木の学校づくりネットワーク 第4号(平成21年1月10日)の概要

  • 巻頭コラム:「”木の学校づくり”の二つの意味」浦江真人(東洋大学工学部建築学科准教授):「木の学校づくり」には二つの意味があります。一つは、「木を使った学校をつくる」こと、もう一つは、「木を学ぶ学校をつくる」ことです。これらに関する情報を収集・発信し「木の学校づくり」ネットワークを構築することが「木と建築で創造する共生社会研究センター(WASS)」の目的です。
    近年、学校建築においても木の活用が進められています。木には柔らかさや温かみがあり、学校建築に木を使うことによって教育環境の向上が期待されています。そして、国産材・地域産材・地場産材の積極的な利用を図ることが望まれており、CO2固定化や環境保全に加え、林業の発展や町おこし・村おこしとしても期待されています。
    木材は生物材料です。鉄筋コンクリート(RC)や鉄骨の鉱物材料や、金属・プラスチック製の工業部材に比べると、同じ規格・性能のものを早く大量に揃えることは容易ではありません。したがって、木の特性や利点・欠点を十分に理解した上で、設計・施工しなければなりません。また、木の活用に学校建築を対象とすることの特徴は、規模が大きく一度に大量の木材が必要であることや、公立学校は公共工事であり工事の発注や木材の調達など、戸建住宅と比べて建築生産の仕組みに大きな違いがあります。このことは、林業経営、素材生産、原木流通、製材加工、製品流通、部材加工、建設、維持管理までの全てのプロセスに関係します。
    これらの情報を木の学校建築に携わる発注者、建築設計者、施工者などに対して提供する必要があります。また、学生に対しても、日本の森林や林業の現状を理解し木を知るために、実際に山を見学したり、間伐や下刈りを手伝ったり、自分たちで木を加工し建物を造ったりする活動をおこなっています。また、小中学校でも木の学校を教材として木・森・環境について学ぶことができます。
    これらは、とても大きな課題ですが、WASSの活動がその解決の新しい糸口になるはずです。
  • 最近のトピックス:平成20年12月18日に福岡県福岡市民会館で日本木材加工技術協会九州支部主催の講演会「木材利用は環境に良い?-そのわけ(理由)と先進的取り組み-」が行われました。
    この講演会は、地球環境の保全や生活環境の向上が求められ、森林の重要性が叫ばれている現状の中で、森林を伐採し、木材として使うことがどのような影響を与えるのかについて木材を取り扱う専門家が講演し、先進的な取り組みの事例などを紹介したものです。
    京大学名誉教授である大熊幹章氏は「地球温暖化防止行動としての木材利用の推進」というタイトルで基調講演を行いました。その中で、林業が現在は森林整備を大きな目的としてしまい、本来の木材生産・利用から離れてしまっていることを指摘されました。また、Carbon Footprint(炭素排出足跡)を木質系材料や住宅などに適用すれば、鉄筋コンクリートや鉄骨などの他材料製品と比較することで木材の優位性が明確に示されるとし、木材利用推進の切り札としてなる可能性があるという考えを述べられました。
    山口県、福岡県を中心とする安成工務店の安成信次氏は、「住環境と木材利用」ということで、国産材を利用した自然素材型住宅を建築する中で、山側と工務店と直接結ぶネットワークを形成し、山とまちの交流をテーマにして行っている取り組みについて発表されました。
    最後に、九州大学大学院教授の綿貫茂喜氏は「ヒトの整理反応からみた杉材の有用性」という講演を行いました。これは、本紙創刊号にてお知らせした記事の内容について詳細に説明されたものです。
    綿貫教授は、木材が経験的、主観的に親しみのある材料であり、非常に身近な存在であったにも関わらず、現在うまく使われていないことに対して、木材を使うことが生理的に良い結果を与えるという客観的な事実が明らかにされていないことが原因の1つであると考えられ、木材の揮発成分、光の吸収特性と生理反応との関係から杉材の生理的効果を検討されました。その概要について、講演会資料の中から抜粋して以下に記します。

    1)木材の揮発成分について

    (1)実験室で、木材から抽出された揮発成分を短時間与えると、左前頭部の脳活動が高まり、免疫活動が高まった。

    (2)木材の長期使用について

    小国杉で製作された学習用机と椅子を長期間使用したクラス(1組)では、その他のクラスよりも免疫活動が増加した。この長期使用中に、中学校でインフルエンザによる欠席者が急増した時期があったが、1組の欠席者は他より少なかった。

    (3)木材の乾燥温度と免疫活動について

    40℃、80℃および120℃で乾燥した杉の床材を中学校1年生の3クラスに各々配置し、クラス間の生理反応を比較したところ、40℃で乾燥した床材を使用したクラスの免疫活動は120℃でのそれより高かった。

    2)杉材の光吸収特性について

    電磁波の中で、380nmから750nmの波長を可視光線と呼ぶが、杉材は短波長を吸収し、長波長を反射する。青色光である460nm付近の光は脳の松果体から分泌されるメラトニンを抑制することが知られている。メラトニンは生体リズムを調節し、メラトニンの分泌が抑制されると質の高い睡眠が得られない。従って、寝室には短波長光を吸収する素材が用いられるべきであろう。そこで杉材にそのような効果があるのかを調べた。実験は人工気候室内の壁に杉材あるいは灰色の壁紙を配置し、間接照明で照らした。その結果、夜間のメラトニン分泌は杉材の方が多かった。また、脳波を測定したところ、杉材の方が適切な覚醒水準が得られることが示された。


  • WASS研究室から


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