vol.33

木の学校づくりネットワーク 第33号(平成23年9月24日)の概要

  • 第二回埼玉県産木材活用の研修会:
    8月31日、子供たちの夏休みが明けるのを前に、ときがわ町で第二回埼玉県産木材活用の研修会が開催されました。町長の関口定男氏が講師・案内役として先頭に立ち、ときがわ町の協力で町内産材を活用した木造や内装木質化された施設をめぐるバスツアーとなり、川上や川中、川下にあたる市町村より43名が参加しました。
    面積の7割が山林であるときがわ町では、木材産業が盛んで、山林の活性化と教育環境の向上に効果がある町内の教育施設への木材の活用を①イノベーション②オリジナリティ③ローコストマネージメントをモットーに率先して行ってきました。各施設の視察に先立ち内装木質化された勤労福祉会館で行われたレクチャーでは、コストや時間がかかる、火災に弱い、傷みやすいといった、内装木質化に対する不安に対し、関口町長から町内の事業を例に、経済性や情操面への効果の他、特に梅雨の季節でも廊下の結露が起こらない、冬期にも湿度が保たれると環境面への効果についての指摘がありました。
    関口町長からはそれぞれの市町村での取組みを激励する言葉を受けるなか、研修会の参加者にとっては、コストやメンテナンスへの配慮とバランスを取りながら地域材を活用する手法を、実際に床表面をはつり手入れをされた学校の姿や、流通材と地域の木材を併用する工夫から目の当たりにする貴重な機会となりました。
    (文責:樋口)
  • WASSへの投稿文:「地元の木材を活用した学校づくり」清水公夫 氏(清水公夫研究所):
    私は2年前、WASSの第12回「木の学校づくり研究会」において「設計者からみた木の学校づくりの現状と課題」というテーマで木材の利用の仕方が異なる3つの統合小学校について講演をした。この講演が縁で現在もWASSの研究会と係わっている。
    〈宮川小学校〉
    事例の1つの宮川小学校(写真1~3)は福島県会津美里町にあり、雪国としては積雪量があまり多くない会津盆地に位置している。この学校は5つの小学校が統合された新設校で、町当局からは地元の杉材を利用した木造建築を要望された。校舎は13クラスで、4000㎡近い延床面積となり、敷地の広さから屋根からの落雪や除雪を考えると平屋建ては難しく2階建となる。2階建の木造校舎の事例はあるが、私の考えは一部木造の平屋建てとRC造の混構造、杉材の利用方法、また、屋根からの落雪の処理、除雪も考慮した提案であることを説明し、町当局の了解を得た。雪国に住んでいる人々は常に屋根の落雪の雪処理をどうするかを考えた生活をしている。平面構成の段階で屋根の形など雪に対して十分考慮した設計が求められている。
    基本設計は子供達、先生方、地域の人々とワークショップを行い、どのような学校をつくりたいのか、設計者から細かい説明をし、参加者からの意見をくみ上げ、設計内容に反映していった。「木」については地元の山から木を切り出し、製材し、製材品をつくり出す流れをつくるため、山林の所有者、伐採・切り出しをする林業者、製材業者の10社による地元産材供給連絡協議会が設立された。スムーズな製材品の流れをつくるため、お互いの立場に配慮しながら話し合った。設計段階で構造材、板材など製材品として必要とする量を提示し、協議会はどの山を切り出すか、1本の木材から歩留りの良い製材方法など無駄なく使う方法を検討した。設計の最終段階で構造材の大きさ、板材の厚さ、使用部材の寸法、使用する箇所の入った図面を提示し、協議会に見積書を求めた。一般的には木材の金額は建設工事費の中に入っているため、建設業者と木材業者が交渉して金額は決まるのだが、今回は建設工期と木材の切り出しが冬季間にかかるため、設計段階で木材の金額を決め、建設工事費の中に組み入れた。参考として一般流通材の見積金額と比較すると協議会からの見積金額と差があり、全体の建設工事費のバランスの調整に時間を取られた。町内の杉山には50~60年の成木が多く、町当局もそれらの杉材を使用することで、林業・製材業で働く人への雇用にも配慮している。金額の調整に時間がかかったのは、設計の算出量と建設時の使用量の差をどうするのか。建設時の使用量は一般的に多くなるため、どのくらいの量を確保するのか。施工会社の安い金額の提示に対してその差をどうするのか、など細かい詰めをした。支給材ではなく、あくまでも建設工事費の中に組み入れることが町当局の条件だった。建設工事が始まり、施工会社が再度使用材の量を算出し、協議会とスムーズに契約した。
