vol.35

木の学校づくりネットワーク 第35号(平成23年11月19日)の概要

  • ドイツフォレスターが語る森づくりシンポジウム:
    10月28日、高山市内の体育館で日独森林環境コンサルタント代表の池田憲昭氏、地元の極東森林開発(株)の中原丈夫氏とドイツ人フォレスターとオペレーターを招いた岐阜県が主催するシンポジウムが開催された。まず目を惹いたのは、報告者全員が身に着けた派手なユニフォーム。池田氏は日本とドイツの林業や林業従事者に向けられる意識の違いについて触れ、都市の未来を決めるのは農村地域の人たちであり、持続的な林業を行えば自然と経済効果が生まれる産業と林業従事者がプライドを持って作業に従事することの大切さを訴えた。シンポジウム後半の主題は道づくり。中原氏は道の中央を高くした屋根型排水作業道や暗渠を多用して、雨水の管理を徹底した欧州型の作業道の整備により、天候に左右されにくい安定した施行が可能となり、収入も安定すると林業における道づくりの重要性を指摘した。またフォレスターからは、戦後に植林された単層構造から樹種構造を豊かにし、急峻な日本地形にあった害のない森づくりを行う必要性と道づくりを充実させ国民の森林経験を高める必要性、さらに多面的な知識を学び、森林経験の豊富な地域に密着した人材の育成の必要性が指摘された。
    切り捨て間伐の残材の解放やレクリエーション等、整備された道は安定した林業の実現とともに市民と森林の結び付きを深め、多面的に森林を知り活用していくためにも有効だろう。
  • WASSへの投稿文:「公共建築物等木材利用促進法の制定と今後の展開」今泉裕治(林野庁整備課造林間伐対策室長):
    私は、平成20年5月から22年7月まで林野庁木材利用課に在籍し、政権交代直後の21年の年末からは、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」制定のための庁内専任チームの一員として、政府提出法案のとりまとめ、関係省庁との折衝、国会審議及び議員修正への対応、国が定める基本方針の策定といった作業にたずさわりました。
    また、この間、ご縁があってWASSの活動にも公私両面から関わらせていただきました。
    今回、貴重な紙面を与えていただきましたので、公共建築物等木材利用促進法の制定を中心とする施策の動向、さらにWASSの成果も踏まえた今後の展開について、思うところを述べさせていただきます。
    木促法の制定前夜
    私が木材利用課に着任したころ、国産材(用材)の年間利用量は、平成14年に約1,600万㎥で底を打ってから若干上向きに転じていたとは言え1,800万㎥前後にとどまり、木材(用材)自給率も2割を少し超えた程度で低迷している状況でした。
    そのような中、林野庁では、学校等の公共施設の木造化や内装の木質化の推進を通じて地域住民に木の良さをアピールするとともに、森林・林業の重要性に対する理解を醸成する観点から、文部科学省と連携して学校建築の計画・発注担当者を対象とした「木材を活用した学校施設づくり講習会」を毎年全国で開催してきたほか、「エコスクールパイロット・モデル事業」などを通じて地域材を活用した公共施設の整備に補助金を支出し支援してきました。
    そのような努力もあって、昭和50年代までほぼゼロであった公立学校施設(小中学校)の木造率が平成20年度には10%に達するなど一定の成果が見られたものの、公共建築分野全体の木材利用は、地域材の利用に「こだわり」を持つ一部の自治体の取り組みなどに限られてきたというのが実態ではないかと思います。
    国産材の利用促進を図ることは、やっと利用期を迎えた我が国の人工林資源を「活かすか、殺すか」に関わる重大な課題として、政治的にも関心が高まってきていましたが、林野庁においても、(恥ずかしながら)いったい何が隘路になっているのか、何から手をつければ良いのかといった実態の分析・整理が十分できていたとは言い難く、私自身も「暗中模索」の状態というのが実際のところでした。
    WASSの活動に参加して
    私とWASSの出会いは、偶然インターネットで第1回WASSシンポジウム(平成20年10月)の案内を見つけ、何かヒントが得られないかと「藁をもすがる思い」で飛び入り参加したのが最初でした。
    以来、WASSの活動には公私両面から関わらせていただき、現職に異動した後も意見・情報の交換をさせていただいていますが、このことは、私自身にとって大変貴重かつ幸運な経験になっています。
    私がWASSの活動に参加して見えてきたこと、学んだことは色々ありますが、痛感したことの一つとして挙げられるのは、私自身を含め多くの林業・木材関係者が、公共建築に木材が使われないことを嘆く割には建築の設計や発注、施工の現場の実態について不勉強で知らないことが多いということでした。他方、建築関係者サイドにおいても、積極的に木材の利用に取り組んでいる建築士などでさえ、森林や林業、木材についての知識が必ずしも十分ではないケースが多いということも分かりました。
    さらに、これら関係者間の理解不足や共通認識の欠如が、地域社会の持続的な営みの一部となるべき公共建築における木材利用を単なる目先の利益の確保の場に貶めることさえ往々にしてあるということも知ることができました。
