vol.21

木の学校づくりネットワーク 第21号(平成22年8月7日)の概要

  • 「大分県中津市でシンポジウムを開催!」:今秋、大分県中津市において市との共催で木の学校づくりシンポジウムを行います。日程は9月25日(土)で、会場は中津市が地材地建を目指して建設した鶴居小学校体育館という総木造の体育館です。中津市の取り組みについては、本紙の17号、18号で紹介を行っております。プログラムや詳細な時間については追ってお知らせいたしますので、皆様のご参加をお待ちしております。
  • コラム:「木の学校についてのとらえかた」:
    WCTEについて初めて耳にしたのは2009年の5月ぐらいだったでしょうか。木と建築についての国際会議が2010年の6月にあるということでした。
    WCTEとは”World Conference on Timber Engineering” の略で、「木材工学国際会議」と訳せます。WCTE2010は第11回にあたり、1988シアトルにはじまり、1990に東京、1991 London、1996 New Orleans、その後2年ごとに開催され、2008宮崎、2010にRiva del Garda (イタリア北部) で開催されています。
    私が木の建築について深く関わったのは2009年以来です。2009年の秋から翌年春にかけて、研究センターにある木の学校を利用した人々の意見のデータをもとに分析を行い、私にとって新鮮な「木の学校」について投稿希望の梗概を提出し、招待を受け、8ページの論文にまとめ投稿しました。
    今回の論文は木の学校を実現した学校職員と児童生徒の「木の学校についてのとらえかた」についての記述を分析し、論文の題目は “Cognition on Planning Wooden School Architecture” となります。
    論文では「木材を活用した理由」、「学校施設の今日的課題への対応」などの記述を分析しました。結果として学校職員と児童生徒、そして地域の方々が木の良さを理解し、木の学校を実現していることが分かりました。木の暖かさ、柔らかさについては何度も何度も記述されていました。幼稚園では木に触れることの良さ、中高ではすぐれた教育環境の実現について多く記述されていました。論文の結びとしては「もし分析で見いだされた認識が人々に広まれば、優れた木の使用は加速すると考えられる。」としましたが、都会のひとびとも貼り物でない無垢の木の良さについて認識し、木の活用が高まればよいと思っています。(宮坂)
  • 建築生産シンポジウムで研究論文発表:
    7月29、30日に開催された日本建築学会の建築生産シンポジウムでWASSの研究成果の論文発表を行いました。木造建築のセッションで「木造ハイブリッド構造を適用した学校建築の構造形式に関する調査研究」、「木材を利用した学校建築の生産プロセスにおける仕様書の役割」、「秋田県能代市における木造学校建設事例の検証」の3つの論文です。
    1、2番目の論文の内容の一部は本紙の19号、20号に掲載してありますのでご覧下さい。3番目の内容は、木造学校の建設が集中的に行われている秋田県能代市の8校7棟の事例について、その概要、事業スケジュールや工期、木材業者団体の役割などの分析を行ったものです。
    それぞれの論文の詳細については、「第26回建築生産シンポジウム論文集(2010)」(日本建築学会)をご参照されるか、WASS事務局までご連絡下さい。
  • WASS設計手法研究部会の研究報告:
    ■設計者の役割と木の使い方
    一般的に学校に木を使うことには、学校の規模や教育としての場、地域の中核としての性質から、発注者より以下のような意義が求められる。(「こうやって作る木の学校」本通信.19号参照)
    ① 教育的効果
    心理・情緒・健康面・熱環境への効果
    木の空間を生かす環境問題や地域学習の場
    ② 地球環境への配慮
    持続可能な木材利用による森林整備へ貢献。
    その結果としての地球温暖化抑止へ貢献、
    ③ 地域の風土、文化への調和
    大工技術者の育成、地域の林産業の活性化
    一方で、木の学校の設計には、通常の学校や木造の住宅とは異なる課題点が多く、設計者は、木材の供給源となる山林と学校の現場の双方の事情を把握しつつ、木の使い方についてプロジェクト全体見通して調整していく役目を負う。
