vol.28

木の学校づくりネットワーク 第28号(平成23年4月16日)の概要

  • 第3回木の学校づくりシンポジウム報告~地域の取り組み紹介(秋田県能代市)~:
    「地域力を生かす取り組み~山とまちをつなぐ『地域材』の活用~」齊藤滋宣氏(秋田県能代市長):
    ■「木都・能代」
    東北は大変な雪でございまして、雪の降らないところと比べると、荷重がまったく違います。耐震等を考えますと構造そのものが温かい地域とは違いますので、木にかかる荷重が大変大きい。ということは、費用もかかりますが、それだけ木で大型公共物、大型建築物を造るのが大変困難な地域であることをまず頭に入れていただきたいと思います。
    能代市は秋田県の日本海側にあり、人口6万257人、世帯数2万4583世帯、森林面積2万4883haです。能代市には二つの顔があり、一つは「バスケの街」、もう一つは今日のテーマ「木都・能代」と言われる昔から木で大変栄えた街であります。戦前では「東洋一の街」と言われ、日本一の高いスギ(高さ58m、直径1m64cm)があり、その1本の木から55坪の木造の家が建つと言われております。秋田スギで栄えた能代市と二ツ井町が平成18年に合併いたしまして、新しく能代市となりました。東洋一の木材の貯木場と言われた「天神貯木場」があったのも、能代市の二ツ井という地区です。最盛期の昭和36年には517事業所、従業員数7512人、製品出荷額499億9000万、約500億あったわけですが、今は114事業所、従業員1089人、製品出荷額185億と激減しております。
    そういう中で我々は「木都」と謳われたこの能代を何とかもう一度元気のある街にしたい、そのためには一番誇ることのできる秋田スギを使って、歴史と文化が脈々と受け継がれ技術とその経験が今に生きているこの資源をブラッシュアップして世の中に問うてみたい、という思いでまちづくりに励んできました。我々が「木の学校づくり」というものを目指すことにより、子ども達に快適で、健康で、勉強する環境に恵まれた学校を造ってあげたいという思いと同時に、木の素晴らしさを日本国中に知ってもらい、秋田スギの時代をもう一度取り戻し、地域を活性化することができないかという思いで取り組んだわけです。
    ■「木の学校づくり」の実践と検証
    市内には小・中学校が19校あり、そのうち小中一体校が1校ありますので、実質18校。そのうち7校が木造で造られております。
    平成6~12年に、崇徳小学校、第五小学校、東雲中学校の3校を手がけました。特に、歴史と文化の街・檜山と言われる檜山地域にある崇徳小学校を造るに際しまして、地域に多くの木材資源がありますから、地域住民の方達が小学校を建て直すにあたり、我々地域の木材を使って木造の学校を造ることはできないだろうかという声が多く上がりました。昭和61、62年の頃から地域住民の皆様方が木の学校づくりのためにいろいろな勉強会を開くようになり、市民の皆さん、木材産業関係者の皆さん、設計者、工事関係者、行政が一緒になりまして、木の学校づくりに取り組んだわけです。また、この取り組みが始まってから、一貫して学校につきましては木造の学校づくりということが能代市で始まりました。木造だと高いのではないか、木材の調達はどうするのか、そういう建築技術がしっかりと受け継がれてきているのか、雪国ですから構造的に大丈夫なのか、そのことによってさらにコストが増すのではないかという不安の中からの出発でしたが、立派な学校を建てることができました。
    次に転換期となった平成15~18年。先ほどの3校を建てた時は、建築費は坪単価90万~100万ぐらいかかり、若干高いコストがかかっていましたから、次のコンセプトは、少しでも地元産材を使いながら、工法を工夫し、できるだけ安い費用で学校を造ることができないかということでした。そして、関係者が集まりまして、常盤小中学校、そして浅内小学校を建築する計画を作りました。地元でどうやって材を調達するか、そして今使われている材で学校を造ることができないだろうか、さらにトータルコストをいかに安くしていくかということを考えました。最初の頃の学校と比べるとデザインもシンプルになってまいりました。そういう成果が現れまして、プロポーザル方式で学校建築が進められ、皆様方の知恵を結集し、坪単価60万~80万にまで削減することができました。
    そして、次の段階に入るわけです。二ツ井小学校、市立第四小学校は、合併した後にできあがった学校で、二ツ井小学校で約1500m3、第四小学校で1300m3の木材が建物に使われています。地元産材と地元の大工さんによって、できるだけ安い費用で長持ちする学校というコンセプトのもとに造り上げました。2カ年事業で2校同時に建築したわけですが、地元の皆さん方に参加していただくことで、地域の経済の活性化を図りたいという思いがあり、結果、学校1校あたり延べ1万人以上の大工さんを雇用することができました。この両校は坪単価約70万円程度で造ることができました。