    このようなことを通じて、私は、公共建築と木材の生産・供給に関わる幅広い関係者が、自然素材である木材の特性(長所も短所も含め)や林業・木材産業に内在するさまざまな課題を理解しつつ、相互の信頼と共通認識のもとで木材利用に取り組むことが重要であると強く意識するようになりました。
    公共建築物等木材利用促進法に基づく国の基本方針の「2(3)関係者の適切な役割分担と関係者相互の連携」には次のように記述されています:
    ・・・木材製造業者その他の木材の生産又は供給に携わる者、建築物における木材の利用の促進に取り組む設計者等にあっては、国又は地方公共団体を含め、相互に連携しつつ、公共建築物を整備する者のニーズを的確に把握するとともに、これらニーズに対応した高品質で安価な木材の供給及びその品質、価格等に関する正確な情報の提供、木材の具体的な利用方法の提案等に努めるものとする。
    これは、基本方針の原案作成を担当した私がWASSで得た上記のような考えをもとに記述したものであり、(今読み返してみると言葉足らずの感を強くしますが、)私個人としては、同基本方針の中で最も訴えたかったポイントであることを強調したいと思います。
    公共建築物等木材利用促進法がもたらすもの
    農林水産省・林野庁では、平成21年秋の政権交代以降、「森林・林業の再生」をキーワードに、林道や作業道等の林内路網の整備と高性能な林業機械の導入・普及、高い技術・技能を有する人材や地域林業の中核的な担い手たる林業事業体の育成、さらには安定的・効率的な木材の加工・流通体制の整備、国産材の需要拡大などに包括的に取り組むこととして、森林・林業政策の見直しを進めてきました。
    公共建築物等木材利用促進法の制定は、これら政策見直しの先陣を切って検討が進められたものですが、その検討過程は、これまで林野庁が国会に提出したことのある森林・林業関係の法案とはまるで異なるものとなりました。
    林野庁自体はこの法案が対象とする公共建築物を直接所管しておらず、政府として同法案を閣議決定し国会に提出するためには、建築行政や官庁営繕等を所管する国土交通省、学校施設や社会教育施設を所管する文部科学省、社会福祉施設や医療施設を所管する厚生労働省、国家公務員住宅を所管する財務省など、各省庁の理解と協力が不可欠であり、これら省庁との折衝に骨を折ることとなりました。
    そのようなことから、当時のある林野庁幹部は、この法案の作成を「完全アウェーの戦い」と表現したほどでしたが、結果的にこの法律は林野庁(農林水産省)と国土交通省の共管法となり、紆余曲折はありましたが他の省庁の理解も得られ、これまで林野庁のほかごく一部の省庁に限られていた公共建築物における木材利用の取り組みが、法の制定によって一気に政府全体の取り組みに生まれ変わった感がありました。
    また、同法案は、国会において一部修正の上、衆参両院とも全会一致で可決成立しましたが、このことは、昭和25年の衆議院による「都市建築物の不燃化の促進に関する決議」や昭和30年の閣議決定 「木材資源利用合理化方策」等から始まった木造公共建築の長い暗黒時代の終焉を告げるものと感慨深いものがありました。
    この法律の施行から一年余りを経過した本年11月15日現在、35都道府県で同法に基づく公共建築物における木材の利用の促進に関する方針が策定され、残りの府県でもそのほとんどで今年度中に方針を策定すべく作業が進められています。
    これは、国と同様に都道府県においても、公共建築における木材利用が、林業関係部局限定の取り組みから、関係部局を横断した全庁的な取り組みへと昇華したことを意味します。
    今後は、公共建築物の多くが発注・建築されている市町村や私立・民間の学校、老人ホーム、病院といった建築物にも木材利用の輪が広がることが望まれます。
    新たな「木の文化」へ - WASSの成果を踏まえて
    WASSは、「学校建築を主軸とした『木・共生学』の社会システムの構築と実践」をテーマとし、「『木』を取り巻く様々な分野を横断的な思考で捉え、現在から未来にわたって持続可能な循環型、共生型地域の実現に寄与する建築ものづくりネットワークの提言」を目標に掲げています。
    これは、資材としての木材をどのように扱い、どのようにデザインし建築基準をクリアするかといった、これまで木造建築の分野で語られることの多かった純工学的な議論とは一線を画すものであり、まさに新たな「木の文化」の構築に向けた取り組みと評価できます。
    公共建築物等木材利用促進法の制定による公共建築の歴史の転換とWASSの取り組みが時を同じくして展開されたことは、偶然ではなく必然だったのだろうと思いますが、あらためて、WASSに対する文部科学省の時宜を得た支援に敬意を表する次第です。
    今後、WASSの「木・共生学」の理念や、WASSが種をまき育てたネットワークなどの成果をさらに発展させ、近い将来、新たな「木の文化」として花開かせることができるよう、関係者一同の一層の努力が求められています。
    私自身もその実現に向け、引き続きWASSその他の関係者の皆様と協力して、公私両面にわたり取り組んでいきたいと考えています。公共建築物等木材利用促進法については、以下もご参照ください。
    林野庁: https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/koukyou/
    末松広行・池渕雅和: 逐条解説 公共建築物等木材利用促進法、大成出版社、2011年8月


