vol.28

木の学校づくりネットワーク 第28号(平成23年4月16日)の概要

  • 第3回木の学校づくりシンポジウム報告~地域の取り組み紹介(秋田県能代市)~:
    「地域力を生かす取り組み~山とまちをつなぐ『地域材』の活用~」齊藤滋宣氏(秋田県能代市長):
    ■「木都・能代」
    東北は大変な雪でございまして、雪の降らないところと比べると、荷重がまったく違います。耐震等を考えますと構造そのものが温かい地域とは違いますので、木にかかる荷重が大変大きい。ということは、費用もかかりますが、それだけ木で大型公共物、大型建築物を造るのが大変困難な地域であることをまず頭に入れていただきたいと思います。
    能代市は秋田県の日本海側にあり、人口6万257人、世帯数2万4583世帯、森林面積2万4883haです。能代市には二つの顔があり、一つは「バスケの街」、もう一つは今日のテーマ「木都・能代」と言われる昔から木で大変栄えた街であります。戦前では「東洋一の街」と言われ、日本一の高いスギ(高さ58m、直径1m64cm)があり、その1本の木から55坪の木造の家が建つと言われております。秋田スギで栄えた能代市と二ツ井町が平成18年に合併いたしまして、新しく能代市となりました。東洋一の木材の貯木場と言われた「天神貯木場」があったのも、能代市の二ツ井という地区です。最盛期の昭和36年には517事業所、従業員数7512人、製品出荷額499億9000万、約500億あったわけですが、今は114事業所、従業員1089人、製品出荷額185億と激減しております。
    そういう中で我々は「木都」と謳われたこの能代を何とかもう一度元気のある街にしたい、そのためには一番誇ることのできる秋田スギを使って、歴史と文化が脈々と受け継がれ技術とその経験が今に生きているこの資源をブラッシュアップして世の中に問うてみたい、という思いでまちづくりに励んできました。我々が「木の学校づくり」というものを目指すことにより、子ども達に快適で、健康で、勉強する環境に恵まれた学校を造ってあげたいという思いと同時に、木の素晴らしさを日本国中に知ってもらい、秋田スギの時代をもう一度取り戻し、地域を活性化することができないかという思いで取り組んだわけです。
    ■「木の学校づくり」の実践と検証
    市内には小・中学校が19校あり、そのうち小中一体校が1校ありますので、実質18校。そのうち7校が木造で造られております。
    平成6~12年に、崇徳小学校、第五小学校、東雲中学校の3校を手がけました。特に、歴史と文化の街・檜山と言われる檜山地域にある崇徳小学校を造るに際しまして、地域に多くの木材資源がありますから、地域住民の方達が小学校を建て直すにあたり、我々地域の木材を使って木造の学校を造ることはできないだろうかという声が多く上がりました。昭和61、62年の頃から地域住民の皆様方が木の学校づくりのためにいろいろな勉強会を開くようになり、市民の皆さん、木材産業関係者の皆さん、設計者、工事関係者、行政が一緒になりまして、木の学校づくりに取り組んだわけです。また、この取り組みが始まってから、一貫して学校につきましては木造の学校づくりということが能代市で始まりました。木造だと高いのではないか、木材の調達はどうするのか、そういう建築技術がしっかりと受け継がれてきているのか、雪国ですから構造的に大丈夫なのか、そのことによってさらにコストが増すのではないかという不安の中からの出発でしたが、立派な学校を建てることができました。
