木の学校づくりネットワーク 第28号(平成23年4月16日)の概要

  • 第3回木の学校づくりシンポジウム報告~地域の取り組み紹介(秋田県能代市)~:
    「地域力を生かす取り組み~山とまちをつなぐ『地域材』の活用~」齊藤滋宣氏(秋田県能代市長):
    ■「木都・能代」
    東北は大変な雪でございまして、雪の降らないところと比べると、荷重がまったく違います。耐震等を考えますと構造そのものが温かい地域とは違いますので、木にかかる荷重が大変大きい。ということは、費用もかかりますが、それだけ木で大型公共物、大型建築物を造るのが大変困難な地域であることをまず頭に入れていただきたいと思います。
    能代市は秋田県の日本海側にあり、人口6万257人、世帯数2万4583世帯、森林面積2万4883haです。能代市には二つの顔があり、一つは「バスケの街」、もう一つは今日のテーマ「木都・能代」と言われる昔から木で大変栄えた街であります。戦前では「東洋一の街」と言われ、日本一の高いスギ(高さ58m、直径1m64cm)があり、その1本の木から55坪の木造の家が建つと言われております。秋田スギで栄えた能代市と二ツ井町が平成18年に合併いたしまして、新しく能代市となりました。東洋一の木材の貯木場と言われた「天神貯木場」があったのも、能代市の二ツ井という地区です。最盛期の昭和36年には517事業所、従業員数7512人、製品出荷額499億9000万、約500億あったわけですが、今は114事業所、従業員1089人、製品出荷額185億と激減しております。
    そういう中で我々は「木都」と謳われたこの能代を何とかもう一度元気のある街にしたい、そのためには一番誇ることのできる秋田スギを使って、歴史と文化が脈々と受け継がれ技術とその経験が今に生きているこの資源をブラッシュアップして世の中に問うてみたい、という思いでまちづくりに励んできました。我々が「木の学校づくり」というものを目指すことにより、子ども達に快適で、健康で、勉強する環境に恵まれた学校を造ってあげたいという思いと同時に、木の素晴らしさを日本国中に知ってもらい、秋田スギの時代をもう一度取り戻し、地域を活性化することができないかという思いで取り組んだわけです。
    ■「木の学校づくり」の実践と検証
    市内には小・中学校が19校あり、そのうち小中一体校が1校ありますので、実質18校。そのうち7校が木造で造られております。
    平成6~12年に、崇徳小学校、第五小学校、東雲中学校の3校を手がけました。特に、歴史と文化の街・檜山と言われる檜山地域にある崇徳小学校を造るに際しまして、地域に多くの木材資源がありますから、地域住民の方達が小学校を建て直すにあたり、我々地域の木材を使って木造の学校を造ることはできないだろうかという声が多く上がりました。昭和61、62年の頃から地域住民の皆様方が木の学校づくりのためにいろいろな勉強会を開くようになり、市民の皆さん、木材産業関係者の皆さん、設計者、工事関係者、行政が一緒になりまして、木の学校づくりに取り組んだわけです。また、この取り組みが始まってから、一貫して学校につきましては木造の学校づくりということが能代市で始まりました。木造だと高いのではないか、木材の調達はどうするのか、そういう建築技術がしっかりと受け継がれてきているのか、雪国ですから構造的に大丈夫なのか、そのことによってさらにコストが増すのではないかという不安の中からの出発でしたが、立派な学校を建てることができました。
    次に転換期となった平成15~18年。先ほどの3校を建てた時は、建築費は坪単価90万~100万ぐらいかかり、若干高いコストがかかっていましたから、次のコンセプトは、少しでも地元産材を使いながら、工法を工夫し、できるだけ安い費用で学校を造ることができないかということでした。そして、関係者が集まりまして、常盤小中学校、そして浅内小学校を建築する計画を作りました。地元でどうやって材を調達するか、そして今使われている材で学校を造ることができないだろうか、さらにトータルコストをいかに安くしていくかということを考えました。最初の頃の学校と比べるとデザインもシンプルになってまいりました。そういう成果が現れまして、プロポーザル方式で学校建築が進められ、皆様方の知恵を結集し、坪単価60万~80万にまで削減することができました。
    そして、次の段階に入るわけです。二ツ井小学校、市立第四小学校は、合併した後にできあがった学校で、二ツ井小学校で約1500m3、第四小学校で1300m3の木材が建物に使われています。地元産材と地元の大工さんによって、できるだけ安い費用で長持ちする学校というコンセプトのもとに造り上げました。2カ年事業で2校同時に建築したわけですが、地元の皆さん方に参加していただくことで、地域の経済の活性化を図りたいという思いがあり、結果、学校1校あたり延べ1万人以上の大工さんを雇用することができました。この両校は坪単価約70万円程度で造ることができました。