    この三つの時期を経て今日に至るわけです。崇徳小学校、第五小学校、東雲中学校を建てた後に、いろいろな課題が各種の皆さん方からお話しされましたので、今後の学校建築にどう活かしていくかを研究するために、公共建築物整備産学官連携事業の中で、今までに建てた学校の検証、これからの対策といった木の学校づくりの研究が始まりました。この組織は、秋田県立大学の木材高度加工研究所、木材加工推進機構、地元の木産連、商工会議所、設計士の皆さん、工務店・建築組合、そして行政が一緒になりまして進めてまいりました。その結果、品質にばらつきがあることが、建築のコストを非常に高くし、差し障りがあることが分かりました。また、規格・グレードの共通理解がなければ、我々が目標としているコストを下げることと能代の材を全国展開するときに、決していい形で作用していかず、切り出した原木を全て使い切る工夫が要るといったことが総括としてまとめ上げられました。そして今度の二ツ井小学校、さらには第四小学校に活かしていこうということが始まりました。検証していきますと、乾燥が甘かったり、木をいじめすぎると維持管理に費用がかかることも分かり、できるだけ早く木材を供給できる体制を作るために、木材供給グループを組織化することにいたしました。そのことにより供給資材等の品質の確保、さらに品質の向上へ寄与することができたわけです。
    このように工夫しながら2校の建築してまいりましたが、それぞれ一般流通材の活用を図ることによりコストを下げてまいりました。さらに適材適所の木材の使用により、またそれも可能となってきました。第四小学校と二ツ井小学校を市民の皆様方に一般公開しましたときに、入ってこられた市民の皆さんが一斉にワーッという声を上げるのです。それは木目の美しさでありました。中には芯もあったり、普通に見るとあまりきれいに見えない材もありましたが、集成材を使ったり、そういう節目のあるものを使ったことにより、逆に市民の皆様方にはデザイン的に、今までと違う感覚で木材というものを改めて見直す機会になったのではないかと思います。
    最初の頃は坪単価100万かかっているところもありました。それが最少で60万まで減少することができました。単価の減少要因はいろいろあると思いますが、一つには、極めて特殊な材料を使わなくなり、あるものでできる検討を設計の先生方や工事業者の皆様方が工夫していただいたおかげだと思います。今後もそういうノウハウを生かしながら適材適所で地元産材を活用した木の建物づくりにがんばっていかなければならないと思っております。
    ■‘木の文化’と‘技術’が見えるまちづくり
    学校を建ててみていろいろなことが分かりましたが、私が一番痛感するのは、木材を広く皆さん方に使っていただくためには、安くて丈夫なものをしっかりと造らなければいけないということです。例えば、木は使っているうちに劣化します。そういうときに、今までのように劣化したところをただ現状回復するために直せばいいのではなく、将来使いやすくなるために改修することで先々コストがかからなくなっていく、さらに計画のときからそういう発想を持つことにより、できる限り将来への改修費用がかからない工夫もしっかりとしていかなければいけないと思っています。学校を通じて木のよさ、素晴らしさを知っていただきたい。そのことは我々が先人から受け継いできた能代の木の文化をさらに引き継いでいくことであり、受け継がれてきた技術・知識といったものがさらに活かされるまちづくりになっていくのではないかと思っております。
    能代市には、本日お話しました7校の木造の小中学校のほかに、旧料亭金勇という天然秋田スギが最盛期の頃に造られた料亭があります。持ち主から市に寄贈いただきまして、今は市で管理しながら秋田スギの見える場所にしていきたい、木にこだわったまちづくりの殿堂にしていきたいという思いで、旧料亭金勇の活用に工夫を凝らしているところです。
    また、技術開発センター「木の学校」というものがあります。木の桶、樽、組子といった、日本中に誇れる技術があり、こういった技術を活かしながら、一般の市民の方達でも木を使っていろいろな木工製品を作られる場所を確保し、少しでも多くの皆さん方に木に触っていただきたい、木に親しみを持っていただきたいということで、市民の皆様方に開放しているところです。
    さらに、秋田県は全国小・中学校学力テストナンバー1、ナンバー2を誇るところです。因果関係は分かりませんが、木の校舎に入ることにより学力がアップされたと言われるようなまちになりたいと思っております。大手予備校のパンフレットに「秋田に学べ、教育」と書かれたポスターがあります。その最後のところに「我々の夢です。秋田の学校は全て木造であるがゆえに学力日本一」と書かれるような学校づくりを目指したいと思っております。
    最後になりましたが、木材を使ったバイオマス発電、東北電力ではチップを使った混焼発電も始まろうとしています。それこそ川上から川下まで切り出した木は、ただの一つも無駄にすることなく、その木を活用しながら、その木の恩恵を受けながら、そして我々はこの木を大切にしながら、木とともにまちづくりに励んでいきたいと思っております。
    次の課題は、今まで学校づくりで培ってきたこの技術と経験、そして素晴らしいこの原材料をぜひとも日本全国中の皆様方に知っていただく、使っていただく努力をしていきたいと思っておりますので、今日お集まりの皆様方の中でぜひとも能代のスギを使ってみたい方がおられましたら、ご遠慮なくご一報いただきたいと思います。
    (文責:牧奈)