    次に転換期となった平成15~18年。先ほどの3校を建てた時は、建築費は坪単価90万~100万ぐらいかかり、若干高いコストがかかっていましたから、次のコンセプトは、少しでも地元産材を使いながら、工法を工夫し、できるだけ安い費用で学校を造ることができないかということでした。そして、関係者が集まりまして、常盤小中学校、そして浅内小学校を建築する計画を作りました。地元でどうやって材を調達するか、そして今使われている材で学校を造ることができないだろうか、さらにトータルコストをいかに安くしていくかということを考えました。最初の頃の学校と比べるとデザインもシンプルになってまいりました。そういう成果が現れまして、プロポーザル方式で学校建築が進められ、皆様方の知恵を結集し、坪単価60万~80万にまで削減することができました。
    そして、次の段階に入るわけです。二ツ井小学校、市立第四小学校は、合併した後にできあがった学校で、二ツ井小学校で約1500m3、第四小学校で1300m3の木材が建物に使われています。地元産材と地元の大工さんによって、できるだけ安い費用で長持ちする学校というコンセプトのもとに造り上げました。2カ年事業で2校同時に建築したわけですが、地元の皆さん方に参加していただくことで、地域の経済の活性化を図りたいという思いがあり、結果、学校1校あたり延べ1万人以上の大工さんを雇用することができました。この両校は坪単価約70万円程度で造ることができました。
    この三つの時期を経て今日に至るわけです。崇徳小学校、第五小学校、東雲中学校を建てた後に、いろいろな課題が各種の皆さん方からお話しされましたので、今後の学校建築にどう活かしていくかを研究するために、公共建築物整備産学官連携事業の中で、今までに建てた学校の検証、これからの対策といった木の学校づくりの研究が始まりました。この組織は、秋田県立大学の木材高度加工研究所、木材加工推進機構、地元の木産連、商工会議所、設計士の皆さん、工務店・建築組合、そして行政が一緒になりまして進めてまいりました。その結果、品質にばらつきがあることが、建築のコストを非常に高くし、差し障りがあることが分かりました。また、規格・グレードの共通理解がなければ、我々が目標としているコストを下げることと能代の材を全国展開するときに、決していい形で作用していかず、切り出した原木を全て使い切る工夫が要るといったことが総括としてまとめ上げられました。そして今度の二ツ井小学校、さらには第四小学校に活かしていこうということが始まりました。検証していきますと、乾燥が甘かったり、木をいじめすぎると維持管理に費用がかかることも分かり、できるだけ早く木材を供給できる体制を作るために、木材供給グループを組織化することにいたしました。そのことにより供給資材等の品質の確保、さらに品質の向上へ寄与することができたわけです。
    このように工夫しながら2校の建築してまいりましたが、それぞれ一般流通材の活用を図ることによりコストを下げてまいりました。さらに適材適所の木材の使用により、またそれも可能となってきました。第四小学校と二ツ井小学校を市民の皆様方に一般公開しましたときに、入ってこられた市民の皆さんが一斉にワーッという声を上げるのです。それは木目の美しさでありました。中には芯もあったり、普通に見るとあまりきれいに見えない材もありましたが、集成材を使ったり、そういう節目のあるものを使ったことにより、逆に市民の皆様方にはデザイン的に、今までと違う感覚で木材というものを改めて見直す機会になったのではないかと思います。
