vol.34

木の学校づくりネットワーク 第34号(平成23年10月30日)の概要

  • 木づかい顕彰受賞:
    10月18日、東京大学弥生講堂一条ホールにて、低炭素社会の実現をめざし、「コンクリート社会から木の社会」へ転換することを促進させる取組として林野庁が後援する「木づかいシンポジウム」と「平成23年度木づかい運動感謝状贈呈式」が開催されました。シンポジウムの冒頭、主催者のNPO法人活き活き森ネットワークより、国産材の使用に功績のあった事業者に対して、「木づかい顕彰」の贈呈が行われました。
    贈呈に先立ち皆川林野庁長官よりお祝いの言葉があり、また東京大学農学部の安藤直人教授より受賞者の紹介を受けました。多数の応募の中から選
    ばれた受賞者は木材加工メーカーや家具製作会社、木材の博物館など多業種にわたり、WASS研究センターは木の学校づくりシンポジウムや研究会の開催を通じ、国産材の利用の促進に貢献してきた点が評価されました。WASS研究センターからは浦江真人准教授が参加され(財)日本木材総合情報センター理事長より感謝状の贈呈を受けました。会場では引き続きシンポジウムが行われ、東日本大震災の復興に向けた木材供給の課題が議論される中、全国規模の流通網を整備するだけではなく、身近な地域圏内の流通を充実させることが、災害の備えとして大切だという意見もだされました。
  • WASSへの投稿文:「”木のまち・木のいえづくり”を目指す若者のための教育プログラムの構築」飯島泰男氏(秋田県立大学木材高度加工研究所):
    1.事業の経緯
    昨年(平成22年)5月「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律(以下、単に「促進法」という)」が公布された。本法やそれに関する告示で想定している公共建築物の冒頭には「学校」が挙げられている。また筆者の在住する秋田県が建設した木造公共建築物の統計資料をみても、平成13~20年度の8年間、計130件(県公表データを事業年度別件数に修正)、75.8千m2のうち、面積比で47%が体育館等も含めた学校施設である。また市町村立の小中学校もこの20年間に約20校が建設されている。このように学校建築は「公共建築物」の代表的な例といえるだろう。一方、林野庁ではほぼ同時期に「森林林業再生プラン」を公表、この中で「地球温暖化防止への貢献やコンクリート社会から木の社会への転換を実現するための木材利用の拡大」の重要性を述べている。
    これら一連の動きは、木材資源の利活用推進にとって、いわば「追い風」の状況には違いないのではある。しかし、プランの中で同時に「地域材住宅の推進とそれを支える木造技術の標準化、木造設計を担える人材の育成」を検討事項として掲げていることからも分かるように、いくつかのハードルも存在している。
    このうち後者の問題については、促進法公布後、林野庁・国交省の共管で「木のまち・木のいえ担い手育成拠点」事業が開始され、木活協が事業推進団体となって一般公募が開始された。そこで筆者と井上正文先生(大分大)が木造建築に関連した大学・大学院学生を対象にした「教育プログラムの構築」を日本木材学会として提案、これが採択され、昨年度から事業を進めている。これはWASSとは直接の関係はないが、参考のため、ここでご紹介する。
    なお、東京周辺では東大、東京都市大+工学院大がそれぞれ同種の試みを行っている。またこの内容については先般の建築学会大会(木質構造部門)で報告しているので、併せてお読みいただければ幸甚である。
    2.大学における木造建築教育の現状と打開策
    筆者の専門領域は「木材学」であり、大学においてその観点から木造建築教育にも携わっている。そこでこの事業を開始するにあたって、建築分野および木材分野の先生方と、大学における木造教育の現状についての情報交換を行った。その結果、工学部・建築系からは、
    ・一級建築士の受験資格を教科の基本としているのが、建築系大学の現状
    ・各大学の専門・研究室決定時期の前に、木造ファンを増やすことが重要。
    ・「建築材料」での木材の取り扱い時間は短く、「構法」「建築史」で木材(木構造)について知る機会が多い。
    ・教科書の知識、座学だけでなく、山や工場の見学・実務家の話を聞くなど、実習内容が必要。
