vol.37

木の学校づくりネットワーク 第37号(平成24年3月31日)の概要

  • 第4回木の学校づくりシンポジウム開催:
    平成23年12月17日(土)13時から白山キャンパススカイホールで、東洋大学木と建築で創造する共生社会研究センター(略称WASS)が主催する第4回木の学校づくりシンポジウムを「木がつなぐ共生社会の創造」のテーマで開催された。
    第1部では5年間にわたる研究成果を研究員が報告し、続く第2部では「木がつなぐ共生社会へ」というテーマのもと、始めに本田敏秋遠野市長は、百年の縁を100年続く絆とし友好都市と後方支援で広がる仮想流域を作り出していきたい、という考えを示した。続いて杉井範之金山町森林組合参事は、金山杉をはるばる2000㎞、海を越えて宮古島へ運び宿泊施設を建てた事例をもとに、裏山の姿が家の形であり、裏山の担い手として頑張っていきたいと述べた。最後に島崎工務店の棟梁、島崎英雄氏は‘伝統から未来へ’と題し、木に接し身体を使って覚えることを若い世代に伝えていきたいという想いを伝えた。
    第3部ではセンター研究員及びゲストによるディスカッションとして、問題提示及び討論が行われた。ここでは、「木がつなぐ可能性」というテーマで、木の学校づくりに関わる林業従事者から製材業者、施工者、設計者、発注者などのあらゆる立場から課題や意見を発言していただき、仮想流域の可能性を議論した。
  • シンポジウムの記録:
    「第1部 研究成果報告 ”木の学校づくりの課題と研究の概要”」、「第2部 各地の取り組み”木がつなぐ共生社会へ”」、「第3部 全体討論 ”木がつなぐ可能性”」他


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vol.23

木の学校づくりネットワーク 第23号(平成22年10月23日)の概要

  • WASSシンポジウム開催日程変更のお知らせ
  • コラム:使い続けられる木の学校 その2:
    <日土小学校>
    愛媛県八幡浜市の日土小学校は、1956年から1958年にかけて建設された。2000年に発足しDOCOMOMO*1による日本における近代建築20選に木造建築として唯一選ばれた木の学校である。設計は当時、八幡浜市建設課に勤務していた松村正恒氏によるもので、切妻屋根2階建の校舎は、急峻なみかん畑の谷間を流れる喜木川に沿って配置され、川に向かってテラスが張り出す開放的な切妻屋根2階建の校舎となっている。また教室の両面から採光と換気を行うため、廊下と教室の間に光庭を設け教室を切り離すクラスター型*2の配置となっている。天窓や連続水平窓を多用するなど明るさに対する意識が高く、構造材や壁板は敢えて淡いパステルカラーで塗装されている。また構造的には木造と鉄骨トラスや鉄筋ブレース(筋かい)などを組み合わせ、開放的な空間を実現している。
    松村は50年代に日土小の他に、木造の病院や学校を設計しているが、まだRC造が普及せず、戦後の資材が乏しい時代には、地域の技術力と経済力の中で木材が使用された。日土小学校の部材は構造材であっても華奢な印象を与え、木造建築の復権を意識し、社会的な意義とともに大断面の集成材を用いる今日の木の学校とは異なっている。木造ならではの慎ましい空間のスケールや鮮やかな色彩計画は木目調の木の学校を見慣れた者にとっては新鮮に映った。
    校舎は現在も学校として使われており、平成20年~21年、リビングヘリテイジの概念に基づき、構造上の補強や断熱性能・吸音・遮音性能を高めつつ、外観・内観を変更しないように注意しながら、釘や合板にいたるまで、可能な限り既存の部材を使用し改修された。建築は変わらないがそれを使う人間の要求は常に変わってゆくため、建築を使い続けるためには必要に応じて手を加える必要があるという立場から、地域の設計者や大学の研究者が、改修に取り組んでいる。
    注1) DOCOMOMO (=The Documentation and Conservation of buildings, sites and neighborhoods of Modern Movement、ドコモモ)近代建築に関する建物、敷地、境の資料化と保存の国際組織。
    注2) クラスター型(cluster type)教室が通路や共用部分を中心に葡萄の房状の平面形式。
  • 「木の学校づくりシンポジウム in 中津」報告:
    平成22年9月25日に「木の学校づくりシンポジウム 木の学校のすゝめ -中津モデルから学ぶ地材地建-」を開催しました。このシンポジウムは今年の3月に竣工した鶴居小学校体育館(大分県中津市)を会場として、大分県内外から約110名の皆様にご参加いただきました。
    鶴居小学校体育館は中津市が「地材地建」を目標として、地元の木材及び地元の技術を活用して建てられた総木造の体育館です。特徴的な点として、この建設プロジェクトを立ち上げるにあたって中津市木造校舎等研究会を開催して、木材利用に関心のある川上から川下までの地元業者間の相互理解を深めながら準備を進め、コストへの配慮や徹底した木材のトレーサビリティを行ったことなどが挙げられ、全国的にも珍しい事例となっています。
    シンポジウムの最初には主催者を代表して中津市長の新貝正勝氏による挨拶と趣旨説明があり、建設プロジェクトの概要も含めて話されました。
    続いて、日本木材学会会長・東京農工大学教授の服部順昭氏による基調講演「製品の環境への優しさを評価する-ライフサイクルアセスメントとカーボンフットプリント-」が行われ、木材利用を中心として環境負荷の評価方法について分かりやすく説明されました。
    そして、中津市教育委員会による体育館における中津市の取り組みの具体的な内容について発表があり、シンポジウム後半は鶴居小学校のプロジェクトを中心に木の学校づくりをテーマとしたパネルディスカッションとなりました。
    以下、ここではパネルディスカッションの内容を中心に掲載します。
    新貝正勝氏(大分県中津市長)
    中津市は平成17年3月の合併によって、森林面積の占める割合が以前の3%から77.5%と大幅に増えた状況があります。ところがこれが利用されないことに対して、「大きな損失」と新貝市長は考えていました。また、「国産材は輸入材よりも安くなっているのに国産材が使われないのはおかしい」、「国産材利用の学校建築などはRCの在来構法と比較してコストが割高になってしまう」という根本的な疑問があり、今回のプロジェクトでは次のような目標が掲げられました。それは「地元産材を使う」、「川上から川下まで地元の企業を使う」、「RC造の建物と比較して同等かそれより安くする」というものであり、この達成が重要なテーマになっています。
    そこで、中津市木造校舎等研究会という自由参加の研究会が立ち上げられ、どのようにしたら目標を達成できるかについて、「木造の設計の考え方」、「乾燥期間の問題」、「地元産材であることの証明」、「建物構法」などについて検討されました。
    そして、実際に動き出してからも色々な問題があったということですが、「今振り返るとやってみてよかった」、「これを契機に日本の木造建築に対する考え方が変わればいいな」という話があり、「法律(公共建築物木材利用促進法)は日本の社会をあるいは森林を変えていく1つの経緯になると確信している」と今後の展開についての話がなされました。