    最初の頃は坪単価100万かかっているところもありました。それが最少で60万まで減少することができました。単価の減少要因はいろいろあると思いますが、一つには、極めて特殊な材料を使わなくなり、あるものでできる検討を設計の先生方や工事業者の皆様方が工夫していただいたおかげだと思います。今後もそういうノウハウを生かしながら適材適所で地元産材を活用した木の建物づくりにがんばっていかなければならないと思っております。
    ■‘木の文化’と‘技術’が見えるまちづくり
    学校を建ててみていろいろなことが分かりましたが、私が一番痛感するのは、木材を広く皆さん方に使っていただくためには、安くて丈夫なものをしっかりと造らなければいけないということです。例えば、木は使っているうちに劣化します。そういうときに、今までのように劣化したところをただ現状回復するために直せばいいのではなく、将来使いやすくなるために改修することで先々コストがかからなくなっていく、さらに計画のときからそういう発想を持つことにより、できる限り将来への改修費用がかからない工夫もしっかりとしていかなければいけないと思っています。学校を通じて木のよさ、素晴らしさを知っていただきたい。そのことは我々が先人から受け継いできた能代の木の文化をさらに引き継いでいくことであり、受け継がれてきた技術・知識といったものがさらに活かされるまちづくりになっていくのではないかと思っております。
    能代市には、本日お話しました7校の木造の小中学校のほかに、旧料亭金勇という天然秋田スギが最盛期の頃に造られた料亭があります。持ち主から市に寄贈いただきまして、今は市で管理しながら秋田スギの見える場所にしていきたい、木にこだわったまちづくりの殿堂にしていきたいという思いで、旧料亭金勇の活用に工夫を凝らしているところです。
    また、技術開発センター「木の学校」というものがあります。木の桶、樽、組子といった、日本中に誇れる技術があり、こういった技術を活かしながら、一般の市民の方達でも木を使っていろいろな木工製品を作られる場所を確保し、少しでも多くの皆さん方に木に触っていただきたい、木に親しみを持っていただきたいということで、市民の皆様方に開放しているところです。
    さらに、秋田県は全国小・中学校学力テストナンバー1、ナンバー2を誇るところです。因果関係は分かりませんが、木の校舎に入ることにより学力がアップされたと言われるようなまちになりたいと思っております。大手予備校のパンフレットに「秋田に学べ、教育」と書かれたポスターがあります。その最後のところに「我々の夢です。秋田の学校は全て木造であるがゆえに学力日本一」と書かれるような学校づくりを目指したいと思っております。
    最後になりましたが、木材を使ったバイオマス発電、東北電力ではチップを使った混焼発電も始まろうとしています。それこそ川上から川下まで切り出した木は、ただの一つも無駄にすることなく、その木を活用しながら、その木の恩恵を受けながら、そして我々はこの木を大切にしながら、木とともにまちづくりに励んでいきたいと思っております。
    次の課題は、今まで学校づくりで培ってきたこの技術と経験、そして素晴らしいこの原材料をぜひとも日本全国中の皆様方に知っていただく、使っていただく努力をしていきたいと思っておりますので、今日お集まりの皆様方の中でぜひとも能代のスギを使ってみたい方がおられましたら、ご遠慮なくご一報いただきたいと思います。
    (文責:牧奈)