    また、農学部・木材系からは、
    ・木造住宅関連科目は縮小方向、森林全般・生物に興味を持つ学生が多く、木造関連科目の人気が低い年度もある。
    ・就職は住宅メーカーが多い。設計製図に加え法規等の2級建築士資格対策の科目の設置。
    という現状が報告されている。
    最近では「木造建築教育」を「売り」にした建築学科も増えつつあり、今後の木造に対する社会ニーズは向上していく機運はあるが、木造教育を行っている先生を対象にしたアンケートからは、よい教科書がない、全体的に木造・木材関連に割ける時間が少ないが、教科を増やしていくことも困難という結果がでている。
    そこで現実的な打開策として、現行の教科構成に並行する形で、まずは、工・農にまたがる大学間連携による木造・木材教育の試行を推進し、そのなかで、同時にそれを教えられる教員の養成・教員間のコラボレーションの形成を目論んだのが、今回のプログラムの提案である。
    こうした活動を契機として、大学間連携が有効な手段であるかどうかを検証し、将来はカリキュラム編成を変えられる仕組みづくり(単位互換制も含む)への展開の考慮しようとしたわけである。また「構造」「材料」「構法」を想定した推奨シラバスの作成も進めている。
    3.試行プログラム
    初年度はスタートが遅れ、九州3大学、東北2大学の連携にとどまったが、本年度はすでに東北3大学(秋田県立大・日大・八戸工大)、北陸5大学(金沢工大・信州大・福井大・金沢大・富山大)、東海6大学等(三重大・名古屋大・静岡大・岐阜森林アカデミー・名古屋工大・岐阜工専)の地域セミナーが終了し、約70名の学生・院生が参加した。また12月には九州で4大学(大分大・熊本県立大・九州大・佐賀大)の連携プログラムを行う予定になっている。
    以上のセミナープログラムはいずれも1泊2日程度であり、また必ずしも統一的なものではなく、一応「木材利用と地球環境保全」「木質材料・木材加工の現場見学」「木造住宅の構造設計」「木造住宅の意匠設計・施工技術」が含まれるよう要請はしているが、地域の現状や講師陣の専門領域の状況を踏まえてプログラミングをしているため、バラエティに富んだものになっている。これらを総合し、次年度(申請が通れば、ではあるが)共通化のできるところを考えて行きたいと思っている。
    昨年の受講者計30名に対するアンケートによれば、
    ●総合的感想―とても面白かった:16/面白かった:12
    ●今後も同様のセミナーがあれば―ぜひ参加したい:18/できれば参加したい:7
    とかなり好評であり、「どのテーマに興味を持ちましたか?」に対しては、建築設計や木材関連など、いわゆる「木質構造」の授業ではあまり深く教えらえていないと思われるテーマへの興味が強いように思われた。
    木造に関する日頃の活動を学生間で情報交換しあう今回の試みは、お互いに刺激を受けたようで今後のセミナーの在り方を考える上で大きな示唆となった。この成果を総括すると以下のようにまとめられる。
    ●今後の定期的なセミナー開催が重要である。
    ●学生を対象にしたセミナーは、開催時期および経費配分(とくに旅費・宿泊等)に配慮が必要-寒い時期、就職活動時期は避ける。可能なら、夏休み中が最適。
    ●学生・院生は、木質構造のみならず木造建築を取り巻く多方面(設計技法・構造・木質材料・木材流通・地球環境など)にわたる情報を求めていることに配慮すべき。
    ●講師との個別の交流・情報交換は木造建築へのモチベーションを向上させる。
    ●セミナーの中で座学・見学の組み合わせは有効。
    4.今後の展開
    試行地域に関東、関西、中国・四国が含まれていないのは、他意はない。参加校が増えるのは歓迎したいところである。
    ただし、予算がかなり縮小され、また、おそらく次年度で事業が終了であろうから、その先のことも見据えた取り組みが必要であろうと考えている。すなわちメーリングリスト等の情報ネットワークを構築して、分野横断型の教育内容に関する情報交換を継続的に行うこと、そして、その中で各参加大学内あるいは大学間での独自の各種取り組み、たとえば、学内外補助金の制度(各大学での学内プロへの応募や文部科学省・国土交通省関連)等を有効に活用も併せて検討していくこととしたいと思っている。


