木の学校づくりネットワーク 第26号(平成23年2月19日)の概要

  • 第3回木の学校づくりシンポジウム 「木の学校づくりは志 山とまちをつなぐ『地域材』の活用」 概要報告:

    1.29WASSメッセージ
    東洋大学 木と建築で創造する共生社会研究センター(WASS)

    WASSは、三つの志をもっています。
    一、「地域材」による木の学校づくりをしようとするところを応援する志
    二、山の木を活用し、再び木を植え・育てる林業の循環を応援する志
    三、森と学校、山とまちをつなぐ物語づくりを応援する志

    WASSは、どこでも、どの自治体でも、「木の学校づくり」が実現できるようにするために三つの実践をします。
    一、WASSモデルの「木の学校づくり」を、これまでの調査・研究で集めた「知恵」と「各地のキーマン」をつないで実現します。
    二、全国の、山林に関わる”川上”、製材・乾燥・加工・家具など”川中”、そして、設計・施工など”川下”の人々から意見や取組みを集め、WASSモデルの山と木のネットワークをつくります。
    三、全国の首長、自治体の行政担当者、教育委員会に、WASSから山と木の地域ネットワークグループを紹介し、木の学校づくりによる、山とまちが連携する糸口を「仮想流域モデル」としてつくります。
    2011年1月29日 第3回木の学校づくりシンポジウム

    「1.29WASSメッセージ」は、平成23年1月29日に東洋大学白山キャンパスのスカイホールにて開催した第3回木の学校づくりシンポジウム「木の学校づくりは志 山とまちをつなぐ『地域材』の活用」(主催:WASS、後援:林野庁)の最後にシンポジウムのまとめとして木の学校づくりに対するWASSの志と今後の活動における決意表明を発表したものである。
    このシンポジウムはタイトルに示されるように、多くの課題の中から特に「地域材の活用」を一つのテーマとしている。地域材を活用することは、その意義については理解が得られやすいが、一方で木材の品質や量の確保、地域の体制やスケジュールなど個々の条件に応じた工夫を求められることも多い。
    そして、木の学校づくりのシステムが整っていない状況で、その目標を達成する上で様々な困難があり、実現に向けて木の学校づくりの意義を忘れないで進めていく高い志が必要となる。また、地域ということを閉鎖的、限定的にとらえずに山とまちがそれぞれの情報を十分に共有し、志をもって地域間をしっかり繋いでいくことが大切なことである。
    そこで、今回は地域材が活用された木の学校づくりの紹介とともに、その中で直面する課題について各事例を通して示してもらい、WASS、パネリスト、会場も含めてディスカッションを行った。
    当日、会場には木材関係者、設計者、行政関係者など、遠方よりの来場者も含めて200名を超える方々が参加した。
    シンポジウムはまず冒頭で、林野庁長官の皆川芳嗣氏と文部科学省大臣官房文教設企画部長の辰野裕一氏からの来賓挨拶が行われた。皆川氏は、かつては木造校舎を通じて得られていた木や森との絆が失われてきた状況の中で、公共建築物木材利用促進法など「非常に大きな反転のチャンスを迎えているのが今の時代」と述べ、また、辰野氏は「各地域における学校というものは木から出発している、そこに根ざしている」ということで「木材の利用・活用の推進に力をいれていきたい」と木の学校づくりに対するエールが送られた。

    地域の取り組み紹介
    続いて、地域材を活用して木の学校づくりを進めてきた地域である大分県中津市と秋田県能代市の各市長によって、それぞれの取り組みが紹介された。
    中津市は市町村合併により山林が市の77.5%を占める地域となり、木材を学校などの公共建築物に使用する取り組みが始まった。そこで、RC造等の現在主流となっている建物と同等、それ以下の値段で建設することを目標に、市内の業者が参加する中津市木造校舎等研究会が作られ、木造での建設における検討が行われた。ここで整理されたポイントとして「無理のない材の選択」、「木材調達のタイミング、乾燥期間の確保」、「在来技術の活用」などがあり、地材地建での木造体育館を低コストで実現する運びとなった。
    能代市では木都である地域を再び活性化させたいという思いから木の学校づくりの取り組みが始まり、現在は建物16校中7校が木造となっている地域である。平成6~12年の草創期は木造によるコストアップ、木材の調達、木造の建築技術といった課題に直面する中で木造校舎の建設が進められていった。平成15~18年の転換期ではコストを抑えるために地元産材を使いながら、工法を工夫して木の学校づくりが行われ、草創期と比較するとコストを削減することに繋がった。そして現在はその次の段階として、これまでの木の学校づくりの課題の検証を行った上で、関係者による木材品質の共通理解、必要木材数量の事前公開などの取り組みが新たに行われている。
    以上のように両地域ともに、コストを下げながら木の学校づくりを実現するための工夫が行われていることが示された。