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vol.25

木の学校づくりネットワーク 第25号(平成22年12月18日)の概要

  • 第3回木の学校づくりシンポジウム開催のお知らせ
  • WASSの提案~「地域材」を用いた木の学校づくり~:
    ■木の学校づくりを取り巻く社会状況
    学校は子ども達の教育の場として地域の人々が一体となって作り上げていくことが多く、木材が利用された学校づくりが各地域で行われている。また、その際には地域のシンボルとなる建物であることから、地元の木材を利用されることが多い。今年の10月には公共建築物木材利用促進法が施行され、今後は全国的にも木の学校が多くなる方向に向かうと考えられる。一方で、木造建築に対する構造や防火における建築基準法上の制約、建材としての木材品質基準の確保、木材産業の衰退などの社会的な状況が木の学校づくりの上で大きな課題となっていることも確かである。
    WASSでは木の学校づくりを主軸として、木を建築に使いやすいような共生社会システムの構築を大きな目的としており、ここでは「地域材」を用いた木の学校づくりを提案する。
    ■「地域材」を用いる意義
    一般流通材としての国産材ではなく「地域材」を対象としているのは、以下の点で「地域材」が地域の循環に欠かせない要素であるからである。
    ・山の循環:
    伐採→利用→植林のサイクルを成立させることで山の保全とともに地域の環境を守る。
    ・経済の循環:
    川上から川下まで地域に関わる業者の経営が成り立つ。山の循環のためには対象とする山の林業関係者に植林のための元手が残ることが大切。
    ・技術の循環:
    木の学校づくりに関わる地元の林業、製材業、建築関係者が持つノウハウ・技術を伝承する。
    ・社会の循環:
    子供たちに持続可能な未来を託す。将来的には国産材を用いて、日本全体での循環が成功することが重要であるが、現在の状況から地域の循環をその第一歩とすることが共生社会システムの構築につながると考えている。
    ■地域材を用いる際の現状と課題
    一方で、地域にある木材に限って木の学校づくりを進めるためには、現状では様々な困難がともない、それぞれに工夫が必要である。木の学校づくりでは
    ・必要な大量の木材を必要な時期に集めることができるか?
    ・適切な品質の木材(樹種、断面寸法、スパン、ヤング係数、強度など)が手に入るか?
    といった課題があるが、市町村という狭い地域であることにより、これらの課題はより大きな影響を及ぼすことになる。
    例えば、地域の森林蓄積量が限られている、または製材工場の規模、数が限られているため、必要量の木材を入手することがもともと困難である可能性がある。また、要求されている木材の品質を満たすことができるかどうかもJAS認定工場や集成材工場の有無に左右される。以上の内容は地域の範囲を市町村から県単位に拡大しても発生する課題であるのが現状である。
    こういった状況の中でそれぞれの地域で木の学校づくりに取り組んだ事例を以下に紹介する。
    ■大分県中津市鶴居小学校体育館の建設
    山間部の町村と合併して地域林業に振興に直面することになった中津市では、地域林業の活性化と山林資源の有効活用を目指し、「地材地建」をモットーに市内の学校施設への地元産材の利用の計画が立てられた。学識経験者、地元業者(設計事務所、建設業、木材業)に参加を呼びかけ「中津市木造校舎等研究会」が発足し、木材を活用した木造校舎等の建設構法の研究として、近隣や遠方の林産地における木の学校づくりに取り組みへの視察やアンケート調査が行われた。研究会活動を通じて見えてきた主な課題点として①無理のない木材の選択、②木材調達のタイミングへの配慮、③在来技術の活用が上げられた。具体的には①は地域で一般流通している材種、材寸、強度、価格を無理なく設計に反映させること、②は長大材や多量の木材の短期間の調達は困難であり、特に乾燥の期間に充分に配慮すること③は地域への経済効果と技術・技能の伝承に配慮して地域の大工で対応できる在来技術を活用することである。プロポーザルにより選ばれた地元の設計者から山国川流域の県産材のヒノキとスギを用いた総木造の屋内運動場案が計画された。コストの抑制も見込み、金具の代わりに伝統的な仕口加工が採用され、地域の技術を活かされることになった。木材調達については、木材の性能評価の方法と乾燥、製材、加工のプロセスを検討する「地材地建の達成に向けた市内業者等勉強会」が開催され、2カ年事業とした初年度に冬季伐採が行われた。その一方で、一般に流通していない長大材の使用分部が多くなったため、その部材の加工と乾燥のために鹿児島県の木材業者に特殊加工を発注することになった。こうして中津市が目指した「地材地建」の取り組みの目的を達しつつ屋内運動場は建設された。しかしそのプロセスでは技術力のある他県の業者との連携がなければ実現しなかった点をどうとらえ今後の取り組みにつなげるかが課題点として残された。