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vol.20

木の学校づくりネットワーク 第20号(平成22年7月10日)の概要

  • 「木の学校づくりの手引書”こうやって作る木の学校”発行」:
    「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が、去る5月19日、国会において全会一致で成立した。それを受ける形で5月28日に文部科学省・農林水産省から「こうやって作る木の学校~木材利用の進め方のポイント、工夫事例~」が発行された。文部科学省からは少ない先進事例をもとに要点をまとめた「木の学校づくり」(1999)や木を活用する上での疑問点をQ&A形式で解説した「早わかり木の学校」(2008)など木の学校づくりの手引書が発行されてきたが、本書は昨年度WASSが伐採から竣工まで追跡調査を行った埼玉県の都幾川中学校の内装木質化事例を含む近年の研究成果や学校の事例37校がテーマ別に紹介されている。自治体担当者や設計者から収集した情報をもとに補助制度への申請期間や、特に木の学校をつくる上で課題となる木材の伐採・乾燥・製材・加工期間を見込んだ事業スケジュールモデルが提示され、歩留まりを上げる、木材を使いきる、同じ規格の材、架構、ディティールを繰り用いるなど、コストを抑える設計上の工夫も解説され、これから木の学校づくりに取り組む行政担当者や設計者にとって、より実践的な情報が盛り込まれている。
    本書の末部で今後の課題点としてあげられているように、JAS材や特定の地域の木材を意図して使うことが、実際どのように森林の循環に結びついているのかといった、社会システムのモデルとして各事例を評価する視点が求められており、今後WASSでは本書を貴重な資料として課題の分析に活用していく。 (*)「こうやって作る木の学校」は以下の林野庁URLから閲覧することができます。
    3月に長澤センター長の海外木造建築事例研究に同行し、スイスアルプスの麓、グラウブンデン州フリン村を訪ねた。標高1000mを越えるこの村の家々は周囲のモミやカラマツを用い数世代にわたり改修が続けられたため、木材の退色度合いにより村並はモザイク模様に見え、建築を維持させる村人の営みが一つの景観を生み出していることが魅力的に見えた。木造建築の各部位、部材は常に様々な劣化外力にさらされており、長期間維持するためには、環境条件に応じたメンテナンスを継続することが必須条件となる。
    80年代以降再び建てられるようになった日本の木の学校ではどうか。建設時には定期的な塗装や点検が計画されるものの、実際には木の特性に十分に配慮した施設維持費を計上する自治体は少ない。木の学校の設計者には木の特性をふまえ、長期間の使用を想定した設計が求められる。近年の木の学校の特性であるRC、S造との混構造や集成材の利用が見られる初期の学校が築後20年を迎えるなか、設計者の経験をふまえた現代の学校に見合うメンテナンスの手法の情報が蓄積・共有され、維持管理の体制づくりに向け、認識を深める時期を迎えている。日常的な清掃活動をはじめ、メンテナンスに対する
    積極な姿勢が地域のシンボルと
    しての学校に愛着を湧かせるは
    ずである。(樋口)
  • WASS建築生産部会の研究報告:
    ■木の学校づくりにおける建築生産上の特徴
    学校建築に木材を利用する場合、木造の戸建住宅やRC造などの学校と比較して、建築生産の中で一般的に以下のような特徴が挙げられる。