    関口定男氏(埼玉県ときがわ町長)
    ときがわ町は平成12年から木の学校づくりに取り組んできた地域であり、その中で町長が中心となって「既存RC造校舎の内装木質化」を進めていることが大きな特徴です。
    関口町長からは内装材に積極的に木を用いることで「子ども達の環境を直してあげたい」という考えで始めたことであり、また既存の校舎を建て替えるよりコストが安くなるという説明がありました。そして最後に「一番大事なのは首長の決断」であり、「各首長にこういう取り組みを理解していただいて、リーダーから発信していただきたい」という強いメッセージが発せられました。

    井上正文氏(中津市木造校舎等研究会座長、大分大学教授)
    研究会座長として「こういうものをつくる場合は山、製材所、設計、施工といった一連の色々な方が係り合うので研究会に参加するということがポイント」であるとし、「一番大きかったのはお互いのことが本当は分かっていない」ことであると話されました。このことは、建築側は山のことが分かっていない、一方で山は建築の技術面に疎い、といった現状に対して異業種間の情報交換を行ったことで、「各セクションで何が一番重要なのかということをお互いに理解し合えたことが一番大きかった」という発言に繋がります。
    また、「技術の伝承としては継続的に仕事が続いていくことが大事である」、「こうしたプロジェクトは色々な人が係っていることもあり、誰かが利益を独り占めするのではなく、みんながそこそこメリットがあるというものでないと長続きしないだろう」という意見もありました。