    ■秋田県能代市における木の学校づくりの蓄積
    実は林産地であっても地域内の木材で完結するような「地材地建」の姿を見ることは少ない。秋田スギの産地として知られ90年代以降木の学校づくりを継続的に7棟建設してきた秋田県能代市では、いずれの学校においても県産のスギと併用してベイマツの集成材が主要構造材として用いられてきた。現在の学校の教室を設けるためには、およそ8mスパンを架け渡せる強度の木材がまとまって必要となるが、住宅等で用いられる一般流通材よい強く長く、太い木材が必要となるため、特殊な発注となるため、必要となる木材の量を賄うことは容易ではない。そのため能代市では学校の建設が決まると基本設計がまとまるとホームページ上に必要となる木材の量を公開し、あらかじめ業者内で調達の準備を促す工夫が見られるが、設計変更の可能性や求められる性能と量の問題から木材調達の負担の大きい横架材には、あらかじめ強度や供給体制が安定した集成材を用いている。敢えて地域だけでまかないきらないこと。これが地域材を活用しつづけつつ設計者、製材業者、発注者の負担を軽減するために、自らの木材供給の実態を熟知した地域が、選択してきた方策である。
    ■「地域材」を用いた木の学校づくり
    地域で工夫を行いながら地域にある木材を用いた木の学校づくりを実現した事例を見てみると、地域の中だけで対応できた部分、対応しきれなかった部分が存在する。このように地域の中だけですべての課題を解決しようとすることは困難であることが多い。そこで自分たちで対応可能な部分とそうでない部分を明確にし、対応しきれない部分は他の地域の助けを受けながら木の学校づくりを進めることが重要となる。つまり、地域の概念を従来の範囲から広げ、ネットワークを通じてつながっている他の場所も含めて地域としてとらえる“開かれた「地域」”という考え方が必要となる。そして、ここでは“開かれた「地域」”において用いられる木材を「地域材」として扱う。
    この考え方は、山林を持つ地域における木の学校づくりとともに、都市部などの森林資源を持たない地域においても適用することが可能である。例えば、都市部の木の学校づくりでは、自治体内に山林を持たないため様々な地域から木材を調達することになるが、どの場所にどのような木材がどれだけあるかが分からなければ、必要な量及び品質の木材を調達することができず、大きな困難をともなう。そのため、都市部と山側とがネットワークを構成することが重要となる。そこでは、山側は供給可能な木材の情報を提供し、その中から利用者が必要な木材を選択できるようにしなければならない。また、一方で都市部では今後の事業の内容と方針を開示する必要がある。こうして、都市部が信頼できる山から供給される「地域材」を用いることで、必要な木材を調達することが可能となり、都市部における木の学校づくりを進めていくことが可能となる。また、一方で山を持つ地域も安定した木材供給が見込め、山の保全や木材産業の継続的な経営につながる。
    このようにネットワークを介して各地域がつながることによって“開かれた「地域」”が構成され、木材を必要とする地域にそことは離れた場所にある林業の盛んな地域から木材が供給されるような木材活用のあり方を仮想流域構想として提案する。
    仮想流域構想で特徴的な部分は、山を持たない地域も木材供給地域の山林を自分の「地域」の山としてとらえ、「地域」全体としての循環を考えていくことにある。つまり、トレーサビリティによる供給される木材の確実性やそれにともなう山への経済的な還元、伐採及び植林による山の循環など「地域」の持続可能な未来がなければ、いずれ「地域」の関係性もなくなり、現状へ逆戻りすることになる。このように、山から乾燥、製材、木材利用までお互いに顔の見える関係を構築し、再造林へつながるような仕組みとすることが非常に大切である。
    また、こうしたネットワークを都市部が複数持つことにより、競争原理により一方的な価格の上昇を抑えられ、品質の面でも多様な要求にあった木材を選択することができ、大規模生産が可能な流通材だけではなく、地域特性に応じて細かい対応が可能な小規模の製材所が活躍できる可能性がある。