    ①戸建住宅とは異なり規模が大きいため、短期間に大量の木材を調達し、施工しなければならない
    ②コンクリートや鉄骨などの材料とは異なり、木材は乾燥期間を必要とするため、木材の発注から納品までのリードタイムが長い
    ③公共事業の場合、事業費が単年度予算で組まれるため、伐採時期や乾燥期間などのスケジュール設定が難しい
    ④地域産材など木材の産地を指定する場合が多い ⑤木材の特徴として、特に製材の場合、基準に見合った品質の材料を揃えるのが難しいことが多い
    これらの特徴が関連しあうことで、例えば、短い準備期間で大量の良質材料を調達する必要がある、単年度予算のために十分に乾燥した木材を準備することが困難である、設計者の指定する仕様と地域の木材調達能力の間に格差がある、などの問題が発生することとなる。それに伴い、設計者・施工者・木材供給者がスケジュール、報酬、木材調達等についての多様な困難に直面することから、一連の生産プロセスを分析し、効果的なプロジェクト運営を可能としていくことは重要である。
    ここでは、学校建築に木材を利用する際の建築生産プロセスの中で、仕様書に着目して調査を行った結果について報告する。設計図書における仕様書は、発注者からの要求も含めて、使用する木材を国産材や地域産材に限定する場合の木材調達に密接に関わっており、その役割は大きいと考えられる。
    ■標準仕様書の現状
    木造建築に関連する標準仕様書の中で学校建築の木質化に関わる代表的なものとして次の4つ仕様書が挙げられる。
    ①木造建築工事標準仕様書(平成22年版)
    :国土交通省大臣官房官庁営繕部監修
    ②公共建築工事標準仕様書(平成22年版)
    :国土交通省大臣官房官庁営繕部監修
    ③公共建築改修工事標準仕様書(平成22年版)
    :国土交通省大臣官房官庁営繕部監修
    ④建築工事標準仕様書 JASS11 木工事 2005
    :日本建築学会

