木の学校づくりネットワーク 第5号(平成21年2月28日)の概要
- 巻頭コラム:「木造住宅の設計シミュレーションから木造学校建築の設計へ」秋山哲一(東洋大学工学部建築学科教授)
もうずいぶん昔のことになるが、木造住宅の設計問題を取り上げたことがある。木造住宅の施工を担当する大工たちは、「木造の設計をちゃんとできる建築家(設計者)はいない」という。一方、木造住宅に積極的に取り組む建築家(設計者)たちからは「木造の良さを活かした設計は大工・工務店にはできない」という。木造住宅の設計のポイントはどこにあるのだろうか。設計事務所の設計者による設計と大工による設計、そのメリット・ディメリットを確かめるために、奈良の大工棟梁に協力をお願いして設計シミュレーションを行った。対応していただいた大工棟梁は、これからの大工・工務店の設計のあり方を考えるうえで役に立つならば、と無報酬で協力してくれた。
この大工棟梁は、設計事務所の設計者による設計図に基づいた施工をしていない、自前の設計施工しか経験していなかった。シミュレーションは、ある仮想に敷地に仮想の建築主による契約条件(研究者側で設定)で設計を行うことにし、その打ち合わせプロセス、示されたスケッチ、設計図、見積書等を丁寧に記録した。
シミュレーションは、2つに分かれている。第1は、大工棟梁の純粋な設計能力・設計ボキャブラリーを確認するもの。①大工棟梁が必要と考える設計与条件のみを建築主から聞き出してそれに基づいてとりまとめた設計図、②その設計図作成プロセスで建築主から普段大工棟梁が使わないが木造らしさを表すようないくつかの設計変更要求をだした場合の対応とそれに基づいて作成された設計図等、を記録した。結論からいうと、大工棟梁は経験的に修得した設計ルールを持っており、特別な要求がなければそのルールに従って設計を進める。また、これが性能やコスト的にバランスの良いものになっていると思っている。ただし、建築主から特別な要望が出ると即座にその内容を理解し、対応できるものは柔軟に対応し、できないものはその理由を説明しうる能力を持っていることが確認できた。
第2は、設計事務所の設計者による設計能力の確認である。ここでは木造設計に興味や意欲があるが、木造設計実務を知らない大学院生に、第1のシミュレーションと同じ条件で設計をしてもらう。その設計図について大工棟梁に施工者側の観点から意見を出し、場合によっては設計変更点を提案してもらった。最終的には、設計者である大学院生と大工棟梁でやり取りをして、施工図、見積書を作成してもらう手順をとった。
大学院生である設計者は木材の定尺や既製品の寸法を知らないため、すべて特注仕様になっていること、デザイン優先で軒の出の荷重が支えられないこと、屋根の重なり部分が近すぎての施工ができないことなど、設計者の思いだけではバランスの良い設計ができないことが確認できた。
木造住宅設計シミュレーションで体験的に理解した問題が、規模や内容は違っても木造の学校建築の設計においてもあるのではあるまいか。木造建築であるからこそ、設計事務所の設計者と施工者あるいは木材生産・供給者の間の緊密のコミュニケーションの重要性がより高くなることもありえよう。どのような設計情報がどのような時期に必要か、詳しく検討するのがWASSの研究課題の1つではないだろうか。
- WASS調査報告:埼玉県のある森林組合に聞き取り調査を行いました。補助金に依存してしまう森林組合が多い中で、この森林組合は特徴的な活動を行っています。その内容を一部抜粋して紹介します。
■森林組合の基本理念
「組合員のための組合」というのが私どもの森林組合の基本理念としてあります。そして、川上、川中、川下がお互いのことを考えて、業界全体でよくなって、少ない利益を分かち合えるような考えでないとうまくいきません。そうしないと必ずどこかを圧迫することになります。
■経営の工夫
流通確保の人たちと一緒に材木をどう捌くかということをいつも考えながらやっています。原木で売れるような状態にするまでがこの森林組合の業務ですが、丸太の製材を行うと端材が出てくる。それをどう流すかということで、例えば需要を見ながら間柱として利用する。それがだめなら建物の木質化に利用するなどしています。製品が流れれば、原木がうまく流れることに繋がるし、そういう状態にしておかないといけませんので。
■補助金の利用について
補助金はできるだけ有利なものしか使いません。山主から依頼があった場合にも有利な補助金が来るまで待ってもらいます。だから、補助金がついたから切るのではなく、どれを使えばいいのかということを見極めて利用します。
また、補助金がなくても採算があうような段取りを行いますから、間伐や補助金が付かない皆伐でも山主に売り上げを還元していきます。
■森林整備について
伐採後の造林などは、出来ない部分は森林組合が手伝いながら、山主と進めていきます。これは山主が林業家として本来やるべきことですから。
木は無花粉のスギ、ヒノキを植えていますが、その密度は日本中の50年生ぐらいの山を3年かけて調査して決めました。従来の施業とはだいぶ違いますね。
■公共建築で木を使うことの難しさ
木材は切り出してから最終的に使われるまでどんなに急いだって半年ぐらいかかります。学校などの公共建築だと、議会の承認が出るかどうかや施工者が決まっていない中で材料は先行して進めることになります。このとき信用供与をどこでやるのか。そして、それが達成できたとしても、購入のための値段が決まっていなければ山も木を切ることはできない。その辺のことが技術的なことよりも一番問題だと思います。
また、こういった建物では設計者が使用木材量を出すわけですが、鉄筋コンクリート育ちで木拾いが出来ないんですね。材積を出すんですが、必ず足りなくなる。 - WASS研究室から
第一期WASS通信Vol.05.pdf
※パスワードは「wood」