    坂山大義氏(山国川流域森林組合参事)
    中津市の森林の現状、林業経営者の置かれている状況、鶴居小学校の工事における原木供給の経緯についての説明がなされ、今回の事業についての反省点や課題が話されました。
    課題は大きく3点あり、学校建築で使用されるような「原木規格が大きな特殊材が中津市内のどこにあるかというデータベースの整理を供給側がしないといけない」こと、「品種、強度、特性について建築設計で示された部材規格に適合する原木の仕分けの整理」、原木供給サイドの希望として「中津地域材を利用して建築するときに設計者、施工者、原木供給サイドが中津にある木材の材質・特性についての統一した認識をもつこととその材料特性を活かした建築構法を今後さらに研究していく必要がある」ことが挙げられました。
    そして、「川上、川中、川下のそれぞれの役割をネットワークした中で地材地建を進め、川上から原木の安定供給に努めてることで、そういう仕組みを支援していきたい」と山側関係者としての決意が語られました。

    今泉裕治氏(林野庁森林整備部整備課造林間伐対策室室長)
    建築物における木材利用の歴史・経緯を含めて「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」の概要について発表があり、その中で、「低層の公共建築物について、原則としてすべて木造化を図る」といった国の基本方針や、公共建築物の整備コストに木造とRC造とで明確な優位性があるわけではないといったことの説明もなされました。
    また、中津市の取り組みについて、「林業・木材関係者にとって実際に使われる側と研究会の中で意見を戦わせたことが非常に大事だった」とし、「お互いのことを知らないがために、お互いにビジネスチャンスを逃しているのが大きく、志を持っている人が研究会や勉強会に常に参加しているような状態ができれば変わっていくのではないか」という意見が出されました。
    —–
    会場からの発言やアンケートで寄せられた意見として、以下のような内容のものが見られました。
    「研究会でどんなことが行われたかの資料を公開してもらえると参考になる。」
    「成功できたのは研究会を立ち上げたからだということだが、どのようなコンセプトでどのような構成だったのかといったあたりが成否を分けたと思う。」
    「地材地建を行うことでの地域への効果(設計者、施工者、森林関係者への意識向上)の大きさを感じた。」
    「私達建築に従事するものが立場を超えて異業種の方とコミュニケーションをとることは大切と改めて感じた。」
    「中津市ではこれだけの取り組みをされたので是非とも2校目、3校目と続けてほしい。」
    「様々な切り口での話が聞けて大変よかった。出来れば苦労したこと、失敗しそうになったことをもう少し教えていただければよかった。」
    (文責:松田)