    右表に示すように、これらの仕様書では木材の品質について、日本農林規格(JAS)が大きな基準となっている。①~③では原則として「日本農林規格による」と表記され、JAS材を使用することが前提である。これに対して、④では最初に「特記による」と書かれており、日本農林規格は特記がない場合の品質基準という位置付けである。つまり、④の仕様書では木材の品質を設計者が指定することが前提であり、①~③と比べて使用可能な木材の範囲が広がっていることが分かる。
    ①~③は官庁営繕関係統一基準として定められたもので、国家機関の建築物やその附帯施設などに対しての適応が意図されている。学校建築の場合、公共事業であるとともに国からの補助金を受けているといった事情から、一般的にこれらの仕様書が標準仕様書として用いられることが多い。こうした背景から、仕様書作成の際にはこれらの内容の影響を大きく受けることになると考えられる。
    ■地域産材の利用とJAS材
    標準仕様書で木材品質の基準となっているJASであるが、規格の中で製材の品質として節、割れ、曲がりなどの欠点や保存処理、含水率、寸法、曲げ性能などの項目があり、等級を定めている。
    このようにJAS材は木材製品としての品質管理がなされており、構造材や内装材などの建材として利用しやすい木材であるが、一方で地域の木材を利用して学校建築の木質化を行う場合には品質とは別の問題が生じる可能性がある。
    全国の製材工場数は6865工場であるのに対して、JAS認定工場は613工場と全体の9%であり、製材生産量は全体の10~20%程度である。北海道、東北地方、九州地方を除くと、10工場以下が大勢を占めており、全くない県もある。このため、市区町村単位だと認定工場のある地域は非常に限定され、地域産材としてのJAS材の入手が難しくなる。
    また、学校建築の木質化では大量の木材が必要であり、地産を木材利用の方針とした場合には地域内の複数の工場で構造材・造作材の種類別、数量で分担して製材し、材料を調達している状況が多い。
    JAS認定工場は製材規模や必要な設備、認定のための手数料を含めた維持費などが必要となるため、地域の小規模な製材所では負担が大きく、JAS認定工場であることが困難な状況もある。
    以上より、学校建築の木質化において市区町村単位で地元の木材を利用する場合、その木材供給能力を考慮せずに仕様書の中でJAS材を指定してしまうと、JAS認定工場がなく、地元の製材業者では対応できない事態が発生する可能性が大きい。
    ■実際の事例における特記仕様書
    地域産材を利用した学校建築での特記仕様書の事例として、A中学校屋内運動場(滋賀県a市b地域)を取り上げる。この建物はRC造の構造体の上に木造のアーチ梁による小屋組を架け渡した構造であり、その部分に地域産材が利用されている。
    木材は地元産の支給木材とそれ以外に分けられており、特記仕様書内で施工者調達分についても表面仕上、含水率、樹種とともに、「木材は極力b産または、a市内にて調達した材料を使用する様努めること」と地域産材を用いることが指定されている。
    小屋組に使用する木材(支給木材)については構造詳細図にて「スギ、E70、含水率25%以下」と記述がある。これらの値は特別高品質のものではないが、大スパンのアーチ梁の安全性を確保するための指定であり、設計者の指示で品質検査の徹底がなされている。これは、建物に使用する全ての木材に対して一律にその性能を指定するのではなく、必要な部分に対して必要な性能を確実に確保するという考え方である。
    この事例のように地域産材によって学校建築を建設する場合、特記仕様書において使用する木材の産地指定や木材を供給する地域の状況などを考慮して品質を指定することは重要である。
    品質が保証されたJAS材は利点が多いが、地域産材を使用することを前提とした場合、現状では大きな困難が生じる可能性が大きい。一方で、建物としての適正な品質を保障するためには、JAS材以外の木材の性能をどのように確保するかも大きなテーマであり、特記仕様書での指定方法とともに設計者の判断が問われることになる。