    仮想流域構想が成立するためにはネットワークとなる対象地域の選定や範囲、トレーサビリティ等の具体的な手段の整備、山の循環につなげるための経済的な還元システムの構築など様々な課題がある。これらのことを踏まえた上で、WASSでは今回提案したこの概念が実現し、現在大多数である鉄筋コンクリートの校舎と同様に普通に木の学校建築が建てられ、持続可能な社会を作り上げることにつなげられるように様々な問題に取り組んでゆく。
  • 第24回木の学校づくり研究会より「集住の木造欧州の事例から中層木造の在り方を考える」講師:網野禎昭氏(法政大学デザイン工学部教授):
    ■伝統木造にみる多層化の意義
    近年、ヨーロッパでは木造建築で7〜9階建ての木造建築が建てられるようになってきた。ヨーロッパでは歴史的にも16世紀に7階建ての木造建築ができているので、今の中層木造の流行もあまり違和感がないのかもしれない。一般的には山岳地とか城趾内や都市部のような土地の高度利用から木造が中層化したということが考えられるが、実際には広い牧草地の中にも中層の伝統的な木造建築が建てられていることから、木造を大きくしていくことで、外部に接する壁量を減らしたり、暖房設備を共用することができ、施設をたくさんまとめていくことでインフラを効率化したりする効果があったのではないかと考えられる。またそれは暖房や冷房のエネルギーを節約しなければいけないという私たちが直面している状況に対する課題点でもある。
    ■現代の地域インフラに見る多層化の意義
    オーストリアの林山地では林の中に小さな街が点在するような地域ながら3~4層の町役場が建てられている。田舎に大きな建物を建てると、多機能化することになり、カフェや幼稚園、図書室、オフィスと様々な機能が組み込まれることで、子供がいなくなったら廃校というような建物ごと閉じるような状況を無くし、建物の価値を長寿命化することができる。建物を一つにまとめ多機能化させて、外皮をコンパクトにする一方で、敢えて大きな面積を作ることで、屋根に大規模な太陽電池の装置を備え周囲の家に電力を供給したり、地下にペレットボイラーを備えることで、仕事帰りの林業従事者が出す大鋸屑ゴミなどを投げ入れてもらい町役場の周辺の建物の暖房をまかなっている。中高層というと私たちは直ぐに都会を思い浮かべるが、大きな建物を造るメリットを建物単体だけではなくて、周りの地域も含めてつくり出すことで、過疎地域や林業地域などで様々な可能性を見出すこともできる。
    ■住環境・施工をふまえた構造形式の選択
    中高層というと地震国日本では構造耐力に目が向けられるが、実は集住を考えたときに断熱や音など環境という要素が非常rに重要になってくる。環境基準を満たすために、断熱材が厚くなるとそれを支持する間柱が太くなり、間柱自体が載荷能力の高い枠組み壁になってしまい、構造体と間柱が重複する状況が生じてしまうからだ。実際ヨーロッパでは1990年代〜2000年の初頭に体育館をやっていた木造専門の構造事務所が最近は環境設計、物理設計まで一緒にやるようになってきた。また壁や床といった構造エレメントの工場生産による施工の経済性の追求されるようになると、建物のそれぞれの部位に求められる構造性能、環境性能、施工性のバランスの中でエレメントごとに構造を決定する設計手法がみられるようになる。
    ■ブームで終わらせない木造建築の在り方
    1990年代後半は日本もヨーロッパもヘビーティンバーブームで大断面集成材の建物が建てられたが、ヨーロッパでは1998年くらいを境に無くなり、それまでドーム建築を設計していたところが、集合住宅やオフィスや学校などより日常的な人間の生活に結びついたものにシフトして、木造建築の体質の変革がおこった。そして木造建築で学校や集合住宅を建てられる事がわかると設計手法の普遍化が議論になった。一方で日本ではまだ木材会館のように高度な木材の使い方と技術を用いたシンボルを作ろうとしている。公共建築木造化法が施行され、日本でも大規模木造建築が建てられるようになった後、誰がその担い手になるのだろうか。主に在来工法構法をやってきた大工が、対応できるのか疑問も残る。日本では高度技術を統合して適正化することが話題にならないが、集合住宅や学校は私たちの生活の一部を作る場所であり、特殊解では困る。そういう意味で今日本は非常にデリケートな時期に差しかかっている。
    (文責:樋口)


