木の学校づくりネットワーク 第14号(平成21年12月12日)の概要

  • 巻頭コラム:「川越キャンパスの森」永峯章(東洋大学理工学部建築学科講師、建築環境工学・建築環境管理):
    東洋大学川越キャンパスの森は、農用林と用材林とが混在している森である。なぜ混在しているのかというと、大学が建設される以前のこの森には複数の土地の所有者が存在し、所有者によってその林の利用目的が異なっていたためである。農用材としては、コナラを中心として育て、材は薪炭用、落ち葉は畑の堆肥用にと利用した。用材林としては、ヒノキを中心として育て、建材として売却するほか、自分の家を普請するなどに利用していたと考えられます。
    武蔵野の雑木林といわれた農用林の姿がキャンパスの森となってからの50年間でだいぶ様相が変わってきました。このころからキャンパスの森はそれまでの利用目的を失い、農用林や用材林に仕立てるために手入れが行われずに、いわば放置され、今日まで至り、森の中に日射が不足し本来あるべき木が枯れ、少ない陽光でも育つ木々が増えつつあるのです。
    2001年のキャンパスの森の調査結果によると東洋大学川越キャンパス内に出現した樹木は全部で48種類。立木本数は2809本、株数は2119株、胸高断面面積合計は79.738㎡であった。「キャンパスの森を構成する樹種は主にエゴノキ、ヒノキ、コナラ、アオハダ、ヒサカキ、リョウブ、クリ、スギの8種であった。本数または株数では、エゴノキが全体の約1/4を占めているが、胸高断面面積合計でみるとその割合は8.3%と小さい。エゴノキは雑木林にはよく見られる萌芽性の強い樹木であるが、かつてはこれほどまでは多くなかったと考えられる。というのは、エゴノキはコナラと比べると、堆肥または薪炭材としての質が劣るため、コナラが生長していくごとに間伐などの手入れがなされていたからである。とくに、アオハダは利用価値が低いため、ほとんどない状態であったと考えられる。エゴノキ、アオハダ、ヒサカキ、リョウブは手入れや間伐が行われなくなってきたことから、本数を増やしてきたと考えられる。ヒノキはもともと植えられていたものが成長し本数の増減はあまり変わらないと考えられる」* 
    私自身、秩父の山歩きをする中で、間伐されずに放置された「真っ暗な山」に何回も遭遇します。公共施設や学校建築の木質化は、施設の温熱環境に+効果が期待できます。また、地域産材の活用を促し、林業の活性化にもおおいに役立つものと考えられます。
    川越キャンパス内でも、最近「森と木と環境の講座」が始まり、森の中の実習地で、農用林の保全・再生に必要な伐採実習を試みています。学生たちはそんなキャンパスの森の道(こもれびの道)を通って講義を受けています。
    *こもれびの森の樹 木に関する調査・研究:飯塚章三
  • 最近のトピックス:「2009年度WASSシンポジウムの報告」
    11月7日、東洋大学白山キャンパス・スカイホールにおいて木と建築で創造する共生社会研究センター(以下WASS)シンポジウム「木と建築による共生社会の実現に向けて」が開催され、約120名の方々が参加されました。
    ■「つなぐ」で綴られた4つのテーマ
    シンポジウムは、これまでのWASS研究成果をもとに「つなぐ」という言葉をキーワードにした4つのセッションで構成され、最初に各セッションの議論を束ねる視点で、長野県の川上村の藤原忠彦村長から「林業と地域再生」と題して基調講演が行われました。藤原村長は、地域のカラマツをふんだんに使って中学校を建設することで、村人自身が地域産材の良さに気付き、付加価値をつけてゆくことの大切さをお話になり、地域経済への貢献だけではなく、心理的な効果の大切さも訴えられました。
    ■「川上と川下をつなぐ木の学校づくりネットワーク」 司会:長澤 悟(東洋大学教授)
    各専門領域の研究者をはじめ、行政、林業、製材業、流通業、建設、建材といった関係分野の実務家を訪ね収集した全国各地の取り組みについてWASS客員研究員・森の贈り物研究会の花岡崇一氏より紹介があり、さらに一つの町でのケース・スタディとして、栃木県茂木町教育委員会の小崎正浩氏より、JAS規格の証明がない地域の無垢材にこだわった木の学校づくりの事例が紹介されました。議論では地域材運用における木材認定の基準と伐採期間の設定の難しさが話題の焦点となりました。
    ■「人と学校をつなぐ木の室内環境」
    司会:浅田茂裕(埼玉大学教授)
    今年行われた埼玉県内のRC校舎の内装木質化事例をもとに、東洋大の土屋喬雄教授より、内装木質化による温熱環境への効果、WASS客員研究員、横浜大学の小林大介講師より、児童生徒や、教職員の方々に及ぼす生理的、心理的影響や効果について研究を進めている状況の報告が行われました。浅田教授は、木は高いというが、室内環境のデザインに木材を用いることの効果の定量化し、心理的、教育的効果を計測し蓄積していくことで、高いことの根拠を説明していくことが重要とまとめられました。
    ■「意匠と構造をつなぐ木の学校づくり」
    司会:工藤和美(東洋大学教授)
    国産材や外材、無垢材や集成材、そして使う部位や構法により、またコストや地域、木の建築を造る意義によって異なる判断を迫られる構造計画に対して、東洋大学の松野浩一教授からはオープンスペースを含む多用な建築計画が見られる現代の学校に対応した木造ハイブリッド構造の可能性が提案され、能代市の建築家、西方里見氏からは地域の秋田スギと規格化された部材を意匠に活かし、低コスト化を図った「素直な構造計画」が提案されました。
    ■「木の学校づくりをつなぐ発注書・仕様書」
    司会:秋山哲一(東洋大学教授)
    他のセッションで提示されてきた分野、あるいは地域の状況に応じて様々な要素を結びつけて総合化する視点として、東洋大学の浦江真人准教授より、木材運用をコーディネイトする人材育成の必要性と木材の産地や品質を規定する発注書・仕様書の役割が挙げられ、そのあり方を検討することがWASSからの一つの提言としてまとめられました。
    ■シンポジウムアンケートより
    今回のシンポジウムはWASS内の各研究グループの研究成果の発表の場であったことから、木の学校づくりに関する多角的な視点を提示できた点が、設計者や行政担当者を中心に多くの方から評価を受けました。特に木質化の評価軸としてのストレス調査に対する関心が高かった他、設計者、行政担当者を中心とした視点として、木の学校づくりに関する法規・制度に関する問題や集成材の活用等に向けた技術的な提案を期待する意見、またWASSのネットワークの特徴ともいえる都市部での木の学校づくりの可能性の提示に期待が寄せられました。


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