中で、耐火建築物をどこまで対象とするかが大きな問題となっています。東京のような大都市で木造の公共建築物が一気に増えていくとは思いませんが、地方都市の都市部の中では木造の公共建築物を建てたいという要望はあると思います。このような方向性に対して、耐火建築物をどこまで広げていくのかということが関係してくると考えます。今年、防火に関して話し合われていきますが、非常に重要な項目になってくると思います。現段階では、耐火性能を必要とされる部分はRC造でつくるなどのことが考えられますが、そうすると混構造の建物になります。また、避難用の公共建築物については今回の基準の中では触れていません。
    公共建築物は普通の建築基準法に適合すればよいだけでなく、さらに長期にわたって使用する建物という区分に当てはまることが特徴です。長い期間使えるようにしなければなりませんので、耐震性能を1.25倍、性能表示の耐震等級2に相当するものになります。また、地震時に建物がどのくらい変形してよいかということについては、3/4以内に抑えることになっています。このような規定がある中で、どのように具体的に設計していくかが課題になってくると思います。
    公共建築物を木造で造るときに使用する材料については、集成材やLVLは規格が決まっているので問題ありませんが、問題となるのは製材です。私は、公共建築物は設計の手順や構造計算が、他の建築物のお手本になるような手順を組めるべきだと思いますので、製材についてもJAS材にするという規定にするよう強く要請しました。委員会の先生方にも賛同していただき、基準の中で規定されています。しかし、離島などどうしてもJAS材の入手が困難な場合や、短期的に使用するものについては、拡大解釈できない範囲内で例外規定を設けています。またJAS材という規定に加えて、含水率が調整されたものとしており、原則的に15%以下にしています。
    ■今後の取り組み
    この基準の制定を受け、国交省の営繕部に木材利用推進室ができました。推進室を中心に、今年進めるべきことは3つあります。1つは木造耐火基準検討会です。防火専門である長谷見先生を座長に委員会を発足させて運用します。2つ目は、今回の法律と基準ができましたが、これだけでは実際にはなかなかうまく動いていかないだろうということで、主な地方公共団体の営繕の部局の人を集めて、木造の建物を造って実際に運用を動かしていくにはどうしたらいいかという勉強会を開きます。予算や材料、設計の話がいろいろとありますが、2年ほど勉強会を続けて、この基準をもっと具体的に動かす時のマニュアルなどの手引書のようなものを作りたいと言っています。3つ目は、設計と工事の2段階で参照する図書がありますが、木造工事の標準仕様書を、基準に対応するよう見直しすることです。
    (文責:牧奈)


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