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vol.4

木の学校づくりネットワーク 第4号(平成21年1月10日)の概要

  • 巻頭コラム:「”木の学校づくり”の二つの意味」浦江真人(東洋大学工学部建築学科准教授):「木の学校づくり」には二つの意味があります。一つは、「木を使った学校をつくる」こと、もう一つは、「木を学ぶ学校をつくる」ことです。これらに関する情報を収集・発信し「木の学校づくり」ネットワークを構築することが「木と建築で創造する共生社会研究センター(WASS)」の目的です。
    近年、学校建築においても木の活用が進められています。木には柔らかさや温かみがあり、学校建築に木を使うことによって教育環境の向上が期待されています。そして、国産材・地域産材・地場産材の積極的な利用を図ることが望まれており、CO2固定化や環境保全に加え、林業の発展や町おこし・村おこしとしても期待されています。
    木材は生物材料です。鉄筋コンクリート(RC)や鉄骨の鉱物材料や、金属・プラスチック製の工業部材に比べると、同じ規格・性能のものを早く大量に揃えることは容易ではありません。したがって、木の特性や利点・欠点を十分に理解した上で、設計・施工しなければなりません。また、木の活用に学校建築を対象とすることの特徴は、規模が大きく一度に大量の木材が必要であることや、公立学校は公共工事であり工事の発注や木材の調達など、戸建住宅と比べて建築生産の仕組みに大きな違いがあります。このことは、林業経営、素材生産、原木流通、製材加工、製品流通、部材加工、建設、維持管理までの全てのプロセスに関係します。
    これらの情報を木の学校建築に携わる発注者、建築設計者、施工者などに対して提供する必要があります。また、学生に対しても、日本の森林や林業の現状を理解し木を知るために、実際に山を見学したり、間伐や下刈りを手伝ったり、自分たちで木を加工し建物を造ったりする活動をおこなっています。また、小中学校でも木の学校を教材として木・森・環境について学ぶことができます。
    これらは、とても大きな課題ですが、WASSの活動がその解決の新しい糸口になるはずです。
  • 最近のトピックス:平成20年12月18日に福岡県福岡市民会館で日本木材加工技術協会九州支部主催の講演会「木材利用は環境に良い?-そのわけ(理由)と先進的取り組み-」が行われました。
    この講演会は、地球環境の保全や生活環境の向上が求められ、森林の重要性が叫ばれている現状の中で、森林を伐採し、木材として使うことがどのような影響を与えるのかについて木材を取り扱う専門家が講演し、先進的な取り組みの事例などを紹介したものです。
    京大学名誉教授である大熊幹章氏は「地球温暖化防止行動としての木材利用の推進」というタイトルで基調講演を行いました。その中で、林業が現在は森林整備を大きな目的としてしまい、本来の木材生産・利用から離れてしまっていることを指摘されました。また、Carbon Footprint(炭素排出足跡)を木質系材料や住宅などに適用すれば、鉄筋コンクリートや鉄骨などの他材料製品と比較することで木材の優位性が明確に示されるとし、木材利用推進の切り札としてなる可能性があるという考えを述べられました。
    山口県、福岡県を中心とする安成工務店の安成信次氏は、「住環境と木材利用」ということで、国産材を利用した自然素材型住宅を建築する中で、山側と工務店と直接結ぶネットワークを形成し、山とまちの交流をテーマにして行っている取り組みについて発表されました。
    最後に、九州大学大学院教授の綿貫茂喜氏は「ヒトの整理反応からみた杉材の有用性」という講演を行いました。これは、本紙創刊号にてお知らせした記事の内容について詳細に説明されたものです。
    綿貫教授は、木材が経験的、主観的に親しみのある材料であり、非常に身近な存在であったにも関わらず、現在うまく使われていないことに対して、木材を使うことが生理的に良い結果を与えるという客観的な事実が明らかにされていないことが原因の1つであると考えられ、木材の揮発成分、光の吸収特性と生理反応との関係から杉材の生理的効果を検討されました。その概要について、講演会資料の中から抜粋して以下に記します。

