vol.25

木の学校づくりネットワーク 第25号(平成22年12月18日)の概要

  • 第3回木の学校づくりシンポジウム開催のお知らせ
  • WASSの提案~「地域材」を用いた木の学校づくり~:
    ■木の学校づくりを取り巻く社会状況
    学校は子ども達の教育の場として地域の人々が一体となって作り上げていくことが多く、木材が利用された学校づくりが各地域で行われている。また、その際には地域のシンボルとなる建物であることから、地元の木材を利用されることが多い。今年の10月には公共建築物木材利用促進法が施行され、今後は全国的にも木の学校が多くなる方向に向かうと考えられる。一方で、木造建築に対する構造や防火における建築基準法上の制約、建材としての木材品質基準の確保、木材産業の衰退などの社会的な状況が木の学校づくりの上で大きな課題となっていることも確かである。
    WASSでは木の学校づくりを主軸として、木を建築に使いやすいような共生社会システムの構築を大きな目的としており、ここでは「地域材」を用いた木の学校づくりを提案する。
    ■「地域材」を用いる意義
    一般流通材としての国産材ではなく「地域材」を対象としているのは、以下の点で「地域材」が地域の循環に欠かせない要素であるからである。
    ・山の循環:
    伐採→利用→植林のサイクルを成立させることで山の保全とともに地域の環境を守る。
    ・経済の循環:
    川上から川下まで地域に関わる業者の経営が成り立つ。山の循環のためには対象とする山の林業関係者に植林のための元手が残ることが大切。
    ・技術の循環:
    木の学校づくりに関わる地元の林業、製材業、建築関係者が持つノウハウ・技術を伝承する。
    ・社会の循環:
    子供たちに持続可能な未来を託す。将来的には国産材を用いて、日本全体での循環が成功することが重要であるが、現在の状況から地域の循環をその第一歩とすることが共生社会システムの構築につながると考えている。
    ■地域材を用いる際の現状と課題
    一方で、地域にある木材に限って木の学校づくりを進めるためには、現状では様々な困難がともない、それぞれに工夫が必要である。木の学校づくりでは
    ・必要な大量の木材を必要な時期に集めることができるか?
    ・適切な品質の木材(樹種、断面寸法、スパン、ヤング係数、強度など)が手に入るか?
    といった課題があるが、市町村という狭い地域であることにより、これらの課題はより大きな影響を及ぼすことになる。
    例えば、地域の森林蓄積量が限られている、または製材工場の規模、数が限られているため、必要量の木材を入手することがもともと困難である可能性がある。また、要求されている木材の品質を満たすことができるかどうかもJAS認定工場や集成材工場の有無に左右される。以上の内容は地域の範囲を市町村から県単位に拡大しても発生する課題であるのが現状である。
    こういった状況の中でそれぞれの地域で木の学校づくりに取り組んだ事例を以下に紹介する。
    ■大分県中津市鶴居小学校体育館の建設
    山間部の町村と合併して地域林業に振興に直面することになった中津市では、地域林業の活性化と山林資源の有効活用を目指し、「地材地建」をモットーに市内の学校施設への地元産材の利用の計画が立てられた。学識経験者、地元業者(設計事務所、建設業、木材業)に参加を呼びかけ「中津市木造校舎等研究会」が発足し、木材を活用した木造校舎等の建設構法の研究として、近隣や遠方の林産地における木の学校づくりに取り組みへの視察やアンケート調査が行われた。研究会活動を通じて見えてきた主な課題点として①無理のない木材の選択、②木材調達のタイミングへの配慮、③在来技術の活用が上げられた。具体的には①は地域で一般流通している材種、材寸、強度、価格を無理なく設計に反映させること、②は長大材や多量の木材の短期間の調達は困難であり、特に乾燥の期間に充分に配慮すること③は地域への経済効果と技術・技能の伝承に配慮して地域の大工で対応できる在来技術を活用することである。プロポーザルにより選ばれた地元の設計者から山国川流域の県産材のヒノキとスギを用いた総木造の屋内運動場案が計画された。コストの抑制も見込み、金具の代わりに伝統的な仕口加工が採用され、地域の技術を活かされることになった。木材調達については、木材の性能評価の方法と乾燥、製材、加工のプロセスを検討する「地材地建の達成に向けた市内業者等勉強会」が開催され、2カ年事業とした初年度に冬季伐採が行われた。その一方で、一般に流通していない長大材の使用分部が多くなったため、その部材の加工と乾燥のために鹿児島県の木材業者に特殊加工を発注することになった。こうして中津市が目指した「地材地建」の取り組みの目的を達しつつ屋内運動場は建設された。しかしそのプロセスでは技術力のある他県の業者との連携がなければ実現しなかった点をどうとらえ今後の取り組みにつなげるかが課題点として残された。