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vol.26

木の学校づくりネットワーク 第26号(平成23年2月19日)の概要

  • 第3回木の学校づくりシンポジウム 「木の学校づくりは志 山とまちをつなぐ『地域材』の活用」 概要報告:

    1.29WASSメッセージ
    東洋大学 木と建築で創造する共生社会研究センター(WASS)

    WASSは、三つの志をもっています。
    一、「地域材」による木の学校づくりをしようとするところを応援する志
    二、山の木を活用し、再び木を植え・育てる林業の循環を応援する志
    三、森と学校、山とまちをつなぐ物語づくりを応援する志

    WASSは、どこでも、どの自治体でも、「木の学校づくり」が実現できるようにするために三つの実践をします。
    一、WASSモデルの「木の学校づくり」を、これまでの調査・研究で集めた「知恵」と「各地のキーマン」をつないで実現します。
    二、全国の、山林に関わる”川上”、製材・乾燥・加工・家具など”川中”、そして、設計・施工など”川下”の人々から意見や取組みを集め、WASSモデルの山と木のネットワークをつくります。
    三、全国の首長、自治体の行政担当者、教育委員会に、WASSから山と木の地域ネットワークグループを紹介し、木の学校づくりによる、山とまちが連携する糸口を「仮想流域モデル」としてつくります。
    2011年1月29日 第3回木の学校づくりシンポジウム

    「1.29WASSメッセージ」は、平成23年1月29日に東洋大学白山キャンパスのスカイホールにて開催した第3回木の学校づくりシンポジウム「木の学校づくりは志 山とまちをつなぐ『地域材』の活用」(主催:WASS、後援:林野庁)の最後にシンポジウムのまとめとして木の学校づくりに対するWASSの志と今後の活動における決意表明を発表したものである。
    このシンポジウムはタイトルに示されるように、多くの課題の中から特に「地域材の活用」を一つのテーマとしている。地域材を活用することは、その意義については理解が得られやすいが、一方で木材の品質や量の確保、地域の体制やスケジュールなど個々の条件に応じた工夫を求められることも多い。
    そして、木の学校づくりのシステムが整っていない状況で、その目標を達成する上で様々な困難があり、実現に向けて木の学校づくりの意義を忘れないで進めていく高い志が必要となる。また、地域ということを閉鎖的、限定的にとらえずに山とまちがそれぞれの情報を十分に共有し、志をもって地域間をしっかり繋いでいくことが大切なことである。
    そこで、今回は地域材が活用された木の学校づくりの紹介とともに、その中で直面する課題について各事例を通して示してもらい、WASS、パネリスト、会場も含めてディスカッションを行った。
    当日、会場には木材関係者、設計者、行政関係者など、遠方よりの来場者も含めて200名を超える方々が参加した。
    シンポジウムはまず冒頭で、林野庁長官の皆川芳嗣氏と文部科学省大臣官房文教設企画部長の辰野裕一氏からの来賓挨拶が行われた。皆川氏は、かつては木造校舎を通じて得られていた木や森との絆が失われてきた状況の中で、公共建築物木材利用促進法など「非常に大きな反転のチャンスを迎えているのが今の時代」と述べ、また、辰野氏は「各地域における学校というものは木から出発している、そこに根ざしている」ということで「木材の利用・活用の推進に力をいれていきたい」と木の学校づくりに対するエールが送られた。