    この三つの時期を経て今日に至るわけです。崇徳小学校、第五小学校、東雲中学校を建てた後に、いろいろな課題が各種の皆さん方からお話しされましたので、今後の学校建築にどう活かしていくかを研究するために、公共建築物整備産学官連携事業の中で、今までに建てた学校の検証、これからの対策といった木の学校づくりの研究が始まりました。この組織は、秋田県立大学の木材高度加工研究所、木材加工推進機構、地元の木産連、商工会議所、設計士の皆さん、工務店・建築組合、そして行政が一緒になりまして進めてまいりました。その結果、品質にばらつきがあることが、建築のコストを非常に高くし、差し障りがあることが分かりました。また、規格・グレードの共通理解がなければ、我々が目標としているコストを下げることと能代の材を全国展開するときに、決していい形で作用していかず、切り出した原木を全て使い切る工夫が要るといったことが総括としてまとめ上げられました。そして今度の二ツ井小学校、さらには第四小学校に活かしていこうということが始まりました。検証していきますと、乾燥が甘かったり、木をいじめすぎると維持管理に費用がかかることも分かり、できるだけ早く木材を供給できる体制を作るために、木材供給グループを組織化することにいたしました。そのことにより供給資材等の品質の確保、さらに品質の向上へ寄与することができたわけです。
    このように工夫しながら2校の建築してまいりましたが、それぞれ一般流通材の活用を図ることによりコストを下げてまいりました。さらに適材適所の木材の使用により、またそれも可能となってきました。第四小学校と二ツ井小学校を市民の皆様方に一般公開しましたときに、入ってこられた市民の皆さんが一斉にワーッという声を上げるのです。それは木目の美しさでありました。中には芯もあったり、普通に見るとあまりきれいに見えない材もありましたが、集成材を使ったり、そういう節目のあるものを使ったことにより、逆に市民の皆様方にはデザイン的に、今までと違う感覚で木材というものを改めて見直す機会になったのではないかと思います。
    最初の頃は坪単価100万かかっているところもありました。それが最少で60万まで減少することができました。単価の減少要因はいろいろあると思いますが、一つには、極めて特殊な材料を使わなくなり、あるものでできる検討を設計の先生方や工事業者の皆様方が工夫していただいたおかげだと思います。今後もそういうノウハウを生かしながら適材適所で地元産材を活用した木の建物づくりにがんばっていかなければならないと思っております。
    ■‘木の文化’と‘技術’が見えるまちづくり
    学校を建ててみていろいろなことが分かりましたが、私が一番痛感するのは、木材を広く皆さん方に使っていただくためには、安くて丈夫なものをしっかりと造らなければいけないということです。例えば、木は使っているうちに劣化します。そういうときに、今までのように劣化したところをただ現状回復するために直せばいいのではなく、将来使いやすくなるために改修することで先々コストがかからなくなっていく、さらに計画のときからそういう発想を持つことにより、できる限り将来への改修費用がかからない工夫もしっかりとしていかなければいけないと思っています。学校を通じて木のよさ、素晴らしさを知っていただきたい。そのことは我々が先人から受け継いできた能代の木の文化をさらに引き継いでいくことであり、受け継がれてきた技術・知識といったものがさらに活かされるまちづくりになっていくのではないかと思っております。
    能代市には、本日お話しました7校の木造の小中学校のほかに、旧料亭金勇という天然秋田スギが最盛期の頃に造られた料亭があります。持ち主から市に寄贈いただきまして、今は市で管理しながら秋田スギの見える場所にしていきたい、木にこだわったまちづくりの殿堂にしていきたいという思いで、旧料亭金勇の活用に工夫を凝らしているところです。
    また、技術開発センター「木の学校」というものがあります。木の桶、樽、組子といった、日本中に誇れる技術があり、こういった技術を活かしながら、一般の市民の方達でも木を使っていろいろな木工製品を作られる場所を確保し、少しでも多くの皆さん方に木に触っていただきたい、木に親しみを持っていただきたいということで、市民の皆様方に開放しているところです。
    さらに、秋田県は全国小・中学校学力テストナンバー1、ナンバー2を誇るところです。因果関係は分かりませんが、木の校舎に入ることにより学力がアップされたと言われるようなまちになりたいと思っております。大手予備校のパンフレットに「秋田に学べ、教育」と書かれたポスターがあります。その最後のところに「我々の夢です。秋田の学校は全て木造であるがゆえに学力日本一」と書かれるような学校づくりを目指したいと思っております。
    最後になりましたが、木材を使ったバイオマス発電、東北電力ではチップを使った混焼発電も始まろうとしています。それこそ川上から川下まで切り出した木は、ただの一つも無駄にすることなく、その木を活用しながら、その木の恩恵を受けながら、そして我々はこの木を大切にしながら、木とともにまちづくりに励んでいきたいと思っております。
    次の課題は、今まで学校づくりで培ってきたこの技術と経験、そして素晴らしいこの原材料をぜひとも日本全国中の皆様方に知っていただく、使っていただく努力をしていきたいと思っておりますので、今日お集まりの皆様方の中でぜひとも能代のスギを使ってみたい方がおられましたら、ご遠慮なくご一報いただきたいと思います。
    (文責:牧奈)


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