木の学校づくりネットワーク 第30号(平成23年6月11日)の概要

  • 港区の新制度説明会の報告:
    港区では2011年10月より都市と山間部が共同で低酸素社会の実現を目指す取り組み「みなとモデル二酸化炭素認証制度」を開始する。この新制度の説明会が5月18日、赤坂区民ホールにおいて開催され、企業や市民に向け先進事例の紹介とともに、具体的な制度の運用手続きに関する説明がなされた。
    <対象とする建築物>
     この制度によって港区内で建築される延べ床面積5000㎡以上の建築物については、区への申請が必要となり、規定を外れる建築物についても建築主が自主的に申請を行い、認証を受けることができる。対象となった建築物は、構造材、内装材等に使用された協定木材及び合法木材の構造材、内装材、外溝材家具等の使用量を評価される。
    <対象とする木材>
     認証の対象となる木材は、港区と協定を締結した23の自治体から産出された木材及び木材製品(協定木材)。協定木材は森林施業計画等により、適切に管理され、伐採後の確実な更新が保証された森林から生産された木材とする。ただし協定材のみだけでは対応できないと認められる状況に限り、国内で生産された合法木材(林野庁が策定した「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」により合法性が証明された木材で国産材のもの)も対象とすることができる。
     港区は2050年には2000トン二酸化炭素の固定を目指している。今後、担当部署として制度運営事務局を設け、各方面からの問い合わせに対応する。実質的に協定材以外の木材の使用が認められた枠組みの中で、各協定自治体の思惑に応えられるのか、今後の展開に期待したい。
    (文責:樋口)
  • WASSへの投稿文:「地場の木と地域の人でつくる学校建築」石井ひろみ氏(アーキテラス一級建築士事務所)
    私が今まで携わった学校建築は、地元の財産としての木の学校をつくることを目的に、工種も木造と決められ町有林などの地場の木材を用いることが大前提でプロジェクトがスタートしているケースが多く、設計初期から地元の林業家や木にかかわる技術者たちとパートナーシップを取った形でプロジェクトが進んでゆきました。また、木材の調達・管理(図1)のコーディネートもプロジェクトの工程中一貫して設計者の大きな使命となり、RC造やS造の同規模公共建築と比較すると、設計業務の時間と労力が数倍必要となりました。これらは、設計者も発注者である市町村も大規模木造の公共建築の事例が少ないため、互いに手探りしながらのことであったように感じます。様々な地域で経験を重ね、その地域の環境や風土や文化を知る先人からの知恵を受け継いだ地元の方の声を深く取り入れ、一歩一歩ノウハウを模索し構築したようにも思います。また、実施設計時には自治体にある林業研究の専門機関や大学と協力し、木材の強度や仕口の強度試験を行いました。工事着工後には手刻みで仕口加工を施す大工さんと膝をつきあわせて技術検討を行う機会が多いのも大変印象深いものです。
    木造の学校づくりは設計時から竣工時まで地元の大勢の『ひと』が一体となり、地域の一大プロジェクトとして時間を共有しながら記憶が深く互いの胸に刻まれてゆくような思いを感じています。
    1.地場の材と地域のひとを学校づくりに活かす
    表1は設計監理を手掛けた木の学校建築の6事例で、共通した主だった特徴が三つあります。
    ① 地場の材を無垢材のまま構造部材や仕上げ部材として活用しています。特に柱は丸太(皮むき)のまま計画し、子供達の目線で手を伸ばし丸太の肌に触れ、森のなかにいるような情緒的な体感ができるような表現を試みています。廊下や教室に等間隔でならぶ丸太を見ると1つ1つ表情が異なる子供達の個性のように見え、自然のままの木に触れることにより子供達の情緒もより安定する傾向のようです。
    ② 地場の木材の選定・伐採・皮むき・材料検査(採寸、番付)・乾燥・品質検査(強度確認)といった木材の調達・管理の一連の工程を、地場の技術とひとを活かしながら進めました。
    ③ 材の自然乾燥を前提に設計工程を組み(図2)、基本設計完了時に木の伐採に取りかかりました。設計初期段階に、伐採予定の山に出向きその地域の材の特徴や数量などの情報を収集した上で架構や構法を検討し基本設計に入ります。地場の木の情報にあわせ基本設計時にその地域独自の架構デザインを決め精度高く構造計算まで行うことは、設計者への作業負担は多いのですが、基本設計完了時点までに構造材や仕上げ材の数量や仕様を決定し、材のコストも精度高く見通しをつけ、木材の調達・管理の仕様書をそれぞれの地域にあわせ作成します。
    2.木材の調達・管理/地域との関係性(表1参照)
    <地域と材の関係『パターン1』>
    大分県立日田高等学校屋内体育館(表1実例1)
    林業県である大分でも初めての大型木造公共建築ということもあり材の乾燥調達を請負工事入札前にどういうタイミングで誰が行い、その材に誰が責任を持つのかが大きな課題となり、試行錯誤の結果、木材の調達管理から工事施工まで一括で工事請負者に託しました。