    本研究グループは木の学校の設計における課題点を整理する試みとして、各学校における木の使い方に着目し、「どのような木を(樹種)」「どこから集め(産地)」「どのように(加工方法)」「どこに(部位)」使っているかという点に留意しつつ、特徴的な木の使い方をしている事例を収集し、設計者にアンケートとヒアリングを行い、木の使い方の判断要因と設計上の課題点を調査している。これまでに対象とした校舎の事例は、木造校舎(一部RC造)2校、混構造4校、内装木質化2校で、今後より多くの学校を対象として調査を継続する予定である。
    ■各部位と木使いの特徴(表1参照)
    8つの学校を延床面積の順に並べ、木の使い方について主要な部位、材種と木材加工、木材調達の範囲を地域材(県産材含む)、県外の国産材、外材に区分して示した(表1)。大断面を要する構造材には国産針葉樹の他、外材のベイマツも用いられており、カラマツとベイマツは集成材として用いられる傾向がみられた。一方、意匠性が求められる場合もある仕上げ材には無垢材が用いられる傾向があり、特に日常的に摩耗する床材には広葉樹もみられる。天井材にはスギ材の他、ボード材が用いられる傾向がみられた。また加工の精度が求められる、建具と窓枠には国産集成材の他にスプルス、パイン材等の外材が用いられる傾向がみられた。
    木材の調達範囲にみられる傾向を大別すると、発注者となる市町村やその周辺の山地から集材を行う地域材を重視する場合と、木材の調達範囲を限定せず複数の地域から木材の調達を行う場合に分けられる。基本的に川上にあたる林産地では前者の傾向が強く、川下である都市部では後者になりやすいと考えられる。しかし林産地であっても、発注者が材料を支給する方法(分離発注)をとらず、建設業者に委託する場合(一括発注)、地域材の使用を基調としつつも、性能を確保しコストを抑えるため、または施工スケジュールを考慮して、部分的に他の地域の国産材や外材を利用する場合がある。また私設の学校や、県が運営する学校である場合など特定の林産地を背後に背負っていない場合でも、地域産材が優先して用いられる場合もある。木材の調達範囲は発注者や設計者が木を使うことに見出す意義に応じて異なってくる。
    ■木の使い方に見られる木の学校づくりの課題
    <川上の学校>
    木の学校づくりに取り組み易いのは、設置の意義として前項③を強く意識する川上である。熊本県のS小学校(表1.①)は町土の8割が人工林に覆われたスギ・ヒノキの供給地に立地しており、山林が伐採期を迎えるなか、町内の公共施設では木材利用が促進されてきた。無垢材による木造2階建校舎の設計案はコンペで提案されたものであるが、建設に必要だった構造材は地元森林組合や地元製材業者の会、林業研究グループによって調達され、パイロット材の管理には熊本県林業研究指導所が指導にあたった。このように行政が積極的に木材調達に関与する場合は、木材の性能にばらつきに配慮した、余裕のある歩留りを設定することが可能となり、各部位の仕様に合わせ地域材を用いやすくなる。
    しかし地域材を用いる意思が明確な林産地であっても、地域材が構造材として用いるのに必要な規定の性能や数量に達しない場合もある。スギの良材の産地として知られ、平成6年以降市立の小中学校を木造化する取り組みを続けてきた秋田県能代市のS中学校(表1.④)では、地域産のスギの無垢材により計画されていた柱・梁材に、予定された性能を満たせない部分が生じ、外材のベイマツ集成材で補い必要な性能を確保している。
    地域材の樹木の性質や供給量によっても、用いる個所や加工方法を工夫する必要が生じる。戦後ブナ林業が盛んだった時代を経て、現在は針葉樹・広葉樹を扱う比較的小規模の製材業が営まれている福島県南会津町のT小学校(表1.⑧)の場合は、町内で賄える木材供給量を考慮した結果、使用部位は限定され、堅牢で耐久性が求められる床に広葉樹のコナラを使用し、スギ材は取り換えのきく外装材に、捩れやすいカラマツを間仕切り壁として水平方向に連結して用いるなど、樹種の性質に合わせ多様な地域産材の使い方が工夫されている。
    アンケートでは流通材で対応できる構法を初期から考えることも必要という設計者の意見もあった。地域材と流通材との使い分け、集成材と無垢材の使い分けの判断も設計者に委ねられた地域材を活用する工夫の一つである。
    <川中、川下の学校>
    林産地ではない都市部の学校でも前項①や②にあたる意識の高まりから木が使われている。福岡市の私立S幼稚園(表1.②)では樹状型の柱とフラットな格子状の梁による開放的な空間を意図した木造園舎が計画され、それに要する性能を満たす柱と梁には信州カラマツの集成材と宮崎産スギ材の集成材が用いられ、近隣及び遠隔地より木材が調達された。同じく私立の神奈川県厚木市のN初等学校(表1.⑥)では、環境に配慮する理念から、丘状の敷地と一体化した木架構の校舎が計画され、木材も地域循環を意識して県から補助金を得られる県産スギ材が使用された。私設の学校では発注者から木材の供給を受けることはないが、設計者が明確な志向を発注者に示し、補助制度を活用するなど、早期に準備を進めることで木材の調達範囲を選択することもできる。
