vol.36

木の学校づくりネットワーク 第36号(平成23年12月17日)の概要

  • 木の建築フォラムWASS共催シンポジウム開催:
    11月12日(土)、秋田県能代でNPO法人木の建築フォラムとの共催シンポジウム「地域の木の学校づくり」が開催されました。会場となったのは、昭和12年に建てられた、木造の旧料亭「金勇」で、冒頭あいさつに立たれた齋藤市長から木都能代といえども木を使い続けることは容易ではないと議論と提案を歓迎する言葉をいただきました。
    2部構成のシンポジウム第1部では90年代以降7棟の木の学校を立ててきた能代市を事例にWASSの浦江先生の司会で「地域ぐるみで木の学校をつくる」と題した議論がなされ、木材調達の苦労や木の学校の教育的効果が話題となりました。また秋田県立大学木材高度加工研究所の飯島先生からは、少子化の影響で折角建てても残らないと、第2部のテーマ「木の学校のサスティナビリティ」に繋がる問題が提起されました。第2部では筑波大学の安藤先生の司会で補修され使い続けられる愛媛県の日土小学校、廃校を芸術活動に拠点に活用する越後妻有地方の学校の事例が報告されました。
    全体の議論の中で木を使うことの意義が焦点となり、第1部では崇徳小学校の佐藤校長が、苦労して建てられた木の学校の良さは子供たちにきちんと伝わっていますと意見され、第2部では会津地方の木を活用して設計してきた清水氏から木を使うことの価値を高める使い方を心がけることが大切という意見が出されました。
  • WASSへの投稿文:「第4回木の学校づくりシンポジウム開催に向けて」長澤悟:
    東洋大学 木と建築で創造する共生社会研究センター(WASS)は、文部科学省のオープンリサーチセンターとして平成19年度よりスタートしました。その目的は木の建築を実現しやすい社会システムの構築であり、特に学校建築を主軸としている点に大きな特色があります。
    学校建築を切り口とすることについては、住宅と比べ1校つくるのにも使用量が多く、大型木造建築として一般流通材と異なる材径や材寸が必要とされ、また設計上も強度や含水率等の性能保証が求められることなどから、間に合わせでは対応できないことがあります。学校建築は小規模校であっても、大空間、大規模な建築です。その点で多分野にまたがって様々な課題が伴い、総合的な対応方法が求められます。木を活かした学校建築が実現できる社会の仕組みや技術が整えば、あらゆる建築を木造化する可能性につながるとさえ言えるでしょう。また、なにより学校は次代を担う子供たちの教育の場です。木材は子どもたちが育つ場をつくる上で、快適、健康、安全、学び心地のよさ等の点で優れた特質を持っています。それとともに、木の学校建築は、そこで生活し、身近に感じることを通して、伐って、植えて、育てるという山林の保全・育成の重要性について知り、活動するきっかけとなったり、地域の活性化、技術の継承、地球温暖化対策等、木を活かした建築を作ることの意義を考えたりする教材そのものとなります。
    四半世紀にわたる大型木造建築の断絶は、設置者側、設計者の双方に生物材料である木ならではの建設スケジュール、コスト、積算、設計や維持管理のノウハウ等に関する経験の蓄積、継続の機会を奪い、その結果、木の学校づくりに二の足を踏む様子がみられるのが現状であります。また、木を中心にみると木材利用に関する地域のシステムも失なわれております。川上の林業、川中の製材・乾燥等の木材加工業、そして設計・建設・教育等の川下との結びつきも失われています。現実的な課題としては、地材地建にこだわれば価格、品質、量の確保が難しくなるため、山同士の連携や一般流通材の活用が必要な場合もあります。これらをふまえ、木の学校をつくりやすくするため、また継続してつくられるようにするためには、「山」と「まち」をつなぐ現代の流通目に見合った「流域」を新たに構築する必要があります。
    早いもので、本年は5年間時限の最終年度に当たります。この間、木の建築を取り巻く社会情勢は大きく変化してきました。森林・林業再生プランがまとめられ、とりわけ平成22年10月1日には「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(木促法)が施行され、国の方策として木材利用が促されるに至りました。