    以上が地元産材を活用し、建設までの流れであるが、「地元産材の使用」の条件を特記事項に明記し、決定された施工会社には材料供給先の連絡協議会に見積りを依頼することを説明した。協議会と施工会社がスムーズに話し合いが出来たのは、設計書の使用材の量と施工会社との量とにあまり差がなかったことと、製材品の品質をどこまで許容できるかを設計者と協議会とで話し合っていたため、協議会は原木から製品化できる量を算出して、原木の本数を確保していた。木材の割れやそりの発生を少なくするためにどのような施工方法があるか、8mの丸太の柱に対し、背割れを入れても割れが発生した時はどうするかなど、初期の段階で施工会社、協力業者の大工、連絡協議会と細かい部位まで打合せをした。細かい打合せは細部まで確認しておくことで設計者の意図を伝え、施工の手戻りを少なくし、品質の良い建物をつくることを心がけているからで、木工事だけでなく、施工会社を通して他の職種にも設計者の意図を伝えている。
    使用木材量は360m3 で、木造平屋建て(低学年棟)に構造材・内装材として90m3、食堂等の集成梁にラミナ材として110m3、外装材・内装材の壁・天井材、二重床のフローリング下地の床板として160m3 を使用している。特に外装に杉板を張る場合、雨風にさらされ、腐れ、色褪せが起こりやすいため、塗料や軒を長くして直接雨が当らないようにするなど、長持ちさせる工夫をしている。構造計画としては、低学年棟は中央に丸柱を立て軸組を構成している。食堂は一般的な集成材にて計画している。
    〈山の木を使って設計する〉
    山林所有者から製材業までのネットワークの組織と山の下見から切り出しと、設計段階から係わったのは初めてのことである。1988年に設計した幼稚園(園舎と体育館で2596㎡)が初めての大規模な木造建築で、当時はまだ、木の流通にはあまり関心がなかった。今から20年前、林業者と山林に入った時、林の中は手入れがなく、切り出しても原木が安く、経済的に合わないという話だった。このままでは山が荒れてくると思った。その後、木材を使用した建物を意識して設計するようになった。
    幼稚園・保育所・平屋建の小学校など木造建築を設計してきたが、木造建築の提案に対し、発注者には公共施設はS造・RC造のイメージがあり、高どまりの建築コストも障害になり、話し合いに時間がかかった。建設された木造建築の内部空間の良さなどから、最近は発注者も木造に関心が高まり、積極的に木造建築を求めるようになった。
    30年近く会津地方の豪雪地帯の公共施設を設計し、春夏秋冬に変化する山々の美しさの中で仕事をしてきた。遠くからは雑木林の中に豊かな杉林が見えるが、50年以上経った成木の林である。杉林の中に高齢林や新しく植林された若齢林が少ない。外国は木を切り、再植林を繰り返し森づくりが行われていると聞くが、成木の伐採後は雑木林になっていくのではないかと思われる。町村には建設業の従事者が多いのに林業者の従事者は少ない。今回のプロジェクトで山の所有者、林業者、製材業者と話をすると65歳以上の高齢の従事者が30%以上で、毎年従事者が減っている。危険と隣り合わせのため労働 災害が多く、労働安全への取り組みが遅れている。他産業より賃金も低く、1日1万円前後では労働力の確保が難しく、成木を間伐することもできない。今の林業組合の体制でこの地方の森林面積を担うのは難しいなど、林業の現状を知ることができた。
    今回の木材は手入れされた山林から切り出したが、集成材のラミナ材として製材した中で強度不足の部分が多くあり、原木の本数は増えた。また、一般流通材の単価に少しでも近づけようと使用する箇所を増やし、分止りを上げることに努力したが、切り出す原木の数を下げることは難しかった。
    〈山と向き合う〉
    ばらつきのない製材品として品質の確保された材木を流通させるためには、山の管理はもちろんのこと、中山間の人口は減少し、地域経済が疲弊している現状を知り、林業は地域に根ざした産業であることを地域の人々は自覚することが大切と思う。豊かな集落が限界集落となるなど、地域の経済の現状を知り、地元産(県単位)の木材で地元の職人が仕事ができる設計を心がけている。建物の建設を通して職人の働き場をつくり出し、少しでも地域経済が活性化することに配慮している。構造材も集成材を使用しないで、一般流通材で構成することに取り組み、温もり、肌目、触感といった木材固有の特質を意匠に反映し、豊かな内部空間をつくることに努力している。熱・音の絶縁にも有能さを利用し、環境づくりに使用したいと考えている。