    調査事例中、木材の調達先が最も広範囲に渡っていたのが、大手組織事務所が設計した東京都港区K小学校(表1.⑦)であった。K小学校ではサッシ周りの外材の他に、区が都内に所有する区有林のスギ材、北海道のカバ材、静岡、千葉のスギ材等が仕上げ材として用いられた。設計者ができるだけ木を使ってほしいという区の意向をふまえつつ、工期を重視して、多肢にわたる施工業者に樹種、性能以上に木材供給先を指定することで負担がかからぬよう配慮した結果である。
    川上と川下の交流はまだ始まって間もないが、アンケートでは、川下の事例では各地の樹種の性能やメンテナンスを含めた使い方の指標となる情報を求める声が目立った。
  • 第19回木の学校づくり研究会より「都市の木造化について」講師:腰原幹雄氏(東京大学生産技術研究所准教授):
    ■普通の建築材料としての木材
    木材というとばらつきや欠点があるために構造解析をしにくい材料である、鉄筋コンクリートや鉄骨のような工業材料ではないために木造建築は工学の外にいる、などと言われてきた。しかし、最近はエンジニアードウッドなどのばらつきや欠点をなくす方法、またばらつきをコントロールしてその中で設計を行うということが可能となってきている。重要なのは、ばらつきなどの要素や強い・弱いではなく、それぞれの性能をしっかりと把握することである。
    そういった状況の中で現在、森林資源の整備・有効活用や炭素固定能力など、木材の利用について追い風になっており、このチャンスに多くの木造建築を造る、木造の技術を進展させるということを進めていかなければならない。そして、適材適所という考え方の中で、鉄筋コンクリートや鉄骨と同じように木材が普通の建築材料、構造材料として受け入れられるような仕組みが必要となってくる。
    ■都市の中の木造建築
    2000年の建築基準法改正による性能規定化によって高さ制限や階数制限がなくなり、これまでの平屋の大規模木造だけではなく、都市の中の木造建築として多数階の中層木造・高層木造という建物が建てられるようになった。金沢のMビルなど実際に建てられた多層木造建築もあり、その他にも色々な計画が進められている。
    こうした新しい木造建築が技術的にも可能となったことは木造関係者の中では広まっているが、一般的な建物としていくためには鉄骨造や鉄筋コンクリート造などの他分野、地方公共団体など施主となる人達にもしっかりと伝えることが重要である。
    また、大空間が必要な建物や避難施設としての建物ということを考えるとすべて木造にすることはハードルが高いので、公共建築などの中に1層でも2層でも木造にしていくことで設計者や施工者の木造への認識も出てくる。そして、そのためには保育施設や診療所、会議室のような市民が集まる場所など木造が喜ばれる用途についても考えていかなければならない。
    ■建物のモジュール設定と材料規格の重要性
    こうした木造建築を建てていくためには、そのスパンを一体どのようにするのが良いかを考えていかなければならない。今までの木造のモジュールは基本的に戸建住宅のためのモジュールなので、オフィスなどこれまでと異なる用途の木造建築にあわせた適切なモジュール新たにを作っていく必要がある。
    また、それとともに中高層木造用の材料の規格を新たに作るということが重要となる。例えば、戸建住宅は非常に高度なオープンシステムであり、製材屋は105mmや120mmという幅の製材を作っておけば流通に乗せられ、安く作ることができる。設計側もそういった材料が氾濫していることが分かっているので規格材を利用し、木造住宅を安く作ることができる。一方で、木造の耐火部材などについては各々ばらばらに開発しているからなかなか一つの建物にならない。
    現在は非常に重要な時期で将来的に失敗しないためには、関係者で協力して各部材について一通り揃えて安定供給する規格や仕組みなどのベースを作ってから、各社オリジナルの部材を作るという順序にした方が良い。また、どういうモジュールの建物を想定しているかを考えることも規格作りでは重要となる。
    このようにしてモジュール、材料の規格を作っていくことで建物としての標準形ができ、そこから建築家の知恵によって魅力ある発展形に繋がっていくことになる。今はこの標準形、ベースをしっかりと作ることが大切であり、このことにより戸建住宅のオープンシステムのようになれば、安く大規模な木造建築が可能となる。(文責:松田)