    木材の所在と責任範囲と情報が一貫することで発注者である自治体も設計監理者も監理は比較的に楽ではあるものの、経費がやや高めにつくこと・工事請負者が前面になり地元の人々の技術を表立って活かすシーンが少なく終わりました。
    <地域と材の関係『パターン2』>
    『パターン1』の経験を活かし、その後は、地元の森林組合に木材の調達管理業務を請負工事契約とは別に発注するながれとし、自然乾燥を終えた段階で材を工事請負者に受け渡す工程を組みました。お金の流れも責任の所在もシンプルで、一般的に今後も取り組みやすいものと思います。また、風土も環境も異なる地域で育つ地場の木を相手に、全国一律のノウハウで木材の調達・管理の仕様書を提示したとしても通用しないと痛切に感じたこともあり、地域特有の智恵や環境を知る地域のひとから意見や古くから受け継がれる特有の文化を広いながら進めることも、地域の財産としての地域性豊かな木の学校づくりの成功ポイントと考えます。
    <地域と材の関係『パターン3』>
    熊本県葦北郡芦北町佐敷小学校校舎(表1実例4)
    図3のように芦北町には森林組合以外にも、木に関する専門的な知識と地元特有の技術を持った組織や個人が多数存在し、それぞれの長所を活かしプロジェクトの一員して各々が協力的に材の調達管理から加工までの各工程を分担し、大きな輪が生まれました。『パターン2』に比べると登場人物も多く、不安要因もありましたが、各自の地元への思いと智恵を、総合的に終結させ成功した事例です。それに加え、この地域特有の幸運がいくつか重なりました。末口から元口までほぼ太さも揃ったまっす
    ぐな長い杉が町有林には多く、丸太の芯を有孔する技術と12m級の材を乾燥させる釜(蒸煮減圧処理)が地域に存在し、このような恵まれた背景を活かし、スギ丸太を通し柱とした2階建ての無垢材を構造材とした学校建築が実現しました(図4)。
    地域の多数の技術を活かすことができた木の学校でしたので、竣工までの長い期間、町の多くの方々が興味を持ってプロジェクトを見守ってくれたように思います。
    <地域と材の関係『パターン4』>
    新潟県上越市立清里中学校校舎(表1実例5)
    プロジェクトスタート時点では工種の規定がなく、設計者がプロポーザルで木造を提案し実現したものです。よって発注者は、木造で学校を作るという概念がもとからないため木材の調達管理の話には大変消極的なうえ、請負工事の入札前に材の調達が事前に行われていることが表面化するのは問題があるとの認識もあり地場の木を自然乾燥して用いることはできず、基本的にベイ松などの輸入品を含めた市場流通材で構造部材と仕上げ部材をまかなったため、地場の材と地域の技術を用い地域の財産的としての学校をつくるという社会的メッセージは達成できませんでした。私の経験の中ではイレギュラーなケースですが、一般的に木造で学校を設計する場合、このパターンが多いのかもしれません。
    3.子供目線で見る木の学校の今後
    木の学校づくりにいくつか携わってみて、プロジェクトの工程が長く各プロフェッショナルとの関わりが多いこともあり、無事に竣工を迎えると作り手同士の心が何か温かいものでつながるような気がします。また子供目線に立ったパフォーマンスも色とりどりで、工事途中では在校生たちへ地場の林業の紹介や建築の成り立ちについて説明する機会を設けたり、上棟式の際には梁材に生徒に記念サインを刻んでもらったりと、地域性豊かな思い出につながる時間をも生みます。
    けれども、学校の計画段階において、発注者である行政や管理運営する学校との打ち合わせで要する時間の大半は、物と人の管理のしやすさという視点にウエイトがおかれてしまい、木の空間の良さや事例を子供目線で語られるシーンは極めて少ない印象です。少子化時代に突入し、子供をとりまく環境や時代が大きく様変わりし、子供を最優先に考えた社会づくりや教育は、次の時代に向け大変重要なことです。これら木の学校づくりに関わった技術者や、実際に地場の木の学校で学び暮らす教育者や子供達の声を幅広く全国へ向けたメッセージとして発信することができるのであれば、大変有意義なものとして活用できるのではないかと感じています。
    WASSへ参加半ばの2009年に長女を出産しました。それまで、子供の空間の設計はいくつか手がけてきましたが、WASSでの活動に加え、実際の小さな子供の行動や心理を自分に引き寄せイメージをすることがより現実的になり、今までとは違った視点での子供の空間に対する建築的な気づきが、一呼吸おいたように見えてきました。
    小さい子供が何か新しいものに気がついたり、学び知ったことを自身の手で自ら出来るようになったときの目を輝かせ誇らしげにする瞬間は、本当にキラキラと表情がまぶしく輝き、可愛らしいものです。保護者や教育者に昨今は、0歳児から子供の自立を促すような子供への接し方が注目されているようです。子供を管理監督するのではなく(教え込むのではなく)、個性溢れ知的好奇心みなぎる子供の自発的な成長と自立を、添え木のような役割で手助けするようなスタンスが、保護者や教育者の責任であるとの考えのようです。
