vol.25

木の学校づくりネットワーク 第25号(平成22年12月18日)の概要

  • 第3回木の学校づくりシンポジウム開催のお知らせ
  • WASSの提案~「地域材」を用いた木の学校づくり~:
    ■木の学校づくりを取り巻く社会状況
    学校は子ども達の教育の場として地域の人々が一体となって作り上げていくことが多く、木材が利用された学校づくりが各地域で行われている。また、その際には地域のシンボルとなる建物であることから、地元の木材を利用されることが多い。今年の10月には公共建築物木材利用促進法が施行され、今後は全国的にも木の学校が多くなる方向に向かうと考えられる。一方で、木造建築に対する構造や防火における建築基準法上の制約、建材としての木材品質基準の確保、木材産業の衰退などの社会的な状況が木の学校づくりの上で大きな課題となっていることも確かである。
    WASSでは木の学校づくりを主軸として、木を建築に使いやすいような共生社会システムの構築を大きな目的としており、ここでは「地域材」を用いた木の学校づくりを提案する。
    ■「地域材」を用いる意義
    一般流通材としての国産材ではなく「地域材」を対象としているのは、以下の点で「地域材」が地域の循環に欠かせない要素であるからである。
    ・山の循環:
    伐採→利用→植林のサイクルを成立させることで山の保全とともに地域の環境を守る。
    ・経済の循環:
    川上から川下まで地域に関わる業者の経営が成り立つ。山の循環のためには対象とする山の林業関係者に植林のための元手が残ることが大切。
    ・技術の循環:
    木の学校づくりに関わる地元の林業、製材業、建築関係者が持つノウハウ・技術を伝承する。
    ・社会の循環:
    子供たちに持続可能な未来を託す。将来的には国産材を用いて、日本全体での循環が成功することが重要であるが、現在の状況から地域の循環をその第一歩とすることが共生社会システムの構築につながると考えている。
    ■地域材を用いる際の現状と課題
    一方で、地域にある木材に限って木の学校づくりを進めるためには、現状では様々な困難がともない、それぞれに工夫が必要である。木の学校づくりでは
    ・必要な大量の木材を必要な時期に集めることができるか?
    ・適切な品質の木材(樹種、断面寸法、スパン、ヤング係数、強度など)が手に入るか?
    といった課題があるが、市町村という狭い地域であることにより、これらの課題はより大きな影響を及ぼすことになる。
    例えば、地域の森林蓄積量が限られている、または製材工場の規模、数が限られているため、必要量の木材を入手することがもともと困難である可能性がある。また、要求されている木材の品質を満たすことができるかどうかもJAS認定工場や集成材工場の有無に左右される。以上の内容は地域の範囲を市町村から県単位に拡大しても発生する課題であるのが現状である。
    こういった状況の中でそれぞれの地域で木の学校づくりに取り組んだ事例を以下に紹介する。
    ■大分県中津市鶴居小学校体育館の建設
    山間部の町村と合併して地域林業に振興に直面することになった中津市では、地域林業の活性化と山林資源の有効活用を目指し、「地材地建」をモットーに市内の学校施設への地元産材の利用の計画が立てられた。学識経験者、地元業者(設計事務所、建設業、木材業)に参加を呼びかけ「中津市木造校舎等研究会」が発足し、木材を活用した木造校舎等の建設構法の研究として、近隣や遠方の林産地における木の学校づくりに取り組みへの視察やアンケート調査が行われた。研究会活動を通じて見えてきた主な課題点として①無理のない木材の選択、②木材調達のタイミングへの配慮、③在来技術の活用が上げられた。具体的には①は地域で一般流通している材種、材寸、強度、価格を無理なく設計に反映させること、②は長大材や多量の木材の短期間の調達は困難であり、特に乾燥の期間に充分に配慮すること③は地域への経済効果と技術・技能の伝承に配慮して地域の大工で対応できる在来技術を活用することである。プロポーザルにより選ばれた地元の設計者から山国川流域の県産材のヒノキとスギを用いた総木造の屋内運動場案が計画された。コストの抑制も見込み、金具の代わりに伝統的な仕口加工が採用され、地域の技術を活かされることになった。木材調達については、木材の性能評価の方法と乾燥、製材、加工のプロセスを検討する「地材地建の達成に向けた市内業者等勉強会」が開催され、2カ年事業とした初年度に冬季伐採が行われた。その一方で、一般に流通していない長大材の使用分部が多くなったため、その部材の加工と乾燥のために鹿児島県の木材業者に特殊加工を発注することになった。こうして中津市が目指した「地材地建」の取り組みの目的を達しつつ屋内運動場は建設された。しかしそのプロセスでは技術力のある他県の業者との連携がなければ実現しなかった点をどうとらえ今後の取り組みにつなげるかが課題点として残された。
    ■秋田県能代市における木の学校づくりの蓄積
    実は林産地であっても地域内の木材で完結するような「地材地建」の姿を見ることは少ない。秋田スギの産地として知られ90年代以降木の学校づくりを継続的に7棟建設してきた秋田県能代市では、いずれの学校においても県産のスギと併用してベイマツの集成材が主要構造材として用いられてきた。現在の学校の教室を設けるためには、およそ8mスパンを架け渡せる強度の木材がまとまって必要となるが、住宅等で用いられる一般流通材よい強く長く、太い木材が必要となるため、特殊な発注となるため、必要となる木材の量を賄うことは容易ではない。そのため能代市では学校の建設が決まると基本設計がまとまるとホームページ上に必要となる木材の量を公開し、あらかじめ業者内で調達の準備を促す工夫が見られるが、設計変更の可能性や求められる性能と量の問題から木材調達の負担の大きい横架材には、あらかじめ強度や供給体制が安定した集成材を用いている。敢えて地域だけでまかないきらないこと。これが地域材を活用しつづけつつ設計者、製材業者、発注者の負担を軽減するために、自らの木材供給の実態を熟知した地域が、選択してきた方策である。
    ■「地域材」を用いた木の学校づくり
    地域で工夫を行いながら地域にある木材を用いた木の学校づくりを実現した事例を見てみると、地域の中だけで対応できた部分、対応しきれなかった部分が存在する。このように地域の中だけですべての課題を解決しようとすることは困難であることが多い。そこで自分たちで対応可能な部分とそうでない部分を明確にし、対応しきれない部分は他の地域の助けを受けながら木の学校づくりを進めることが重要となる。つまり、地域の概念を従来の範囲から広げ、ネットワークを通じてつながっている他の場所も含めて地域としてとらえる“開かれた「地域」”という考え方が必要となる。そして、ここでは“開かれた「地域」”において用いられる木材を「地域材」として扱う。
    この考え方は、山林を持つ地域における木の学校づくりとともに、都市部などの森林資源を持たない地域においても適用することが可能である。例えば、都市部の木の学校づくりでは、自治体内に山林を持たないため様々な地域から木材を調達することになるが、どの場所にどのような木材がどれだけあるかが分からなければ、必要な量及び品質の木材を調達することができず、大きな困難をともなう。そのため、都市部と山側とがネットワークを構成することが重要となる。そこでは、山側は供給可能な木材の情報を提供し、その中から利用者が必要な木材を選択できるようにしなければならない。また、一方で都市部では今後の事業の内容と方針を開示する必要がある。こうして、都市部が信頼できる山から供給される「地域材」を用いることで、必要な木材を調達することが可能となり、都市部における木の学校づくりを進めていくことが可能となる。また、一方で山を持つ地域も安定した木材供給が見込め、山の保全や木材産業の継続的な経営につながる。
    このようにネットワークを介して各地域がつながることによって“開かれた「地域」”が構成され、木材を必要とする地域にそことは離れた場所にある林業の盛んな地域から木材が供給されるような木材活用のあり方を仮想流域構想として提案する。
    仮想流域構想で特徴的な部分は、山を持たない地域も木材供給地域の山林を自分の「地域」の山としてとらえ、「地域」全体としての循環を考えていくことにある。つまり、トレーサビリティによる供給される木材の確実性やそれにともなう山への経済的な還元、伐採及び植林による山の循環など「地域」の持続可能な未来がなければ、いずれ「地域」の関係性もなくなり、現状へ逆戻りすることになる。このように、山から乾燥、製材、木材利用までお互いに顔の見える関係を構築し、再造林へつながるような仕組みとすることが非常に大切である。
    また、こうしたネットワークを都市部が複数持つことにより、競争原理により一方的な価格の上昇を抑えられ、品質の面でも多様な要求にあった木材を選択することができ、大規模生産が可能な流通材だけではなく、地域特性に応じて細かい対応が可能な小規模の製材所が活躍できる可能性がある。
    仮想流域構想が成立するためにはネットワークとなる対象地域の選定や範囲、トレーサビリティ等の具体的な手段の整備、山の循環につなげるための経済的な還元システムの構築など様々な課題がある。これらのことを踏まえた上で、WASSでは今回提案したこの概念が実現し、現在大多数である鉄筋コンクリートの校舎と同様に普通に木の学校建築が建てられ、持続可能な社会を作り上げることにつなげられるように様々な問題に取り組んでゆく。
  • 第24回木の学校づくり研究会より「集住の木造欧州の事例から中層木造の在り方を考える」講師:網野禎昭氏(法政大学デザイン工学部教授):
    ■伝統木造にみる多層化の意義
    近年、ヨーロッパでは木造建築で7〜9階建ての木造建築が建てられるようになってきた。ヨーロッパでは歴史的にも16世紀に7階建ての木造建築ができているので、今の中層木造の流行もあまり違和感がないのかもしれない。一般的には山岳地とか城趾内や都市部のような土地の高度利用から木造が中層化したということが考えられるが、実際には広い牧草地の中にも中層の伝統的な木造建築が建てられていることから、木造を大きくしていくことで、外部に接する壁量を減らしたり、暖房設備を共用することができ、施設をたくさんまとめていくことでインフラを効率化したりする効果があったのではないかと考えられる。またそれは暖房や冷房のエネルギーを節約しなければいけないという私たちが直面している状況に対する課題点でもある。
    ■現代の地域インフラに見る多層化の意義
    オーストリアの林山地では林の中に小さな街が点在するような地域ながら3~4層の町役場が建てられている。田舎に大きな建物を建てると、多機能化することになり、カフェや幼稚園、図書室、オフィスと様々な機能が組み込まれることで、子供がいなくなったら廃校というような建物ごと閉じるような状況を無くし、建物の価値を長寿命化することができる。建物を一つにまとめ多機能化させて、外皮をコンパクトにする一方で、敢えて大きな面積を作ることで、屋根に大規模な太陽電池の装置を備え周囲の家に電力を供給したり、地下にペレットボイラーを備えることで、仕事帰りの林業従事者が出す大鋸屑ゴミなどを投げ入れてもらい町役場の周辺の建物の暖房をまかなっている。中高層というと私たちは直ぐに都会を思い浮かべるが、大きな建物を造るメリットを建物単体だけではなくて、周りの地域も含めてつくり出すことで、過疎地域や林業地域などで様々な可能性を見出すこともできる。
    ■住環境・施工をふまえた構造形式の選択
    中高層というと地震国日本では構造耐力に目が向けられるが、実は集住を考えたときに断熱や音など環境という要素が非常rに重要になってくる。環境基準を満たすために、断熱材が厚くなるとそれを支持する間柱が太くなり、間柱自体が載荷能力の高い枠組み壁になってしまい、構造体と間柱が重複する状況が生じてしまうからだ。実際ヨーロッパでは1990年代〜2000年の初頭に体育館をやっていた木造専門の構造事務所が最近は環境設計、物理設計まで一緒にやるようになってきた。また壁や床といった構造エレメントの工場生産による施工の経済性の追求されるようになると、建物のそれぞれの部位に求められる構造性能、環境性能、施工性のバランスの中でエレメントごとに構造を決定する設計手法がみられるようになる。
    ■ブームで終わらせない木造建築の在り方
    1990年代後半は日本もヨーロッパもヘビーティンバーブームで大断面集成材の建物が建てられたが、ヨーロッパでは1998年くらいを境に無くなり、それまでドーム建築を設計していたところが、集合住宅やオフィスや学校などより日常的な人間の生活に結びついたものにシフトして、木造建築の体質の変革がおこった。そして木造建築で学校や集合住宅を建てられる事がわかると設計手法の普遍化が議論になった。一方で日本ではまだ木材会館のように高度な木材の使い方と技術を用いたシンボルを作ろうとしている。公共建築木造化法が施行され、日本でも大規模木造建築が建てられるようになった後、誰がその担い手になるのだろうか。主に在来工法構法をやってきた大工が、対応できるのか疑問も残る。日本では高度技術を統合して適正化することが話題にならないが、集合住宅や学校は私たちの生活の一部を作る場所であり、特殊解では困る。そういう意味で今日本は非常にデリケートな時期に差しかかっている。
    (文責:樋口)


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vol.24

木の学校づくりネットワーク 第24号(平成22年11月13日)の概要

  • 木の学校づくりシンポジウム開催のお知らせ
  • 木材会館見学会:
    10月23日、WASS関係者が東京都新木場にある木材会館を訪ね、東京木材問屋共同組合の吉条理事長の案内で2009年に竣工した建物を見学した。木材会館はJR新木場駅に隣接する約500坪の敷地に建設された地上7階、地下1階の建物で、主要な構造はRC造であるが2次構造材、内装材として約1000㎥の木材が使用され、都市の建物に木材を使う上での斬新な工夫が随所にみられた。中でも最も挑戦的な木材の使い方がみられる最上階7階のホールにて吉条理事長にお話をしていただいた。岐阜県の木工業者が製作し、3分割して現場に運ばれ組立てられた木造梁には、接着剤が一切使われていない。鋼材のように加工時の熱伝導がないため、3寸5分の芯持ちのヒノキ角材10数段を無数の白樫の木栓によって連結した梁は、驚く程精度が高い。吉条理事長が「追っかけ大栓もどき」と説明されたこの構法は、伝統構法に求められる技術力に、コンピュータ制御による高精度の木材加工技術が合致したものである。吉条理事長は、その背景として芯持ちの角材であっても背割れを必要としない乾燥技術の高精度化の影響も指摘した。公開空地に面した西側側面ではベランダの欄干や下からの見上げを意識した天井、他にもエントランスホールのベンチ、間仕切り壁、階段など、各所に一般的な住宅用材として使われている3寸5分角の無垢材が用いられ、規格材の多様な活用方法が強調されていた。
    また耐火性の確保にも木材会館独自の試みがみられ、7階のホールは5.7mの天井高により床で生じる火災に対する耐火性能を確保しているため、不燃処理することなく用いることができた。一方で木材会館のテナント階では、一般的な天上高の鉄骨のスラブを天井裏に隠さず、ロックウールで密閉するように巻き、その外側を木材で囲んで空間を設け、梁を空調用のダクトスペースに内包することで、天井高を利用した煙だまりをつくり、木を上手に使って避難時間を確保できるように計画されていた。
    木材会館の通路には厚さ18mmスギの型枠材が打ち放たれた壁面と呼応するように積みおかれ、林業の復興を願いながら、木場が木材市場として活況を呈した頃に上野の西洋美術館の型枠材を供給した吉条理事長の話が印象に残った。(樋口)
  • データベース・グループからの研究報告:
    WASSのデータベース・グループは全国の木の学校についての情報を集め、まとめようとしています。木造の学校や構造は鉄筋コンクリート造や鉄骨造だが内装を木質化した学校について、誰もが利用できるデータベースを構築しているところです。
    私たちは優れた木の学校建築をえた学校からの「木材を活用した理由」についての記述を目にし、分析を試みました。
    1研究の背景と目的
    日本では、現在、ほとんどの学校建築が鉄筋コンクリートや鉄骨造で建てられ、木造は学校の全床面積の2% 程度[1]であす。学校木質化は昭和60年(1980)、平成8年、平成10 年、平成16 年、平成19 年に文部科学省から「学校施設における木材使用の推進について」[2] が各都道府県に通知され、徐々に建てられています。私たちは木の学校建築を学校関係者はなぜ計画したか、学校関係者は木の学校建築の何を魅力ととらえているか、問題点はどのようなことかを知り、これからの木の学校計画のてがかりや方向性を明らかにしようとしました。
    2方 法
    文教施設協会は1997年に日本各地の優れた木造学校建築について調査を行いました。その学校建築は日本全国の21幼稚園、88小学校、30中学校、8高校、3特別支援学校を含んでいます。この調査内容としては、生徒の人数、教室数、部位による使用樹種などです。さらに、学校関係者に対して「木材を活用した理由」、「学校施設の今日的課題への対応」、「地域特性を生かした創意工夫の内容」、「児童生徒、教職員等の当該建物に対する評価」、「その他の特記事項」の質問し、回答をえています。
    ここでは「木材を活用した理由」での記述について分析しました。それぞれは4,5行記述されていることが多かったです。
    対象の学校建築は次のとおり。
    1構造が木造の学校建築
    2構造は木造以外の鉄筋コンクリートや鉄骨造で内装や外装に木を使った整備がされた学校建築。
    これらは校舎、屋内運動場などで、外部の木造施設整備も含んでいます。
    3結 果
    調査対象の学校の児童生徒数平均は幼稚園60.6名、小学校147.8名、中学校279.3、高等学校715.9名、特別支援学校46名です。1997年度の生徒児童数の全国平均[1]は幼稚園121.6名、小学校331.1名、中学校401.8名、高等学校827.4名、特別支援学校88.5名なので、幼稚園、小学校、特別支援学校では、分析対象学校の平均児童数は全国平均の半分ほどです。中学校、高等学校では、分析対象学校の平均児童数は全国平均よりやや少なくなっています。
    また、分析した幼稚園から高校までの147校のうち、過疎地域にある学校は36.1%、山村地域にある学校は38.8%。特別豪雪地帯は5.4%、豪雪地帯は22.4%でした。都会の学校は少ないです。
    記述を記述内容により、分類して分析しました。たとえば、ある幼稚園の「木材を使用した理由」では、次のような記述がある。「H村は県内でも有数の木材産地であることと、幼稚園は幼児の生活の場であることから、家庭の延長と考え木造建築とした。木は、柔らかさ、優しさを醸し出すため、外壁には耐候性が期待でき木造を意識できる材料を使用している。」
    これを分析すると、「木の長所ゆえに使用した」という記述2つ、「木材産地だから、木材産地が近いから」という記述1つ、「デザイン・建築管理要因」についての記述1つが含まれるということが分析できます。他の例もこのように記述内容を分析してまとめました。
    たとえば、「木材を活用した理由」についての記述は次のようにまとめた。
    1.木の長所ゆえに活用した、2. 地域との関係、3. 生徒・園児へのはたらきかけ・教育、4.木材産地、5. 建築管理的要因・デザイン、6. 環境教育、7. 身近な建物との関係、 8. 国・都道府県・市町村との関係、9. 生徒・園児の精神安定、10.木の再認識。学校種別のまとめを[図1]に示します。
    「木材を活用した理由」の中で、「木の長所ゆえに活用した」とまとめられる記述は多く、複数の長所を挙げているのをカウントすると100%を超え、平均すると179.3%でした。特に「暖かさ」についての記述が頻繁にあらわれ、「やわらかい」の指摘も多く、「やわらかいので園児がぶつかっても安全」という幼稚園での記述もありました。次に「潤いのある」、「やさしい」、「香り」、「安全」などが記述されていました。[図2]を参照してください。
    次に「地域との関係」では「周囲の自然の多い景観にあう」、「周囲環境との調和を図るため」、「地元の要望があったから」、「小規模校であるから木造が可能」という記述にまとめられます。
    54.7%が「生徒・園児へのはたらきかけ・教育」について指摘しています。小学校では、「木が子どもの情操を豊かにいてくれる」という内容の記述が繰り返し見られました。
    「木材を活用した理由」としては、「自然の多い地域の景観とあうので木材を活用した」などの「地域との関係」についてのべている回答と「木材産地だから・木材産地が近いから」という地場産業の育成という意味も含む回答が含まれていました。木材産出地域の幼稚園では「地域住民に木の良さを再認識させるため」という記述もありました。
    「デザイン・建築管理的要因」についての回答は32.0%、デザインの工夫、大断面集成材、塩害対策としての木造選択など多様な記述が見られました。
    小学校の記述では「コンクリート系の既存校舎に不満な点があったから」という記述があった一方、「鉄筋コンクリート造、外壁、内装ともに木材を使用し、木造風で温かみのある木のぬくもりの感じられる校舎づくりとした」という木質化についての記述もありました。
    「自重が小さく基礎工事費が少なくおさえられる」「解体費が少なくおさえられる」「維持管理が容易」「冬季や雨期の結露を防ぐため」という記述も見られました。
    「環境教育」の側面の記述は幼稚園で多く、「環境に優しいので木材を活用した」「自然への関心を高める」などの記述がありました。
    「身近な建物との関係」についての記述は14.0%ある。小学校では「既存の園舎・校舎者が木造だっ合が多い住宅との関係ものべられていました。
    「国・都道府県・市町村との関係」について、児童生徒の落ち着きなどの「精神安定」について、「木の再認識」についての記述も見られました。
    4まとめ
    学校建築に「木を活用した理由」の記述は次のようにまとめられます。
    ・「木の長所ゆえに活用した」はどの種類の学校でも指摘が多いです。幼稚園でもっとも多く、高校では木そのものの長所に注目するというより、木を使った空間の魅力について注目している回答が多かったです。
    ・2番目に多い記述は、全体では「地域との関係」、幼稚園では「環境教育」でした。小・中学校は地域とのつながりが強く建設主体は町や村です。木の活用の理由として地域の景観や自然との合致、地域の人々の要望がのべられていました。
    ・3番目に多い記述は「児童生徒への働きかけ・教育」で、木を使った学校建築の教育効果が期待されていました。
    ・4番目に「木材産地」、次に「デザイン・建築管理的要因」があげられていました。
    これらの、学校に木を使うことの良さ、つまり「木の良さ」、「木を使った空間の児童・教職員への良さ」、「環境教育のはたらき」、をより多くのひとびとが認識することにより、学校の木質化は加速するのではないでしょうか。
    同時に、木材が使われることにより森林の循環が促進し、二酸化炭素吸収効果が保持され地球環境改善につながるということの多くのひとびとへの周知も、なお、必要と思われました。■参 考
    [1] 学校の統計は文部科学省のインターネットサイトを参照した。
    [2] 木材利用推進の取り組みについて、平成16年2月5日 副大臣