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vol.16

木の学校づくりネットワーク 第16号(平成22年3月6日)の概要

  • 巻頭コラム:飯島泰男(秋田県立大学木材高度加工研究所教授・農学博士、木質材料学(木質材料の生産・性能評価と流通システム)管理):
    今年度、林野庁・文部科学省の共管で「学校の木造設計等を考える研究会」が進められている。座長はWASSセンター長でもある長澤先生、小生もその委員に加えられ、現在、まとめの作業に入っている。当初、小生に与えられた課題は「事例に基づくコストを抑えた木造施設の整備」というものであった。そこで当研究所スタッフと能代市に協力をお願いし、関連データをまとめるとともに、補足として木造校舎建設時の「環境負荷」に関する試算結果も報告した。その内容は下記の林野庁HPに掲載されているのでご覧いただきたい。
    さて、その「環境負荷」の件である。
    日本建築学会は2009年12月、日本木材学会を含む関連16団体とともに「建築関連分野の地球温暖化対策ビジョン2050」という提言を出した。実は今から約10年前の2000年にも関連4団体とともに「地球環境・建築憲章」を策定しており、先のビジョンはこの延長線上にあるものと考えることができる。憲章ではキーワードとして建築の「長寿命化」「自然との共生」「省エネルギー化」「省資源・循環」「継承」をあげ、<環境負荷の小さい材料の採用>、<木質構造および材料の適用拡大>という項も起こされている。木材に関しては「炭素の固定により環境負荷を低減するとともに、質の高い居住環境を生み出すという点からも、木質構造および材料の利用のための環境を整える。我が国は木材資源の豊かな国である。我が国の森林の健康を守り資源の適正な更新を図るとともに、実効的な温室効果ガスの放出削減に寄与するために、国産材を有効に活用する。」と記載されている。
    これはおそらく委員として参画した、木材側の会員がこの部分を起草されたのだろうが、このときはすでに京都議定書が採択されているわけで、それを反映したとすれば当然かもしれない。
    そのさらに10年前の1990年、ITEC(国際木質構造会議)が東京で開かれている。全体の発表は約150だが、当時の木質構造での国際的な話題の中心はReliability Based Design(信頼性設計法)であったから、材料や構造の信頼性向上や評価法に関する発表が大部分であった。
    その中に少し毛色の変わった、ニュージーランドのA. H. Buchanan博士による”Timber Engineering and the Greenhouse Effect” という講演がある。内容は「各種建築用材料を製造時の消費エネルギーで比較してみると木材は他材料に比較して格段に少なく、地球温暖化が直近の課題になりつつある現在、木質建築材料の利活用はこれを防止する有効な手段になるであろう」というもので、とても先駆的なものであった。翌年、中島(現:建築研究所)・大熊両氏が木材工業誌にその概要を掲載されると、国内の「木材業界」関係の情報誌ではそれが盛んに引用されるようになっている。
    今から20年前、京都議定書採択の7年前の話である。
  • 最近のトピックス:「政府の林産業施策の方向と課題」:
    1月9日の木の学校づくり研究会では、世界唯一の日刊の木材新聞を発行している、日刊木材新聞社の宮本洋一氏に政府の林産業施策の方向と課題について、お話いただいた。
    ■「私は60年間森を育ててきたが、山で食ってきたのではなく、山に食われてきた」
    宮本氏は2009年農林水産大臣賞を授賞したある林業家の言葉を引用して日本の林業の実態ついて語った。針葉樹合板に使うロシア産カラマツの値段が上昇し、入手しにくくなってきたため価格が上昇した国産カラマツのような例外もあるが、スギの立木の値段はこの30年間で6分の1になっているという。林業家の7割が今後5年間に主伐は行うつもりはなく、育てても出せないという日本の林業の構図を木材価格の変動を示しながら指摘され、改めて深刻さを思い知らされた。そんななか山林の整備、林業の再生を最重要課題にあげられている民主党政権から新たな法案が出された。
    ■「公共建築物等における木材利用の促進に関する法案」について
    赤松農林水産大臣は1月18日の国会に提出する法案の内容について記者会見の場で明らかにした。その内容は山を守るだけではなく、森林林業の活性化を狙う、環境対策、CO2の削減に取り組むといった新政権の姿勢を示したものであった。主題は伐採に適した、成長した木を使い、公共の建物、特に階層の低い役所や学校を木造で建てるという公共建築の木造化、及び木質化。対象となる事業は建物の高さや面積によって異なり、3階建以下は木造、それ以上は木質化するという方針だという。赤松農林水産大臣は子どもたちが温もりのある木の学校で教育をうけることは、RC造の学校では意味が異なると認識しており、是非小中学校、地方の公共建築物を木造化したいと話したという。
    目標は公共施設の100パーセント木質化・内装木質化、果たして実現なるのだろうか。
    ■農林水産省木材利用推進計画について
    宮本氏からで公共建築物の木造化・木質化を具体的に規定する計画として、2009年12月に策定された木材利用推進計画について説明を受けた。政府全体の取組みとして政府の施設、省、地方公共団体にも次年度より木造化・木質化の取組み広めてゆく計画。WTOからのクレームを避けるため、使用木材については「国産材(間伐材)等。」という表現にとどまっているが、実質的に対象物品の購入にあたっては、国産材が見込まれている。期間としてはH22年~H26年の5年間、この期間の成果を発表し、効果を検証するという。他に具体的な取組みとしては、①木質施設をつくる②山の整備を進める③全国の木造施設の情報の収集と提供する④木造建築における標準歩掛の充実⑤関係部局の土木工事に木材を使うという5項目が挙げられている。
    ■期待と不安
    法案が施行され、木材利用推進計画が実行されとどうなるのだろうか。木造化施設の着工棟数は少ないと見込まれる。一方で内装木質化は床及び壁について、施工面積の5割以上を木質化するもので、膨大な量が必要になるだろうと宮本氏。そうなると供給が不安になる。現状はha当り17mと言われている山林の整備に対しては、施行しやすい山林の3分の2を対象として今後10年間でha当り100mのドイツ林業並の路網密度に達成することを目標とした森林林業再生プランが打ち出され、供給に向けた山の整備も進められている。
    参加者からは、さらに山の整備の基盤となる平成検地の必要性や床材等を加工する刃物を統一して、複数の業者間で加工木材をやり取りするような仕組みをつくる必要性を訴える意見も出された。


※パスワードは「wood」