    ■秋田県能代市における木の学校づくりの蓄積
    実は林産地であっても地域内の木材で完結するような「地材地建」の姿を見ることは少ない。秋田スギの産地として知られ90年代以降木の学校づくりを継続的に7棟建設してきた秋田県能代市では、いずれの学校においても県産のスギと併用してベイマツの集成材が主要構造材として用いられてきた。現在の学校の教室を設けるためには、およそ8mスパンを架け渡せる強度の木材がまとまって必要となるが、住宅等で用いられる一般流通材よい強く長く、太い木材が必要となるため、特殊な発注となるため、必要となる木材の量を賄うことは容易ではない。そのため能代市では学校の建設が決まると基本設計がまとまるとホームページ上に必要となる木材の量を公開し、あらかじめ業者内で調達の準備を促す工夫が見られるが、設計変更の可能性や求められる性能と量の問題から木材調達の負担の大きい横架材には、あらかじめ強度や供給体制が安定した集成材を用いている。敢えて地域だけでまかないきらないこと。これが地域材を活用しつづけつつ設計者、製材業者、発注者の負担を軽減するために、自らの木材供給の実態を熟知した地域が、選択してきた方策である。
    ■「地域材」を用いた木の学校づくり
    地域で工夫を行いながら地域にある木材を用いた木の学校づくりを実現した事例を見てみると、地域の中だけで対応できた部分、対応しきれなかった部分が存在する。このように地域の中だけですべての課題を解決しようとすることは困難であることが多い。そこで自分たちで対応可能な部分とそうでない部分を明確にし、対応しきれない部分は他の地域の助けを受けながら木の学校づくりを進めることが重要となる。つまり、地域の概念を従来の範囲から広げ、ネットワークを通じてつながっている他の場所も含めて地域としてとらえる“開かれた「地域」”という考え方が必要となる。そして、ここでは“開かれた「地域」”において用いられる木材を「地域材」として扱う。
    この考え方は、山林を持つ地域における木の学校づくりとともに、都市部などの森林資源を持たない地域においても適用することが可能である。例えば、都市部の木の学校づくりでは、自治体内に山林を持たないため様々な地域から木材を調達することになるが、どの場所にどのような木材がどれだけあるかが分からなければ、必要な量及び品質の木材を調達することができず、大きな困難をともなう。そのため、都市部と山側とがネットワークを構成することが重要となる。そこでは、山側は供給可能な木材の情報を提供し、その中から利用者が必要な木材を選択できるようにしなければならない。また、一方で都市部では今後の事業の内容と方針を開示する必要がある。こうして、都市部が信頼できる山から供給される「地域材」を用いることで、必要な木材を調達することが可能となり、都市部における木の学校づくりを進めていくことが可能となる。また、一方で山を持つ地域も安定した木材供給が見込め、山の保全や木材産業の継続的な経営につながる。
    このようにネットワークを介して各地域がつながることによって“開かれた「地域」”が構成され、木材を必要とする地域にそことは離れた場所にある林業の盛んな地域から木材が供給されるような木材活用のあり方を仮想流域構想として提案する。
    仮想流域構想で特徴的な部分は、山を持たない地域も木材供給地域の山林を自分の「地域」の山としてとらえ、「地域」全体としての循環を考えていくことにある。つまり、トレーサビリティによる供給される木材の確実性やそれにともなう山への経済的な還元、伐採及び植林による山の循環など「地域」の持続可能な未来がなければ、いずれ「地域」の関係性もなくなり、現状へ逆戻りすることになる。このように、山から乾燥、製材、木材利用までお互いに顔の見える関係を構築し、再造林へつながるような仕組みとすることが非常に大切である。
    また、こうしたネットワークを都市部が複数持つことにより、競争原理により一方的な価格の上昇を抑えられ、品質の面でも多様な要求にあった木材を選択することができ、大規模生産が可能な流通材だけではなく、地域特性に応じて細かい対応が可能な小規模の製材所が活躍できる可能性がある。