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vol.23

木の学校づくりネットワーク 第23号(平成22年10月23日)の概要

  • WASSシンポジウム開催日程変更のお知らせ
  • コラム:使い続けられる木の学校 その2:
    <日土小学校>
    愛媛県八幡浜市の日土小学校は、1956年から1958年にかけて建設された。2000年に発足しDOCOMOMO*1による日本における近代建築20選に木造建築として唯一選ばれた木の学校である。設計は当時、八幡浜市建設課に勤務していた松村正恒氏によるもので、切妻屋根2階建の校舎は、急峻なみかん畑の谷間を流れる喜木川に沿って配置され、川に向かってテラスが張り出す開放的な切妻屋根2階建の校舎となっている。また教室の両面から採光と換気を行うため、廊下と教室の間に光庭を設け教室を切り離すクラスター型*2の配置となっている。天窓や連続水平窓を多用するなど明るさに対する意識が高く、構造材や壁板は敢えて淡いパステルカラーで塗装されている。また構造的には木造と鉄骨トラスや鉄筋ブレース(筋かい)などを組み合わせ、開放的な空間を実現している。
    松村は50年代に日土小の他に、木造の病院や学校を設計しているが、まだRC造が普及せず、戦後の資材が乏しい時代には、地域の技術力と経済力の中で木材が使用された。日土小学校の部材は構造材であっても華奢な印象を与え、木造建築の復権を意識し、社会的な意義とともに大断面の集成材を用いる今日の木の学校とは異なっている。木造ならではの慎ましい空間のスケールや鮮やかな色彩計画は木目調の木の学校を見慣れた者にとっては新鮮に映った。
    校舎は現在も学校として使われており、平成20年~21年、リビングヘリテイジの概念に基づき、構造上の補強や断熱性能・吸音・遮音性能を高めつつ、外観・内観を変更しないように注意しながら、釘や合板にいたるまで、可能な限り既存の部材を使用し改修された。建築は変わらないがそれを使う人間の要求は常に変わってゆくため、建築を使い続けるためには必要に応じて手を加える必要があるという立場から、地域の設計者や大学の研究者が、改修に取り組んでいる。
    注1) DOCOMOMO (=The Documentation and Conservation of buildings, sites and neighborhoods of Modern Movement、ドコモモ)近代建築に関する建物、敷地、境の資料化と保存の国際組織。
    注2) クラスター型(cluster type)教室が通路や共用部分を中心に葡萄の房状の平面形式。
  • 「木の学校づくりシンポジウム in 中津」報告:
    平成22年9月25日に「木の学校づくりシンポジウム 木の学校のすゝめ -中津モデルから学ぶ地材地建-」を開催しました。このシンポジウムは今年の3月に竣工した鶴居小学校体育館(大分県中津市)を会場として、大分県内外から約110名の皆様にご参加いただきました。
    鶴居小学校体育館は中津市が「地材地建」を目標として、地元の木材及び地元の技術を活用して建てられた総木造の体育館です。特徴的な点として、この建設プロジェクトを立ち上げるにあたって中津市木造校舎等研究会を開催して、木材利用に関心のある川上から川下までの地元業者間の相互理解を深めながら準備を進め、コストへの配慮や徹底した木材のトレーサビリティを行ったことなどが挙げられ、全国的にも珍しい事例となっています。
    シンポジウムの最初には主催者を代表して中津市長の新貝正勝氏による挨拶と趣旨説明があり、建設プロジェクトの概要も含めて話されました。
    続いて、日本木材学会会長・東京農工大学教授の服部順昭氏による基調講演「製品の環境への優しさを評価する-ライフサイクルアセスメントとカーボンフットプリント-」が行われ、木材利用を中心として環境負荷の評価方法について分かりやすく説明されました。
    そして、中津市教育委員会による体育館における中津市の取り組みの具体的な内容について発表があり、シンポジウム後半は鶴居小学校のプロジェクトを中心に木の学校づくりをテーマとしたパネルディスカッションとなりました。
    以下、ここではパネルディスカッションの内容を中心に掲載します。
    新貝正勝氏(大分県中津市長)
    中津市は平成17年3月の合併によって、森林面積の占める割合が以前の3%から77.5%と大幅に増えた状況があります。ところがこれが利用されないことに対して、「大きな損失」と新貝市長は考えていました。また、「国産材は輸入材よりも安くなっているのに国産材が使われないのはおかしい」、「国産材利用の学校建築などはRCの在来構法と比較してコストが割高になってしまう」という根本的な疑問があり、今回のプロジェクトでは次のような目標が掲げられました。それは「地元産材を使う」、「川上から川下まで地元の企業を使う」、「RC造の建物と比較して同等かそれより安くする」というものであり、この達成が重要なテーマになっています。
    そこで、中津市木造校舎等研究会という自由参加の研究会が立ち上げられ、どのようにしたら目標を達成できるかについて、「木造の設計の考え方」、「乾燥期間の問題」、「地元産材であることの証明」、「建物構法」などについて検討されました。
    そして、実際に動き出してからも色々な問題があったということですが、「今振り返るとやってみてよかった」、「これを契機に日本の木造建築に対する考え方が変わればいいな」という話があり、「法律(公共建築物木材利用促進法)は日本の社会をあるいは森林を変えていく1つの経緯になると確信している」と今後の展開についての話がなされました。

    関口定男氏(埼玉県ときがわ町長)
    ときがわ町は平成12年から木の学校づくりに取り組んできた地域であり、その中で町長が中心となって「既存RC造校舎の内装木質化」を進めていることが大きな特徴です。
    関口町長からは内装材に積極的に木を用いることで「子ども達の環境を直してあげたい」という考えで始めたことであり、また既存の校舎を建て替えるよりコストが安くなるという説明がありました。そして最後に「一番大事なのは首長の決断」であり、「各首長にこういう取り組みを理解していただいて、リーダーから発信していただきたい」という強いメッセージが発せられました。

    井上正文氏(中津市木造校舎等研究会座長、大分大学教授)
    研究会座長として「こういうものをつくる場合は山、製材所、設計、施工といった一連の色々な方が係り合うので研究会に参加するということがポイント」であるとし、「一番大きかったのはお互いのことが本当は分かっていない」ことであると話されました。このことは、建築側は山のことが分かっていない、一方で山は建築の技術面に疎い、といった現状に対して異業種間の情報交換を行ったことで、「各セクションで何が一番重要なのかということをお互いに理解し合えたことが一番大きかった」という発言に繋がります。
    また、「技術の伝承としては継続的に仕事が続いていくことが大事である」、「こうしたプロジェクトは色々な人が係っていることもあり、誰かが利益を独り占めするのではなく、みんながそこそこメリットがあるというものでないと長続きしないだろう」という意見もありました。

    坂山大義氏(山国川流域森林組合参事)
    中津市の森林の現状、林業経営者の置かれている状況、鶴居小学校の工事における原木供給の経緯についての説明がなされ、今回の事業についての反省点や課題が話されました。
    課題は大きく3点あり、学校建築で使用されるような「原木規格が大きな特殊材が中津市内のどこにあるかというデータベースの整理を供給側がしないといけない」こと、「品種、強度、特性について建築設計で示された部材規格に適合する原木の仕分けの整理」、原木供給サイドの希望として「中津地域材を利用して建築するときに設計者、施工者、原木供給サイドが中津にある木材の材質・特性についての統一した認識をもつこととその材料特性を活かした建築構法を今後さらに研究していく必要がある」ことが挙げられました。
    そして、「川上、川中、川下のそれぞれの役割をネットワークした中で地材地建を進め、川上から原木の安定供給に努めてることで、そういう仕組みを支援していきたい」と山側関係者としての決意が語られました。

    今泉裕治氏(林野庁森林整備部整備課造林間伐対策室室長)
    建築物における木材利用の歴史・経緯を含めて「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」の概要について発表があり、その中で、「低層の公共建築物について、原則としてすべて木造化を図る」といった国の基本方針や、公共建築物の整備コストに木造とRC造とで明確な優位性があるわけではないといったことの説明もなされました。
    また、中津市の取り組みについて、「林業・木材関係者にとって実際に使われる側と研究会の中で意見を戦わせたことが非常に大事だった」とし、「お互いのことを知らないがために、お互いにビジネスチャンスを逃しているのが大きく、志を持っている人が研究会や勉強会に常に参加しているような状態ができれば変わっていくのではないか」という意見が出されました。
    —–
    会場からの発言やアンケートで寄せられた意見として、以下のような内容のものが見られました。
    「研究会でどんなことが行われたかの資料を公開してもらえると参考になる。」
    「成功できたのは研究会を立ち上げたからだということだが、どのようなコンセプトでどのような構成だったのかといったあたりが成否を分けたと思う。」
    「地材地建を行うことでの地域への効果(設計者、施工者、森林関係者への意識向上)の大きさを感じた。」
    「私達建築に従事するものが立場を超えて異業種の方とコミュニケーションをとることは大切と改めて感じた。」
    「中津市ではこれだけの取り組みをされたので是非とも2校目、3校目と続けてほしい。」
    「様々な切り口での話が聞けて大変よかった。出来れば苦労したこと、失敗しそうになったことをもう少し教えていただければよかった。」
    (文責:松田)


※パスワードは「wood」

vol.22

木の学校づくりネットワーク 第22号(平成22年9月4日)の概要

  • 木の学校づくりシンポジウム in 中津 開催!
  • コラム:使い続けられる木の学校 その1:
    長澤センター長の勧めで夏休みに岡山県高梁市の吹屋小学校を訪ねた。吉備高原の山中、ベンガラを生産してきた鉱山の村に明治42(1909)年に建設された木造校舎は、現在も生徒が通う、現役最古の木の学校である。建物は二階に講堂をもった本館と平屋で教室棟の東校舎、体育館として使われている西校舎で構成され、左右対称の配置となっている洋風木造校舎である。スギ材によるトラス構造が架構の特徴で、廊下部分の架構はあらわしになっていた。外壁はスギ板の下見板張り、腰板部分は縦羽目板となっていた。
    磨り減った階段の手摺や柱の傷が使い込まれた歳月を感じさせ木造校舎ならではの魅力となっていた。木造校舎の耐久性を示す貴重な例であるが、現代の木の学校づくりの参考として維持管理の取り組みが気になった。これまでに行われた主な改修工事は、昭和初期の本館の玄関ポーチの改造と廊下兼屋内運動場だった土間に床を設ける工事で、その後地盤沈下に応じた補強のため方杖を設置した他は、雨漏りの補修や穴が開いた床の張り足し、建具・サッシの入れ替えを行った程度で、日常的な掃除以外のメンテナンスを行うことはないという。しかし建物利用者による日常的な整備こそ、維持管理の基本ではないだろうか。現在は7人の生徒で掃除をしていると聞いたが、よく磨かれ黒光りした床が印象に残った。(樋口)
  • 環境研究グループからの研究報告:
    近年、環境問題が大きく取り上げられ、地球規模から身近な住環境まで対象として考えられるようになっている。学校建築においては、戦後建てられたRC造の校舎の老朽化に伴い、耐震補強工事がおこなわれる中、内装木質化による教室の室内環境改善のため改修工事が進められている。温度・湿度の安定化や衝撃緩和、精神的安定が期待できる点に、注目され始めている。また、全国各地において林業の衰退が報告されていて、その改善のため、埼玉県においては「彩の国木づかい促進事業」といった県産材を公共施設等に活用することを通じて広く県民に県産材の良さを普及啓発することにより地域林業の活性化を図ることを趣旨とした政策が実施されている。
    教室の熱環境調査例については梅干野や吉野らが発表しているが、教室の内装木質化に関する温熱調査は、ほとんど研究はされていないのが現状である。今回、環境研究グループは、内装木質化での都幾川中学校の室内環境の実測を行い、内装木質化前後で室内の温熱環境と温冷感について調査した。又、暖房機の使用によって低下しがちな空気環境の改善の効果についても調べた。
    学校建築に木を取り入れる主な理由としては
    ●木の持つ材質により室内環境の向上が期待される
    ●衰退する林業の活性化と伝統技術の継承につながる
    ●短い工期で実現できる
    というメリットを伴い、学習環境の向上を図ることができる。
    埼玉県ときがわ町では、面積の 7 割が森林という町の特性を生かし、小中学校の改修工事では、内装に地元の産材を使用した「室内空間の内装木質化」に積極的に取り組んでいる。都幾川中学校でも、平成 21 年の夏期休暇期間を利用して内装の木質化改修工事を行った。
    文部科学省が提唱する学校環境衛生の基準は「学校保健法(昭和 33 年法律第 56 号)に基づく環境衛生検査、事後措置及び日常における環境衛生管理等を適切に行い、学校環境衛生の維持・改善を図ること」を目的としている。
    この基準の中の「教室等の空気」の項目では、温熱及び空気清浄度についての判定基準は表-1に示す通りである。
    ■1年半の長期にわたる長期実測結果
    都幾川中学校の熱・空気環境年間グラフを図-1に示す。これは、6時間平均での変動グラフである。図-1から、内装木質化による熱・空気環境への効果は少ない。ただし、室内温度環境は、冬期では
    10℃以上、夏期では30℃以下という学校環境衛生基準内に収まっている。
    図-2は教室の内装木質化の詳細図であり、写真-4からは、夏型結露対策として、床の木質化は極めて有効な結露防止になっていることが分かる。
    温度環境に関しては、内装木質化による効果は少ないが、室温の立ち上がりをはやくすることや木床の重ね張りは足元の寒さをとるのに有効であることが明らかになっている。又、最上階は外気の影響を最も受けやすいので、最上階の断熱性能の向上が、夏季の防暑対策となる。
    改修後の都幾川中学校では相対湿度の値が学校環境衛生の基準で望ましいとされている 30~80%を満たしており内装木質化すると相対湿度が安定する。これは木材の持つ含水性による調湿効果の影響と思われる。
    空気環境(CO2)については、冬期1500ppm以内の基準に関し、開放型燃焼器具を採用していたため、1500ppmを超える時間帯が長かったものと考えられる。密閉型燃焼器具への転換が必要である。
    以上のことから今後は内装の木質化と合せて、適切な断熱計画による断熱化を図ることが理想的である。
  • 「第20回木の学校づくり研究会」より「木造建築における防火技術及び法規の現状と課題」講師:安井昇氏(桜設計集団一級建築士事務所):
    ■木の素敵な燃えかた
    火災とは、可燃物と酸素、着火源(熱エネルギー)の3つがそろって初めて起こる。またどれかを退ければ消火できる。一般的に木材は火に弱いと思われているが、木材は加熱を受けると表面に沢山の小さな空洞の層をつくり、それが断熱材の役割を果たし、内部に熱を入れないようになる。水分が全て蒸発してしまわないと表面は燃えてこず、また表面は燃えていても裏面は熱くならない素敵な燃え方をする。ただし燃え進みにくいが、燃え止まりにくい。1分間に0.3~1mm程度燃えすすみ、放っておくと全部燃えてしまう。この燃えかたをきちんとコントロールして、人が逃げるために何が危険か考え、煙に巻かれず、輻射熱で逃げられないことがなく、消防隊が火を消しやすく、隣の建物に火を移さないように配慮すれば、安全な木造建築を計画できる。
    ■防火構造の考え方
    木造が火に弱いと思われてしまうのは、構造体部分の可燃物の量の多さによる。裸木造の方は短時間で躯体に火が回り、収納可燃物と構造体がほぼ同時に火が回る、準耐火建築物の場合はまず収納可燃物が燃え、次に躯体に火がまわる。火の回りが早くては人が助けられず、消火活動の妨げになる。そこで木造の準耐火建築物は構造体がゆっくり燃えるようにデザインされた。同じ可燃物量でもゆっくり燃えると周辺への影響は小さく、消火しやすい。また郊外と密集地では防火のあり方も変わってくる。密集地では隣の裸木造も燃えてしまう可能性がある。隣の家が燃えている場合に、外壁と軒裏だけでも燃えないようにモルタルやサイディングで被覆するのが防火構造の考え方。裸木造が燃え尽きるのにかかる30分間、燃え抜けないことが防火構造の条件となる。火災外力を与えるものが30分で燃え尽きると仮定して2階建程度の建築物であれば外壁で延焼防止が可能という考え方である。
    ■燃えかたをデザインする
    燃やさない部分、燃え抜けない部分をどう設定するのかが準耐火建築物の課題である。例えば木造建築にとって構造上重要な小屋裏を守り、同時に意匠上重要な軒先を被覆せず防火性能を持たせるために垂木の間隔や垂木の断面寸法は変えずに、面戸板と野地板の厚みを上げて防火性能を高める方法がある。平成12年の準耐火建築物の野地裏に関する規定の根拠となった実験では垂木40mm角、面戸板と野地板がそれぞれ60mmと30mmであれば50分間燃え抜けないことがわかった。50分間燃え抜けなければ隣の家の火事は鎮火しているという考え方だ。また京都の町屋は火事があるけど、なかなか死なないと言われているように、敢えて白い煙を出し、火災の早期発見を促す避難を意識した燃やし方も考えられる。燃えてはいけないところはどこなのか、どんな燃やし方をしたらよいのか考えながら技術開発する余地はまだまだ残されている。
    ■木造耐火構造の可能性
     2000年に法律改正があって、木造の耐火建築物も建てられるようになった。現在は4階建ての木造建築が建てられるようになっている。その手法としては①最初から燃えないように木材を被覆する方法、②火が燃え進んでいくと、木裏に入れた鉄に熱エネルギーが吸熱されて火が消える仕組みを木材に組み入れる方法、③一定の時間は燃え進み、その後木材自身が燃え止まる部分を、薬剤を注入して形成する手法などがある。さらに建物の部材の防火性能を高めるのではなく④木材を、燃えないところに遠く離すという方法も体育館やドーム型建築にみられる。現在は①が比較的多く実現されているが、費用がかかる②や④は少なく接合部の防火ラインが実証されていない③はまだ開発中である。しかしこれらの今後木造らしい木造建築を建てるための技術として期待される状況である。
    (文責:樋口)