    PD「地域材による木の学校づくりの課題と方策」
    続く、このパネルディスカッションでは中津市と能代市で木の学校づくりを行った設計者によって、設計の際の課題と工夫として以下のような例が示された。
    ・地域の現状を把握するため、原木、製材、大工、施工業者などの現状調査を行った。
    ・大工との打ち合わせでは設計図だけではなく、納まりや手順などについて大工の提案も受け入れながら検討を行った。
    ・材料強度が不明なので、材料試験を行った。
    ・市場に流通している一般住宅に使用される材料を用いる設計とし、木材調達におけるトラブルを回避した。
    ・木材納入の窓口となる流通業者が現場への納品前に自分達の基準で返品などを行ったことがあり、関係者の共通認識のもと現場監督や設計者、設置者が見て基準を決定するようにした。
    ・大量の木材の準備期間が2~3ヶ月しかなかったことから、着工の6ヶ月前に数量公開を行った。
    ・現場で手戻りや無駄が出ないように、木拾い表や施工図の早期作成を施工者に求めた。
    ・普通の大工が誰でもできるような在来構法での設計を行った。
    また、「地域材による木の学校づくりにおける設計者の役割」ということに対して、言葉の違いはあれど、各パネリストは「全ての分野にある程度精通するコーディネーター」ということを挙げていた。

    PD「山とまちをつなぐ新しいしくみの創出」
    中津市、能代市では地元の木材を用いた、地元の業者による木の学校づくりの試みであり、お互いに共通する課題や工夫が見られた。それらを踏まえた上で、ここでは林野庁、製材所、設計者の方々をパネリストとしてむかえ議論が行われた。
    そして、今後の木の学校づくりを見すえた新しい仕組みを考えていく場合の大きな問題点として次の3つの項目が示された。

    ①必ずしも全てを地元でまかなうことができない
    ②地元の需要はあるところで限られている
    ③地域内で成功した仕組みを他の地域に展開できるか

    これに対してWASSは各地域の山とまちをつなぐ「仮想流域」という考え方の提案を行った。将来的に森林の整備が確実に行われ、材料が確実に確保でき、山に確実に再造林されるという循環が達成されるまでは、地域材に焦点を当てていかないと木材利用の流れをつくるのは難しい。そこで、木の学校づくりを進めるにあたって、「木材はあるが建物需要がない山」と「建物需要があるが木材がないまち」とをネットワークでつなぎ、再造林まで含めた循環を地域間で構築する、地域材で山とまちをつなぐという考え方である。パネリストからは、こうしたネットワークをつなぐ役割やそのための情報発信をWASSが果たしていくことに対して期待が寄せられた。
    そして、最後に紙面冒頭に示した「1.29WASSメッセージ」が発表され、シンポジウムの終了となった。

  • ~みなと森と水サミット2011開催~:
    2011年2月9日から19日まで東京都港区で第4回みなと森と水会議が開催された。初日の9日には港区エコプラザにおいて武井雅昭区長をホストとした全国各地の23の自治体の首長とのサミットが開催され、都市における木材の活用による日本の森林再生と地球温暖化防止への貢献を掲げた「間伐材を始めとした国産材の活用促進に関する協定書」への調印式と今回より参加した自治体の首長による地域紹介、これからの都市部と山間部の交流に関するフリーディスカッションが行われた。最後に首長たちによって「みなと森と水サミット2011宣言」が発せられ、10日間にわたる会期の初日を飾った。
    今年度より参加した自治体は長野県信濃町、岐阜県高山市、東白川村、和歌山県新宮市、島根県隠岐の島町、徳島県三好市、那賀町、高知県馬路村、四万十町の9市町村で、竹島を抱える離島でありながら林野庁の助成を受け、近年木質バイオマス事業に取り組む隠岐の島町の他、木造の小中連係校を建設中の三好市や村民の6割が林業従事者で、村内に新築される木造建築に檜の柱80本を進呈する取り組みを続けている東白川村等いずれも地域材の活用に熱心に取り組む自治体ばかりであった。
    フリーディスカッションでは前回までに参加していた自治体の首長を中心に各市町村の取り組みや、みなと森と水ネットワーク会議(英語名:Unified Networking Initiative For Minato “Mori”&”Mizu”Meeting略称Uni4m)への期待が述べられた。象徴的な発言としては飛行機による移動により港区との庁舎間の移動時間が近隣の自治体より近いという北海道紋別市の宮川良一市長による人的交流への言葉で、交通網を背景に港区や他の自治体と組んだエコツアーの企画や、森林セラピー、農商工連携など木材にとどまらない市民参加の多面的な交流への期待が述べられた。他方、参加自治体が増えると港区からの受注競争がより厳しくなるという率直な指摘も出されており、各地から地域材の性能、規格、価格、供給可能量が提示され、「みなとモデル二酸化炭素固定認証制度」に基づく協定材の運用が実施された際に、地域材の流通プロセスを公正に築き、港区が各自治体とどのような連携を築けるのか、地域材活用モデルとしての実体が注目される。最後に掲げられた4つの宣言文すべてに以下のように組織の実行力を意識した「体」という文字が用いられ制度の構想から実行へ移ろうとする意気込みを伝えていた。