  • 第18回木の学校づくり研究会より-「日本の林業の実態と国家戦略」講師:梶山恵司氏(内閣官房国家戦略室内閣審議官):
    ■林業は国家戦略の重要課題
    これまでの森林・林業政策を抜本から見直すために現在、林野庁を中心として「森林・林業再生プラン」という大掛かりな改革案が検討されている。日本の森林は林齢構成から今後50年生を超える木が増えていく状況にある。そのため、林業は現段階でしっかりとした基盤を作ることによって地域経済を支える柱になるため、国家戦略の重要課題の一つとして位置づけられている。
    これからの林業として「保育から利用へ」と転換がなされようとしている。つまり、「木を育てる林業」と「木を利用しながら森林整備を進める林業」は根本的に異なり、これからは伐採技術、機械導入による工程管理、コスト計算、マーケティングなどが要求される新しい林業を築き上げることが将来に向けて重要なことであり、この政策の狙いとなる。
    ■日本の林業の現状
    林業は先進国型の産業であり、世界の木材生産量の2/3は先進国によるものとなっている。1992年以降の丸太生産量を見ると、ヨーロッパ、北米では生産量が伸びているのに対して、日本では現在まで低下し続けている。
    日本の林業が衰退した原因として、外材の導入などがよく挙げられるが、そうではなく「自分達のせい」と梶山氏は分析する。日本の木材生産量の推移のデータによると、現在まで生産量はずっと低下し続けているが、1960年代では6000万m3の木材を生産していた。実はこの生産量が問題であり、当時の日本の森林の蓄積量が20億m3だったことを考えると過伐であったということになる。当時は木材の需要が大きく、価格も非常に高かったため林業は儲かる仕事だったという背景があり、実は現在ではなく当時がある種異常な状況であったということになる。その後の生産量の低下に対して、むしろ外材は供給量の低下を補っていたことになり、林業衰退の要因とは反対の見方となる。
    ヨーロッパの林業と比較した場合、日本では林業機械を見ても問題点が浮かび上がる。ヨーロッパで使われているハーベスタ、フォワーダなどの林業機械は当然のことながら林業用に設計され、生産における効率性などが重視されている。それに対して、日本では基本的に土木用の重機を改造したものであり、効率性もさることながら安全性についても不十分なものである。路網についても同様でフィンランドでは1960~1990年代に集中投資を行って整備がなされてきた。日本では路網整備が遅れているが、山の管理のためにも早急に進める必要がある。
    また、所有者をサポートする体制も重要である。日本では所有規模が小さい、複雑であることから個人の所有者が林業の担い手となりにくくなっているが、これはヨーロッパなどの先進国に共通のことである。そのため、ヨーロッパでは森林管理の専門家や組織が個人所有者をサポートし、役割分担や連携などがうまくとられている。一方、日本でその役割が期待されていたのは森林組合だが、その大部分が公共事業に依存して活動しており、残念ながら森林管理などの専門性や計画性がないまま間伐などが進められてきた。
    ■森林・林業再生プランでの実践
    このプランでは①基本政策、②路網、③人材育成、④森林組合改革、⑤木材流通・加工・利用、⑥予算の抜本的見直し、の6つの大きな検討項目が掲げられている。これらは密接に関係しあっている事柄であり、総合的な推進が必要となるが、その中でも人材育成と森林組合改革(公共事業からの脱却)は非常に大きなテーマとなっている。人材育成については現在5つの地域での集中投資によるモデル事業が実践されており、ドイツやオーストリアのフォレスターによる指導や研修が行われている。
    新しい林業の基盤が今まさに築き上げられようとしており、今後の展開が期待される状況である。(文責:松田)