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vol.21

木の学校づくりネットワーク 第21号(平成22年8月7日)の概要

  • 「大分県中津市でシンポジウムを開催!」:今秋、大分県中津市において市との共催で木の学校づくりシンポジウムを行います。日程は9月25日(土)で、会場は中津市が地材地建を目指して建設した鶴居小学校体育館という総木造の体育館です。中津市の取り組みについては、本紙の17号、18号で紹介を行っております。プログラムや詳細な時間については追ってお知らせいたしますので、皆様のご参加をお待ちしております。
  • コラム:「木の学校についてのとらえかた」:
    WCTEについて初めて耳にしたのは2009年の5月ぐらいだったでしょうか。木と建築についての国際会議が2010年の6月にあるということでした。
    WCTEとは”World Conference on Timber Engineering” の略で、「木材工学国際会議」と訳せます。WCTE2010は第11回にあたり、1988シアトルにはじまり、1990に東京、1991 London、1996 New Orleans、その後2年ごとに開催され、2008宮崎、2010にRiva del Garda (イタリア北部) で開催されています。
    私が木の建築について深く関わったのは2009年以来です。2009年の秋から翌年春にかけて、研究センターにある木の学校を利用した人々の意見のデータをもとに分析を行い、私にとって新鮮な「木の学校」について投稿希望の梗概を提出し、招待を受け、8ページの論文にまとめ投稿しました。
    今回の論文は木の学校を実現した学校職員と児童生徒の「木の学校についてのとらえかた」についての記述を分析し、論文の題目は “Cognition on Planning Wooden School Architecture” となります。
    論文では「木材を活用した理由」、「学校施設の今日的課題への対応」などの記述を分析しました。結果として学校職員と児童生徒、そして地域の方々が木の良さを理解し、木の学校を実現していることが分かりました。木の暖かさ、柔らかさについては何度も何度も記述されていました。幼稚園では木に触れることの良さ、中高ではすぐれた教育環境の実現について多く記述されていました。論文の結びとしては「もし分析で見いだされた認識が人々に広まれば、優れた木の使用は加速すると考えられる。」としましたが、都会のひとびとも貼り物でない無垢の木の良さについて認識し、木の活用が高まればよいと思っています。(宮坂)
  • 建築生産シンポジウムで研究論文発表:
    7月29、30日に開催された日本建築学会の建築生産シンポジウムでWASSの研究成果の論文発表を行いました。木造建築のセッションで「木造ハイブリッド構造を適用した学校建築の構造形式に関する調査研究」、「木材を利用した学校建築の生産プロセスにおける仕様書の役割」、「秋田県能代市における木造学校建設事例の検証」の3つの論文です。
    1、2番目の論文の内容の一部は本紙の19号、20号に掲載してありますのでご覧下さい。3番目の内容は、木造学校の建設が集中的に行われている秋田県能代市の8校7棟の事例について、その概要、事業スケジュールや工期、木材業者団体の役割などの分析を行ったものです。
    それぞれの論文の詳細については、「第26回建築生産シンポジウム論文集(2010)」(日本建築学会)をご参照されるか、WASS事務局までご連絡下さい。
  • WASS設計手法研究部会の研究報告:
    ■設計者の役割と木の使い方
    一般的に学校に木を使うことには、学校の規模や教育としての場、地域の中核としての性質から、発注者より以下のような意義が求められる。(「こうやって作る木の学校」本通信.19号参照)
    ① 教育的効果
    心理・情緒・健康面・熱環境への効果
    木の空間を生かす環境問題や地域学習の場
    ② 地球環境への配慮
    持続可能な木材利用による森林整備へ貢献。
    その結果としての地球温暖化抑止へ貢献、
    ③ 地域の風土、文化への調和
    大工技術者の育成、地域の林産業の活性化
    一方で、木の学校の設計には、通常の学校や木造の住宅とは異なる課題点が多く、設計者は、木材の供給源となる山林と学校の現場の双方の事情を把握しつつ、木の使い方についてプロジェクト全体見通して調整していく役目を負う。
    本研究グループは木の学校の設計における課題点を整理する試みとして、各学校における木の使い方に着目し、「どのような木を(樹種)」「どこから集め(産地)」「どのように(加工方法)」「どこに(部位)」使っているかという点に留意しつつ、特徴的な木の使い方をしている事例を収集し、設計者にアンケートとヒアリングを行い、木の使い方の判断要因と設計上の課題点を調査している。これまでに対象とした校舎の事例は、木造校舎(一部RC造)2校、混構造4校、内装木質化2校で、今後より多くの学校を対象として調査を継続する予定である。
    ■各部位と木使いの特徴(表1参照)
    8つの学校を延床面積の順に並べ、木の使い方について主要な部位、材種と木材加工、木材調達の範囲を地域材(県産材含む)、県外の国産材、外材に区分して示した(表1)。大断面を要する構造材には国産針葉樹の他、外材のベイマツも用いられており、カラマツとベイマツは集成材として用いられる傾向がみられた。一方、意匠性が求められる場合もある仕上げ材には無垢材が用いられる傾向があり、特に日常的に摩耗する床材には広葉樹もみられる。天井材にはスギ材の他、ボード材が用いられる傾向がみられた。また加工の精度が求められる、建具と窓枠には国産集成材の他にスプルス、パイン材等の外材が用いられる傾向がみられた。
    木材の調達範囲にみられる傾向を大別すると、発注者となる市町村やその周辺の山地から集材を行う地域材を重視する場合と、木材の調達範囲を限定せず複数の地域から木材の調達を行う場合に分けられる。基本的に川上にあたる林産地では前者の傾向が強く、川下である都市部では後者になりやすいと考えられる。しかし林産地であっても、発注者が材料を支給する方法(分離発注)をとらず、建設業者に委託する場合(一括発注)、地域材の使用を基調としつつも、性能を確保しコストを抑えるため、または施工スケジュールを考慮して、部分的に他の地域の国産材や外材を利用する場合がある。また私設の学校や、県が運営する学校である場合など特定の林産地を背後に背負っていない場合でも、地域産材が優先して用いられる場合もある。木材の調達範囲は発注者や設計者が木を使うことに見出す意義に応じて異なってくる。
    ■木の使い方に見られる木の学校づくりの課題
    <川上の学校>
    木の学校づくりに取り組み易いのは、設置の意義として前項③を強く意識する川上である。熊本県のS小学校(表1.①)は町土の8割が人工林に覆われたスギ・ヒノキの供給地に立地しており、山林が伐採期を迎えるなか、町内の公共施設では木材利用が促進されてきた。無垢材による木造2階建校舎の設計案はコンペで提案されたものであるが、建設に必要だった構造材は地元森林組合や地元製材業者の会、林業研究グループによって調達され、パイロット材の管理には熊本県林業研究指導所が指導にあたった。このように行政が積極的に木材調達に関与する場合は、木材の性能にばらつきに配慮した、余裕のある歩留りを設定することが可能となり、各部位の仕様に合わせ地域材を用いやすくなる。
    しかし地域材を用いる意思が明確な林産地であっても、地域材が構造材として用いるのに必要な規定の性能や数量に達しない場合もある。スギの良材の産地として知られ、平成6年以降市立の小中学校を木造化する取り組みを続けてきた秋田県能代市のS中学校(表1.④)では、地域産のスギの無垢材により計画されていた柱・梁材に、予定された性能を満たせない部分が生じ、外材のベイマツ集成材で補い必要な性能を確保している。
    地域材の樹木の性質や供給量によっても、用いる個所や加工方法を工夫する必要が生じる。戦後ブナ林業が盛んだった時代を経て、現在は針葉樹・広葉樹を扱う比較的小規模の製材業が営まれている福島県南会津町のT小学校(表1.⑧)の場合は、町内で賄える木材供給量を考慮した結果、使用部位は限定され、堅牢で耐久性が求められる床に広葉樹のコナラを使用し、スギ材は取り換えのきく外装材に、捩れやすいカラマツを間仕切り壁として水平方向に連結して用いるなど、樹種の性質に合わせ多様な地域産材の使い方が工夫されている。
    アンケートでは流通材で対応できる構法を初期から考えることも必要という設計者の意見もあった。地域材と流通材との使い分け、集成材と無垢材の使い分けの判断も設計者に委ねられた地域材を活用する工夫の一つである。
    <川中、川下の学校>
    林産地ではない都市部の学校でも前項①や②にあたる意識の高まりから木が使われている。福岡市の私立S幼稚園(表1.②)では樹状型の柱とフラットな格子状の梁による開放的な空間を意図した木造園舎が計画され、それに要する性能を満たす柱と梁には信州カラマツの集成材と宮崎産スギ材の集成材が用いられ、近隣及び遠隔地より木材が調達された。同じく私立の神奈川県厚木市のN初等学校(表1.⑥)では、環境に配慮する理念から、丘状の敷地と一体化した木架構の校舎が計画され、木材も地域循環を意識して県から補助金を得られる県産スギ材が使用された。私設の学校では発注者から木材の供給を受けることはないが、設計者が明確な志向を発注者に示し、補助制度を活用するなど、早期に準備を進めることで木材の調達範囲を選択することもできる。
    調査事例中、木材の調達先が最も広範囲に渡っていたのが、大手組織事務所が設計した東京都港区K小学校(表1.⑦)であった。K小学校ではサッシ周りの外材の他に、区が都内に所有する区有林のスギ材、北海道のカバ材、静岡、千葉のスギ材等が仕上げ材として用いられた。設計者ができるだけ木を使ってほしいという区の意向をふまえつつ、工期を重視して、多肢にわたる施工業者に樹種、性能以上に木材供給先を指定することで負担がかからぬよう配慮した結果である。
    川上と川下の交流はまだ始まって間もないが、アンケートでは、川下の事例では各地の樹種の性能やメンテナンスを含めた使い方の指標となる情報を求める声が目立った。
  • 第19回木の学校づくり研究会より「都市の木造化について」講師:腰原幹雄氏(東京大学生産技術研究所准教授):
    ■普通の建築材料としての木材
    木材というとばらつきや欠点があるために構造解析をしにくい材料である、鉄筋コンクリートや鉄骨のような工業材料ではないために木造建築は工学の外にいる、などと言われてきた。しかし、最近はエンジニアードウッドなどのばらつきや欠点をなくす方法、またばらつきをコントロールしてその中で設計を行うということが可能となってきている。重要なのは、ばらつきなどの要素や強い・弱いではなく、それぞれの性能をしっかりと把握することである。
    そういった状況の中で現在、森林資源の整備・有効活用や炭素固定能力など、木材の利用について追い風になっており、このチャンスに多くの木造建築を造る、木造の技術を進展させるということを進めていかなければならない。そして、適材適所という考え方の中で、鉄筋コンクリートや鉄骨と同じように木材が普通の建築材料、構造材料として受け入れられるような仕組みが必要となってくる。
    ■都市の中の木造建築
    2000年の建築基準法改正による性能規定化によって高さ制限や階数制限がなくなり、これまでの平屋の大規模木造だけではなく、都市の中の木造建築として多数階の中層木造・高層木造という建物が建てられるようになった。金沢のMビルなど実際に建てられた多層木造建築もあり、その他にも色々な計画が進められている。
    こうした新しい木造建築が技術的にも可能となったことは木造関係者の中では広まっているが、一般的な建物としていくためには鉄骨造や鉄筋コンクリート造などの他分野、地方公共団体など施主となる人達にもしっかりと伝えることが重要である。
    また、大空間が必要な建物や避難施設としての建物ということを考えるとすべて木造にすることはハードルが高いので、公共建築などの中に1層でも2層でも木造にしていくことで設計者や施工者の木造への認識も出てくる。そして、そのためには保育施設や診療所、会議室のような市民が集まる場所など木造が喜ばれる用途についても考えていかなければならない。
    ■建物のモジュール設定と材料規格の重要性
    こうした木造建築を建てていくためには、そのスパンを一体どのようにするのが良いかを考えていかなければならない。今までの木造のモジュールは基本的に戸建住宅のためのモジュールなので、オフィスなどこれまでと異なる用途の木造建築にあわせた適切なモジュール新たにを作っていく必要がある。
    また、それとともに中高層木造用の材料の規格を新たに作るということが重要となる。例えば、戸建住宅は非常に高度なオープンシステムであり、製材屋は105mmや120mmという幅の製材を作っておけば流通に乗せられ、安く作ることができる。設計側もそういった材料が氾濫していることが分かっているので規格材を利用し、木造住宅を安く作ることができる。一方で、木造の耐火部材などについては各々ばらばらに開発しているからなかなか一つの建物にならない。
    現在は非常に重要な時期で将来的に失敗しないためには、関係者で協力して各部材について一通り揃えて安定供給する規格や仕組みなどのベースを作ってから、各社オリジナルの部材を作るという順序にした方が良い。また、どういうモジュールの建物を想定しているかを考えることも規格作りでは重要となる。
    このようにしてモジュール、材料の規格を作っていくことで建物としての標準形ができ、そこから建築家の知恵によって魅力ある発展形に繋がっていくことになる。今はこの標準形、ベースをしっかりと作ることが大切であり、このことにより戸建住宅のオープンシステムのようになれば、安く大規模な木造建築が可能となる。(文責:松田)


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vol.20

木の学校づくりネットワーク 第20号(平成22年7月10日)の概要

  • 「木の学校づくりの手引書”こうやって作る木の学校”発行」:
    「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が、去る5月19日、国会において全会一致で成立した。それを受ける形で5月28日に文部科学省・農林水産省から「こうやって作る木の学校~木材利用の進め方のポイント、工夫事例~」が発行された。文部科学省からは少ない先進事例をもとに要点をまとめた「木の学校づくり」(1999)や木を活用する上での疑問点をQ&A形式で解説した「早わかり木の学校」(2008)など木の学校づくりの手引書が発行されてきたが、本書は昨年度WASSが伐採から竣工まで追跡調査を行った埼玉県の都幾川中学校の内装木質化事例を含む近年の研究成果や学校の事例37校がテーマ別に紹介されている。自治体担当者や設計者から収集した情報をもとに補助制度への申請期間や、特に木の学校をつくる上で課題となる木材の伐採・乾燥・製材・加工期間を見込んだ事業スケジュールモデルが提示され、歩留まりを上げる、木材を使いきる、同じ規格の材、架構、ディティールを繰り用いるなど、コストを抑える設計上の工夫も解説され、これから木の学校づくりに取り組む行政担当者や設計者にとって、より実践的な情報が盛り込まれている。
    本書の末部で今後の課題点としてあげられているように、JAS材や特定の地域の木材を意図して使うことが、実際どのように森林の循環に結びついているのかといった、社会システムのモデルとして各事例を評価する視点が求められており、今後WASSでは本書を貴重な資料として課題の分析に活用していく。 (*)「こうやって作る木の学校」は以下の林野庁URLから閲覧することができます。
    3月に長澤センター長の海外木造建築事例研究に同行し、スイスアルプスの麓、グラウブンデン州フリン村を訪ねた。標高1000mを越えるこの村の家々は周囲のモミやカラマツを用い数世代にわたり改修が続けられたため、木材の退色度合いにより村並はモザイク模様に見え、建築を維持させる村人の営みが一つの景観を生み出していることが魅力的に見えた。木造建築の各部位、部材は常に様々な劣化外力にさらされており、長期間維持するためには、環境条件に応じたメンテナンスを継続することが必須条件となる。
    80年代以降再び建てられるようになった日本の木の学校ではどうか。建設時には定期的な塗装や点検が計画されるものの、実際には木の特性に十分に配慮した施設維持費を計上する自治体は少ない。木の学校の設計者には木の特性をふまえ、長期間の使用を想定した設計が求められる。近年の木の学校の特性であるRC、S造との混構造や集成材の利用が見られる初期の学校が築後20年を迎えるなか、設計者の経験をふまえた現代の学校に見合うメンテナンスの手法の情報が蓄積・共有され、維持管理の体制づくりに向け、認識を深める時期を迎えている。日常的な清掃活動をはじめ、メンテナンスに対する
    積極な姿勢が地域のシンボルと
    しての学校に愛着を湧かせるは
    ずである。(樋口)
  • WASS建築生産部会の研究報告:
    ■木の学校づくりにおける建築生産上の特徴
    学校建築に木材を利用する場合、木造の戸建住宅やRC造などの学校と比較して、建築生産の中で一般的に以下のような特徴が挙げられる。

    ①戸建住宅とは異なり規模が大きいため、短期間に大量の木材を調達し、施工しなければならない
    ②コンクリートや鉄骨などの材料とは異なり、木材は乾燥期間を必要とするため、木材の発注から納品までのリードタイムが長い
    ③公共事業の場合、事業費が単年度予算で組まれるため、伐採時期や乾燥期間などのスケジュール設定が難しい
    ④地域産材など木材の産地を指定する場合が多い ⑤木材の特徴として、特に製材の場合、基準に見合った品質の材料を揃えるのが難しいことが多い
    これらの特徴が関連しあうことで、例えば、短い準備期間で大量の良質材料を調達する必要がある、単年度予算のために十分に乾燥した木材を準備することが困難である、設計者の指定する仕様と地域の木材調達能力の間に格差がある、などの問題が発生することとなる。それに伴い、設計者・施工者・木材供給者がスケジュール、報酬、木材調達等についての多様な困難に直面することから、一連の生産プロセスを分析し、効果的なプロジェクト運営を可能としていくことは重要である。
    ここでは、学校建築に木材を利用する際の建築生産プロセスの中で、仕様書に着目して調査を行った結果について報告する。設計図書における仕様書は、発注者からの要求も含めて、使用する木材を国産材や地域産材に限定する場合の木材調達に密接に関わっており、その役割は大きいと考えられる。
    ■標準仕様書の現状
    木造建築に関連する標準仕様書の中で学校建築の木質化に関わる代表的なものとして次の4つ仕様書が挙げられる。
    ①木造建築工事標準仕様書(平成22年版)
    :国土交通省大臣官房官庁営繕部監修
    ②公共建築工事標準仕様書(平成22年版)
    :国土交通省大臣官房官庁営繕部監修
    ③公共建築改修工事標準仕様書(平成22年版)
    :国土交通省大臣官房官庁営繕部監修
    ④建築工事標準仕様書 JASS11 木工事 2005
    :日本建築学会

    右表に示すように、これらの仕様書では木材の品質について、日本農林規格(JAS)が大きな基準となっている。①~③では原則として「日本農林規格による」と表記され、JAS材を使用することが前提である。これに対して、④では最初に「特記による」と書かれており、日本農林規格は特記がない場合の品質基準という位置付けである。つまり、④の仕様書では木材の品質を設計者が指定することが前提であり、①~③と比べて使用可能な木材の範囲が広がっていることが分かる。
    ①~③は官庁営繕関係統一基準として定められたもので、国家機関の建築物やその附帯施設などに対しての適応が意図されている。学校建築の場合、公共事業であるとともに国からの補助金を受けているといった事情から、一般的にこれらの仕様書が標準仕様書として用いられることが多い。こうした背景から、仕様書作成の際にはこれらの内容の影響を大きく受けることになると考えられる。
    ■地域産材の利用とJAS材
    標準仕様書で木材品質の基準となっているJASであるが、規格の中で製材の品質として節、割れ、曲がりなどの欠点や保存処理、含水率、寸法、曲げ性能などの項目があり、等級を定めている。
    このようにJAS材は木材製品としての品質管理がなされており、構造材や内装材などの建材として利用しやすい木材であるが、一方で地域の木材を利用して学校建築の木質化を行う場合には品質とは別の問題が生じる可能性がある。
    全国の製材工場数は6865工場であるのに対して、JAS認定工場は613工場と全体の9%であり、製材生産量は全体の10~20%程度である。北海道、東北地方、九州地方を除くと、10工場以下が大勢を占めており、全くない県もある。このため、市区町村単位だと認定工場のある地域は非常に限定され、地域産材としてのJAS材の入手が難しくなる。
    また、学校建築の木質化では大量の木材が必要であり、地産を木材利用の方針とした場合には地域内の複数の工場で構造材・造作材の種類別、数量で分担して製材し、材料を調達している状況が多い。
    JAS認定工場は製材規模や必要な設備、認定のための手数料を含めた維持費などが必要となるため、地域の小規模な製材所では負担が大きく、JAS認定工場であることが困難な状況もある。
    以上より、学校建築の木質化において市区町村単位で地元の木材を利用する場合、その木材供給能力を考慮せずに仕様書の中でJAS材を指定してしまうと、JAS認定工場がなく、地元の製材業者では対応できない事態が発生する可能性が大きい。
    ■実際の事例における特記仕様書
    地域産材を利用した学校建築での特記仕様書の事例として、A中学校屋内運動場(滋賀県a市b地域)を取り上げる。この建物はRC造の構造体の上に木造のアーチ梁による小屋組を架け渡した構造であり、その部分に地域産材が利用されている。
    木材は地元産の支給木材とそれ以外に分けられており、特記仕様書内で施工者調達分についても表面仕上、含水率、樹種とともに、「木材は極力b産または、a市内にて調達した材料を使用する様努めること」と地域産材を用いることが指定されている。
    小屋組に使用する木材(支給木材)については構造詳細図にて「スギ、E70、含水率25%以下」と記述がある。これらの値は特別高品質のものではないが、大スパンのアーチ梁の安全性を確保するための指定であり、設計者の指示で品質検査の徹底がなされている。これは、建物に使用する全ての木材に対して一律にその性能を指定するのではなく、必要な部分に対して必要な性能を確実に確保するという考え方である。
    この事例のように地域産材によって学校建築を建設する場合、特記仕様書において使用する木材の産地指定や木材を供給する地域の状況などを考慮して品質を指定することは重要である。
    品質が保証されたJAS材は利点が多いが、地域産材を使用することを前提とした場合、現状では大きな困難が生じる可能性が大きい。一方で、建物としての適正な品質を保障するためには、JAS材以外の木材の性能をどのように確保するかも大きなテーマであり、特記仕様書での指定方法とともに設計者の判断が問われることになる。