    1)木材の揮発成分について

    (1)実験室で、木材から抽出された揮発成分を短時間与えると、左前頭部の脳活動が高まり、免疫活動が高まった。

    (2)木材の長期使用について

    小国杉で製作された学習用机と椅子を長期間使用したクラス(1組)では、その他のクラスよりも免疫活動が増加した。この長期使用中に、中学校でインフルエンザによる欠席者が急増した時期があったが、1組の欠席者は他より少なかった。

    (3)木材の乾燥温度と免疫活動について

    40℃、80℃および120℃で乾燥した杉の床材を中学校1年生の3クラスに各々配置し、クラス間の生理反応を比較したところ、40℃で乾燥した床材を使用したクラスの免疫活動は120℃でのそれより高かった。

    2)杉材の光吸収特性について

    電磁波の中で、380nmから750nmの波長を可視光線と呼ぶが、杉材は短波長を吸収し、長波長を反射する。青色光である460nm付近の光は脳の松果体から分泌されるメラトニンを抑制することが知られている。メラトニンは生体リズムを調節し、メラトニンの分泌が抑制されると質の高い睡眠が得られない。従って、寝室には短波長光を吸収する素材が用いられるべきであろう。そこで杉材にそのような効果があるのかを調べた。実験は人工気候室内の壁に杉材あるいは灰色の壁紙を配置し、間接照明で照らした。その結果、夜間のメラトニン分泌は杉材の方が多かった。また、脳波を測定したところ、杉材の方が適切な覚醒水準が得られることが示された。


  • WASS研究室から


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vol.2

木の学校づくりネットワーク 第2号(平成20年11月15日)の概要

  • 巻頭コラム:工藤和美(東洋大学理工学部建築学科教授、建築家/シーラカンスK&H)「木はいいよね!落ち着くし、触れるし、やさしいし。何かストレスが無くなる感じで、子ども達の怪我が減ったのよ。」これは、一年点検で訪れた時、さつき幼稚園の園長先生から頂いたお言葉。コンクリート造の旧園舎で、25年間過ごしてこられた経験と照らし合わせてのこの感想は、今まさに私たちが進めて行こうとしているWASSの活動へのエールのようにも聞こえてきます。もちろん、地球環境への配慮、心理学的効果や科学的根拠もさることながら、使い手の満足があってこそ木が生きてくるし、多くの木を用いることができると感じています。学校建築の設計を手がける時に、他の施設と比べて私がもっとも頭を悩ますのが、掲示物の多さです。日本の学校では、特に幼稚園や小学校においては、「環境整備」という呼び方で部屋を飾る事が多く、掲示可能な壁が必要だと求められています。現在、多くの学校で使用されている工業製品の壁仕上げでは簡単には掲示ができません。ところが、木質仕上げの部屋では、天井でも壁でもちょっとしたピンがあれば簡単に掲示することができます。学校のような大きな建築では、仕上げの量も大変なものです。木に囲まれた空間になることで、掲示の場所を探し、掲示方法を如何しようかと頭をひねるといったストレスから解放されます。しかし、木と付き合うには少しのんびりした心構えも必要です。木は呼吸しているので、湿気を吸ったり乾燥したりと1年を通して伸び縮みします。落ち着くまで少々暴れますし、勝手の悪い時期もあります。その時、あせって処理するのではなく、1年2年と様子を見るだけの余裕も必要です。子どもの成長を見守る親の目をもったユーザー教育も大切なのかもしれません。学校は、子ども達が一日の大半を過ごす空間です。心地よさをもった木の学校づくりを広げることは、未来を担う人を育てる上で、重要な役割を担うことになります。「木はいいよね!」をますます広げましょう。

※参考リンク: 話題の木造施設――「初めての大規模」を語る 対談:松永安光氏/近代建築研究所代表+工藤和美氏/シーラカンスK&H代表

  • WASSシンポジウム報告:平成20年10月25日にWASSの第1回シンポジウムが秋田、三重、群馬、山梨など遠路からの方々を含め300余名の参加者を迎えて開催されました。・・
  • WASS研究室から

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