    地域の取り組み紹介
    続いて、地域材を活用して木の学校づくりを進めてきた地域である大分県中津市と秋田県能代市の各市長によって、それぞれの取り組みが紹介された。
    中津市は市町村合併により山林が市の77.5%を占める地域となり、木材を学校などの公共建築物に使用する取り組みが始まった。そこで、RC造等の現在主流となっている建物と同等、それ以下の値段で建設することを目標に、市内の業者が参加する中津市木造校舎等研究会が作られ、木造での建設における検討が行われた。ここで整理されたポイントとして「無理のない材の選択」、「木材調達のタイミング、乾燥期間の確保」、「在来技術の活用」などがあり、地材地建での木造体育館を低コストで実現する運びとなった。
    能代市では木都である地域を再び活性化させたいという思いから木の学校づくりの取り組みが始まり、現在は建物16校中7校が木造となっている地域である。平成6~12年の草創期は木造によるコストアップ、木材の調達、木造の建築技術といった課題に直面する中で木造校舎の建設が進められていった。平成15~18年の転換期ではコストを抑えるために地元産材を使いながら、工法を工夫して木の学校づくりが行われ、草創期と比較するとコストを削減することに繋がった。そして現在はその次の段階として、これまでの木の学校づくりの課題の検証を行った上で、関係者による木材品質の共通理解、必要木材数量の事前公開などの取り組みが新たに行われている。
    以上のように両地域ともに、コストを下げながら木の学校づくりを実現するための工夫が行われていることが示された。

    PD「地域材による木の学校づくりの課題と方策」
    続く、このパネルディスカッションでは中津市と能代市で木の学校づくりを行った設計者によって、設計の際の課題と工夫として以下のような例が示された。
    ・地域の現状を把握するため、原木、製材、大工、施工業者などの現状調査を行った。
    ・大工との打ち合わせでは設計図だけではなく、納まりや手順などについて大工の提案も受け入れながら検討を行った。
    ・材料強度が不明なので、材料試験を行った。
    ・市場に流通している一般住宅に使用される材料を用いる設計とし、木材調達におけるトラブルを回避した。
    ・木材納入の窓口となる流通業者が現場への納品前に自分達の基準で返品などを行ったことがあり、関係者の共通認識のもと現場監督や設計者、設置者が見て基準を決定するようにした。
    ・大量の木材の準備期間が2~3ヶ月しかなかったことから、着工の6ヶ月前に数量公開を行った。
    ・現場で手戻りや無駄が出ないように、木拾い表や施工図の早期作成を施工者に求めた。
    ・普通の大工が誰でもできるような在来構法での設計を行った。
    また、「地域材による木の学校づくりにおける設計者の役割」ということに対して、言葉の違いはあれど、各パネリストは「全ての分野にある程度精通するコーディネーター」ということを挙げていた。

    PD「山とまちをつなぐ新しいしくみの創出」
    中津市、能代市では地元の木材を用いた、地元の業者による木の学校づくりの試みであり、お互いに共通する課題や工夫が見られた。それらを踏まえた上で、ここでは林野庁、製材所、設計者の方々をパネリストとしてむかえ議論が行われた。
    そして、今後の木の学校づくりを見すえた新しい仕組みを考えていく場合の大きな問題点として次の3つの項目が示された。