    団塊ジュニアとして育った我々世代の学校の環境は、1クラスの児童数生徒数が40~45名前後で、1学年のクラス数も多く、勉強への取り組み方や学校での生活のあり方など、すべてにおいて管理されていた時代でした。まっすぐな廊下に教室が多数南向きにならべられ、食事も遊びも勉強もと、終日ただただ直方体の教室で過ごし、コモンスペースなどの子供同士の共有空間やゆとりの空間は存在しませんでした。30年経った現在でもまだ、当時の感覚や環境が現場には染み付いている印象を感じます。私は子育てに大変興味を抱く現在の環境と設計者である立場から、新しい時代に向けた学校建築や子供を取りまく空間のスタイルが(素材や構法をも含めたハード面が)、教育現場のソフト面を牽引するような社会的メッセージを建築を通じ発信することができたら・・・と、思う昨今です。
    子供が自発的に本に手を伸ばし選び、学び、そして本を元の場所に片づける。それを何度も何度も同じ場所で繰り返し自分のものとしてゆくように、子供を取り巻く環境や空間の質は成長過程のなかで大変重要なことのように思います。
  • 第27回木の学校づくり研究会より「製材を用いた構造デザイン~学校建築を中心に~」講師:山田憲明 氏(増田建築構造事務所):
    山田先生は、これまで製材を用いた構造デザインの多数のプロジェクトに取り組んでこられました。その中で、近年竣工した4つの学校建築の事例を通して、構造設計の仕事についてお話いただきました。また、これまで携わったプロジェクトに関する木材関係のデータを整理していただき、構造設計者の立場から意見をいただきました。
    ■木を使って設計する時のスタンス
    「秋田スギと鉄と伝統技術によるハイブリッド」(国際教養大学図書館棟/2008)、「大学所有のスギと掘立柱+方杖によるラーメン構造」(東北大学エコラボ/2010)、「隅角偏心した扇構造」(昭島すみれ幼稚園/2011)、「遊具のような構造」(緑の詩保育園/2011)。個々のプロジェクトの条件を詳細に見ていくと、なかなか同じ構造にならない。しかし普遍的な技術を使い、今ある技術を組み合わせる工夫をしている。例えば、接合部では追掛け大栓継ぎなどの伝統的な手法から、木同士のボルト接合やプレート金物を使うこともある。また、合理的な構造として木とスチールを組み合わせることもある。これらを一つ一つ組み合わせることが創造性であって、その際に全体を見渡せないと、施工性や力学的な部分、美しさのバランスは一朝一夕にはいかないということを、日々感じている。
    そのなか、東北大学は今回の東北地方太平洋沖地震で大きな被害を受けたが、エコラボは被害が全く無かった。実際現地に状況を見に行き、周囲の被害を受けた建物と比べてみると、木造か否かが要因ではなく構造のシンプルさが要因だと考えられる。
    ■構造設計者の立場から考えること
    大規模木造で学校を造る場合、無理なく集木できる木材のサイズや、木材加工業者の技術レベル等の事前情報が少なく、建設地の事情に深く踏み込んだ構造計画ができないということから、地域ごとの情報整備が進んでほしいという思いがある。それから、元請業者が入札で決定される場合には下請けとなる木造専門業者の技術レベルが見えない。さらに、木造専門業者の技術レベルに対する客観的な指標がなく、設計図書の記載等による業者選定条件をつけにくいという問題がある。そのため、入札金額だけでなく、施工者の技術レベルを適正に評価して施工者選定できる仕組がほしいと思う。
    法的・工学的には、もえしろ設計や壁量を満たさない構造の許容応力度計算では、法的にJAS材が義務づけられるため、これらの整理が必要だと思う。
    また技術的には、ほとんどのプロジェクトで天然乾燥する時間がなく、人工乾燥に頼るざるを得ない状態である。その場合、乾燥窯の容量、地域的事情、工期的理由から高温乾燥になることが多く(特に長大材)内外部の割れが出やすくなるということで、低温乾燥等、良質な乾燥方法の普及が必要となっている。さらに、木工事規模が大きい、予算が厳しい等の条件があると、地元大工の手刻みだけでは量的にも、金額的にも対応できないことが多くあり、その場合プレカット業者による工場加工が必要になる。しかし、住宅用プレカット機では加工形状の自由度が低いため、集成材加工工場等が持つ高性能プレカット機に頼ることになるが、高性能プレカット機を持つ工場の数が限られるため地元材をわざわざ遠方のプレカット工場まで運搬して加工し、再び建設地まで運搬する無駄が生じるという問題がある。大規模工事に対応できる地元の大工ネットワークがほしいということと、高性能プレカット機が普及してほしいと思う。
    最後に、地元木材に通じているキーマンがいないと木材生産がさほど盛んでない地域では地産地建がやりにくい。木材キーマンの増加、あるいは地産地建ができるネットワークがほしいと考えている。
    (文責:牧奈)


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