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vol.12

木の学校づくりネットワーク 第12号(平成21年9月12日)の概要

  • 巻頭コラム:「”環境にやさしい”ことを数字で示す」村野昭人(理工学部都市環境デザイン学科准教授、環境システム工学):
    私が大学で学んでいた1990年代の前半ごろ、環境問題に関心があると言うと、少し変わった人という印象を持たれかねませんでした。今の世の中で言えば、健康のために菜食主義を貫いている人に対して人々が持つ印象と似ているかもしれません。『確かに正しいことを主張しているのかもしれないけど、現実的じゃないよ。そこまでしなくてもいいのでは?』といったところでしょうか。しかし、わずか20年足らずで時代は大きく変化し、現在では環境に関する記事を目にしない日はなく、衆議院選挙の各政党のマニフェストにも主要なテーマとして環境対策が盛り込まれるようになりました。人々の環境に対する意識は大きく変わったと言えます。
    ところが、環境に関する認識は昔からあまり変わっていないようにも思えます。例えば、『環境を守るには、豊かな生活を我慢してストイックに生きなければならない。』『環境対策は経済成長を妨げる。』『森林の木を伐ることは自然破壊であり、木を伐ってはいけない。』・・・これらの意見、私はすべて誤りと考えていますが、人々の認識を変えるのは容易ではありません。環境に関する議論がイメージ先行で進み、科学的な知見に基づいた議論が置き去りにされてしまったことが、その原因の一つと考えています。
    そこで私は科学的な知見を提供するために、木材を利用することによって、どの程度環境負荷を削減することを数字で示す研究をしています。木材は再生産が可能であるとともに、リユース・マテリアルリサイクル・サーマルリサイクルと多種多様なリサイクルが可能な貴重な資源です。低炭素社会の構築が求められている中、木材を有効利用することは大変重要な課題と言えます。
    しかし、日本は国土の約3分の2が森林という森林大国にも関わらず、木材自給率は2割程度に過ぎません。外材の輸入自由化、国産材の価格低迷などに起因する林業の不振により、適切に管理されることなく放置されている森林が増加しています。一般的に、木は植林されてから40~50年程度で成長のピーク、すなわち二酸化炭素吸収能力が最大となる時期を迎え、その後は徐々に吸収能力が衰えます。現在の状況が進めば、日本の森林のネットの炭素貯留効果が、21世紀の半ばにはマイナスになってしまうという試算結果も出ています。
    日本では1950年代、60年代に多くの植林がなされましたので、伐採・利用に適した時期を迎えています。もちろん、無秩序に伐採を進めると森林が荒廃する要因になりますので、伐採・利用・再植林をトータルで考えた森林資源のマネジメントが求められています。その方法を議論する上での材料とするために、数字で表した科学的知見を提供して行きたいと考えています。
  • 最近のトピックス:第10回 木の学校づくり研究会報告:
    2009年8月1日に行われた「第10回 木の学校づくり研究会」では、『森の力』(岩波新書)の著者で作家の浜田久美子氏より、「森と家の関係」と題して、木造住宅を建てたご自身の経験を通して、日本の林業のあり方について、海外の事例をふまえつつご講演いただきました。
    ■不健全な日本の森
    世界的には森林は減少と破壊に直面しているにもかかわらず、日本の森林は逆にありすぎて困り、手入れはされても出口がないといわれています。「木を使う」という実感が生活の中にないのが日本の現状、と浜田氏ご自身も木の家に育ちながら希薄だった木に対する意識を振り返りました。そもそも戦後の入会地の分割等で新たに私有林となった里山には、林業経営が成り立つような規模も需要もないのです。しかし、世界トップ3の木材の使用量と、世界の温帯でも指折りの植生豊かな日本が、木材の供給の8割を海外に依存するのは世界的な視野から見ても利にかなわないと、浜田氏は日本の森の不健全さを訴えました。
    ■健全なドイツとスェーデンの森
     癒しの森という日本では見られない林業、観光、医療が一体となった森林経営がみられるドイツ。生態系を考慮した広葉樹と針葉樹が混交する多様性のある森は100〜120年のサイクルで運営されており、木材生産を重視した50年サイクルの日本の森とは異なります。また平坦な地形のため、森が教会に例えられるほど伝統的に人々が森に入るスェーデンでは、80年代におこった大型機械による乱伐に対する市民活動がきっかけとなった不買運動により、自然の森を手本として生態系を重視した運営方針がとられるようになりました。一方で木質バイオマスが都市暖房のエネルギー源として利用され、木を使い尽くすシステムが確立されています。
    ■木を使い、森と触れ合うことがカギ
     今の日本の林業には、森を木材の生産の場としてだけとらえるだけではなく、多様な木の使い方を模索する発想が必要で、そのためには木に触れ、森の理想像を思い描きながら、木を使うことが大切という浜田氏の視点には、自ら参加した山作りや、木造の自宅を建設した実感が込められていました。

    「長野県川上村中学校 視察」
    長野県川上村は明治時代よりカラマツの苗木を生産し、欧州や朝鮮半島に輸出してきたカラマツの産地として知られています。今年3月に竣工したこの中学校は、学校そのものが教材であるという基本理念のもとに建てられました。地域産のカラマツの集成材を生かした大胆な樹木型の柱が印象的ですが、同県伊那地方根羽村の天然杉材、木曽地方大桑村天然ヒノキ材も使われています。出来るだけ多くの材種を用い、生徒たちが木や周辺地域の森林のことを学ぶきっかけとなればという思いと、各地の木材産地と地域材を交換し合うことで共存、交流を謀る森林トライアングル構想が結びついた形。「どこの木でも、その土地の人が、地元の木に対して何か価値をつけなければならない。」中学校を訪れる前に聞いた藤原村長の言葉が印象に残りました。

  • シンポジウムのお知らせ


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