    【四万十町より提供された檜材で作られた協定書のカバー】
    「みなと森と水サミット2011宣言」より抜粋
    一つ、すべての自治体に開かれた「運動体」であること
    一つ、精神的にも体力的にも自立した「事業体」であること
    一つ、お互いの文化を認め合い支えあう「共同体」であること
    一つ、自治体の枠組を超えて一致する「連合体」であること

    (文責:樋口)

  • 第24回木の学校づくり研究会より「持続可能な森林経営・木材利用と循環社会」 講師:藤原 敬氏(ウッドマイルズ研究会 代表運営委員、全国木材協同組合連合会 専務理事)
    ■地球環境時代の始まり
    1980年代前半に各国の森林管理当局の担当者が直面した課題として、1988年をベースにしたFAO(国連食糧農業機関)の熱帯雨林調査の報告書の発表と同時期に作成されたアメリカ合衆国政府の「西暦2000年の地球」という報告書の問題提示があった。その中で毎年日本の国土の3分の2程度の熱帯林が急速に減少しているというデータが発表され、それ以降、各国で様々なレベルの議論があった。1992年の地球サミットでは途上国との政治的なバランスを考慮し結局は実現されなかったものの、地球環境条約、生物多様性条約が提起され、その前年には森林条約も提起されていた。それまでローカルな問題であった森林の問題が大きな国際問題として認識されるようになったのはこの頃である。近年では中国の植林がグローバルな森林面積の増加に寄与しているが熱帯雨林の減少はとまっていない。
    ■木材利用促進と環境保護
    現在IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)等は20 世紀の間に12倍になった化石燃料の使用量を21世紀中に半減させる目標を示し、原子力エネルギーへ依存する方向性も模索しているが、21世紀後半にはバイオマスエネルギーの活用が必要となり、そのために木質資源が重要になってくるという見方が一般的である。そのため木材利用の促進は環境政策として定義されているものであり、木材業界の支援のための産業政策としての動きではないことを確認しておきたい。また現在地球上でCO2が増加している主たる理由は、化石資源の燃焼であるが、その5分の1程度が熱帯雨林の伐採に伴うものであるといわれている。そのため熱帯雨林をどのように安定させていくかが課題となっており、木材の利用推進と持続可能な森林の運営が裏腹の問題となっている。
    ■トレーサビリティを担保するしくみの模索
    国際的に熱帯雨林の破壊を防ぐしくみを構築するためにも、木材を循環型社会の資材と見なすためにも、木材生産に関わる環境負荷を明確にすることが求められている。また既に日本の建築物に関する環境性能評価基準CASBEE*や先行するイギリスやアメリカの基準の中では持続可能な森林から産出した木材への評価とローカルな資材の活用という概念が含まれている。日本の木材輸入量はアメリカ、中国に次いで世界で3番目。輸入量に距離を掛けてマイレージを算出すると、日本はアメリカの4倍のマイレージをかけ木材を使用している現状がある。そのためトレーサビリティを確保して環境負荷を明示していくことが重要になる。それを担保する手法として、国際的な認証基準にもとづいてメーカーや木材業者を認定して繋ぎ、最終的に自治体や消費者に対してグリーン購入法にもとづいて所定の森林から産出した材であることを認定する方法や、木材製品に産地やCO2排出量を示すラベルを貼るカーボンフットプリントのような方法があり、エンドユーザーに生産に関わる環境負荷の情報を如何に伝えるかが共通した課題となっている。ただし木材の場合は製造元の大規模な施設で製造される鉄等と異なり、伐採地の森林と加工施設、機材を持ち込む場合等生産の経路が複雑でコントロールすることが難しい。また国産材と輸入材を比べた場合、これまでは輸入材の方が国産材よりもCO2排出量が多いと想定されていたが、木材乾燥に重油を用いると大きな負担となることがわかった。厳密には海路と陸路、輸送車両の規模によりCO2排出量は異なるため、カーボンフットプリントが普及していくと新たな議論が生じることになる。このような課題を背景にクレディビリティの点から、まず近くのものを使っていくことが重要だということがコンセンサスになっている。
    *Comprehensive Assessment System for Building Environment Efficiency
    (文責:樋口)


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