    ①必ずしも全てを地元でまかなうことができない
    ②地元の需要はあるところで限られている
    ③地域内で成功した仕組みを他の地域に展開できるか

    これに対してWASSは各地域の山とまちをつなぐ「仮想流域」という考え方の提案を行った。将来的に森林の整備が確実に行われ、材料が確実に確保でき、山に確実に再造林されるという循環が達成されるまでは、地域材に焦点を当てていかないと木材利用の流れをつくるのは難しい。そこで、木の学校づくりを進めるにあたって、「木材はあるが建物需要がない山」と「建物需要があるが木材がないまち」とをネットワークでつなぎ、再造林まで含めた循環を地域間で構築する、地域材で山とまちをつなぐという考え方である。パネリストからは、こうしたネットワークをつなぐ役割やそのための情報発信をWASSが果たしていくことに対して期待が寄せられた。
    そして、最後に紙面冒頭に示した「1.29WASSメッセージ」が発表され、シンポジウムの終了となった。

  • ~みなと森と水サミット2011開催~:
    2011年2月9日から19日まで東京都港区で第4回みなと森と水会議が開催された。初日の9日には港区エコプラザにおいて武井雅昭区長をホストとした全国各地の23の自治体の首長とのサミットが開催され、都市における木材の活用による日本の森林再生と地球温暖化防止への貢献を掲げた「間伐材を始めとした国産材の活用促進に関する協定書」への調印式と今回より参加した自治体の首長による地域紹介、これからの都市部と山間部の交流に関するフリーディスカッションが行われた。最後に首長たちによって「みなと森と水サミット2011宣言」が発せられ、10日間にわたる会期の初日を飾った。
    今年度より参加した自治体は長野県信濃町、岐阜県高山市、東白川村、和歌山県新宮市、島根県隠岐の島町、徳島県三好市、那賀町、高知県馬路村、四万十町の9市町村で、竹島を抱える離島でありながら林野庁の助成を受け、近年木質バイオマス事業に取り組む隠岐の島町の他、木造の小中連係校を建設中の三好市や村民の6割が林業従事者で、村内に新築される木造建築に檜の柱80本を進呈する取り組みを続けている東白川村等いずれも地域材の活用に熱心に取り組む自治体ばかりであった。
    フリーディスカッションでは前回までに参加していた自治体の首長を中心に各市町村の取り組みや、みなと森と水ネットワーク会議(英語名:Unified Networking Initiative For Minato “Mori”&”Mizu”Meeting略称Uni4m)への期待が述べられた。象徴的な発言としては飛行機による移動により港区との庁舎間の移動時間が近隣の自治体より近いという北海道紋別市の宮川良一市長による人的交流への言葉で、交通網を背景に港区や他の自治体と組んだエコツアーの企画や、森林セラピー、農商工連携など木材にとどまらない市民参加の多面的な交流への期待が述べられた。他方、参加自治体が増えると港区からの受注競争がより厳しくなるという率直な指摘も出されており、各地から地域材の性能、規格、価格、供給可能量が提示され、「みなとモデル二酸化炭素固定認証制度」に基づく協定材の運用が実施された際に、地域材の流通プロセスを公正に築き、港区が各自治体とどのような連携を築けるのか、地域材活用モデルとしての実体が注目される。最後に掲げられた4つの宣言文すべてに以下のように組織の実行力を意識した「体」という文字が用いられ制度の構想から実行へ移ろうとする意気込みを伝えていた。

    【四万十町より提供された檜材で作られた協定書のカバー】
    「みなと森と水サミット2011宣言」より抜粋
    一つ、すべての自治体に開かれた「運動体」であること
    一つ、精神的にも体力的にも自立した「事業体」であること
    一つ、お互いの文化を認め合い支えあう「共同体」であること
    一つ、自治体の枠組を超えて一致する「連合体」であること

    (文責:樋口)