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vol.14

木の学校づくりネットワーク 第14号(平成21年12月12日)の概要

  • 巻頭コラム:「川越キャンパスの森」永峯章(東洋大学理工学部建築学科講師、建築環境工学・建築環境管理):
    東洋大学川越キャンパスの森は、農用林と用材林とが混在している森である。なぜ混在しているのかというと、大学が建設される以前のこの森には複数の土地の所有者が存在し、所有者によってその林の利用目的が異なっていたためである。農用材としては、コナラを中心として育て、材は薪炭用、落ち葉は畑の堆肥用にと利用した。用材林としては、ヒノキを中心として育て、建材として売却するほか、自分の家を普請するなどに利用していたと考えられます。
    武蔵野の雑木林といわれた農用林の姿がキャンパスの森となってからの50年間でだいぶ様相が変わってきました。このころからキャンパスの森はそれまでの利用目的を失い、農用林や用材林に仕立てるために手入れが行われずに、いわば放置され、今日まで至り、森の中に日射が不足し本来あるべき木が枯れ、少ない陽光でも育つ木々が増えつつあるのです。
    2001年のキャンパスの森の調査結果によると東洋大学川越キャンパス内に出現した樹木は全部で48種類。立木本数は2809本、株数は2119株、胸高断面面積合計は79.738㎡であった。「キャンパスの森を構成する樹種は主にエゴノキ、ヒノキ、コナラ、アオハダ、ヒサカキ、リョウブ、クリ、スギの8種であった。本数または株数では、エゴノキが全体の約1/4を占めているが、胸高断面面積合計でみるとその割合は8.3%と小さい。エゴノキは雑木林にはよく見られる萌芽性の強い樹木であるが、かつてはこれほどまでは多くなかったと考えられる。というのは、エゴノキはコナラと比べると、堆肥または薪炭材としての質が劣るため、コナラが生長していくごとに間伐などの手入れがなされていたからである。とくに、アオハダは利用価値が低いため、ほとんどない状態であったと考えられる。エゴノキ、アオハダ、ヒサカキ、リョウブは手入れや間伐が行われなくなってきたことから、本数を増やしてきたと考えられる。ヒノキはもともと植えられていたものが成長し本数の増減はあまり変わらないと考えられる」* 
    私自身、秩父の山歩きをする中で、間伐されずに放置された「真っ暗な山」に何回も遭遇します。公共施設や学校建築の木質化は、施設の温熱環境に+効果が期待できます。また、地域産材の活用を促し、林業の活性化にもおおいに役立つものと考えられます。
    川越キャンパス内でも、最近「森と木と環境の講座」が始まり、森の中の実習地で、農用林の保全・再生に必要な伐採実習を試みています。学生たちはそんなキャンパスの森の道(こもれびの道)を通って講義を受けています。
    *こもれびの森の樹 木に関する調査・研究:飯塚章三
  • 最近のトピックス:「2009年度WASSシンポジウムの報告」
    11月7日、東洋大学白山キャンパス・スカイホールにおいて木と建築で創造する共生社会研究センター(以下WASS)シンポジウム「木と建築による共生社会の実現に向けて」が開催され、約120名の方々が参加されました。
    ■「つなぐ」で綴られた4つのテーマ
    シンポジウムは、これまでのWASS研究成果をもとに「つなぐ」という言葉をキーワードにした4つのセッションで構成され、最初に各セッションの議論を束ねる視点で、長野県の川上村の藤原忠彦村長から「林業と地域再生」と題して基調講演が行われました。藤原村長は、地域のカラマツをふんだんに使って中学校を建設することで、村人自身が地域産材の良さに気付き、付加価値をつけてゆくことの大切さをお話になり、地域経済への貢献だけではなく、心理的な効果の大切さも訴えられました。
    ■「川上と川下をつなぐ木の学校づくりネットワーク」 司会:長澤 悟(東洋大学教授)
    各専門領域の研究者をはじめ、行政、林業、製材業、流通業、建設、建材といった関係分野の実務家を訪ね収集した全国各地の取り組みについてWASS客員研究員・森の贈り物研究会の花岡崇一氏より紹介があり、さらに一つの町でのケース・スタディとして、栃木県茂木町教育委員会の小崎正浩氏より、JAS規格の証明がない地域の無垢材にこだわった木の学校づくりの事例が紹介されました。議論では地域材運用における木材認定の基準と伐採期間の設定の難しさが話題の焦点となりました。
    ■「人と学校をつなぐ木の室内環境」
    司会:浅田茂裕(埼玉大学教授)
    今年行われた埼玉県内のRC校舎の内装木質化事例をもとに、東洋大の土屋喬雄教授より、内装木質化による温熱環境への効果、WASS客員研究員、横浜大学の小林大介講師より、児童生徒や、教職員の方々に及ぼす生理的、心理的影響や効果について研究を進めている状況の報告が行われました。浅田教授は、木は高いというが、室内環境のデザインに木材を用いることの効果の定量化し、心理的、教育的効果を計測し蓄積していくことで、高いことの根拠を説明していくことが重要とまとめられました。
    ■「意匠と構造をつなぐ木の学校づくり」
    司会:工藤和美(東洋大学教授)
    国産材や外材、無垢材や集成材、そして使う部位や構法により、またコストや地域、木の建築を造る意義によって異なる判断を迫られる構造計画に対して、東洋大学の松野浩一教授からはオープンスペースを含む多用な建築計画が見られる現代の学校に対応した木造ハイブリッド構造の可能性が提案され、能代市の建築家、西方里見氏からは地域の秋田スギと規格化された部材を意匠に活かし、低コスト化を図った「素直な構造計画」が提案されました。
    ■「木の学校づくりをつなぐ発注書・仕様書」
    司会:秋山哲一(東洋大学教授)
    他のセッションで提示されてきた分野、あるいは地域の状況に応じて様々な要素を結びつけて総合化する視点として、東洋大学の浦江真人准教授より、木材運用をコーディネイトする人材育成の必要性と木材の産地や品質を規定する発注書・仕様書の役割が挙げられ、そのあり方を検討することがWASSからの一つの提言としてまとめられました。
    ■シンポジウムアンケートより
    今回のシンポジウムはWASS内の各研究グループの研究成果の発表の場であったことから、木の学校づくりに関する多角的な視点を提示できた点が、設計者や行政担当者を中心に多くの方から評価を受けました。特に木質化の評価軸としてのストレス調査に対する関心が高かった他、設計者、行政担当者を中心とした視点として、木の学校づくりに関する法規・制度に関する問題や集成材の活用等に向けた技術的な提案を期待する意見、またWASSのネットワークの特徴ともいえる都市部での木の学校づくりの可能性の提示に期待が寄せられました。


※パスワードは「wood」