  • 第18回木の学校づくり研究会より-「日本の林業の実態と国家戦略」講師:梶山恵司氏(内閣官房国家戦略室内閣審議官):
    ■林業は国家戦略の重要課題
    これまでの森林・林業政策を抜本から見直すために現在、林野庁を中心として「森林・林業再生プラン」という大掛かりな改革案が検討されている。日本の森林は林齢構成から今後50年生を超える木が増えていく状況にある。そのため、林業は現段階でしっかりとした基盤を作ることによって地域経済を支える柱になるため、国家戦略の重要課題の一つとして位置づけられている。
    これからの林業として「保育から利用へ」と転換がなされようとしている。つまり、「木を育てる林業」と「木を利用しながら森林整備を進める林業」は根本的に異なり、これからは伐採技術、機械導入による工程管理、コスト計算、マーケティングなどが要求される新しい林業を築き上げることが将来に向けて重要なことであり、この政策の狙いとなる。
    ■日本の林業の現状
    林業は先進国型の産業であり、世界の木材生産量の2/3は先進国によるものとなっている。1992年以降の丸太生産量を見ると、ヨーロッパ、北米では生産量が伸びているのに対して、日本では現在まで低下し続けている。
    日本の林業が衰退した原因として、外材の導入などがよく挙げられるが、そうではなく「自分達のせい」と梶山氏は分析する。日本の木材生産量の推移のデータによると、現在まで生産量はずっと低下し続けているが、1960年代では6000万m3の木材を生産していた。実はこの生産量が問題であり、当時の日本の森林の蓄積量が20億m3だったことを考えると過伐であったということになる。当時は木材の需要が大きく、価格も非常に高かったため林業は儲かる仕事だったという背景があり、実は現在ではなく当時がある種異常な状況であったということになる。その後の生産量の低下に対して、むしろ外材は供給量の低下を補っていたことになり、林業衰退の要因とは反対の見方となる。
    ヨーロッパの林業と比較した場合、日本では林業機械を見ても問題点が浮かび上がる。ヨーロッパで使われているハーベスタ、フォワーダなどの林業機械は当然のことながら林業用に設計され、生産における効率性などが重視されている。それに対して、日本では基本的に土木用の重機を改造したものであり、効率性もさることながら安全性についても不十分なものである。路網についても同様でフィンランドでは1960~1990年代に集中投資を行って整備がなされてきた。日本では路網整備が遅れているが、山の管理のためにも早急に進める必要がある。
    また、所有者をサポートする体制も重要である。日本では所有規模が小さい、複雑であることから個人の所有者が林業の担い手となりにくくなっているが、これはヨーロッパなどの先進国に共通のことである。そのため、ヨーロッパでは森林管理の専門家や組織が個人所有者をサポートし、役割分担や連携などがうまくとられている。一方、日本でその役割が期待されていたのは森林組合だが、その大部分が公共事業に依存して活動しており、残念ながら森林管理などの専門性や計画性がないまま間伐などが進められてきた。
    ■森林・林業再生プランでの実践
    このプランでは①基本政策、②路網、③人材育成、④森林組合改革、⑤木材流通・加工・利用、⑥予算の抜本的見直し、の6つの大きな検討項目が掲げられている。これらは密接に関係しあっている事柄であり、総合的な推進が必要となるが、その中でも人材育成と森林組合改革(公共事業からの脱却)は非常に大きなテーマとなっている。人材育成については現在5つの地域での集中投資によるモデル事業が実践されており、ドイツやオーストリアのフォレスターによる指導や研修が行われている。
    新しい林業の基盤が今まさに築き上げられようとしており、今後の展開が期待される状況である。(文責:松田)


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vol.19

木の学校づくりネットワーク 第19号(平成22年6月12日)の概要

  • 「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が成立:
    「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が、去る5月19日、国会において全会一致で成立した。木材利用促進の意義を、地球温暖化の防止、循環型社会の形成、山林の保全、水源の涵養、地域経済の活性化等、幅広い視野でとらえた上、そのための施策を総合的に進め、それにより林業の健全な発展と森林の適正な整備につなげることを目的とするものだが、建築への木材活用について一つのエポックととらえられる。
    ここでいう木材利用には、工作物の資材、製品の原材料及びバイオマスエネルギー等が当初案に加えられ、国内で生産された木材他を使用することとしている。主眼とされているのは言うまでもなく建築であり、促進スキームとして、国・地方公共団体が整備する庁舎、学校その他の公共建築物について、低層・小規模のものは原則として全て木造化を図ることとされている。また、内装等に木材を使用することも当然含まれる。
    注目されるのは、木材利用促進のために国の責務として、率先して公共建築物への利用に努力し、木材の適切な供給の確保のために必要な措置を講ずるということとともに、建築基準法等の規制の在り方について、耐火性等の研究や専門家の知見、外国の規制の状況等を踏まえて検討を加えた上、規制の撤廃または緩和のための必要な法制上の措置等を講ずると明記されている点である。学校建築の場合、建物面積が大きく、学校として求める空間を実現するのに、現行の様々な法的規制が木材の利用を困難にしているということが設計者から指摘されているからである。
    法律では農林水産大臣と国土交通大臣が基本方針等を定め、公共建築物における木材利用促進のための計画、整備の用に供する木材の適切な供給の確保、実施状況の確認等を行うとされている。これを促進するスキームの中には、支援措置として、公共建築物に適した木材を供給するための施設整備等の計画の認定、取組に対する林業・木材産業改善資金の特例等の法律による措置、また官庁営繕基準について木造技術基準の整備、品質・性能を確保するための木材加工施設等の整備等が掲げられている。
    法律の内容の肉付けは今後の取組に期待されている部分も多い。当初案に対して書き加えられた条項の一つに、木材利用の促進に関する研究や、技術開発・普及、人材育成等を進めることがある。WASSもその一翼を担っていかなければならない。
  • 「WASS構造部会の研究報告」:
    ■多種多様な木材、木造構法と建築形態を生かす構造計画法と構造設計法
    木造の学校建築で使用される木材は他の木造建築と同様にすぎ、ひのき、べいまつなど無垢材(製材)とすぎ、からまつ、べいまつによる大断面集成材が一般的である。これら木材は材種ごとにヤング係数、各種強度、比重など材料特性が異なり、それぞれ含水率の変動に影響される。
    木造の架構には大工を中心とした職人達の知恵、技能を結集した伝統木造構法と、接合金物、エンジニアリングウッド、部材の機械加工(プレカット)、プレハブ化など優れた技術開発の蓄積による現代木造構法が採用されている。架構形式は単材または組み立て部材の柱、梁、桁から構成される軸組やラーメン構造が一般的である。耐震要素には落とし込み板壁、面格子、筋かい、構造用合板などが採用され、大規模な床組および小屋組ではトラス構造、格子梁などで計画されることが多い。
    このように木造の学校建築では設計時に採用される木材、架構形式、耐震要素の組み合わせにより木の扱い方は多種多様となっている。
    一方、日本の建築基準法では1950年に木造建築物の設計法が初めて定められ、許容応力度計算、壁量計算が導入された。壁量計算は一般的な軸組構法による建築物に対して、一定の耐震性能を容易に確保することができ、今日まで幾度か改正されてきた。
    1981年の建築基準法改正では、設計用地震力の抜本的見直しがなされ、あわせて保有水平耐力計算が導入されたが、学校建築では建築物の高さや形状的にこの計算法が適用されることは少ない。
    2000年には、性能設計の視点から限界耐力計算が建築基準法に導入され、伝統および現代木造構法を採用した設計において用いられている。壁量計算、限界耐力計算では床組、小屋組など水平構面の剛性確保が必要となるが、その手法と構造評価手法に関する知見は少ない。
    ■木造ハイブリッド構造による学校建築の木造化への新たな取り組み
    従来の片廊下式による画一的な建築形態から、敷地の形状および高低や周辺環境を積極的に取り込み、内部空間においては教室に隣接した機能的なオープンスペース、開放的で心地よい多目的スペース、ギャラリー、図書室を演出するための吹き抜け空間、教科センター方式の採用に伴う機能的で楽しい教室移動を演出する動線を創るために、多折線、曲線、曲面を効果的に用いた自由な建築形態の学校施設が多く建設されるようになってきた。建築意匠、構造設計に果敢に挑戦し、木造でありながら棟を湾曲させうねった建築形態を実現させた事例も見られる。これら建設事例の多くは、木造と鉄筋コンクリート構造を平面的または立面的に組み合わせた混構造、異なる木造架構形式の組み合わせ、組み立て柱、重ね梁、張弦梁など単材を構造的合理性に基づきビルトアップした複合部材、無垢材と大断面集成材、LVLなどエンジニアリングウッドを適材適所に併用した構造形式などで設計されている。ここでは、これら多種多様な構造形式を総称して木造ハイブリッド構造と定義する。
    そこで構造種別、木造の架構形式、木材の使用箇所、使われ方、製材か集成材などのキーワードを設けて木造ハイブリッド構造を明確に定義するために6つのカテゴリーを設定した。その上で学校建築の木造化における構造計画法について①建築計画、②建築意匠、③構造計画、④施工、⑤木材の5つの観点から整理を行ったものを次頁から示す。
    学校建築の木造化にあっては比較的自由な架構形式に対応できる許容応力度計算が最も多く採用されているが、面材耐震要素、接合部のディテールに応じた力学モデルに関する設計資料は少なく、構造実験データの蓄積が必要であり、その定量化には課題が多く残されている。また、木造と鉄筋コンクリート構造との混構造はそれぞれ構造体の剛性が大きく異なるので、その影響を精査し、耐震性能を確保する構造計画法を提案していくことがWASSの中での重要なテーマのひとつである。
    ■木造ハイブリッド構造のカテゴリー
    <カテゴリーI:平面ハイブリッド>
    平面ハイブリッドは木造部分とRC造部分が同一階で結合されている構造である。
    (1)建築計画
    ①同一階に木造部分とRC造部分が混在するので、一般的に木造部分は教室、図書館など生徒が使用するエリア、RC造部分は職員室、会議室、事務室など教職員が使用するエリアで計画されるので諸室の配置計画、動線計画が重要である。
    ②建築面積1000m2以下の保育園、幼稚園を平屋で計画する事例が多い。
    (2)建築意匠
    ①木造とRC造のテクスチャ、部材のボリューム感の違いを生かすことで他のカテゴリーに無い室内空間を実現できる。
    ②木造部分が負担する地震力が軽減される分、耐力壁は少なくなりオープンスペースを効果的にデザインすることができる。
    ③木造部分の屋根は、雨仕舞のため屋根勾配が必要となりRC部分との屋根形状のバランスをデザインすることが必要である。
    (3)構造計画
    ①地震時、強風時に木造部分の水平変形が突出しないようにRC造部分の配置に配慮することが必要である。例えば、RC造部分を平面的に+型、L型、=型、U型、ロ型、X型、Y型、○型に配置することは有効である。木造部の水平変形が大きくなるセンターコア式は避けるべきである。
    ②木造部分が2階建ての場合、床梁を平行弦トラス構造、大断面集成材による二丁合わせ梁、格子梁などとすることは2階床組の振動障害、たわみ軽減のためには有効である。
    (4)施工
    ①木造部分とRC造部分を同進行で施工することが可能なので、工期短縮、木材調達の計画が行い易い。
    (5)木材(無垢材or集成材)
    ①2階床梁は大断面集成材、柱、小屋組は定尺無垢材を使用するなどエンジニアリングウッドと無垢材を併用する材料計画が可能である。
    ②大断面材、長尺材以外の多くの木部材は定尺で計画しやすいので、林業圏が近隣になくても木材調達が比較的容易と思われる。

    <カテゴリーII:立面ハイブリッド>
    立面ハイブリッドは下階がRC造、上階が木造のように上下階で構造種別が異なる構造である。
    (1)建築計画
    ①木造階は生徒の生活環境を良くすることを目的として使用されることが考えられるため、上階に教室、それに付属するオープンスペースなどが配置されることが多い。
    ②上下階の構造種別が変わることで、上下の建築計画に及ぼす影響は少ないと考えられる。
    (2)建築意匠
    ①木造部分とRC造部分では、それぞれの仕上げ、設備などの仕様が異なるため、上下階で意匠的な見え方が変わってくる。
    ②小屋裏が高くなるため、天井を設けずに小屋組を見せることで、独特な空間を創り出すことができる。
    (3)構造計画
    ①木造とRC造では、それぞれの剛性が大きく異なるため、上下階の剛性の違いを考慮する必要がある。
    ②2階の床をRC造としているため、梁、床組の大スパン化による梁のたわみや、床振動、上階からの伝達音の対策に有効である。
    (4)施工
    ①RC造の湿式工事と木造の乾式工事が上下で分離されるので施工計画が比較的容易である。
    (5)木材(無垢材or集成材)
    ①剛性率を考慮すると、上階では集成材を使用しラーメン構造など剛性の高い木架構にすることが有効であると考えられる。
    ②無垢材を使用する場合は、筋かいを使用するなど壁の耐力を上げ、剛性を高くすることが効果的だと考えられる。

    <カテゴリーIII:木造+RC造(小屋、中柱)>
    小屋組は木造トラス、のぼり梁、水平梁で構築され他の躯体はRC造で構成されている構造である。
    (1)建築計画
    ①小屋組がトラス構造の場合、トラス下に柱が立たないので比較的開放的な空間を表現でき、オープンスペースや多目的ホールなどに適用しているものが多くみられる。
    ②のぼり梁、水平梁では木造中柱で木造梁を支えることが多いが、柱断面を小さくでき、耐力壁もあまり必要としないので、教室、オープンスペースが比較的計画しやすい。
    (2)建築意匠
    ①小屋組の形状が特徴的になるため、天井を設けずに小屋組を見せることで、独特な空間を創り出すことができる。
    (3)構造計画
    ①独立柱が存在する場合は、小屋が一体となって挙動するように考慮する。
    ②中柱を設けない場合には、小屋組にトラス構造、格子梁、張弦梁などが用いられることが多い。
    (4)施工
    ①RC造の上に木造の小屋組を載せるので仮設、仮筋かいが軽微で済む。
    (5)木材(無垢材or集成材)
    ①ホール、オープンスペースなど比較的広い空間をトラス構造や格子梁で渡すときには集成材が多く使われる。しかし、トラス構造の中でも平行弦トラス、立体トラスを用いる場合は無垢材が使用されることが多い。
    ②中柱を設ける場合では、比較的無垢材の方が多く使用される。

    <カテゴリーIV:木造+RC造(吹き抜け空間)>
    RC造内に木造架構を一体化した、またはビルトインして吹き抜け空間を設けた構造である。
    (1)建築計画
    ①多目的スペース、図書室、食堂などに適用されることが多い。
    (2)建築意匠
    ①同一階及び上下階でRC造と木造が混在しているので空間の違いを積極的に表現できる。
    (3)構造計画
    ①木造部は平面ハイブリット構造と同様に鉛直荷重が支配的になるとともに、地震時の水平変形が大きくなり易い。
    (4)施工
    ①RC工事後に木造部をビルトインするため、仮設及び揚重機の使用が制限される。
    (5)木材(無垢材or集成材)
    ①吹き抜けでは大規模な空間が生まれるので、大断面の集成材が多く使われる。
    ②長尺材、大断面材が必要される計画が多いので集成材の使用が多くなる。

    <カテゴリーV:柱頭多支点柱>
    上階床または小屋組を複数本に分岐した柱頭で支えている構造。すべて木造で構成されているものと、柱の立ち上がり部分をRC造として多支点の柱頭部分を木造としているものの2つがある。
    (1)建築計画
    ①多目的ホール、食堂、オープンスペース等の比較的大規模な空間を構成する計画で用いられるケースが多い。
    (2)建築意匠
    ①単調となりがちな上部空間を多くの部材で変化をつけることができる。
    ②柱の柱頭部分に複数の部材が集まってくるのでディテールをデザインして積極的に見せることが多い。
    (3)構造計画
    ①梁の支点間距離を短くする効果がある。
    (4)施工
    ①上部に部材が多く集まるので木工事が複雑になりやすい。
    (5)木材(無垢材or集成材)
    ①構成する木部材には基本的には軸力のみ伝達するので、無垢材が使われやすい。

    <カテゴリーVI:組み立て部材>
    主に柱部材に用いられ小断面定尺無垢材の組立て柱で、内部に鉄骨を挿入したものも計画されている。また、横架材では伝統構法による重ね梁などがある。
    (1)建築計画
    ①仕切りのない多目的スペースなど大空間に適用されることが多い。
    (2)建築意匠
    ①組み立ての方法により柱の断面形状が特徴的になる。
    (3)構造計画
    ①小径木で梁部材を挟み込むことでラーメン構造が構築できる。
    ②木材間に鋼材を挿入することで、柱と梁を一体化し易い。
    (4)施工
    ①現場での組み立て作業が発生するので、組み立て場所の確保と精度管理が必要となる。
    (5)木材(無垢材or集成材)
    ①複数本の木材で1つの部材を構成するので、地域産無垢材を多く使用することができる。

  • 第17回木の学校づくり研究会報告より:「みなとモデル二酸化炭素固定認証制度について」講師:小林紀之氏(日本大学大学院教授)、早藤 潔氏(港区環境課):
    ■みなとモデル二酸化炭素固定認証制度とは?
    みなとモデル二酸化炭素固定認証制度は平成21年度から東京都港区が制度の設計委員会を立ち上げてスタートした取り組みである。港区は以前より東京都あきる野市の市有林の活用を通じて、森林の作業路網整備や木材利用を行ってきた。その中で、予算の問題や公共施設などの限られた施設のみへの使い道など「自治体としてできることには限界がある」、「民間も巻き込んだビジネススキームを作らない限り、うまくいかない」と早藤氏は感じていた。そこで木材の炭素固定能力を活かして、「港区内で国産材を使うことで、港区が木材の利用とCO2固定のダム的な役割になればいいな」ということから、「都市部・山間部の両面における低炭素社会への貢献」を目指した制度づくりが始まった。
    ■みなとモデルの特徴
    この制度の画期的な点は大消費地である「都市」と木材を生産する「地方」とが木材と森を介したネットワークで結ばれることにある。港区は以前から交流のあった山側の地方自治体(現在15ヶ所)と連携を図りながら、信頼できる木材の供給を各自治体に依頼し、公共施設を始めとして民間の建物にも木材利用を推進しようとしている。また、事業者に対して、木材に固定されたCO2の評価・認証を行うことも制度の中で大きなテーマとなっている。
    ■制度実現のための課題
    平成21年度は制度の枠組みについて検討され、今後は細かい部分の精査が行われる。一方で、これまでに制度の実現のために乗り越えなくてはならない大きな課題が浮き彫りとなってきている。
    ①国産材ならば何でもいいのか?
    木を伐採して使うだけではなく、再植林などの「持続可能性の証明」は重要な要素である。現在、山側の自治体との連携の中で各自治体にその保障をしてもらう案で検討が進められている。港区としては森林認証制度をとっている、森林施業計画を行っていることで証明をしてもらいたいところであるが、一方で山側からはそれは難しいという反対意見も出ている。そのため、各自治体独自の施業計画も視野に入れながら今後検討される見通しである。
    ②既存の流通経路をどのように扱うか?
    都市と地方とを直接的に結ぶため、産直の体制となると既存の問屋等を省いてしまう可能性がある。こうした流通経路を無視した場合、制度が成り立つのかということについては疑問符が付く。例えば問屋が役割を果たしているストックヤードの問題やそれに関連する伐期の問題がある。そして、そもそも流通関係者にとっては面白くない状況となる。
    ③企業にとっての木材利用のメリットは?
    民間を巻き込むような形で設計された制度において、開発事業者に対してどうやって国産材活用のインセンティブを与えるかは非常に重要である。条例などで強制するだけではなく、木材利用促進に繋がるポジティブな方法で実現していきたいというのがこの制度における考え方であり、炭素固定量の評価とからめて検討が行われている。