  • 第24回木の学校づくり研究会より「持続可能な森林経営・木材利用と循環社会」 講師:藤原 敬氏(ウッドマイルズ研究会 代表運営委員、全国木材協同組合連合会 専務理事)
    ■地球環境時代の始まり
    1980年代前半に各国の森林管理当局の担当者が直面した課題として、1988年をベースにしたFAO(国連食糧農業機関)の熱帯雨林調査の報告書の発表と同時期に作成されたアメリカ合衆国政府の「西暦2000年の地球」という報告書の問題提示があった。その中で毎年日本の国土の3分の2程度の熱帯林が急速に減少しているというデータが発表され、それ以降、各国で様々なレベルの議論があった。1992年の地球サミットでは途上国との政治的なバランスを考慮し結局は実現されなかったものの、地球環境条約、生物多様性条約が提起され、その前年には森林条約も提起されていた。それまでローカルな問題であった森林の問題が大きな国際問題として認識されるようになったのはこの頃である。近年では中国の植林がグローバルな森林面積の増加に寄与しているが熱帯雨林の減少はとまっていない。
    ■木材利用促進と環境保護
    現在IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)等は20 世紀の間に12倍になった化石燃料の使用量を21世紀中に半減させる目標を示し、原子力エネルギーへ依存する方向性も模索しているが、21世紀後半にはバイオマスエネルギーの活用が必要となり、そのために木質資源が重要になってくるという見方が一般的である。そのため木材利用の促進は環境政策として定義されているものであり、木材業界の支援のための産業政策としての動きではないことを確認しておきたい。また現在地球上でCO2が増加している主たる理由は、化石資源の燃焼であるが、その5分の1程度が熱帯雨林の伐採に伴うものであるといわれている。そのため熱帯雨林をどのように安定させていくかが課題となっており、木材の利用推進と持続可能な森林の運営が裏腹の問題となっている。
    ■トレーサビリティを担保するしくみの模索
    国際的に熱帯雨林の破壊を防ぐしくみを構築するためにも、木材を循環型社会の資材と見なすためにも、木材生産に関わる環境負荷を明確にすることが求められている。また既に日本の建築物に関する環境性能評価基準CASBEE*や先行するイギリスやアメリカの基準の中では持続可能な森林から産出した木材への評価とローカルな資材の活用という概念が含まれている。日本の木材輸入量はアメリカ、中国に次いで世界で3番目。輸入量に距離を掛けてマイレージを算出すると、日本はアメリカの4倍のマイレージをかけ木材を使用している現状がある。そのためトレーサビリティを確保して環境負荷を明示していくことが重要になる。それを担保する手法として、国際的な認証基準にもとづいてメーカーや木材業者を認定して繋ぎ、最終的に自治体や消費者に対してグリーン購入法にもとづいて所定の森林から産出した材であることを認定する方法や、木材製品に産地やCO2排出量を示すラベルを貼るカーボンフットプリントのような方法があり、エンドユーザーに生産に関わる環境負荷の情報を如何に伝えるかが共通した課題となっている。ただし木材の場合は製造元の大規模な施設で製造される鉄等と異なり、伐採地の森林と加工施設、機材を持ち込む場合等生産の経路が複雑でコントロールすることが難しい。また国産材と輸入材を比べた場合、これまでは輸入材の方が国産材よりもCO2排出量が多いと想定されていたが、木材乾燥に重油を用いると大きな負担となることがわかった。厳密には海路と陸路、輸送車両の規模によりCO2排出量は異なるため、カーボンフットプリントが普及していくと新たな議論が生じることになる。このような課題を背景にクレディビリティの点から、まず近くのものを使っていくことが重要だということがコンセンサスになっている。
    *Comprehensive Assessment System for Building Environment Efficiency
    (文責:樋口)