    仮想流域構想が成立するためにはネットワークとなる対象地域の選定や範囲、トレーサビリティ等の具体的な手段の整備、山の循環につなげるための経済的な還元システムの構築など様々な課題がある。これらのことを踏まえた上で、WASSでは今回提案したこの概念が実現し、現在大多数である鉄筋コンクリートの校舎と同様に普通に木の学校建築が建てられ、持続可能な社会を作り上げることにつなげられるように様々な問題に取り組んでゆく。
  • 第24回木の学校づくり研究会より「集住の木造欧州の事例から中層木造の在り方を考える」講師:網野禎昭氏(法政大学デザイン工学部教授):
    ■伝統木造にみる多層化の意義
    近年、ヨーロッパでは木造建築で7〜9階建ての木造建築が建てられるようになってきた。ヨーロッパでは歴史的にも16世紀に7階建ての木造建築ができているので、今の中層木造の流行もあまり違和感がないのかもしれない。一般的には山岳地とか城趾内や都市部のような土地の高度利用から木造が中層化したということが考えられるが、実際には広い牧草地の中にも中層の伝統的な木造建築が建てられていることから、木造を大きくしていくことで、外部に接する壁量を減らしたり、暖房設備を共用することができ、施設をたくさんまとめていくことでインフラを効率化したりする効果があったのではないかと考えられる。またそれは暖房や冷房のエネルギーを節約しなければいけないという私たちが直面している状況に対する課題点でもある。
    ■現代の地域インフラに見る多層化の意義
    オーストリアの林山地では林の中に小さな街が点在するような地域ながら3~4層の町役場が建てられている。田舎に大きな建物を建てると、多機能化することになり、カフェや幼稚園、図書室、オフィスと様々な機能が組み込まれることで、子供がいなくなったら廃校というような建物ごと閉じるような状況を無くし、建物の価値を長寿命化することができる。建物を一つにまとめ多機能化させて、外皮をコンパクトにする一方で、敢えて大きな面積を作ることで、屋根に大規模な太陽電池の装置を備え周囲の家に電力を供給したり、地下にペレットボイラーを備えることで、仕事帰りの林業従事者が出す大鋸屑ゴミなどを投げ入れてもらい町役場の周辺の建物の暖房をまかなっている。中高層というと私たちは直ぐに都会を思い浮かべるが、大きな建物を造るメリットを建物単体だけではなくて、周りの地域も含めてつくり出すことで、過疎地域や林業地域などで様々な可能性を見出すこともできる。
    ■住環境・施工をふまえた構造形式の選択
    中高層というと地震国日本では構造耐力に目が向けられるが、実は集住を考えたときに断熱や音など環境という要素が非常rに重要になってくる。環境基準を満たすために、断熱材が厚くなるとそれを支持する間柱が太くなり、間柱自体が載荷能力の高い枠組み壁になってしまい、構造体と間柱が重複する状況が生じてしまうからだ。実際ヨーロッパでは1990年代〜2000年の初頭に体育館をやっていた木造専門の構造事務所が最近は環境設計、物理設計まで一緒にやるようになってきた。また壁や床といった構造エレメントの工場生産による施工の経済性の追求されるようになると、建物のそれぞれの部位に求められる構造性能、環境性能、施工性のバランスの中でエレメントごとに構造を決定する設計手法がみられるようになる。
    ■ブームで終わらせない木造建築の在り方
    1990年代後半は日本もヨーロッパもヘビーティンバーブームで大断面集成材の建物が建てられたが、ヨーロッパでは1998年くらいを境に無くなり、それまでドーム建築を設計していたところが、集合住宅やオフィスや学校などより日常的な人間の生活に結びついたものにシフトして、木造建築の体質の変革がおこった。そして木造建築で学校や集合住宅を建てられる事がわかると設計手法の普遍化が議論になった。一方で日本ではまだ木材会館のように高度な木材の使い方と技術を用いたシンボルを作ろうとしている。公共建築木造化法が施行され、日本でも大規模木造建築が建てられるようになった後、誰がその担い手になるのだろうか。主に在来工法構法をやってきた大工が、対応できるのか疑問も残る。日本では高度技術を統合して適正化することが話題にならないが、集合住宅や学校は私たちの生活の一部を作る場所であり、特殊解では困る。そういう意味で今日本は非常にデリケートな時期に差しかかっている。
    (文責:樋口)


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vol.20