※パスワードは「wood」

vol.17

木の学校づくりネットワーク 第17号(平成22年4月10日)の概要

  • 巻頭コラム:浅田茂裕(埼玉大学教育学部教授・博士(農学)、木材工学(学校の快適性、木材と教育)):
    ご存知のように,木材の快適性研究は,木材中の化学成分の効能,木質環境における木視率,温湿度変化の抑制効果など,建築物における木材利用の有効性を示すさまざまな論拠を提供してきました。私自身は,まだまだこの分野では新参者で,埼玉県,長野県,ときがわ町が共同で実施した木質化校舎の効果検証のプロジェクトが最初ですから,ほんの6,7年前からの駆け出しということになります。
    さて4年程前になるでしょうか,埼玉県での調査結果を日本木材学会で発表した時のことです。同じ分野の大先輩から次のような言葉を投げかけられました。
    「木材とコンクリート,どちらを学校に使えば子どもによいかなど調べなくとも明白である。快適性の研究者はいつになったら最適な学校環境の設計図を示すつもりなのか。もし化学成分が子どもの行動に大きく影響しているというなら,教室の後ろに丸太をおくだけでよいではないか。」
    これは悔しくもありましたが大きなショックでした。なるほど,私の研究結果からは最適な教室ということがまるでわからなかったのです。
    国産材の利用を推進し,日本の森林を再生しなければならない現状にあって,これからの研究には,木材利用と建築設計との関連を検討することが必要と考えられます。単に木材を使うということだけでなく,大量の木材を炭素ストックとして公共建築物に使用するため,そして最適な場所に木材を使うための根拠が必要なのです。「丸太を置けばいい」に対する答えを示すということです。
    現在私は,フィールドワークを中心とした質的研究法でこの課題に取り組んでいます。質問紙等の結果にみられる平均値は,一人ひとりの子どもの姿を見ていません。観察をもとにした調査を進め,学校で起こっている絶対的な現象を説明しうる最も合理的で,公共性や共有性(相互主観性)を備えた妥当な解釈を探り,学校建築と木材の関わりに迫りたいと思っています。質的研究法は人間の行動や生活文化に視点をあてる社会科学的な手法で,深くご存じない方からは主観的で,科学的ではないと指摘を受けてしまうのですが,実験や環境測定,統計的なデータ(量的研究の結果)との照合によって,より充実した成果が得られると確信しています。また,最近指摘されるADHDやLDなど様々な問題を抱えた子ども一人ひとりにとって木材がどのような機能を果たしているか明らかにしていくことも時代の要請と考えています。
  • 最近のトピックス:「木のまち・木のいえ推進フォーラム発足」:
    フォーラム設立の歴史的な背景と今後の木造造建築と森林資源」の概要を紹介させていただきます。
    ■戦後の木造建築
     内田先務所建築も国産材で2階建てられる時代でした。一方世論としては関東大震災と戦時中の空襲による戦災で、戦後は木造建築が、都市を都市火災の燃料と見られるようになり、都市を火災から守ろうとする世論の盛り上がりによって、ついに1959年の建築学会の大会における「都市に於ける木造禁止」を求める動きにまでなりました。
     木造建築の建設が減少して、コンクリート造が戦後の都市復興の主要な構造となりながらも木材は枯渇してゆきました。日本のコンクリート造の普及を支えたのも木材だったのです。海外では高価な型枠工事も優秀な大工職の存在によって、日本では容易に行われ、全国的に普及したのです。
    ■木造建築の見直し
    その後1981年建築基準法が性能規定を取り入れ、限界耐力の検証を認めるようになったことで、それまであった木造独自の耐力基準が見直され、都市における木造建築建設の可能性が広げられました。近年は国内の森林資源に再生の兆しが見え、木造に関する研究分野においても、伝統的建 築の耐久性、限界耐力検証の実験が進み、防火についても、燃え代設計、木製防火戸が認可され、木造建築の建設に従事する技術者や、この分野に興味を持つ学生も年々増加しているようです。
  • WASS研究室から