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vol.6

木の学校づくりネットワーク 第6号(平成21年3月14日)の概要

  • 巻頭コラム:「京都市の景観保全のための独自の防火規制への取り組み」野澤千絵(東洋大学工学部建築学科准教授):
    都市計画の分野では、過去の自然災害や大火等による甚大な都市災害の経験から、都市の不燃化が災害に強いまちづくり実現のための主要な方針の一つとなっている。そのため、都市の中心市街地、主要な駅前、官公庁街、幹線道路沿道など不燃化の必要性が高い地域などに、建物を燃えにくい構造とするように規制する「防火地域」「準防火地域」が都市計画で定められている。その一方で、我が国の歴史的な都市は、一般的に、狭い道路に歴史的な木造建物が密集した都市形態が多い。
    わが国を代表する歴史都市・京都では、都心部に木造の京町家が建ち並んだ歴史的な景観を有する地域が多く、こうした地域に準防火地域が指定されている。例えば、歴史的に独自の建築様式を有するお茶屋の立ち並ぶ祇園町南側地区では、地区特性に応じた独自の景観基準を定め、当地区固有の景観保全の取り組みを展開している。
    しかし、準防火地域のままでは、新・増築を行う場合、軒裏の化粧板仕上げ、外壁の土壁塗りや腰板張り、外観の開口部についての木製出格子、木製建具の使用などが不可能であるなど、木造あらわしを基調とする伝統的様式の建築が困難であるという問題があった。準防火地域の指定を都市計画として解除すれば、確かに伝統的様式の建築は可能となるが、地域全体として防火性能を低下させてしまう恐れがあり、都市防災上は好ましくない。また、当地域の地元まちづくり組織は、伝統的建造物群保存地区のような、静的固定的な規制による景観保全は行いたくないという意向が強かった。
    そこで、景観に寄与する伝統的様式に限って、防火上の柔軟性を持たせる仕組みが検討され、最終的に、準防火地域を解除するとともに、独自の防火条例(平成14年10月施行)を適用した。これは、相対的には制限の緩和となっているが、法制度上では、準防火地域を解除することを起点にした上で、条例で40条による地方公共団体の条例による制限の附加を行うという、(かなりマニアックな)論理で地区独自の景観保全の取り組みを展開させている。
    このように、我が国を代表する歴史的町並みを保全するためであっても、建築物に「木」を使うことに対する様々な法制上のハードルが存在していた。今後、WASSの研究目的の一つである地域産木材の好循環フローの構築のためには、小手先の法制度の操作ではなく、地域の実情に応じて実質的に取り組みができるよう、「最低限の基準(建築基準法)や「国土の均衡ある発展(都市計画法)」といった法制度の考え方そのものも抜本的に転換していく必要があるのではないだろうか。
  • WASS調査報告:
    秋田県能代市では平成6年度以降、小中学校の改築においては木造化を行う、という方針によって木造校舎が建てられてきました。これまでに5つの小中学校で木造校舎が建てられ、現在も2つの小学校が木造で建設中です。
    近年では、このように地場産材を用いて建てられた校舎がいくつもある地域は珍しく、どのようにして校舎に木材が使われているのかを調べるために、WASSで現地調査を行いました。
    この地域では古い木造校舎も多く、地場産材である天然秋田スギがふんだんに使用されています。しかし戦後になると、校舎は鉄筋コンクリート造のものが多く、木造校舎はしばらくの間建てられていませんでした。
    こういった状況の中で、平成7年竣工の崇徳小学校は、能代市が30年ぶりに建設する校舎であり、また秋田スギを用いた建物にしたいという地元の熱意を受けて、木造(一部鉄骨造)の校舎となりました。この校舎を建築するにあたっては、防火や水廻りなどの木造であることの問題がありましたが、特に木材の乾燥についての問題が木造校舎(公共建築)特有の問題として大きかったようです。
    公共建築の場合、入札後に施工業者が決定することから、木材の発注はその後となるため着工までの期間が短く、乾燥材をそろえることが難しい状況にあります。校舎のような大規模建築では、乾燥材を大量に必要とするためなおさらです。崇徳小学校では、地元の協力もあって木材産業関連団体に事前に準備をしておいてもらうことができたため、工事を進めることが可能となった経緯があります。
    崇徳小学校以降、能代市では4つの小中学校が建てられてきましたが、その中で木造校舎建築に関する課題を乗り越えるために色々な取り組みがなされてきました。
    例えば、発注者、設計者、木材関係者で設計の段階から協力して事前の準備を十分に行ったことなどが挙げられます。また、以前に建てられた木造校舎に対しての検証や分析も行い、施工者も含めた市の公共建築についての研究会なども実施されました。
    そのような過程を経て、設計者も「作りやすく、あたりまえにできること」を考えて設計を行う、などの工夫を行っています。例えば、特殊な寸法の木材の場合、準備をしても使用されなかったときにリスクを伴うことから、定尺材を利用することでこれを回避し、木材を調達しやすい状況を作り出しています。また、次第に木材供給側の理解度も高まり、設計者が木材業者に合わせるだけではなく、木材業者が設計者に合わせることも可能となってきました。その中で生まれたのが下記の常盤小中学校や浅内小学校の木造校舎です。
    しかし、残念なことに現在建設中の2校が竣工すると木造校舎の建築予定は現段階ではないため、これまでに積み上げてきたノウハウが失われていくことが懸念されます。WASSとしても能代市の取り組みを1つの代表的な事例としてを分析し、他の地域での取り組みにも生かせるようにしていかなくてはならないと強く感じています。


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