  • 第30回木の学校づくり研究会より「地域材と向き合う」講師:有馬孝禮氏(東京大学名誉教授、前宮崎県木材利用技術センター所長)、工藤和美 氏
    (東洋大学理工学部建築学科教授、シーラカンスK&H代表):
    今回は木材について長年研究をされている有馬孝禮先生と木の学校の設計者である工藤和美先生を講師として開催された。
    有馬孝禮先生は1942年生まれ。東京大学農学部助手、建設省建築研究所研究員などを経て、東京大学農学部教授。その後、宮崎県木材利用技術センター所長を務められ、現在、独立されている。
    建築研究所ではわが国への2×4(ツーバイフォー)導入に関する実験を数多く手がけられたということであった。
    著書は「なぜ、いま木の建築なのか」(学芸出版社)、「木材の住科学―木造建築を考える」(東京大学出版会)、「木材を生かすシリ-ズ 木材は環境と健康を守る」(産調出版)など。
    講演では木材、特に杉についての木材の性質についての説明から始まり、木材を使い建築することがいかに二酸化炭素排出削減につながるかということを強調しておられた。
    また、地域材を活用していく方法として、地域材を使う住宅建設のグループについては製材の人々が中に入っていることが円滑に運営しやすく、また、建主や木を売る側が金額に対して過度の期待を持たないことがポイントとなることなど、経験からえた知見がのべられ、社会で実際に木を活用していく上での重要なことを知ることができた。
    また、国際化の中での木材資源ということで、価格は国際相場と結びついており、為替レートや円高が関係していることが理解できた。
    最後に、木の建築材料としての利用は貴重で、チップに流れてしまうと木材産業が成り立たなくなることという警告も心に残った。 
    次に建築事例の紹介があった。宮崎県の全天候型運動施設「木の花ドーム」の例では、木材を多く使いながら、適度に鋼材などで補強し実現している。このように実際の社会の中での木材の使用については、構造でも人と人との連携でも、様子を見て「ほどほどに」行うことが重要であるということであった。「ほどほどに」というのは、様子を見ながら、調整しつつ、行うということで、長年にわたり社会の中で木材使用を実現してきた、先生からのこの研究会で我々にいただいた大切なヒントといえよう。 
    植生の未来予測の説明からは、森林を維持していくために、これからも植林し、森林を未来へ残していくべきであることも理解できた。
    木材の性質については改めて乾燥と木材の関係の複雑さを理解した。先生の書かれた書物で読んでも理解できないことが、先生の説明をお聞きし、理解することができた。木の等級は上下ではなく選択の指標であること という説明も木に関するしくみを理解する上で貴重な一言であった。
    木の学校についてのメッセージとしては、「木造校舎」はひとつの単語で意味を持つ。「コンクリートの校舎」という一つの単語はない・・・・という先生のしめくくりに、WASSの一員として、確かにそうであるという、発見と同意の気持ちをもった。
    工藤和美先生からは計画中の山鹿小学校と川辺小学校の統合小学校についての詳細が紹介された。地域との関係を重視した基本計画では、学校が山鹿市の千人灯籠という行事のフィールドとしても工夫されていることが理解できた。
    屋根架構への地域の杉材の利用など、部材寸法を含めて具体的に紹介された。その中で、構造的な強度を確保するために、杉材に加えて桧材も使用した経緯を話された。
    これについては前半のご講演者有馬先生の言われる「ほどほどに」という考え方が当てはまるわけで、完璧、完全に杉を使用せず、他の材も受け入れたことに対して、その後の議論でも、会場の参加者から賛意が示された。木の建築を社会で実現するヒントがつかめた意義深い研究会であった。今後の展開が楽しみである。
    (文責:宮坂)


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