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vol.17

木の学校づくりネットワーク 第17号(平成22年4月10日)の概要

  • 巻頭コラム:浅田茂裕(埼玉大学教育学部教授・博士(農学)、木材工学(学校の快適性、木材と教育)):
    ご存知のように,木材の快適性研究は,木材中の化学成分の効能,木質環境における木視率,温湿度変化の抑制効果など,建築物における木材利用の有効性を示すさまざまな論拠を提供してきました。私自身は,まだまだこの分野では新参者で,埼玉県,長野県,ときがわ町が共同で実施した木質化校舎の効果検証のプロジェクトが最初ですから,ほんの6,7年前からの駆け出しということになります。
    さて4年程前になるでしょうか,埼玉県での調査結果を日本木材学会で発表した時のことです。同じ分野の大先輩から次のような言葉を投げかけられました。
    「木材とコンクリート,どちらを学校に使えば子どもによいかなど調べなくとも明白である。快適性の研究者はいつになったら最適な学校環境の設計図を示すつもりなのか。もし化学成分が子どもの行動に大きく影響しているというなら,教室の後ろに丸太をおくだけでよいではないか。」
    これは悔しくもありましたが大きなショックでした。なるほど,私の研究結果からは最適な教室ということがまるでわからなかったのです。
    国産材の利用を推進し,日本の森林を再生しなければならない現状にあって,これからの研究には,木材利用と建築設計との関連を検討することが必要と考えられます。単に木材を使うということだけでなく,大量の木材を炭素ストックとして公共建築物に使用するため,そして最適な場所に木材を使うための根拠が必要なのです。「丸太を置けばいい」に対する答えを示すということです。
    現在私は,フィールドワークを中心とした質的研究法でこの課題に取り組んでいます。質問紙等の結果にみられる平均値は,一人ひとりの子どもの姿を見ていません。観察をもとにした調査を進め,学校で起こっている絶対的な現象を説明しうる最も合理的で,公共性や共有性(相互主観性)を備えた妥当な解釈を探り,学校建築と木材の関わりに迫りたいと思っています。質的研究法は人間の行動や生活文化に視点をあてる社会科学的な手法で,深くご存じない方からは主観的で,科学的ではないと指摘を受けてしまうのですが,実験や環境測定,統計的なデータ(量的研究の結果)との照合によって,より充実した成果が得られると確信しています。また,最近指摘されるADHDやLDなど様々な問題を抱えた子ども一人ひとりにとって木材がどのような機能を果たしているか明らかにしていくことも時代の要請と考えています。
  • 最近のトピックス:「木のまち・木のいえ推進フォーラム発足」:
    フォーラム設立の歴史的な背景と今後の木造造建築と森林資源」の概要を紹介させていただきます。
    ■戦後の木造建築
     内田先務所建築も国産材で2階建てられる時代でした。一方世論としては関東大震災と戦時中の空襲による戦災で、戦後は木造建築が、都市を都市火災の燃料と見られるようになり、都市を火災から守ろうとする世論の盛り上がりによって、ついに1959年の建築学会の大会における「都市に於ける木造禁止」を求める動きにまでなりました。
     木造建築の建設が減少して、コンクリート造が戦後の都市復興の主要な構造となりながらも木材は枯渇してゆきました。日本のコンクリート造の普及を支えたのも木材だったのです。海外では高価な型枠工事も優秀な大工職の存在によって、日本では容易に行われ、全国的に普及したのです。
    ■木造建築の見直し
    その後1981年建築基準法が性能規定を取り入れ、限界耐力の検証を認めるようになったことで、それまであった木造独自の耐力基準が見直され、都市における木造建築建設の可能性が広げられました。近年は国内の森林資源に再生の兆しが見え、木造に関する研究分野においても、伝統的建 築の耐久性、限界耐力検証の実験が進み、防火についても、燃え代設計、木製防火戸が認可され、木造建築の建設に従事する技術者や、この分野に興味を持つ学生も年々増加しているようです。
  • WASS研究室から


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vol.16

木の学校づくりネットワーク 第16号(平成22年3月6日)の概要

  • 巻頭コラム:飯島泰男(秋田県立大学木材高度加工研究所教授・農学博士、木質材料学(木質材料の生産・性能評価と流通システム)管理):
    今年度、林野庁・文部科学省の共管で「学校の木造設計等を考える研究会」が進められている。座長はWASSセンター長でもある長澤先生、小生もその委員に加えられ、現在、まとめの作業に入っている。当初、小生に与えられた課題は「事例に基づくコストを抑えた木造施設の整備」というものであった。そこで当研究所スタッフと能代市に協力をお願いし、関連データをまとめるとともに、補足として木造校舎建設時の「環境負荷」に関する試算結果も報告した。その内容は下記の林野庁HPに掲載されているのでご覧いただきたい。
    さて、その「環境負荷」の件である。
    日本建築学会は2009年12月、日本木材学会を含む関連16団体とともに「建築関連分野の地球温暖化対策ビジョン2050」という提言を出した。実は今から約10年前の2000年にも関連4団体とともに「地球環境・建築憲章」を策定しており、先のビジョンはこの延長線上にあるものと考えることができる。憲章ではキーワードとして建築の「長寿命化」「自然との共生」「省エネルギー化」「省資源・循環」「継承」をあげ、<環境負荷の小さい材料の採用>、<木質構造および材料の適用拡大>という項も起こされている。木材に関しては「炭素の固定により環境負荷を低減するとともに、質の高い居住環境を生み出すという点からも、木質構造および材料の利用のための環境を整える。我が国は木材資源の豊かな国である。我が国の森林の健康を守り資源の適正な更新を図るとともに、実効的な温室効果ガスの放出削減に寄与するために、国産材を有効に活用する。」と記載されている。
    これはおそらく委員として参画した、木材側の会員がこの部分を起草されたのだろうが、このときはすでに京都議定書が採択されているわけで、それを反映したとすれば当然かもしれない。
    そのさらに10年前の1990年、ITEC(国際木質構造会議)が東京で開かれている。全体の発表は約150だが、当時の木質構造での国際的な話題の中心はReliability Based Design(信頼性設計法)であったから、材料や構造の信頼性向上や評価法に関する発表が大部分であった。
    その中に少し毛色の変わった、ニュージーランドのA. H. Buchanan博士による”Timber Engineering and the Greenhouse Effect” という講演がある。内容は「各種建築用材料を製造時の消費エネルギーで比較してみると木材は他材料に比較して格段に少なく、地球温暖化が直近の課題になりつつある現在、木質建築材料の利活用はこれを防止する有効な手段になるであろう」というもので、とても先駆的なものであった。翌年、中島(現:建築研究所)・大熊両氏が木材工業誌にその概要を掲載されると、国内の「木材業界」関係の情報誌ではそれが盛んに引用されるようになっている。
    今から20年前、京都議定書採択の7年前の話である。
  • 最近のトピックス:「政府の林産業施策の方向と課題」:
    1月9日の木の学校づくり研究会では、世界唯一の日刊の木材新聞を発行している、日刊木材新聞社の宮本洋一氏に政府の林産業施策の方向と課題について、お話いただいた。
    ■「私は60年間森を育ててきたが、山で食ってきたのではなく、山に食われてきた」
    宮本氏は2009年農林水産大臣賞を授賞したある林業家の言葉を引用して日本の林業の実態ついて語った。針葉樹合板に使うロシア産カラマツの値段が上昇し、入手しにくくなってきたため価格が上昇した国産カラマツのような例外もあるが、スギの立木の値段はこの30年間で6分の1になっているという。林業家の7割が今後5年間に主伐は行うつもりはなく、育てても出せないという日本の林業の構図を木材価格の変動を示しながら指摘され、改めて深刻さを思い知らされた。そんななか山林の整備、林業の再生を最重要課題にあげられている民主党政権から新たな法案が出された。
    ■「公共建築物等における木材利用の促進に関する法案」について
    赤松農林水産大臣は1月18日の国会に提出する法案の内容について記者会見の場で明らかにした。その内容は山を守るだけではなく、森林林業の活性化を狙う、環境対策、CO2の削減に取り組むといった新政権の姿勢を示したものであった。主題は伐採に適した、成長した木を使い、公共の建物、特に階層の低い役所や学校を木造で建てるという公共建築の木造化、及び木質化。対象となる事業は建物の高さや面積によって異なり、3階建以下は木造、それ以上は木質化するという方針だという。赤松農林水産大臣は子どもたちが温もりのある木の学校で教育をうけることは、RC造の学校では意味が異なると認識しており、是非小中学校、地方の公共建築物を木造化したいと話したという。
    目標は公共施設の100パーセント木質化・内装木質化、果たして実現なるのだろうか。
    ■農林水産省木材利用推進計画について
    宮本氏からで公共建築物の木造化・木質化を具体的に規定する計画として、2009年12月に策定された木材利用推進計画について説明を受けた。政府全体の取組みとして政府の施設、省、地方公共団体にも次年度より木造化・木質化の取組み広めてゆく計画。WTOからのクレームを避けるため、使用木材については「国産材(間伐材)等。」という表現にとどまっているが、実質的に対象物品の購入にあたっては、国産材が見込まれている。期間としてはH22年~H26年の5年間、この期間の成果を発表し、効果を検証するという。他に具体的な取組みとしては、①木質施設をつくる②山の整備を進める③全国の木造施設の情報の収集と提供する④木造建築における標準歩掛の充実⑤関係部局の土木工事に木材を使うという5項目が挙げられている。
    ■期待と不安
    法案が施行され、木材利用推進計画が実行されとどうなるのだろうか。木造化施設の着工棟数は少ないと見込まれる。一方で内装木質化は床及び壁について、施工面積の5割以上を木質化するもので、膨大な量が必要になるだろうと宮本氏。そうなると供給が不安になる。現状はha当り17mと言われている山林の整備に対しては、施行しやすい山林の3分の2を対象として今後10年間でha当り100mのドイツ林業並の路網密度に達成することを目標とした森林林業再生プランが打ち出され、供給に向けた山の整備も進められている。
    参加者からは、さらに山の整備の基盤となる平成検地の必要性や床材等を加工する刃物を統一して、複数の業者間で加工木材をやり取りするような仕組みをつくる必要性を訴える意見も出された。


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vol.15

木の学校づくりネットワーク 第15号(平成22年1月9日)の概要

  • 巻頭コラム:「WASSのネットワーク構想」:花岡崇一(森の贈り物研究会主宰):
    「木の学校づくり」を切り口にした「木と建築で創造する共生社会」を研究するにあたって、最初に考えたのは次の二点でした。一つは、「木の学校づくり」を実現した地域には人々のどんな思いと協力、課題と解決策があったのかを明らかにすること。二つ目は、自ら林業の現状と課題をつかみ、林業や木製品の製造に関わっている人々の思いを受け止め、共に考え・行動する場となることでした。
    そのために、林業者、加工者、行政者、設計者(意匠・構造)をお訪ねし、報告をいただく場として、建築学科の周囲に外部協力者の研究会や専門家の講演会を組織しました。現在「木に関わる事柄」を自前で議論することができるメンバーが揃った定例研究会に成長しました。この参加者が、WASSの理念を共有しながらゆっくりとした歩みで人と人を結びはじめました。ネットワークの核になる部分です。次に、各地の事例研究を徹底して始めました。秋田県能代市のように市をあげて木造校舎建設を進めている地域、栃木県茂木町、長野県川上村のように学校林や町村有林を活用している地域、大分県中津市のように、市の主導で木造建設の研究会を立ち上げ、市民や企業の参加を促しながら建設を進めている地域、既設校舎の改修に「木質化」を意図的に進めている埼玉県ときがわ町のような地域、それぞれの地域の実情に応じた試みが行われ、素材として「木」を使うこと自体の難しさや地域の林産業のあり方、大きくは法律の壁などの課題を克服してきた貴重な経験を集めることができました。これらを横につなぐ事によって、新たに木の学校をつくろうとする地域や人々に大きな手助けができるネットワークです。
    今年WASSが取り組むネットワークづくりは、首長・行政・設計者・林産業者・学校関係者をそれぞれつなぎ、経験の集約とよりよい取り組みを展望する方策をつくり、新たに「木の学校づくり」に挑戦する地域や人々に「確実な成果」を「回す」ことだと思います。そのことを通して、地域と地域、仕事と仕事、人と人がつながった社会を創っていくことがWASSの使命だと考えています。
  • 最近のトピックス:第13回 木の学校づくり研究会 報告:
    2009年12月12日に行われた木の学校づくり研究会では、東京農工大学の服部順昭教授より、「カーボンフットプリント(CFP)と林野庁の「見える化」事業について」というテーマでお話いただきました。その内容について紹介いたします。
    ■カーボンフットプリント(CFP)とは?
    CO2をはじめとする温室効果ガスの排出量は、産業部門は企業努力で減っていますが、家庭部門や業務部門は増えており、それを削減していくためにカーボンフットプリント(CFP)を使うということになります。2008年3月の京都議定書目標達成計画で「CO2排出量の見える化」という言葉が登場し、同年7月の閣議決定における「低炭素社会づくり行動計画」で「カーボン・フットプリント制度等の見える化」の導入が明記されました。このような活動は化石資源の延命を図り、後世まで繋いでいくという観点からも非常に重要です。
    CFPの算定には、ライフサイクルアセスメント(LCA)をツールとして利用します。LCAは火山活動などの自然領域と人間の活動による人工領域間のマテリアルフォローを定量的に見て、製品やサービスの資源調達から、製造、使用、廃棄に至るまでのライフサイクルにおいて、投入した資源量やエネルギー量、環境に与えた負荷量を求め、その影響を総合的に評価する手法です。何が環境に悪いのかを知り、人為的な部分をコントロールすることで環境影響の小さな社会を実現しよう、ということになります。
    CFP制度はLCAの手法を活用し、商品及びサービスのライフサイクル全体を通して出る温室効果ガス排出量をCO2に換算し、表示する仕組みです。
    表示は右図のCFPマークを商品1つ1つに貼り付け、サプライヤー差などの付加的な表示も行います。例えばA、Bのメーカーで、ある商品の値段が一緒だとすると、CFPの値の高いメーカーの商品は売れません。そうなるとCFPの高いメーカーは下げる努力をせざるを得ません。このような狙いもCFPには含まれており、CO2排出量の少ない商品の選択や普及を図ることで削減効果が非常に大きくなります。
    ■CFPの現状とこれから
    経済産業省、環境省、農林水産省などで検討や指針・基準などの策定が進められ、CFP商品として販売を始めているところも実際にあります。
    木材関連では、林野庁で昨年に「木材利用に係る環境貢献度の「見える化」検討会」が開催され、林野庁版の「木材利用に係る環境貢献度の定量的評価手法について(中間とりまとめ)」が作られ、これから「見える化」を推進して行くことになります。そして、業界標準値や削減率などを示すために必要な目安となるデフォルト値は、使用量の多い製品から、製材、集成材、合板、パーティクルボードを取り上げ、国産材、外材の別で今年度NPO法人才の木で試算が始まっています。特に、土台などの保存処理木材は薬品を使用することもあり、この業界団体はすでに動き始めています。ところが、原材料である丸太が一番遅れており、その後の計算が難しいという状況があります。
    また、CFPを行うときには必ずPCR(商品別算定基準:商品ごとに定めた共通の算定法)が出来ている必要があります。これは政府が作るものではなく、業界が主体とならなければ出来上がりません。木材製品(木質部材)のPCR原案策定計画の申請はNPO法人才の木が代表者となっており、PPR-043で産業環境管理協会から計画を承認されました。対象製品は製材、集成材、合板、パーティクルボード、繊維版、防腐処理木材となっており、これからPCRを作成していくこととなります。


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vol.14

木の学校づくりネットワーク 第14号(平成21年12月12日)の概要

  • 巻頭コラム:「川越キャンパスの森」永峯章(東洋大学理工学部建築学科講師、建築環境工学・建築環境管理):
    東洋大学川越キャンパスの森は、農用林と用材林とが混在している森である。なぜ混在しているのかというと、大学が建設される以前のこの森には複数の土地の所有者が存在し、所有者によってその林の利用目的が異なっていたためである。農用材としては、コナラを中心として育て、材は薪炭用、落ち葉は畑の堆肥用にと利用した。用材林としては、ヒノキを中心として育て、建材として売却するほか、自分の家を普請するなどに利用していたと考えられます。
    武蔵野の雑木林といわれた農用林の姿がキャンパスの森となってからの50年間でだいぶ様相が変わってきました。このころからキャンパスの森はそれまでの利用目的を失い、農用林や用材林に仕立てるために手入れが行われずに、いわば放置され、今日まで至り、森の中に日射が不足し本来あるべき木が枯れ、少ない陽光でも育つ木々が増えつつあるのです。
    2001年のキャンパスの森の調査結果によると東洋大学川越キャンパス内に出現した樹木は全部で48種類。立木本数は2809本、株数は2119株、胸高断面面積合計は79.738㎡であった。「キャンパスの森を構成する樹種は主にエゴノキ、ヒノキ、コナラ、アオハダ、ヒサカキ、リョウブ、クリ、スギの8種であった。本数または株数では、エゴノキが全体の約1/4を占めているが、胸高断面面積合計でみるとその割合は8.3%と小さい。エゴノキは雑木林にはよく見られる萌芽性の強い樹木であるが、かつてはこれほどまでは多くなかったと考えられる。というのは、エゴノキはコナラと比べると、堆肥または薪炭材としての質が劣るため、コナラが生長していくごとに間伐などの手入れがなされていたからである。とくに、アオハダは利用価値が低いため、ほとんどない状態であったと考えられる。エゴノキ、アオハダ、ヒサカキ、リョウブは手入れや間伐が行われなくなってきたことから、本数を増やしてきたと考えられる。ヒノキはもともと植えられていたものが成長し本数の増減はあまり変わらないと考えられる」* 
    私自身、秩父の山歩きをする中で、間伐されずに放置された「真っ暗な山」に何回も遭遇します。公共施設や学校建築の木質化は、施設の温熱環境に+効果が期待できます。また、地域産材の活用を促し、林業の活性化にもおおいに役立つものと考えられます。
    川越キャンパス内でも、最近「森と木と環境の講座」が始まり、森の中の実習地で、農用林の保全・再生に必要な伐採実習を試みています。学生たちはそんなキャンパスの森の道(こもれびの道)を通って講義を受けています。
    *こもれびの森の樹 木に関する調査・研究:飯塚章三
  • 最近のトピックス:「2009年度WASSシンポジウムの報告」
    11月7日、東洋大学白山キャンパス・スカイホールにおいて木と建築で創造する共生社会研究センター(以下WASS)シンポジウム「木と建築による共生社会の実現に向けて」が開催され、約120名の方々が参加されました。
    ■「つなぐ」で綴られた4つのテーマ
    シンポジウムは、これまでのWASS研究成果をもとに「つなぐ」という言葉をキーワードにした4つのセッションで構成され、最初に各セッションの議論を束ねる視点で、長野県の川上村の藤原忠彦村長から「林業と地域再生」と題して基調講演が行われました。藤原村長は、地域のカラマツをふんだんに使って中学校を建設することで、村人自身が地域産材の良さに気付き、付加価値をつけてゆくことの大切さをお話になり、地域経済への貢献だけではなく、心理的な効果の大切さも訴えられました。
    ■「川上と川下をつなぐ木の学校づくりネットワーク」 司会:長澤 悟(東洋大学教授)
    各専門領域の研究者をはじめ、行政、林業、製材業、流通業、建設、建材といった関係分野の実務家を訪ね収集した全国各地の取り組みについてWASS客員研究員・森の贈り物研究会の花岡崇一氏より紹介があり、さらに一つの町でのケース・スタディとして、栃木県茂木町教育委員会の小崎正浩氏より、JAS規格の証明がない地域の無垢材にこだわった木の学校づくりの事例が紹介されました。議論では地域材運用における木材認定の基準と伐採期間の設定の難しさが話題の焦点となりました。
    ■「人と学校をつなぐ木の室内環境」
    司会:浅田茂裕(埼玉大学教授)
    今年行われた埼玉県内のRC校舎の内装木質化事例をもとに、東洋大の土屋喬雄教授より、内装木質化による温熱環境への効果、WASS客員研究員、横浜大学の小林大介講師より、児童生徒や、教職員の方々に及ぼす生理的、心理的影響や効果について研究を進めている状況の報告が行われました。浅田教授は、木は高いというが、室内環境のデザインに木材を用いることの効果の定量化し、心理的、教育的効果を計測し蓄積していくことで、高いことの根拠を説明していくことが重要とまとめられました。
    ■「意匠と構造をつなぐ木の学校づくり」
    司会:工藤和美(東洋大学教授)
    国産材や外材、無垢材や集成材、そして使う部位や構法により、またコストや地域、木の建築を造る意義によって異なる判断を迫られる構造計画に対して、東洋大学の松野浩一教授からはオープンスペースを含む多用な建築計画が見られる現代の学校に対応した木造ハイブリッド構造の可能性が提案され、能代市の建築家、西方里見氏からは地域の秋田スギと規格化された部材を意匠に活かし、低コスト化を図った「素直な構造計画」が提案されました。
    ■「木の学校づくりをつなぐ発注書・仕様書」
    司会:秋山哲一(東洋大学教授)
    他のセッションで提示されてきた分野、あるいは地域の状況に応じて様々な要素を結びつけて総合化する視点として、東洋大学の浦江真人准教授より、木材運用をコーディネイトする人材育成の必要性と木材の産地や品質を規定する発注書・仕様書の役割が挙げられ、そのあり方を検討することがWASSからの一つの提言としてまとめられました。
    ■シンポジウムアンケートより
    今回のシンポジウムはWASS内の各研究グループの研究成果の発表の場であったことから、木の学校づくりに関する多角的な視点を提示できた点が、設計者や行政担当者を中心に多くの方から評価を受けました。特に木質化の評価軸としてのストレス調査に対する関心が高かった他、設計者、行政担当者を中心とした視点として、木の学校づくりに関する法規・制度に関する問題や集成材の活用等に向けた技術的な提案を期待する意見、またWASSのネットワークの特徴ともいえる都市部での木の学校づくりの可能性の提示に期待が寄せられました。