    学校建築について言えば、国レベルでは、文部科学省が進めてきた木の学校づくりが、林野庁と合同の調査研究につながり「こうやって作る木の学校」が公刊され、国土交通省の官庁営繕部では木促法を受けて、木造計画・設計基準がまとめられました。それぞれにさらに次の段階の検討が進められようとしています。各都道府県で林業の進展と木の建築に関する取り組みが進められ、地域ごとに個々の特色を踏まえた木の建築、木の学校づくりの多様な先進事例が実現されるようになっています。その渦中でWASSの活動も発展し、注目も受けるようになってきました。
    今回の本日のシンポジウムは第4回となります。振り返ると、WASSの活動は、木、木の建築、木の学校建築に関わる幅広い分野について、実態を知ること、特にそこで行動し、発言している人々を尋ね歩くことから始まりました。その中で、WASSの活動の中心となる人々と出会い、研究活動を組織し、テーマを発展させてきました。変化の激しい時代にあって世代を超えた仕事である林業の在り方、地域を支える小規模製材業や木材加工業の在り方、設計技術や木と付き合う文化を再生しながらの木の建築を実現するための企画、計画、設計、施工に関わる問題点、地球環境問題との関わり等、次々に大きな世界が開けてくる中、第1回のシンポジウムを活動2年目の平成20年度に開催しました。テーマは、「木の学校づくりで地域を元気に-木の建築による共生社会の創造」です。事例の紹介と、WASSの決意表明の場に多くの参加者が集まり励ましの言葉をいただく機会となりました。
    全国各地域において木に関わる様々な分野で、創意と行動力をもって活動している人々との出会い、個々の努力の様子、語られる言葉から大きな刺激を受け続けました。一方で、それぞれのフィールドでの取り組みが他とうまくつながっていないことの問題を感じてきました。それを踏まえ、研究は次の4つを柱として進めることになりました。
    (1) 木の学校づくりのための地域間、業種間ネットワークと好循環フローの構築
    (2) 地域実態に即した木の学校づくりの設計手法の構築
    (3) 構造・構法の開発、木の学校空間の環境評価、
    (4) 木の学校データベースの構築
    その途中経過の報告を含めて、21年度に第2回のシンポジウムを開催しました。テーマは、「木の学校づくりネットワークの構築-木の建築による共生社会の実現に向けて」です。少し方向性が見えてきた一方、難しさも具体的に感じ、「わけいっても わけいっても 深い山」という想いと、山の問題に踏み込みすぎると木の建築という本題に戻れないおそれを感じ、建築の問題を中心に活動を進めなければとも考えたりしていました。
    しかしながら、研究、交流を深め、木の建築づくりの意義をとらえていくと、山と結ぶところに木の建築、木の学校づくりを進める大きな意義があることには気づいていたのです。埼玉県ときがわ町や栃木県鹿沼市の地域材活用の取組、地域力を生かした秋田県能代市の「地産地消」の取組、大分県中津市の「地材地建」の活動等に触れる中で、それらをもとにして研究活動の方向性を皆さんに問うたのが、第3回のシンポジウムでした。テーマは、「木の学校づくりは志-山と町をつなぐ『地域材』の活用」です。
    「地域材」を活用する良い面と同時に「地域材」という限定が引き起こす問題点にあります。一つには、材の調達に苦労することです。一度に大量の木材を必要とするけれども、学校の仕事は山の仕事にとっては一過性です。突然の注文には応じられないのです。木には伐期と乾燥という工業製品では考えられない足かせがあります。この問題を解決するためには、学校建設は構想段階から4~5年の期間をとることが大事です。設計者・製材所などコーディネーターの役割を果たす人が山の人々と連携を密にして基本設計・実施設計の早い時期に「どの様な木を、どのくらい」という見積りをだし、工期のプロセスと用材の準備が合うようにしておくことが必要です。そして、丸太から適切な木取りをして使用割合を高めることが費用を抑えることにつながります。もう一つは、各地が「地域材」にこだわることによって、地域を超えて「地域材」が動けない(他地域の人々につかってもらえない)ことがおきています。学校建設が一渡り終わってしまった地域は、作り上げた協力体制を生かすことができなくなっています。
    一方、都市部では近くに森がなかったり、量的に賄えなかったりするところが多くあります。そもそも「どこから木を持ってきたらいいのか」ということが見えません.国産材を「確かな品質で」「必要な量を」「必要な時に」「適正な価格で」揃えられる市場は十全に備わっていないというのが現状です。