木の学校づくりネットワーク 第20号(平成22年7月10日)の概要

  • 「木の学校づくりの手引書”こうやって作る木の学校”発行」:
    「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が、去る5月19日、国会において全会一致で成立した。それを受ける形で5月28日に文部科学省・農林水産省から「こうやって作る木の学校~木材利用の進め方のポイント、工夫事例~」が発行された。文部科学省からは少ない先進事例をもとに要点をまとめた「木の学校づくり」(1999)や木を活用する上での疑問点をQ&A形式で解説した「早わかり木の学校」(2008)など木の学校づくりの手引書が発行されてきたが、本書は昨年度WASSが伐採から竣工まで追跡調査を行った埼玉県の都幾川中学校の内装木質化事例を含む近年の研究成果や学校の事例37校がテーマ別に紹介されている。自治体担当者や設計者から収集した情報をもとに補助制度への申請期間や、特に木の学校をつくる上で課題となる木材の伐採・乾燥・製材・加工期間を見込んだ事業スケジュールモデルが提示され、歩留まりを上げる、木材を使いきる、同じ規格の材、架構、ディティールを繰り用いるなど、コストを抑える設計上の工夫も解説され、これから木の学校づくりに取り組む行政担当者や設計者にとって、より実践的な情報が盛り込まれている。
    本書の末部で今後の課題点としてあげられているように、JAS材や特定の地域の木材を意図して使うことが、実際どのように森林の循環に結びついているのかといった、社会システムのモデルとして各事例を評価する視点が求められており、今後WASSでは本書を貴重な資料として課題の分析に活用していく。 (*)「こうやって作る木の学校」は以下の林野庁URLから閲覧することができます。
    3月に長澤センター長の海外木造建築事例研究に同行し、スイスアルプスの麓、グラウブンデン州フリン村を訪ねた。標高1000mを越えるこの村の家々は周囲のモミやカラマツを用い数世代にわたり改修が続けられたため、木材の退色度合いにより村並はモザイク模様に見え、建築を維持させる村人の営みが一つの景観を生み出していることが魅力的に見えた。木造建築の各部位、部材は常に様々な劣化外力にさらされており、長期間維持するためには、環境条件に応じたメンテナンスを継続することが必須条件となる。
    80年代以降再び建てられるようになった日本の木の学校ではどうか。建設時には定期的な塗装や点検が計画されるものの、実際には木の特性に十分に配慮した施設維持費を計上する自治体は少ない。木の学校の設計者には木の特性をふまえ、長期間の使用を想定した設計が求められる。近年の木の学校の特性であるRC、S造との混構造や集成材の利用が見られる初期の学校が築後20年を迎えるなか、設計者の経験をふまえた現代の学校に見合うメンテナンスの手法の情報が蓄積・共有され、維持管理の体制づくりに向け、認識を深める時期を迎えている。日常的な清掃活動をはじめ、メンテナンスに対する
    積極な姿勢が地域のシンボルと
    しての学校に愛着を湧かせるは
    ずである。(樋口)
  • WASS建築生産部会の研究報告:
    ■木の学校づくりにおける建築生産上の特徴
    学校建築に木材を利用する場合、木造の戸建住宅やRC造などの学校と比較して、建築生産の中で一般的に以下のような特徴が挙げられる。

    ①戸建住宅とは異なり規模が大きいため、短期間に大量の木材を調達し、施工しなければならない
    ②コンクリートや鉄骨などの材料とは異なり、木材は乾燥期間を必要とするため、木材の発注から納品までのリードタイムが長い
    ③公共事業の場合、事業費が単年度予算で組まれるため、伐採時期や乾燥期間などのスケジュール設定が難しい
    ④地域産材など木材の産地を指定する場合が多い ⑤木材の特徴として、特に製材の場合、基準に見合った品質の材料を揃えるのが難しいことが多い
    これらの特徴が関連しあうことで、例えば、短い準備期間で大量の良質材料を調達する必要がある、単年度予算のために十分に乾燥した木材を準備することが困難である、設計者の指定する仕様と地域の木材調達能力の間に格差がある、などの問題が発生することとなる。それに伴い、設計者・施工者・木材供給者がスケジュール、報酬、木材調達等についての多様な困難に直面することから、一連の生産プロセスを分析し、効果的なプロジェクト運営を可能としていくことは重要である。