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vol.13

木の学校づくりネットワーク 第13号(平成20年10月1日)の概要

  • 巻頭コラム:「日本人の木造建築に対する愛着と憧れ」藤井弘義(理工学部建築学科講師、建築環境工学(音環境)):
    木から作られる物には、建物・家具・寄木細工・ワイン・ウィスキーの樽など広く様々に使われており、生活に密着している酒・味噌・醤油も杉板張りのような麹室で良い商品が出来上がっていくのである。その代表的な木造建物でよく表現される言葉の中に、木の香・木目・木振り・木の温もりなどがある。この表現言葉で質の良い木に囲まれていた古代の日本人が木材に対する愛着と憧れをもっているのも少しも不思議ではない。
    今日でも多くの日本人に、この木の家屋に対する愛着と憧れが継承されてきたことを反映している。             日本従来の木造建築の屋内には木が多量に用いられ,ペンキで塗られることは無かったし、柱や扉,家具などには,天然の木目と色を鑑賞できるような仕上げが施され,縁側の板には何の仕上げも施されていなかった。仕上げの施されていない木を使うことにより,庭の樹木との自然な結びつきと「わびさび」に結び付かせることもでき結果として生じるのは,刺激よりも調和と静寂といった効果である。多くの日本人は,いつの日かそんな家を持つのが「夢だ」と思っている。
    しかし,そのような家屋を建てるための良質の材木は,今ではとても高すぎて手が出ない場合が多くなったが、それでも日本人はできだけ木を使うことにこだわる。木は見映えがするだけでなく,自然の力がありしばしば襲う地震や台風,蒸し暑い夏や寒い冬など,日本を取り巻く環境に合っていることを知っているからである。今は、化学的な製品による多くの恩恵を受けているが石などの材質だと割れてしまう場合でも,木材だと,力が掛かっても,しなやかに曲がったりねじれたりするので,木材は地震国には大変な恩恵をもたらしてきたのである。木にはまた,手入れにより保湿と断熱というすばらしい特性もあり6月から8月にかけての日本の雨や湿気にもかかわらず,家屋が朽ちてしまうことはない。この時期に,木は状況に応じて変化し,ある程度の快適な暮らしをさせてくれる。木には空気中から湿気を吸収し,後から湿気を放出する能力があるからである。とはいえ,普通の人にとって,木の魅力は全く別のところにあるようだ。
    人々が木を選ぶ理由は,ほとんどの場合その外見で木の美しさにある。「木は自然の産物なので一片一片他とは異なっている。一本の木から採られた木材の各部分,あるいは同じ木の板の各部分でさえも他とは異なる。強度や色は同じかもしれないが,木目は同じではない。木を大変魅力的にしているのは,特徴,強度,色合い,扱いやすさ,さらには香りにまで見られるこの多様性なのである。*1
    木は,安物の,質の悪い建材などではない。それどころか木材を正しく選び,正しく扱えば,幾百年もの使用に耐える断熱効果の高い建物を造ることができる。ある権威者の主張するところによると,きちんと手入れさえすれば,木は決して朽ちることがありませんと述べている。その真偽はともかくとしても,木は創造者がわたしたちに与えてくれた最良の建材の一つであることに間違いないのである。このように木は、自然の産物なので手入れや扱い方により、木の美しさ・木の温もり・保温や断熱など木の魅力を存分に味わうことが出来るのである。
    そのような木造建築に対して、日本人は愛着と憧れをもっているのである。
    *1:アルバート・ジャクソンとデービッド・デイは,共著の「コリンズ 良い木のハンドブック」
  • 最近のトピックス:第14回 木の学校づくり研究会報告:
    2009年9月12日に行われた木の学校づくり研究会では、福島県で学校建築の設計を手がけている清水公夫氏より、「木の学校づくりについて~地域産材を活用した学校~」というテーマでお話いただきました。その中で、宮川小学校の事例について紹介いたします。
    ■宮川小学校の概要
    ・所在地は福島県会津美里町、2007年竣工。
    ・構造は鉄筋コンクリート造だが、低学年棟・多目的ホールは一部木造。その他、外装・内装に地元産の杉材を利用。
    ■計画段階から施工まで
    まず、地元産材活用ということを教育委員会が決定し、その方針の下で設計者が選ばれました。その後、地元産材供給連絡協議会が設立され、その中には山林所有者・林業業者・製材業者が含まれており、木材供給のための体制が作られていきました。そして、1年間かけて伐採時期、使用箇所や材種などについて議論を行いましたが、一番問題となったのは歩留まりでした。流通材ではないので、実際の施工段階で使用できない材が出てくる可能性があり、その分を材料単価で補正するなど様々な調整が行われました。
    また、材料施工の分離発注ではないため、設計図書の特記仕様書に「地元産材使用」の条件を明記することで一般流通材が使われないようにしました。施工会社への現場説明の段階でも「地元産材の使用」ということが説明され、地元産材である杉を使用した学校の建設が始まりました。
    ■伐採する山の確認
    施工会社か決定する前に、山林所有者達と目利きの人をつれて山に入り、建物に使用する部材を考慮しながら、歩留まりのいい木かそうでないかを判断して、伐る木を選択していきました。このようにすることで、現状では業界の中で一番割りの合わない山林所有者に少しでも還元されるようになります。
    ■設計段階と施工段階での材料単価の違い
    実際には、事前に連絡協議会で調整していた材料単価と施工会社の考える価格との間に差がありました。施工会社としては、通常の流通材が基準となりますので、その部分でギャップが生まれます。その部分の調整役は最終的に設計者がやる事になりました。
    分離発注で施工者へ材料支給ということも考えられますが、難しいところです。もし、材料が足らないときのリスクがありますし、それを回避するために設計者が設計の段階でどんなに細かく木拾いを行ってもどうしても数量が足らなります。実際の施工では大工の加工による端材が出てきて設計数量よりどうしても多くなるので、この部分を念頭においておく必要があります。よって、10~20%多めに伐採することになりますが、その負担分は材料単価に上乗せということになりました。
    ■歩留まりを上げる工夫を
    端柄材を床板に活用して、歩留まりを上げることも行われました。また、細かい角材もうまく利用していくことで、できるだけ捨てる材料を少なくしようとしました。その結果、通常4~5割となる歩留まりが、製品材として7割近くまでいったのではないでしょうか。
    一般的に製材所ではあまり考えずにやりやすい方法で製材を行っています。そうすると歩留まりが悪くなります。製材所としては足りない分は見込んでいるし、山から安く切ってくればいいという考えなのですが、もったいない。もう少し工夫をした方がいいのではないかと思います。


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vol.12

木の学校づくりネットワーク 第12号(平成21年9月12日)の概要

  • 巻頭コラム:「”環境にやさしい”ことを数字で示す」村野昭人(理工学部都市環境デザイン学科准教授、環境システム工学):
    私が大学で学んでいた1990年代の前半ごろ、環境問題に関心があると言うと、少し変わった人という印象を持たれかねませんでした。今の世の中で言えば、健康のために菜食主義を貫いている人に対して人々が持つ印象と似ているかもしれません。『確かに正しいことを主張しているのかもしれないけど、現実的じゃないよ。そこまでしなくてもいいのでは?』といったところでしょうか。しかし、わずか20年足らずで時代は大きく変化し、現在では環境に関する記事を目にしない日はなく、衆議院選挙の各政党のマニフェストにも主要なテーマとして環境対策が盛り込まれるようになりました。人々の環境に対する意識は大きく変わったと言えます。
    ところが、環境に関する認識は昔からあまり変わっていないようにも思えます。例えば、『環境を守るには、豊かな生活を我慢してストイックに生きなければならない。』『環境対策は経済成長を妨げる。』『森林の木を伐ることは自然破壊であり、木を伐ってはいけない。』・・・これらの意見、私はすべて誤りと考えていますが、人々の認識を変えるのは容易ではありません。環境に関する議論がイメージ先行で進み、科学的な知見に基づいた議論が置き去りにされてしまったことが、その原因の一つと考えています。
    そこで私は科学的な知見を提供するために、木材を利用することによって、どの程度環境負荷を削減することを数字で示す研究をしています。木材は再生産が可能であるとともに、リユース・マテリアルリサイクル・サーマルリサイクルと多種多様なリサイクルが可能な貴重な資源です。低炭素社会の構築が求められている中、木材を有効利用することは大変重要な課題と言えます。
    しかし、日本は国土の約3分の2が森林という森林大国にも関わらず、木材自給率は2割程度に過ぎません。外材の輸入自由化、国産材の価格低迷などに起因する林業の不振により、適切に管理されることなく放置されている森林が増加しています。一般的に、木は植林されてから40~50年程度で成長のピーク、すなわち二酸化炭素吸収能力が最大となる時期を迎え、その後は徐々に吸収能力が衰えます。現在の状況が進めば、日本の森林のネットの炭素貯留効果が、21世紀の半ばにはマイナスになってしまうという試算結果も出ています。
    日本では1950年代、60年代に多くの植林がなされましたので、伐採・利用に適した時期を迎えています。もちろん、無秩序に伐採を進めると森林が荒廃する要因になりますので、伐採・利用・再植林をトータルで考えた森林資源のマネジメントが求められています。その方法を議論する上での材料とするために、数字で表した科学的知見を提供して行きたいと考えています。
  • 最近のトピックス:第10回 木の学校づくり研究会報告:
    2009年8月1日に行われた「第10回 木の学校づくり研究会」では、『森の力』(岩波新書)の著者で作家の浜田久美子氏より、「森と家の関係」と題して、木造住宅を建てたご自身の経験を通して、日本の林業のあり方について、海外の事例をふまえつつご講演いただきました。
    ■不健全な日本の森
    世界的には森林は減少と破壊に直面しているにもかかわらず、日本の森林は逆にありすぎて困り、手入れはされても出口がないといわれています。「木を使う」という実感が生活の中にないのが日本の現状、と浜田氏ご自身も木の家に育ちながら希薄だった木に対する意識を振り返りました。そもそも戦後の入会地の分割等で新たに私有林となった里山には、林業経営が成り立つような規模も需要もないのです。しかし、世界トップ3の木材の使用量と、世界の温帯でも指折りの植生豊かな日本が、木材の供給の8割を海外に依存するのは世界的な視野から見ても利にかなわないと、浜田氏は日本の森の不健全さを訴えました。
    ■健全なドイツとスェーデンの森
     癒しの森という日本では見られない林業、観光、医療が一体となった森林経営がみられるドイツ。生態系を考慮した広葉樹と針葉樹が混交する多様性のある森は100〜120年のサイクルで運営されており、木材生産を重視した50年サイクルの日本の森とは異なります。また平坦な地形のため、森が教会に例えられるほど伝統的に人々が森に入るスェーデンでは、80年代におこった大型機械による乱伐に対する市民活動がきっかけとなった不買運動により、自然の森を手本として生態系を重視した運営方針がとられるようになりました。一方で木質バイオマスが都市暖房のエネルギー源として利用され、木を使い尽くすシステムが確立されています。
    ■木を使い、森と触れ合うことがカギ
     今の日本の林業には、森を木材の生産の場としてだけとらえるだけではなく、多様な木の使い方を模索する発想が必要で、そのためには木に触れ、森の理想像を思い描きながら、木を使うことが大切という浜田氏の視点には、自ら参加した山作りや、木造の自宅を建設した実感が込められていました。

    「長野県川上村中学校 視察」
    長野県川上村は明治時代よりカラマツの苗木を生産し、欧州や朝鮮半島に輸出してきたカラマツの産地として知られています。今年3月に竣工したこの中学校は、学校そのものが教材であるという基本理念のもとに建てられました。地域産のカラマツの集成材を生かした大胆な樹木型の柱が印象的ですが、同県伊那地方根羽村の天然杉材、木曽地方大桑村天然ヒノキ材も使われています。出来るだけ多くの材種を用い、生徒たちが木や周辺地域の森林のことを学ぶきっかけとなればという思いと、各地の木材産地と地域材を交換し合うことで共存、交流を謀る森林トライアングル構想が結びついた形。「どこの木でも、その土地の人が、地元の木に対して何か価値をつけなければならない。」中学校を訪れる前に聞いた藤原村長の言葉が印象に残りました。

  • シンポジウムのお知らせ


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vol.11

木の学校づくりネットワーク 第11号(平成21年8月1日)の概要

  • 巻頭コラム:松下吉男(東洋大学理工学部建築学科准教授、博士(工学)、建築構造学):
    さて、WASSの研究に直接関わることの少ない私ですが、これまでの私生活や研究活動を振り返りながら木材との関わりについて改めて思い起こしてみたいと思います。
    私生活において木造との関わりは、中学校まで学んだ校舎と、高校まで過ごした田舎の家でしょうか。当時としてはごく当たり前の2階建て木造校舎ですが、母校は防風林としての松林を切り開いた砂地に建てられ、現存していませんが今思えば自然にマッチしていたものの自然災害に良く耐えてくれたなという印象が強いです。余談ですが映画俳優の加藤剛さんも同じ校舎で学ばれた内のひとりです。一方、木造の自宅は台風の進路に当たるということもあって、“ミシミシ”という不気味な音に不安な夜を過ごしたことを今でも覚えています。台風のときは棟が飛ばないようにロープで補強したこともありました。
    次に、木材に関連し話題の多かった施設など、実際に見学した物件の一部を紹介したいと思います。長野オリンピックのメイン会場となった通称Mウエーブの木造吊り屋根は、集成材で鉄板を両側から挟みこむ構造となっており、信州の山並みをコンセプトにした世界最大級の規模のアリーナでした。建設当時研究室で見学に行ったことを覚えています。一方、旧丸ビルの独立基礎の下に約15メートルの北米産の松杭が全部で5,443本使用されていたということが話題になりました。その内の1本が新丸ビルの1階床に展示されていますが、80年ほど腐食しなかったことは驚きです。水分が多く酸素が少ないと腐食しにくいという木材の性質を承知の上での利用だったのでしょうか。
    木材を利用したハイブリット基礎構造の研究について紹介したいと思います。企業との共同研究として行ったその研究は、冷凍倉庫の床版と杭との間に木材を挿入するという内容で、断熱効果と杭頭の非固定度化を目的としたものです。これまで地震によって杭の破損が多く発生し、その原因として杭頭の固定度が指摘されていました。上部構造を支えかつ固定度を減らす構造として、杭頭の上部には繊維方向、側面には半径方向に木材を並べ実験を行い、その結果地震時に杭頭が木材にめり込み固定度を減らすことを検証しました。木材は基本的には脆性的な材料ですが、唯一めり込みという靭性を利用したもので、現在数棟の冷凍倉庫に利用されています。
    とりとめも無く思い当たることを書いてきましたが、現在日本全国で森林が悲鳴を上げているとも聞いています。一刻も早い対策が必要とされている中、木材の新たな活用としてバイオマス・エネルギーの研究も行なわれているようです。間伐材の利用が促進されれば森林資源が循環され、主伐材の利用も高まることになります。WASSの研究成果がこれらの発展に役立つことを期待しております。
  • 最近のトピックス:「第10回 木の学校づくり研究会報告」:
    2009年7月11日に行われた木の学校づくり研究会では、これまでの調査や木の学校づくりの現状を踏まえて、設計者・木材業者・行政関係者などの「木」に関わる方々とともに様々な議論を行いました。その一部をここに掲載いたします。
    ■日本の木材業界でのやり取りの難しさ
    -先日、木材をある製材所でいくつかの用途に分けて製材してもらったのですが、家具用に節だらけの材料を取られてしまうという出来事がありました。
    今までは製材業者に対して寸法・用途を指定すれば、上手に取り分けていたので、普通に出来ると思っていたのですが、今回の製材業者はそれが分からなかった。
    -外材の木材貿易では、用途別ではなく、もっと細かにグレードや節の大きさなどを書いた仕様書をもとに契約が取り交わされます。日本の場合はそれを言わなくてもだいたい分かっているはずだということになっていて、用途で言っても通じない場合があります。
    -仕様書のお話がでましたが、話が通じる人同士の場合には同意できるんですが、それを細かくやりすぎると、話が通じない人にしてみるとコスト的なことが問題になってしまうんですね。地元の材を使うのにそこまでやるのか、ということもあり余計に話が通じなくなることもあります。
    -使う材の用途によってどういうものが必要かということを見極めるコーディネーターが必要だったのではないでしょうか。仕様書に代わるものとして、分かっている方がいれば、うまく選ぶことができたのかもしれません。製材屋もそういう目が必要なんですね。
    ■「やわらかくつなぐ」
    -学校の設計の現場において、市町村の方々は地場産材を使いたいということはすごい意識をしているんです。ところが、個人的には地場の材を使うから節があっても当たり前だと思っていることが、役所の担当者も保護者も工業製品などのきれいなものに慣れているので、「気持ちが悪いなどのクレームが来るから、なるだけ節があるものを使わないで下さい。」ということをおっしゃるわけです。それで逆に仕様書を作ると、山や製材の方にしてみるとコストが高くなって、「この設計事務所は分かっていない。」という感じで、板ばさみになってしまいます。それを交通整理していく役目があるな、というのは感じていて、「それぞれを如何にやわらかくつないで言語を統一していくか」というのがすごい大事なことだというのが色々設計してきて分かりました。
  • WASS研究室から:「RC校舎の内装木質化工事の調査」:
    今夏、埼玉県のある学校でRC校舎の内装木質化が行われることとなり、現在工事が進行中です。耐震補強工事などと同様に、こういった既存校舎の工事の多くは生徒のいない夏休み中の短期間に実施されることになります。また、この学校では内装材に地元の木材を利用するということで、地域産材を活用するための方法や、それによって生じる様々な課題なども見られます。
    WASSでは昨年度から、木材の発注・準備・施工・使用量なども含めて、この事業を対象とした調査を行っています。今後も様々な地域でRC校舎の内装木質化工事が行われていくと予想されますが、
    今回の調査・分析をもとに、木質化の手助けとなるような提案をしていきたいと考えています。


