木の学校づくりネットワーク 第6号(平成21年3月14日)の概要

  • 巻頭コラム:「京都市の景観保全のための独自の防火規制への取り組み」野澤千絵(東洋大学工学部建築学科准教授):
    都市計画の分野では、過去の自然災害や大火等による甚大な都市災害の経験から、都市の不燃化が災害に強いまちづくり実現のための主要な方針の一つとなっている。そのため、都市の中心市街地、主要な駅前、官公庁街、幹線道路沿道など不燃化の必要性が高い地域などに、建物を燃えにくい構造とするように規制する「防火地域」「準防火地域」が都市計画で定められている。その一方で、我が国の歴史的な都市は、一般的に、狭い道路に歴史的な木造建物が密集した都市形態が多い。
    わが国を代表する歴史都市・京都では、都心部に木造の京町家が建ち並んだ歴史的な景観を有する地域が多く、こうした地域に準防火地域が指定されている。例えば、歴史的に独自の建築様式を有するお茶屋の立ち並ぶ祇園町南側地区では、地区特性に応じた独自の景観基準を定め、当地区固有の景観保全の取り組みを展開している。
    しかし、準防火地域のままでは、新・増築を行う場合、軒裏の化粧板仕上げ、外壁の土壁塗りや腰板張り、外観の開口部についての木製出格子、木製建具の使用などが不可能であるなど、木造あらわしを基調とする伝統的様式の建築が困難であるという問題があった。準防火地域の指定を都市計画として解除すれば、確かに伝統的様式の建築は可能となるが、地域全体として防火性能を低下させてしまう恐れがあり、都市防災上は好ましくない。また、当地域の地元まちづくり組織は、伝統的建造物群保存地区のような、静的固定的な規制による景観保全は行いたくないという意向が強かった。
    そこで、景観に寄与する伝統的様式に限って、防火上の柔軟性を持たせる仕組みが検討され、最終的に、準防火地域を解除するとともに、独自の防火条例(平成14年10月施行)を適用した。これは、相対的には制限の緩和となっているが、法制度上では、準防火地域を解除することを起点にした上で、条例で40条による地方公共団体の条例による制限の附加を行うという、(かなりマニアックな)論理で地区独自の景観保全の取り組みを展開させている。
    このように、我が国を代表する歴史的町並みを保全するためであっても、建築物に「木」を使うことに対する様々な法制上のハードルが存在していた。今後、WASSの研究目的の一つである地域産木材の好循環フローの構築のためには、小手先の法制度の操作ではなく、地域の実情に応じて実質的に取り組みができるよう、「最低限の基準(建築基準法)や「国土の均衡ある発展(都市計画法)」といった法制度の考え方そのものも抜本的に転換していく必要があるのではないだろうか。
  • WASS調査報告:
    秋田県能代市では平成6年度以降、小中学校の改築においては木造化を行う、という方針によって木造校舎が建てられてきました。これまでに5つの小中学校で木造校舎が建てられ、現在も2つの小学校が木造で建設中です。
    近年では、このように地場産材を用いて建てられた校舎がいくつもある地域は珍しく、どのようにして校舎に木材が使われているのかを調べるために、WASSで現地調査を行いました。
    この地域では古い木造校舎も多く、地場産材である天然秋田スギがふんだんに使用されています。しかし戦後になると、校舎は鉄筋コンクリート造のものが多く、木造校舎はしばらくの間建てられていませんでした。
    こういった状況の中で、平成7年竣工の崇徳小学校は、能代市が30年ぶりに建設する校舎であり、また秋田スギを用いた建物にしたいという地元の熱意を受けて、木造(一部鉄骨造)の校舎となりました。この校舎を建築するにあたっては、防火や水廻りなどの木造であることの問題がありましたが、特に木材の乾燥についての問題が木造校舎(公共建築)特有の問題として大きかったようです。
    公共建築の場合、入札後に施工業者が決定することから、木材の発注はその後となるため着工までの期間が短く、乾燥材をそろえることが難しい状況にあります。校舎のような大規模建築では、乾燥材を大量に必要とするためなおさらです。崇徳小学校では、地元の協力もあって木材産業関連団体に事前に準備をしておいてもらうことができたため、工事を進めることが可能となった経緯があります。
    崇徳小学校以降、能代市では4つの小中学校が建てられてきましたが、その中で木造校舎建築に関する課題を乗り越えるために色々な取り組みがなされてきました。
    例えば、発注者、設計者、木材関係者で設計の段階から協力して事前の準備を十分に行ったことなどが挙げられます。また、以前に建てられた木造校舎に対しての検証や分析も行い、施工者も含めた市の公共建築についての研究会なども実施されました。
    そのような過程を経て、設計者も「作りやすく、あたりまえにできること」を考えて設計を行う、などの工夫を行っています。例えば、特殊な寸法の木材の場合、準備をしても使用されなかったときにリスクを伴うことから、定尺材を利用することでこれを回避し、木材を調達しやすい状況を作り出しています。また、次第に木材供給側の理解度も高まり、設計者が木材業者に合わせるだけではなく、木材業者が設計者に合わせることも可能となってきました。その中で生まれたのが下記の常盤小中学校や浅内小学校の木造校舎です。
    しかし、残念なことに現在建設中の2校が竣工すると木造校舎の建築予定は現段階ではないため、これまでに積み上げてきたノウハウが失われていくことが懸念されます。WASSとしても能代市の取り組みを1つの代表的な事例としてを分析し、他の地域での取り組みにも生かせるようにしていかなくてはならないと強く感じています。


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