    ここでは、学校建築に木材を利用する際の建築生産プロセスの中で、仕様書に着目して調査を行った結果について報告する。設計図書における仕様書は、発注者からの要求も含めて、使用する木材を国産材や地域産材に限定する場合の木材調達に密接に関わっており、その役割は大きいと考えられる。
    ■標準仕様書の現状
    木造建築に関連する標準仕様書の中で学校建築の木質化に関わる代表的なものとして次の4つ仕様書が挙げられる。
    ①木造建築工事標準仕様書(平成22年版)
    :国土交通省大臣官房官庁営繕部監修
    ②公共建築工事標準仕様書(平成22年版)
    :国土交通省大臣官房官庁営繕部監修
    ③公共建築改修工事標準仕様書(平成22年版)
    :国土交通省大臣官房官庁営繕部監修
    ④建築工事標準仕様書 JASS11 木工事 2005
    :日本建築学会

    右表に示すように、これらの仕様書では木材の品質について、日本農林規格(JAS)が大きな基準となっている。①~③では原則として「日本農林規格による」と表記され、JAS材を使用することが前提である。これに対して、④では最初に「特記による」と書かれており、日本農林規格は特記がない場合の品質基準という位置付けである。つまり、④の仕様書では木材の品質を設計者が指定することが前提であり、①~③と比べて使用可能な木材の範囲が広がっていることが分かる。
    ①~③は官庁営繕関係統一基準として定められたもので、国家機関の建築物やその附帯施設などに対しての適応が意図されている。学校建築の場合、公共事業であるとともに国からの補助金を受けているといった事情から、一般的にこれらの仕様書が標準仕様書として用いられることが多い。こうした背景から、仕様書作成の際にはこれらの内容の影響を大きく受けることになると考えられる。
    ■地域産材の利用とJAS材
    標準仕様書で木材品質の基準となっているJASであるが、規格の中で製材の品質として節、割れ、曲がりなどの欠点や保存処理、含水率、寸法、曲げ性能などの項目があり、等級を定めている。
    このようにJAS材は木材製品としての品質管理がなされており、構造材や内装材などの建材として利用しやすい木材であるが、一方で地域の木材を利用して学校建築の木質化を行う場合には品質とは別の問題が生じる可能性がある。
    全国の製材工場数は6865工場であるのに対して、JAS認定工場は613工場と全体の9%であり、製材生産量は全体の10~20%程度である。北海道、東北地方、九州地方を除くと、10工場以下が大勢を占めており、全くない県もある。このため、市区町村単位だと認定工場のある地域は非常に限定され、地域産材としてのJAS材の入手が難しくなる。
    また、学校建築の木質化では大量の木材が必要であり、地産を木材利用の方針とした場合には地域内の複数の工場で構造材・造作材の種類別、数量で分担して製材し、材料を調達している状況が多い。
    JAS認定工場は製材規模や必要な設備、認定のための手数料を含めた維持費などが必要となるため、地域の小規模な製材所では負担が大きく、JAS認定工場であることが困難な状況もある。
    以上より、学校建築の木質化において市区町村単位で地元の木材を利用する場合、その木材供給能力を考慮せずに仕様書の中でJAS材を指定してしまうと、JAS認定工場がなく、地元の製材業者では対応できない事態が発生する可能性が大きい。
    ■実際の事例における特記仕様書
    地域産材を利用した学校建築での特記仕様書の事例として、A中学校屋内運動場(滋賀県a市b地域)を取り上げる。この建物はRC造の構造体の上に木造のアーチ梁による小屋組を架け渡した構造であり、その部分に地域産材が利用されている。
    木材は地元産の支給木材とそれ以外に分けられており、特記仕様書内で施工者調達分についても表面仕上、含水率、樹種とともに、「木材は極力b産または、a市内にて調達した材料を使用する様努めること」と地域産材を用いることが指定されている。
    小屋組に使用する木材(支給木材)については構造詳細図にて「スギ、E70、含水率25%以下」と記述がある。これらの値は特別高品質のものではないが、大スパンのアーチ梁の安全性を確保するための指定であり、設計者の指示で品質検査の徹底がなされている。これは、建物に使用する全ての木材に対して一律にその性能を指定するのではなく、必要な部分に対して必要な性能を確実に確保するという考え方である。