※パスワードは「wood」

vol.11

木の学校づくりネットワーク 第11号(平成21年8月1日)の概要

  • 巻頭コラム:松下吉男(東洋大学理工学部建築学科准教授、博士(工学)、建築構造学):
    さて、WASSの研究に直接関わることの少ない私ですが、これまでの私生活や研究活動を振り返りながら木材との関わりについて改めて思い起こしてみたいと思います。
    私生活において木造との関わりは、中学校まで学んだ校舎と、高校まで過ごした田舎の家でしょうか。当時としてはごく当たり前の2階建て木造校舎ですが、母校は防風林としての松林を切り開いた砂地に建てられ、現存していませんが今思えば自然にマッチしていたものの自然災害に良く耐えてくれたなという印象が強いです。余談ですが映画俳優の加藤剛さんも同じ校舎で学ばれた内のひとりです。一方、木造の自宅は台風の進路に当たるということもあって、“ミシミシ”という不気味な音に不安な夜を過ごしたことを今でも覚えています。台風のときは棟が飛ばないようにロープで補強したこともありました。
    次に、木材に関連し話題の多かった施設など、実際に見学した物件の一部を紹介したいと思います。長野オリンピックのメイン会場となった通称Mウエーブの木造吊り屋根は、集成材で鉄板を両側から挟みこむ構造となっており、信州の山並みをコンセプトにした世界最大級の規模のアリーナでした。建設当時研究室で見学に行ったことを覚えています。一方、旧丸ビルの独立基礎の下に約15メートルの北米産の松杭が全部で5,443本使用されていたということが話題になりました。その内の1本が新丸ビルの1階床に展示されていますが、80年ほど腐食しなかったことは驚きです。水分が多く酸素が少ないと腐食しにくいという木材の性質を承知の上での利用だったのでしょうか。
    木材を利用したハイブリット基礎構造の研究について紹介したいと思います。企業との共同研究として行ったその研究は、冷凍倉庫の床版と杭との間に木材を挿入するという内容で、断熱効果と杭頭の非固定度化を目的としたものです。これまで地震によって杭の破損が多く発生し、その原因として杭頭の固定度が指摘されていました。上部構造を支えかつ固定度を減らす構造として、杭頭の上部には繊維方向、側面には半径方向に木材を並べ実験を行い、その結果地震時に杭頭が木材にめり込み固定度を減らすことを検証しました。木材は基本的には脆性的な材料ですが、唯一めり込みという靭性を利用したもので、現在数棟の冷凍倉庫に利用されています。
    とりとめも無く思い当たることを書いてきましたが、現在日本全国で森林が悲鳴を上げているとも聞いています。一刻も早い対策が必要とされている中、木材の新たな活用としてバイオマス・エネルギーの研究も行なわれているようです。間伐材の利用が促進されれば森林資源が循環され、主伐材の利用も高まることになります。WASSの研究成果がこれらの発展に役立つことを期待しております。
  • 最近のトピックス:「第10回 木の学校づくり研究会報告」:
    2009年7月11日に行われた木の学校づくり研究会では、これまでの調査や木の学校づくりの現状を踏まえて、設計者・木材業者・行政関係者などの「木」に関わる方々とともに様々な議論を行いました。その一部をここに掲載いたします。
    ■日本の木材業界でのやり取りの難しさ
    -先日、木材をある製材所でいくつかの用途に分けて製材してもらったのですが、家具用に節だらけの材料を取られてしまうという出来事がありました。
    今までは製材業者に対して寸法・用途を指定すれば、上手に取り分けていたので、普通に出来ると思っていたのですが、今回の製材業者はそれが分からなかった。
    -外材の木材貿易では、用途別ではなく、もっと細かにグレードや節の大きさなどを書いた仕様書をもとに契約が取り交わされます。日本の場合はそれを言わなくてもだいたい分かっているはずだということになっていて、用途で言っても通じない場合があります。
    -仕様書のお話がでましたが、話が通じる人同士の場合には同意できるんですが、それを細かくやりすぎると、話が通じない人にしてみるとコスト的なことが問題になってしまうんですね。地元の材を使うのにそこまでやるのか、ということもあり余計に話が通じなくなることもあります。
    -使う材の用途によってどういうものが必要かということを見極めるコーディネーターが必要だったのではないでしょうか。仕様書に代わるものとして、分かっている方がいれば、うまく選ぶことができたのかもしれません。製材屋もそういう目が必要なんですね。
    ■「やわらかくつなぐ」
    -学校の設計の現場において、市町村の方々は地場産材を使いたいということはすごい意識をしているんです。ところが、個人的には地場の材を使うから節があっても当たり前だと思っていることが、役所の担当者も保護者も工業製品などのきれいなものに慣れているので、「気持ちが悪いなどのクレームが来るから、なるだけ節があるものを使わないで下さい。」ということをおっしゃるわけです。それで逆に仕様書を作ると、山や製材の方にしてみるとコストが高くなって、「この設計事務所は分かっていない。」という感じで、板ばさみになってしまいます。それを交通整理していく役目があるな、というのは感じていて、「それぞれを如何にやわらかくつないで言語を統一していくか」というのがすごい大事なことだというのが色々設計してきて分かりました。
  • WASS研究室から:「RC校舎の内装木質化工事の調査」:
    今夏、埼玉県のある学校でRC校舎の内装木質化が行われることとなり、現在工事が進行中です。耐震補強工事などと同様に、こういった既存校舎の工事の多くは生徒のいない夏休み中の短期間に実施されることになります。また、この学校では内装材に地元の木材を利用するということで、地域産材を活用するための方法や、それによって生じる様々な課題なども見られます。
    WASSでは昨年度から、木材の発注・準備・施工・使用量なども含めて、この事業を対象とした調査を行っています。今後も様々な地域でRC校舎の内装木質化工事が行われていくと予想されますが、
    今回の調査・分析をもとに、木質化の手助けとなるような提案をしていきたいと考えています。