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vol.10

木の学校づくりネットワーク 第10号(平成21年7月11日)の概要

  • 巻頭コラム:「木・共生学データベースの試み」篠崎正彦(東洋大学理工学部建築学科准教授、建築計画学):
    WASSはオープン・リサーチ・センターとして開設されています。この「オープン」には研究を大学内のみで展開するのではなく、社会との境界を開いていく(オープンにしていく)という意味が込められています。社会との境界を開くことで2つの流れが生まれます。学外の幅広い人材との共同研究(外→中への流れ)と、研究成果を広く社会に公開していく(中→外への流れ)という2つの流れです。
    「外→中の流れ」については、様々な場で活躍される方々を客員研究員として招いているほか、講演会・シンポジウムを通して多くの関係者のご意見を伺うことにより木とそれを取り巻く社会のあり方について広い視野で研究が進められています。
    一方、「中→外の流れ」では、研究成果を論文や発表会という形で公表することはもちろんですが、木と関わる現場、教育に携わる現場により近い所で成果を利用してもらえるようにする必要があるとも感じています。そのような試みの一つとして、「木・共生学データベース」の構築があります。
    木を使った学校建築を作ろうと考えても、どの様な事例があるのか、どのように木を用いているのか(構造では?、内装の仕上げでは?)、コストはどうなのか、学校の規模や所在地域ごとに差はあるのか、等様々な疑問が浮かびます。また、短期間に大量の木材を準備できる生産者がいるのか、自治体による木材利用促進施策はどうなっているのか、まちづくりとの関わりはどうなっているのかなど、浮かんでくる疑問は限りなくあります。
    木をもっと取り入れた学校を作りたい、木の利用を図ることで環境共生的な地域づくりを進めたいと考える人は多くいますが、この様な基本的な情報を共有した上で議論を進めることが、より有意義かつ効果的な実践に結びつくのではないでしょうか。
    「木・共生学データベース」は、上に挙げた疑問になるべく応えようと、様々な事例を分かりやすく整理し(誰でも使える)、インターネットを通じて利用でき(どこでも使える)ようにしようとするものです。今年度ではこれまでWASSに集まった学校建築の事例を公開しようと作業を進めています。引き続き、木づかいを促進しようとしている団体や自治体の施策についてもデータベース化を進めたいと考えています。
    少しでも内容が充実し、かつ、誰もが使いやすいデータベースを構築・公開することでWASSの目的である「木材の利用を通じた共生型地域社会の実現」に貢献できればうれしい限りです。
  • 最近のトピックス:「第8回 木の学校づくり研究会報告」:
    2009年6月13日に行われた「第9回 木の学校づくり研究会」では、 構造家の増田一眞氏より、「木造校舎の構造設計と課題-大分県中津市鶴井小学校を例として-」という題目で、構法論・形態論をふまえ、無垢材による伝統木造の特徴と木造校舎の実例についてご講演をいただきました。
    ■集成材と無垢材、現代木構造と伝統木造はどう違うのか?
    耐久性、無垢材の寿命は法隆寺が実証しているように千数百年、一方集成材はせいぜい50年しかもたない。接着材を用いることで、木本来の寿命を縮めることなる。さらに接着材を用いることで劣化の進み具合を判断しにくくなり、突然の崩壊を招く場合もある。また集成材は設備費用の償却、独占価格により、無垢材より高額なうえ、廃材処理に有効な方法がなく費用も高くかかる。さらに刃物で加工するのが困難なため、集成材が普及すると大工の仕事が奪われてしまう。伝統木造は無垢材の特性を生かす構造を隠さないため大工は腕をふるうことができる。またメンテナンスが容易で、解体移築が可能。また根曲がり材も適材適所に配置することで、合理的な構造体をつくることもできる。現代木造が平面的な構造体であるのに対して、伝統木造は腰壁、垂れ壁、袖壁等を含め、柱の曲げ抵抗を生かす立体的な構造である。先生のご指摘通りであれば何故、現代木造が普及するのか不思議ですらある。
    ■日本の場所討ちコンクリート造から見えること
    戦後、日本は伝統木造の継ぎ手仕口による緊結手法を省みず、コンクリート造の場所打ち一体性に希望を見出した。場所打ちのコンクリート造の耐久性はせいぜい60年。プレキャストコンクリート造の場合は、理論上必要な水セメント比に近い値で施工可能なので、約9000年の耐久年数となっている。水を絞ることで強度を高めることができ、コンクリートの断面積を半減させることができる。しかし一般的には場所打ちコンクリート造が普及定着している。さらに一般的な日本の建設現場では、型枠は使い捨てされているが、集成材といえども、大量消費の時代は終わっている。一方、プレキャストコンクリートの場合はジョイント部分を外すことで解体移築も可能である。つまり伝統木造と同様に部材を取り外すことで行うことができる。ヨーロッパでは殆どの現場がプレキャストコンクリートを用いて構築している。日本では木造においても、コンクリート造においても素材を効果的に生かすことができていない。
    ■鶴井小学校の事例について
    間伐材は弱齢で赤みが少なく、建築材料としては劣る。鶴井小学校では間伐材であっても、材をつないでいくことで、長いスパン、大断面に匹敵する構造材をつくれなか試みた。そして現場で4寸の板を重ね、熱を加えながら、Rに沿わせて蒸し、何枚も曲げ加工をしたうえで、ダボで縫い合わせ、アーチ型の合成張をその場で加工した。
    ■学校の計画の課題と提案(質疑応答より)
     鶴井小学校のプロポーザルから建設までの経緯や具体的な構法に関する質問が出されたが、他の学校の計画にも生かせるような汎用性に関する質問について増田先生は以下のように述べられた。現在の建築指導課の体制では、無垢材による学校づくりの要望が通りにくい。地元の山では資格を持って製材している者はいないのに、木材自体は天然の素材にJAS規格のような工業規格を要求めるのは基本的に間違いではないか。代わりに設計者に材料試験(強度・ヤング率)を義務づければ良いことだと思う。また工務店に複雑な構造計算をやれといっても無理があるのなら、縮小模型実験を計算の代わりに義務づけて実験的に証明すれば良いのではないだろうか。
  • 調査研究報告:「木材切り出しの現場から」:
    埼玉県のある山で木材切り出しの現場を見学しました。ここでは間伐のように、山主に指定された木のみを一本一本切り出していました。また、周辺の木を傷つけないように切り、枝の絡みなどを取り除きながら、斜面や隣地境界線の木を運び出せる状態にするまで一本につき30分はかかっていました。これらの手間を考えると、決して効率が良いとは言えず、皆伐にはない様々な苦労がうかがえます。


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vol.8

木の学校づくりネットワーク 第8号(平成21年5月9日)の概要

  • 巻頭コラム:「透湿ルーフィングと呼吸する家への期待」土屋喬雄(工学部建築学科教授・工学博士、建築環境工学):
    京都議定書が発効し、2008年から2012年の間に、1990年レベルのCO2発生量より6% 減を達成しなければならなくなりました。そのような状況下にあるにもかかわらず、住宅や事務所ビルなどの民生用で消費されるエネルギー量が増加の一途をたどっています。より住み良い住環境を求めてきたことを思えば当然の成り行きだといえましょう。では、エネルギーの消費量を抑えつつ住み良い住環境を創り出すにはどうしたらよいのでしょうか。高断熱高気密、全館暖房、計画換気、自然エネルギー利用に答えがありそうです。建物のガードをがっちり固め、そこへ太陽、風力、地熱などの自然エネルギーを最大限利用するシステムを組み込むことです。
    ところで、平成13年7月にはいわゆる「シックハウス法」が施行され、新築住宅では揮発性有機化合物(VOC)のうちホルムアルデヒドを対象として、含有量に応じた建材の使用の制限と、機械換気の設置が義務付けられました。「シックハウス法」のおかげで、ホルムアルデヒドは改善されつつありますが、他の有機化合物による健康障害やカビの発生が急増しているとも云われており、カビによる健康障害が全世界的なテーマとなっています。カビを餌とするダニの増殖や建物を腐らせる腐朽菌も困った存在です。
    これらの健康障害をなくし、長持ちする家を作るには結露をなくすことが基本となります。結露には、普段目にする表面結露と壁の中などで発生する内部結露があります。高断熱化が進むほど表面結露はなくなり、内部結露へ移行していきます。とくに最近、屋根での腐れが問題となっています。「屋根を剥がしてみたらグチャグチャに腐っていた」とは、よく耳にする言葉です。その大きな原因の一つに防水層の存在があります。現在使用されている防水材であるアスファルトルーフィングは透湿抵抗が極めて大きく、外部への湿気の放散を妨げています。雨漏れ等により濡れると下地材はなかなか乾燥せず、腐朽につながりやすいのです。そこで登場してきたのが透湿ルーフィングです。雨水の浸入は阻止するが、湿気は自由に逃がす、壁で使用されている透湿防水シートと同じ原理の素材を屋根用に改良したものです。極めて透湿抵抗が小さいため、乾燥を促進し結果的に建物の長寿命化につながるものと期待されています。最終的には透湿性の高い野地板と屋根葺き材の組み合わせによって、屋根トータルで呼吸する透湿屋根システムを確立することが必要でしょう。
    家全体が呼吸し、自然と融合し、自然に還る循環型工法が求められています。これこそ、わが国が歩んできた家造りの基本であり、後世に伝えることが必要であると思います。
  • 木の学校づくり研究会より報告:
    4月11日に行われた第7回木の学校づくり研究会では、木材流通コンサルタントの二国純生氏を迎え、「世界の木材市場と日本の木材市場」というテーマで、グローバル化した世界の中で日本の木材関連市場の現状と未来についてお話をしていただきました。今回は講演の概要をご紹介いたします。
    ■世界の木材市場の状況から
    世界の森林面積は39haと陸地の3割に過ぎない。その内訳は南米23% ロシア22% アフリカ17% アジア14% 北・中米14%となっており、早成樹のポプラなどの植林を進めている中国や、欧州では拡大する傾向が見える。しかし世界の森林面積は毎年、およそ日本の国土の1/3が失われているのが現状。そのような中で、森林は持続可能な資源として注目され、近年、立ち木から流通、加工まで適正に管理された森林に対して、世界共通の基準として森林認証(FSC:1億ha以上PEFC 現在2億ha以上)が用いられるようになってきた。
    大規模で持続可能な人工林は投資の対象とされ、REIT(Real Estate Investment Trust)「不動産投資信託」TIMO(Timber Investment Management Organizaition)「森林投資管理組織」といったファンドによる所有が広まり、森林が投資マネーの対象となっていることが、森林認証普及の背景となっている。既に米国や南半球では、大面積の私有林の主要な所有者はファンドとなり、欧州でも拡大中だ。
    また先進国の森林では大規模経営により、紙パルプ・木材・木質建材から、バイオマス燃料までを含めた総合森林林産物業としての運営が主体で、1社で日本の私有林面積に匹敵する規模の管理林を所有して、経営安定のため、複数の大陸間にまたがる管理林を所有する場合もある。フィンランドのように1つの森林組合が国全体の森林を管理する場合もあり、今後、日本の森林業が生き残る上では、規模の見直しが必要となるだろう。
    ■日本の木材市場の状況から
    日本は国土の66%が森林に覆われた森林大国で、住宅は木造主体でありながら、木材供給の3/4を輸入に頼っているのが現状。先進国では中古住宅流通が7割以上であるのに対し、日本では一割強と建て替えが中心となっている。にもかかわらず、短期・中長期に見ても日本の木材需要は減少する。現在は年間80万戸であるが、人口の減少にともない2015年には30万~50万戸と1960年代の水準に戻る見込みだ。200年後には現在の人口の4割程度となることを考慮すれば、「200年住宅」を提唱する前に、中古戸建住宅の評価基準の整備の方が重要で、場当たり的ではない、実質にもとづいた方針を考えていく必要がある。
    カナダは国、州が支援して新たな地域に市場開拓(中国・四川省)して木材を売り込んでいるし、欧州では新たな市場として木造の大規模な構造体の開発が行われている。北米・欧州では世界的な視点を持った上で具体的な方針を打ち出している。日本の戦略は未だ明確ではないが、WASSが教育の場として学校に焦点を絞っている点は興味深い。

    二国氏の話は金融不況が長期化するなか、日本の林業は国際的競争力も、内需も期待できない危機的状況にあるとことを改めて指摘する内容でした。これに対し、研究会の参加者からは地域環境の保全の必要性から行政による保護、地域に密着した日本独自の小規模林業の可能性についての意見が寄せられました。

vol.7

木の学校づくりネットワーク 第7号(平成21年4月11日)の概要

  • 巻頭コラム:「木質”この極めて人間的な材料”の研究に携わって」香取慶一(東洋大学工学部建築学科准教授)
    私こと、もともとは(業界用語でいえば)いわゆる「コンクリート屋(コンクリートを対象とする研究者や技術者)」に属する人間です。縁あって東洋大学建築学科の一員となり、またWASSの研究メンバーとなってから、初めて木材(あえて木質という言葉を使わせていただきます)に関連する研究に携わりました。
    建築物の主要な構造材料が、コンクリート、鋼鉄、木質ということは、おそらくどこの大学の建築学科の講義でも習うことですが、私たちコンクリート屋は、一種の呪縛じみた観念を持っています。それは、「コンクリートは計算に乗らない」(数値的な判断が難しい、挙動の関数表現化が難しい、力学的性質にばらつきが大きく、数値解析が難しかったり実験の再現性に問題があったりする)ということでしょうか。強度設計(調合)の概念が確率論に立脚する、養生方法によっても強度発現が大きく異なる、強度は同じでも変形性能が異なるなど、悩ましい点です。実験が事前の予想と大きく異なっても、「計算に乗らない難しいものを扱っているんだ」の一言で、それとなく納得してしまうことも少なからずあります。
    で、そのような人間が木質に関連した研究(鉄筋コンクリートと木質を併用・混用したハイブリッド構造)をこの2年ほど行なっています。2年たって思うことは、「木質はコンクリート以上に手ごわい材料だな」ということでしょうか。反り、曲がり、欠点、含水率、(今一番手を焼いている)強度異方性など、コンクリートや鋼鉄とは根本的に考え方の違う概念を理解していないと詳細な研究ができない、「計算にのらない云々」で納得してしまっては先に進まない、などなど。奥深くかつ考え方によっては恐ろしい材料だな、という点でしょうか。
    と、ここまで書いてふと思ったのですが、「『計算に乗らない』とは、人間の思考・嗜好なり生活なりの多様性に似ているのではないか。木質は極めて人間的な材料なのではないか。」という点です。太古から同じ地球あるいは同じ国、同じ地域、同じ空間で人間と木質は共存共栄してきました。同じ空気に囲まれ、同じ水に潤い、同じ光を浴び、同じ土に触れて育まれる・・・人間の多様性と木質の多様性は、このような同じ営みを通じて形成された「共通項」なのかも知れません。人格形成の重要な時期である15歳までの多くの時間を過ごすであろう学校建築を(構造的にあるいは内装を)木質化することの意義の一つも、このような共通項によることなのでしょう。
    私はこの4月以降も、ハイブリッド構造の力学的研究のテーマを継続して行います。木質の奥深さに敬服し、悩み、恐れおののくことでしょう。
    木質と人間の多様性の理解・・・私が木質の多様性を理解することと、妻の考えを理解することのどちらが早いのでしょうか。連れ添って15年、いまだに良く分かりません。気になるところです。
  • 最近のトピックス:「木のまち・木のいえ推進フォーラム発足」
    住宅・建築物への木材の利用を促進しようと、産学官が連携して活動を展開する「木のまち・木のいえ推進フォーラム」(代表=有馬孝禮宮崎県木材利用技術センター所長・東大名誉教授)が2月27日に発足しました。東京都内で設立大会が開かれ、フォーラムの活動目的や具体的な行動などを宣言。このフォーラム発起人には建築と木材の学識者や、設計、施工、木材加工業分野の代表者が名を連ね、木材利用の促進、木造住宅・建築の普及を目指して以下のような5つアクションがとられるようです。

    ① 住宅生産者と木材生産者の交流会を通した良質で長寿な木造住宅ストックの形成
    ② 耐久性の高い木製品、マンション内装材など木材の可能性をひろげる製品・技術の開発
    ③ 中小住宅生産者の技術力の向上支援を通した次世代への木造技術の伝承・担い手の育成
    ④ 学校などの公共施設の木造化・木質化の推進技術の検討・分析と伝統的構法による木造住宅に係る環境整備による、木材が利用しやすくなる環境づくり
    ⑤ 消費者・次世代への「木の文化」「木造の文化」の再発信、各種支援措置が検索できるシステムの整備など、木造住宅・建築物に関する積極的な情報発信

    以上の内容から川上から川下までの関係を再構築する力強い枠組みなることが期待できそうです。フォーラムでは内田祥哉東京大学名誉教授による戦後の木造建築に関する基調講演が行われ、フォーラム設立の歴史的な背景と今後の木造建築に対する展望が語られました。ここでは基調講演の「木造建築と森林資源」の概要を紹介させていただきます。
    ■戦後の木造建築
    内田先生が逓信省営繕に入られた1947年には、戦時中の空襲で、大都市は殆どを焼土と化して、420万戸の住宅不足と言われていました。鉄もセメントもガラスも不足するなか、国土に残された森林が唯一の頼りで、事務所建築も国産材で2階建てられる時代でした。一方世論としては関東大震災と戦時中の空襲による戦災で、戦後は木造建築が、都市を都市火災の燃料と見られるようになり、都市を火災から守ろうとする世論の盛り上がりによって、ついに1959年の建築学会の大会における「都市に於ける木造禁止」を求める動きにまでなりました。
    ■木製型枠が支えた日本のコンクリート造
    木造建築の建設が減少して、コンクリート造が戦後の都市復興の主要な構造となりながらも木材は枯渇してゆきました。日本のコンクリート造の普及を支えたのも木材だったのです。海外では高価な型枠工事も優秀な大工職の存在によって、日本では容易に行われ、全国的に普及したのです。
    ■木造建築の見直し
    その後1981年建築基準法が性能規定を取り入れ、限界耐力の検証を認めるようになったことで、それまであった木造独自の耐力基準が見直され、都市における木造建築建設の可能性が広げられました。近年は国内の森林資源に再生の兆しが見え、木造に関する研究分野においても、伝統的建 築の耐久性、限界耐力検証の実験が進み、防火についても、燃え代設計、木製防火戸が認可され、木造建築の建設に従事する技術者や、この分野に興味を持つ学生も年々増加しているようです。

  • WASS研究室から

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vol.6

木の学校づくりネットワーク 第6号(平成21年3月14日)の概要

  • 巻頭コラム:「京都市の景観保全のための独自の防火規制への取り組み」野澤千絵(東洋大学工学部建築学科准教授):
    都市計画の分野では、過去の自然災害や大火等による甚大な都市災害の経験から、都市の不燃化が災害に強いまちづくり実現のための主要な方針の一つとなっている。そのため、都市の中心市街地、主要な駅前、官公庁街、幹線道路沿道など不燃化の必要性が高い地域などに、建物を燃えにくい構造とするように規制する「防火地域」「準防火地域」が都市計画で定められている。その一方で、我が国の歴史的な都市は、一般的に、狭い道路に歴史的な木造建物が密集した都市形態が多い。
    わが国を代表する歴史都市・京都では、都心部に木造の京町家が建ち並んだ歴史的な景観を有する地域が多く、こうした地域に準防火地域が指定されている。例えば、歴史的に独自の建築様式を有するお茶屋の立ち並ぶ祇園町南側地区では、地区特性に応じた独自の景観基準を定め、当地区固有の景観保全の取り組みを展開している。
    しかし、準防火地域のままでは、新・増築を行う場合、軒裏の化粧板仕上げ、外壁の土壁塗りや腰板張り、外観の開口部についての木製出格子、木製建具の使用などが不可能であるなど、木造あらわしを基調とする伝統的様式の建築が困難であるという問題があった。準防火地域の指定を都市計画として解除すれば、確かに伝統的様式の建築は可能となるが、地域全体として防火性能を低下させてしまう恐れがあり、都市防災上は好ましくない。また、当地域の地元まちづくり組織は、伝統的建造物群保存地区のような、静的固定的な規制による景観保全は行いたくないという意向が強かった。
    そこで、景観に寄与する伝統的様式に限って、防火上の柔軟性を持たせる仕組みが検討され、最終的に、準防火地域を解除するとともに、独自の防火条例(平成14年10月施行)を適用した。これは、相対的には制限の緩和となっているが、法制度上では、準防火地域を解除することを起点にした上で、条例で40条による地方公共団体の条例による制限の附加を行うという、(かなりマニアックな)論理で地区独自の景観保全の取り組みを展開させている。
    このように、我が国を代表する歴史的町並みを保全するためであっても、建築物に「木」を使うことに対する様々な法制上のハードルが存在していた。今後、WASSの研究目的の一つである地域産木材の好循環フローの構築のためには、小手先の法制度の操作ではなく、地域の実情に応じて実質的に取り組みができるよう、「最低限の基準(建築基準法)や「国土の均衡ある発展(都市計画法)」といった法制度の考え方そのものも抜本的に転換していく必要があるのではないだろうか。
  • WASS調査報告:
    秋田県能代市では平成6年度以降、小中学校の改築においては木造化を行う、という方針によって木造校舎が建てられてきました。これまでに5つの小中学校で木造校舎が建てられ、現在も2つの小学校が木造で建設中です。
    近年では、このように地場産材を用いて建てられた校舎がいくつもある地域は珍しく、どのようにして校舎に木材が使われているのかを調べるために、WASSで現地調査を行いました。
    この地域では古い木造校舎も多く、地場産材である天然秋田スギがふんだんに使用されています。しかし戦後になると、校舎は鉄筋コンクリート造のものが多く、木造校舎はしばらくの間建てられていませんでした。
    こういった状況の中で、平成7年竣工の崇徳小学校は、能代市が30年ぶりに建設する校舎であり、また秋田スギを用いた建物にしたいという地元の熱意を受けて、木造(一部鉄骨造)の校舎となりました。この校舎を建築するにあたっては、防火や水廻りなどの木造であることの問題がありましたが、特に木材の乾燥についての問題が木造校舎(公共建築)特有の問題として大きかったようです。
    公共建築の場合、入札後に施工業者が決定することから、木材の発注はその後となるため着工までの期間が短く、乾燥材をそろえることが難しい状況にあります。校舎のような大規模建築では、乾燥材を大量に必要とするためなおさらです。崇徳小学校では、地元の協力もあって木材産業関連団体に事前に準備をしておいてもらうことができたため、工事を進めることが可能となった経緯があります。
    崇徳小学校以降、能代市では4つの小中学校が建てられてきましたが、その中で木造校舎建築に関する課題を乗り越えるために色々な取り組みがなされてきました。
    例えば、発注者、設計者、木材関係者で設計の段階から協力して事前の準備を十分に行ったことなどが挙げられます。また、以前に建てられた木造校舎に対しての検証や分析も行い、施工者も含めた市の公共建築についての研究会なども実施されました。
    そのような過程を経て、設計者も「作りやすく、あたりまえにできること」を考えて設計を行う、などの工夫を行っています。例えば、特殊な寸法の木材の場合、準備をしても使用されなかったときにリスクを伴うことから、定尺材を利用することでこれを回避し、木材を調達しやすい状況を作り出しています。また、次第に木材供給側の理解度も高まり、設計者が木材業者に合わせるだけではなく、木材業者が設計者に合わせることも可能となってきました。その中で生まれたのが下記の常盤小中学校や浅内小学校の木造校舎です。
    しかし、残念なことに現在建設中の2校が竣工すると木造校舎の建築予定は現段階ではないため、これまでに積み上げてきたノウハウが失われていくことが懸念されます。WASSとしても能代市の取り組みを1つの代表的な事例としてを分析し、他の地域での取り組みにも生かせるようにしていかなくてはならないと強く感じています。