    この事例のように地域産材によって学校建築を建設する場合、特記仕様書において使用する木材の産地指定や木材を供給する地域の状況などを考慮して品質を指定することは重要である。
    品質が保証されたJAS材は利点が多いが、地域産材を使用することを前提とした場合、現状では大きな困難が生じる可能性が大きい。一方で、建物としての適正な品質を保障するためには、JAS材以外の木材の性能をどのように確保するかも大きなテーマであり、特記仕様書での指定方法とともに設計者の判断が問われることになる。

  • 第18回木の学校づくり研究会より-「日本の林業の実態と国家戦略」講師:梶山恵司氏(内閣官房国家戦略室内閣審議官):
    ■林業は国家戦略の重要課題
    これまでの森林・林業政策を抜本から見直すために現在、林野庁を中心として「森林・林業再生プラン」という大掛かりな改革案が検討されている。日本の森林は林齢構成から今後50年生を超える木が増えていく状況にある。そのため、林業は現段階でしっかりとした基盤を作ることによって地域経済を支える柱になるため、国家戦略の重要課題の一つとして位置づけられている。
    これからの林業として「保育から利用へ」と転換がなされようとしている。つまり、「木を育てる林業」と「木を利用しながら森林整備を進める林業」は根本的に異なり、これからは伐採技術、機械導入による工程管理、コスト計算、マーケティングなどが要求される新しい林業を築き上げることが将来に向けて重要なことであり、この政策の狙いとなる。
    ■日本の林業の現状
    林業は先進国型の産業であり、世界の木材生産量の2/3は先進国によるものとなっている。1992年以降の丸太生産量を見ると、ヨーロッパ、北米では生産量が伸びているのに対して、日本では現在まで低下し続けている。
    日本の林業が衰退した原因として、外材の導入などがよく挙げられるが、そうではなく「自分達のせい」と梶山氏は分析する。日本の木材生産量の推移のデータによると、現在まで生産量はずっと低下し続けているが、1960年代では6000万m3の木材を生産していた。実はこの生産量が問題であり、当時の日本の森林の蓄積量が20億m3だったことを考えると過伐であったということになる。当時は木材の需要が大きく、価格も非常に高かったため林業は儲かる仕事だったという背景があり、実は現在ではなく当時がある種異常な状況であったということになる。その後の生産量の低下に対して、むしろ外材は供給量の低下を補っていたことになり、林業衰退の要因とは反対の見方となる。
    ヨーロッパの林業と比較した場合、日本では林業機械を見ても問題点が浮かび上がる。ヨーロッパで使われているハーベスタ、フォワーダなどの林業機械は当然のことながら林業用に設計され、生産における効率性などが重視されている。それに対して、日本では基本的に土木用の重機を改造したものであり、効率性もさることながら安全性についても不十分なものである。路網についても同様でフィンランドでは1960~1990年代に集中投資を行って整備がなされてきた。日本では路網整備が遅れているが、山の管理のためにも早急に進める必要がある。
    また、所有者をサポートする体制も重要である。日本では所有規模が小さい、複雑であることから個人の所有者が林業の担い手となりにくくなっているが、これはヨーロッパなどの先進国に共通のことである。そのため、ヨーロッパでは森林管理の専門家や組織が個人所有者をサポートし、役割分担や連携などがうまくとられている。一方、日本でその役割が期待されていたのは森林組合だが、その大部分が公共事業に依存して活動しており、残念ながら森林管理などの専門性や計画性がないまま間伐などが進められてきた。
    ■森林・林業再生プランでの実践
    このプランでは①基本政策、②路網、③人材育成、④森林組合改革、⑤木材流通・加工・利用、⑥予算の抜本的見直し、の6つの大きな検討項目が掲げられている。これらは密接に関係しあっている事柄であり、総合的な推進が必要となるが、その中でも人材育成と森林組合改革(公共事業からの脱却)は非常に大きなテーマとなっている。人材育成については現在5つの地域での集中投資によるモデル事業が実践されており、ドイツやオーストリアのフォレスターによる指導や研修が行われている。
    新しい林業の基盤が今まさに築き上げられようとしており、今後の展開が期待される状況である。(文責:松田)


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