※パスワードは「wood」

A-WASSフロー

A-WASSは、木を使いやすい仕組みをつくることを目的として、公共建築に木を使う際の企画構想・計画・設計・施工の課題を整理するとともに、事業化から完成までの流れ(フロー)を整理し、そのモデルとなるA-WASSフロー作成に向けた調査研究を実施しています。今後、調査結果をもとに、発注者、設計者に情報提供を行っていきたいと考えています。

木を使う際の一般的な疑問

  • 建物に木を使いたいけど、それは誰が決めるのか。
  • 木を使う意義をうまく説明できないが、どうしたらよいか。
  • 木の発注時期は、いつごろ行えばよいか。
  • 誰にどうやって発注するのか。(発注方式)
  • 地域材を使いたいけど、品質や量が確保できるかわからない。
  • 立木調査、伐採、製材、乾燥、強度評価は、事業全体のどの段階でするべきなのか。
  • コスト管理はどのように行えばよいか。

 


事業の経過・お知らせ等

平成29年5月6日 長澤会長、網野・浦江両副会長の指導助言のもと、法政大学修士課程の平川潤君がとりまとめた修士論文「地域材を活用した公共建築事業マネジメントに関する研究」の研究紀要を掲載しました。

平成28年9月22日 これまでの調査研究から得られた知見等をまとめたパンフレット 「⽊の建築を成功させるための発注者の留意点」 を掲載しました。

平成27年7月31日 「第31回建築生産シンポジウム」(主催:日本建築学会 建築社会システム委員会)において、調査研究成果を発表しました。発表論文はこちら: 公共建築における地域材利用の課題(東洋大大学院 宮城衛) 市町村有林材を利用した公共建築事業フロー(法政大大学院 平川潤)

木はいいんだプロジェクト

A-WASSでは、調査研究「地域材の利用とりわけ木造・木質建築物が発揮する多面的な機能の体系的整理」(通称:木はいいんだプロジェクト)を進めています。

本プロジェクトは、木材や建築など関連分野の学術関係者をはじめ、幅広い関係者の参画のもと、その多面的機能を網羅的・体系的に整理することにより、木材、とりわけ地域材(国産材)を利用することの意義についての理解の増進につなることを目的としています。

平成26年度は、「緑と水の森林ファンド」(公益社団法人 国土緑化推進機構)の助成を得て、文献及び現地調査を行い、地域材の利用がもたらす効果について整理し、報告書にとりまとめました。

報告書はこちら

調査結果(要約版)はこちら

調査研究の趣旨

森林は、国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、公衆の保健、地球温暖化の防止、林産物の供給等の多面にわたる機能(多面的機能)を有しており、日本学術会議によれば、わが国の森林は、貨幣換算できるものだけでも年間約70兆円の機能を発揮している。

他方、建築物の木造化や木質化は、「第二の森林」を創り出すことにも例えられ、森林と同じように、地域の振興や炭素の貯蔵、教育面、健康・心理面での効果など多面的な機能を発揮している(し得る)ことが明らかになってきているが、これら木材の利用が有する多面的な機能については、森林のように網羅的・体系的に整理されていない。

このような中、我が国の森林資源は、戦後造成された人工林を中心に確実に成長・充実してきており、これら森林資源を持続的・循環的に利用していくためにも、木材利用の意義を体系的に整理し、建築等の木材利用に携わる関係者をはじめ国民・消費者に対しわかりやすく提示していくことが急務である。

そこで、本調査研究は、木材や建築など関連分野の学術関係者をはじめ、幅広い関係者の参画のもと、これらの機能を網羅的・体系的に整理することにより、木材とりわけ地域材(国産材)を利用することの意義についての理解の増進につなげようとするものである。

 

有識者と会員・会友等有志による検討会を開催しました
有識者と会員・会友等有志による検討会を開催しました

P1010937 (640x480)

P1010742 (640x480)
栃木県鹿沼市で現地調査を実施しました