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vol.5

木の学校づくりネットワーク 第5号(平成21年2月28日)の概要

  • 巻頭コラム:「木造住宅の設計シミュレーションから木造学校建築の設計へ」秋山哲一(東洋大学工学部建築学科教授)
    もうずいぶん昔のことになるが、木造住宅の設計問題を取り上げたことがある。木造住宅の施工を担当する大工たちは、「木造の設計をちゃんとできる建築家(設計者)はいない」という。一方、木造住宅に積極的に取り組む建築家(設計者)たちからは「木造の良さを活かした設計は大工・工務店にはできない」という。木造住宅の設計のポイントはどこにあるのだろうか。設計事務所の設計者による設計と大工による設計、そのメリット・ディメリットを確かめるために、奈良の大工棟梁に協力をお願いして設計シミュレーションを行った。対応していただいた大工棟梁は、これからの大工・工務店の設計のあり方を考えるうえで役に立つならば、と無報酬で協力してくれた。
    この大工棟梁は、設計事務所の設計者による設計図に基づいた施工をしていない、自前の設計施工しか経験していなかった。シミュレーションは、ある仮想に敷地に仮想の建築主による契約条件(研究者側で設定)で設計を行うことにし、その打ち合わせプロセス、示されたスケッチ、設計図、見積書等を丁寧に記録した。
    シミュレーションは、2つに分かれている。第1は、大工棟梁の純粋な設計能力・設計ボキャブラリーを確認するもの。①大工棟梁が必要と考える設計与条件のみを建築主から聞き出してそれに基づいてとりまとめた設計図、②その設計図作成プロセスで建築主から普段大工棟梁が使わないが木造らしさを表すようないくつかの設計変更要求をだした場合の対応とそれに基づいて作成された設計図等、を記録した。結論からいうと、大工棟梁は経験的に修得した設計ルールを持っており、特別な要求がなければそのルールに従って設計を進める。また、これが性能やコスト的にバランスの良いものになっていると思っている。ただし、建築主から特別な要望が出ると即座にその内容を理解し、対応できるものは柔軟に対応し、できないものはその理由を説明しうる能力を持っていることが確認できた。
    第2は、設計事務所の設計者による設計能力の確認である。ここでは木造設計に興味や意欲があるが、木造設計実務を知らない大学院生に、第1のシミュレーションと同じ条件で設計をしてもらう。その設計図について大工棟梁に施工者側の観点から意見を出し、場合によっては設計変更点を提案してもらった。最終的には、設計者である大学院生と大工棟梁でやり取りをして、施工図、見積書を作成してもらう手順をとった。
    大学院生である設計者は木材の定尺や既製品の寸法を知らないため、すべて特注仕様になっていること、デザイン優先で軒の出の荷重が支えられないこと、屋根の重なり部分が近すぎての施工ができないことなど、設計者の思いだけではバランスの良い設計ができないことが確認できた。
    木造住宅設計シミュレーションで体験的に理解した問題が、規模や内容は違っても木造の学校建築の設計においてもあるのではあるまいか。木造建築であるからこそ、設計事務所の設計者と施工者あるいは木材生産・供給者の間の緊密のコミュニケーションの重要性がより高くなることもありえよう。どのような設計情報がどのような時期に必要か、詳しく検討するのがWASSの研究課題の1つではないだろうか。
  • WASS調査報告:埼玉県のある森林組合に聞き取り調査を行いました。補助金に依存してしまう森林組合が多い中で、この森林組合は特徴的な活動を行っています。その内容を一部抜粋して紹介します。
    ■森林組合の基本理念
    「組合員のための組合」というのが私どもの森林組合の基本理念としてあります。そして、川上、川中、川下がお互いのことを考えて、業界全体でよくなって、少ない利益を分かち合えるような考えでないとうまくいきません。そうしないと必ずどこかを圧迫することになります。
    ■経営の工夫
    流通確保の人たちと一緒に材木をどう捌くかということをいつも考えながらやっています。原木で売れるような状態にするまでがこの森林組合の業務ですが、丸太の製材を行うと端材が出てくる。それをどう流すかということで、例えば需要を見ながら間柱として利用する。それがだめなら建物の木質化に利用するなどしています。製品が流れれば、原木がうまく流れることに繋がるし、そういう状態にしておかないといけませんので。
    ■補助金の利用について
    補助金はできるだけ有利なものしか使いません。山主から依頼があった場合にも有利な補助金が来るまで待ってもらいます。だから、補助金がついたから切るのではなく、どれを使えばいいのかということを見極めて利用します。
    また、補助金がなくても採算があうような段取りを行いますから、間伐や補助金が付かない皆伐でも山主に売り上げを還元していきます。
    ■森林整備について
    伐採後の造林などは、出来ない部分は森林組合が手伝いながら、山主と進めていきます。これは山主が林業家として本来やるべきことですから。
    木は無花粉のスギ、ヒノキを植えていますが、その密度は日本中の50年生ぐらいの山を3年かけて調査して決めました。従来の施業とはだいぶ違いますね。
    ■公共建築で木を使うことの難しさ
    木材は切り出してから最終的に使われるまでどんなに急いだって半年ぐらいかかります。学校などの公共建築だと、議会の承認が出るかどうかや施工者が決まっていない中で材料は先行して進めることになります。このとき信用供与をどこでやるのか。そして、それが達成できたとしても、購入のための値段が決まっていなければ山も木を切ることはできない。その辺のことが技術的なことよりも一番問題だと思います。
    また、こういった建物では設計者が使用木材量を出すわけですが、鉄筋コンクリート育ちで木拾いが出来ないんですね。材積を出すんですが、必ず足りなくなる。
  • WASS研究室から


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vol.4

木の学校づくりネットワーク 第4号(平成21年1月10日)の概要

  • 巻頭コラム:「”木の学校づくり”の二つの意味」浦江真人(東洋大学工学部建築学科准教授):「木の学校づくり」には二つの意味があります。一つは、「木を使った学校をつくる」こと、もう一つは、「木を学ぶ学校をつくる」ことです。これらに関する情報を収集・発信し「木の学校づくり」ネットワークを構築することが「木と建築で創造する共生社会研究センター(WASS)」の目的です。
    近年、学校建築においても木の活用が進められています。木には柔らかさや温かみがあり、学校建築に木を使うことによって教育環境の向上が期待されています。そして、国産材・地域産材・地場産材の積極的な利用を図ることが望まれており、CO2固定化や環境保全に加え、林業の発展や町おこし・村おこしとしても期待されています。
    木材は生物材料です。鉄筋コンクリート(RC)や鉄骨の鉱物材料や、金属・プラスチック製の工業部材に比べると、同じ規格・性能のものを早く大量に揃えることは容易ではありません。したがって、木の特性や利点・欠点を十分に理解した上で、設計・施工しなければなりません。また、木の活用に学校建築を対象とすることの特徴は、規模が大きく一度に大量の木材が必要であることや、公立学校は公共工事であり工事の発注や木材の調達など、戸建住宅と比べて建築生産の仕組みに大きな違いがあります。このことは、林業経営、素材生産、原木流通、製材加工、製品流通、部材加工、建設、維持管理までの全てのプロセスに関係します。
    これらの情報を木の学校建築に携わる発注者、建築設計者、施工者などに対して提供する必要があります。また、学生に対しても、日本の森林や林業の現状を理解し木を知るために、実際に山を見学したり、間伐や下刈りを手伝ったり、自分たちで木を加工し建物を造ったりする活動をおこなっています。また、小中学校でも木の学校を教材として木・森・環境について学ぶことができます。
    これらは、とても大きな課題ですが、WASSの活動がその解決の新しい糸口になるはずです。
  • 最近のトピックス:平成20年12月18日に福岡県福岡市民会館で日本木材加工技術協会九州支部主催の講演会「木材利用は環境に良い?-そのわけ(理由)と先進的取り組み-」が行われました。
    この講演会は、地球環境の保全や生活環境の向上が求められ、森林の重要性が叫ばれている現状の中で、森林を伐採し、木材として使うことがどのような影響を与えるのかについて木材を取り扱う専門家が講演し、先進的な取り組みの事例などを紹介したものです。
    京大学名誉教授である大熊幹章氏は「地球温暖化防止行動としての木材利用の推進」というタイトルで基調講演を行いました。その中で、林業が現在は森林整備を大きな目的としてしまい、本来の木材生産・利用から離れてしまっていることを指摘されました。また、Carbon Footprint(炭素排出足跡)を木質系材料や住宅などに適用すれば、鉄筋コンクリートや鉄骨などの他材料製品と比較することで木材の優位性が明確に示されるとし、木材利用推進の切り札としてなる可能性があるという考えを述べられました。
    山口県、福岡県を中心とする安成工務店の安成信次氏は、「住環境と木材利用」ということで、国産材を利用した自然素材型住宅を建築する中で、山側と工務店と直接結ぶネットワークを形成し、山とまちの交流をテーマにして行っている取り組みについて発表されました。
    最後に、九州大学大学院教授の綿貫茂喜氏は「ヒトの整理反応からみた杉材の有用性」という講演を行いました。これは、本紙創刊号にてお知らせした記事の内容について詳細に説明されたものです。
    綿貫教授は、木材が経験的、主観的に親しみのある材料であり、非常に身近な存在であったにも関わらず、現在うまく使われていないことに対して、木材を使うことが生理的に良い結果を与えるという客観的な事実が明らかにされていないことが原因の1つであると考えられ、木材の揮発成分、光の吸収特性と生理反応との関係から杉材の生理的効果を検討されました。その概要について、講演会資料の中から抜粋して以下に記します。

    1)木材の揮発成分について

    (1)実験室で、木材から抽出された揮発成分を短時間与えると、左前頭部の脳活動が高まり、免疫活動が高まった。

    (2)木材の長期使用について

    小国杉で製作された学習用机と椅子を長期間使用したクラス(1組)では、その他のクラスよりも免疫活動が増加した。この長期使用中に、中学校でインフルエンザによる欠席者が急増した時期があったが、1組の欠席者は他より少なかった。

    (3)木材の乾燥温度と免疫活動について

    40℃、80℃および120℃で乾燥した杉の床材を中学校1年生の3クラスに各々配置し、クラス間の生理反応を比較したところ、40℃で乾燥した床材を使用したクラスの免疫活動は120℃でのそれより高かった。

    2)杉材の光吸収特性について

    電磁波の中で、380nmから750nmの波長を可視光線と呼ぶが、杉材は短波長を吸収し、長波長を反射する。青色光である460nm付近の光は脳の松果体から分泌されるメラトニンを抑制することが知られている。メラトニンは生体リズムを調節し、メラトニンの分泌が抑制されると質の高い睡眠が得られない。従って、寝室には短波長光を吸収する素材が用いられるべきであろう。そこで杉材にそのような効果があるのかを調べた。実験は人工気候室内の壁に杉材あるいは灰色の壁紙を配置し、間接照明で照らした。その結果、夜間のメラトニン分泌は杉材の方が多かった。また、脳波を測定したところ、杉材の方が適切な覚醒水準が得られることが示された。


  • WASS研究室から


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vol.3

木の学校づくりネットワーク 3号(平成20年10月1日)の概要

  • 巻頭コラム:「日本人の木造建築に対する愛着と憧れ」藤井 弘義(東洋大学理工学部建築学科講師)
    木から作られる物には、建物・家具・寄木細工・ワイン・ウィスキーの樽など広く様々に使われており、生活に密着している酒・味噌・醤油も杉板張りのような麹室で良い商品が出来上がっていくのである。その代表的な木造建物でよく表現される言葉の中に、木の香・木目・木振り・木の温もりなどがある。この表現言葉で質の良い木に囲まれていた古代の日本人が木材に対する愛着と憧れをもっているのも少しも不思議ではない。
    今日でも多くの日本人に、この木の家屋に対する愛着と憧れが継承されてきたことを反映している。
    日本従来の木造建築の屋内には木が多量に用いられ,ペンキで塗られることは無かったし、柱や扉,家具などには,天然の木目と色を鑑賞できるような仕上げが施され,縁側の板には何の仕上げも施されていなかった。仕上げの施されていない木を使うことにより,庭の樹木との自然な結びつきと「わびさび」に結び付かせることもでき結果として生じるのは,刺激よりも調和と静寂といった効果である。多くの日本人は,いつの日かそんな家を持つのが「夢だ」と思っている。
    しかし,そのような家屋を建てるための良質の材木は,今ではとても高すぎて手が出ない場合が多くなったが、それでも日本人はできだけ木を使うことにこだわる。木は見映えがするだけでなく,自然の力がありしばしば襲う地震や台風,蒸し暑い夏や寒い冬など,日本を取り巻く環境に合っていることを知っているからである。今は、化学的な製品による多くの恩恵を受けているが石などの材質だと割れてしまう場合でも,木材だと,力が掛かっても,しなやかに曲がったりねじれたりするので,木材は地震国には大変な恩恵をもたらしてきたのである。木にはまた,手入れにより保湿と断熱というすばらしい特性もあり6月から8月にかけての日本の雨や湿気にもかかわらず,家屋が朽ちてしまうことはない。この時期に,木は状況に応じて変化し,ある程度の快適な暮らしをさせてくれる。木には空気中から湿気を吸収し,後から湿気を放出する能力があるからである。とはいえ,普通の人にとって,木の魅力は全く別のところにあるようだ。
    人々が木を選ぶ理由は,ほとんどの場合その外見で木の美しさにある。「木は自然の産物なので一片一片他とは異なっている。一本の木から採られた木材の各部分,あるいは同じ木の板の各部分でさえも他とは異なる。強度や色は同じかもしれないが,木目は同じではない。木を大変魅力的にしているのは,特徴,強度,色合い,扱いやすさ,さらには香りにまで見られるこの多様性なのである。*1
    木は,安物の,質の悪い建材などではない。それどころか木材を正しく選び,正しく扱えば,幾百年もの使用に耐える断熱効果の高い建物を造ることができる。ある権威者の主張するところによると,きちんと手入れさえすれば,木は決して朽ちることがありませんと述べている。その真偽はともかくとしても,木は創造者がわたしたちに与えてくれた最良の建材の一つであることに間違いないのである。このように木は、自然の産物なので手入れや扱い方により、木の美しさ・木の温もり・保温や断熱など木の魅力を存分に味わうことが出来るのである。
    そのような木造建築に対して、日本人は愛着と憧れをもっているのである。*1:アルバート・ジャクソンとデービッド・デイは,共著の「コリンズ 良い木のハンドブック」
  • ・他

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vol.2

木の学校づくりネットワーク 第2号(平成20年11月15日)の概要

  • 巻頭コラム:工藤和美(東洋大学理工学部建築学科教授、建築家/シーラカンスK&H)「木はいいよね!落ち着くし、触れるし、やさしいし。何かストレスが無くなる感じで、子ども達の怪我が減ったのよ。」これは、一年点検で訪れた時、さつき幼稚園の園長先生から頂いたお言葉。コンクリート造の旧園舎で、25年間過ごしてこられた経験と照らし合わせてのこの感想は、今まさに私たちが進めて行こうとしているWASSの活動へのエールのようにも聞こえてきます。もちろん、地球環境への配慮、心理学的効果や科学的根拠もさることながら、使い手の満足があってこそ木が生きてくるし、多くの木を用いることができると感じています。学校建築の設計を手がける時に、他の施設と比べて私がもっとも頭を悩ますのが、掲示物の多さです。日本の学校では、特に幼稚園や小学校においては、「環境整備」という呼び方で部屋を飾る事が多く、掲示可能な壁が必要だと求められています。現在、多くの学校で使用されている工業製品の壁仕上げでは簡単には掲示ができません。ところが、木質仕上げの部屋では、天井でも壁でもちょっとしたピンがあれば簡単に掲示することができます。学校のような大きな建築では、仕上げの量も大変なものです。木に囲まれた空間になることで、掲示の場所を探し、掲示方法を如何しようかと頭をひねるといったストレスから解放されます。しかし、木と付き合うには少しのんびりした心構えも必要です。木は呼吸しているので、湿気を吸ったり乾燥したりと1年を通して伸び縮みします。落ち着くまで少々暴れますし、勝手の悪い時期もあります。その時、あせって処理するのではなく、1年2年と様子を見るだけの余裕も必要です。子どもの成長を見守る親の目をもったユーザー教育も大切なのかもしれません。学校は、子ども達が一日の大半を過ごす空間です。心地よさをもった木の学校づくりを広げることは、未来を担う人を育てる上で、重要な役割を担うことになります。「木はいいよね!」をますます広げましょう。

※参考リンク: 話題の木造施設――「初めての大規模」を語る 対談:松永安光氏/近代建築研究所代表+工藤和美氏/シーラカンスK&H代表

  • WASSシンポジウム報告:平成20年10月25日にWASSの第1回シンポジウムが秋田、三重、群馬、山梨など遠路からの方々を含め300余名の参加者を迎えて開催されました。・・
  • WASS研究室から

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創刊号vol.1

木の学校づくりネットワーク 創刊号(平成20年10月25日)の概要

  • 巻頭コラム:長澤悟:近年、構造あるいは内装や架構に木を用いた学校建設が進んでいます。児童・生徒が健やかに成長する場をつくる素材として木は優れた特長をもっています。また、木の建築に対する人々の喜びの大きさ、地域の木造文化・技能の継承、地域経済の活性化、地域環境の保全、二酸化炭素の吸収・固定による温暖化対策効果など、学校建築における木の活用には多面的な意義と可能性があります。一方、生産する「山」では木は安いと言い、建設する「町」では木は高くて使えないという声が聞かれます。また、木の活用促進を図る上で、法規や規準や制度が総合調整されていないという指摘もあります。いわば「山」と「町」を結び、専門分野、業種、省庁などの枠を超えて、木を使いやすい社会システムの構築が求められます。東洋大学大学院工学研究科では、平成19年度より文部科学省のオープン・リサーチ・センターとして「木と建築で創造する共生社会研究センター(WASS : Wood & Architecture for Symbiosis Society Creation Research Center)」を立ち上げ、「学校建築を主軸とした『木・共生学』の社会システムの構築と実践」をテーマに、構造面、計画・設計面、そして社会的ネットワークという3つの切り口から研究を展開しているところです。

    その一つである木の学校づくりネットワークグループでは、これまでに計画・設計・構造・構法・マネジメント・室内環境・まちおこし・地球環境・教育等にわたる幅広い専門領域の研究者をはじめ、行政・林業・森林組合・製材業・建設・家具等、関係分野の実務者を交えた情報収集を重ねてきました。それぞれの分野で木に関する問題を深くとらえ、創造的な実践を重ねておられる方々を結ぶ場を用意することで、共通理解を図り連携を深めることが、目的を達成する上で重要であると実感しています。

    本日(平成20年10月25日)のシンポジウムを機に、WASSの趣旨に賛同して頂ける方々とのネットワークを広げ、実体化していきたいと考えています。そのために、今後も先進的な地域や学校の調査を進めるとともに、外部の研究協力者も交えた研究会、および多様な分野の講師を招いた講演会を定期的に開催していく予定です。それぞれの研究や仕事を通して共に歩む者同士を結ぶ絆として、「木の学校づくりネットワーク」通信を発行することにした次第です。

  • 調査研究報告:「製材業の今」「公共建築の最初のハードルはJAS規格」「杉が梁に使いにくいわけ・・ヤング係数」「木造はRCより高いか?」他

※パスワードは「wood」