    そこで、「山」と「まち」を直接顔の見える関係でつなぎ、地域と地域、人と人を「木」を媒介とした物語で紡ぐ全国的なネットワークをつくることができないだろうかという課題を、山とまちをつなぐ「仮想流域構想提」として提案しました。
    その前後には、中津市と能代市で、現地での木の学校づくりシンポジウムを開催し、現在、WASSのある地元埼玉県の政策研究とも連携しています。また岩手県遠野市、山形県金山町、その他と連携しながら活動を深めているところです。  
    <シンポジウムの主題>
    第4回目となる今回のシンポジウムは「木がつなぐ共生社会の創造」をテーマとしています。木の学校づくりに関わる人たちが、森林の保全、地域の活性化、技術の継承等、地域材活用の意義について共通理解を図り、行動を起こす必要があること、しかし「地域限定」としてとらえるとかえって可能性を狭めてしまうこと、そこで地域材や地域の技術を生かす意義をとらえながら、顔の見える関係づくりが重要だと考えています。
    国際的には、2011年は国連の国際森林年でした。本センターもその趣旨に賛同しながら本年の活動を広げてきた次第です。今回のシンポジウムは5年間の活動の締めくくりとなるものですが、今後の新たな形での活動の起点ともなるものと位置付けています。本日ご参加いただいた皆様には心より感謝申し上げますとともに、ご期待に応えるべく研究活動を進めていく所存ですので、一層のご支援をお願いいたします。
  • 第32回木の学校づくり研究会より「顔の見える家づくりグループの活動とその課題」講師:安藤直人氏(東京大学大学院農学生命科学研究科教授):
    今回は、上記のタイトルである顔の見える木材での家づくりのお話だけでなく、木を取り巻く様々な活動を評価する木づかい運動のお話、圏産材という考え方など、素材としての木をとらえる中で、様々な視点からお話ししていただきました。
    ■顔見え???
    “顔見え(顔の見える関係)”とは、使用している木材の生産地や製材所などが分かる関係を指示している。「顔の見える木材での家づくり」(冊子)では、そうした関係を大事にし、地元で地元の木を使って家を建てたいと思っている人の道しるべになればという思いで、そういった活動を実践しているグループを審査し、30選、50選、そして現在65選と少しずつ数を増やしている。そして、こういった情報をまとめることで、いずれ全国各地に広がる個々のグループの活動を、同じ業種で取り組む人たちのネットワークを構築できたらということも視野に入れている。
    ■木づかい運動
    日本の山の歴史や問題、経済の問題などに目を向けると課題は山積みである。各分野で連携しながら、より良い山のサイクルを生み出す様々なレベルでの努力が必要となる一方で、国産材を利用した製品づくりなどできることがある。木づかい運動はその取り組みを評価するものであり、現在計278件の団体・企業が登録している。
    ■圏産材
    “顔見え”という地産地消の取り組みは、木の価値を伝える手段としてもわかりやすい一方で、山のある地域などに限定されていく。より大きな視点で考えていくと、木材生産地と消費地の連携が重要となる。そのなか国産材は、それが県レベルになると県産材、さらに特定の地域レベルになると地域材といった呼ばれ方をするが、産地へのこだわりが材の価格高騰など影響を及ぼすことがある。そこで、行政単位での圏域ではなく、流通による経済圏や人々の生活圏でとらえる圏産材の考え方を指摘した。
    ■建築家による創造性をもった木への取り組み
    2010年の公共建築物木材利用促進法の制定により、より幅広く木を活用することが求められている。そのなか、ただ単純に木を使えばよいというわけではなく、建築家がアート、エンジニアリングの両視点から創造性を持って取り組むことが大事であり、そのためには関連する専門分野がチームとして取り組むことになる。日本の伝統をふまえつつも、新たな技術をどのように受け入れていくか、そしてそれに取り組むことも木造の魅力の一つであると、自身が取り組んだ事例や海外の事例を紹介しながら伝えた。

    —————
    平成20年度から始まった木の学校づくり研究会は、今回をもって最終回となりました。
    この研究会はWASS外部の方々を講師として招き、WASSで活動する研究者等がより幅広い知見を得るための勉強の場として行ってきました。全32回のべ35名の講師の方々に、毎回ご講義をしていただき、さらに研究員らとともにディスカッションを繰り返してきました。
    この研究会を継続的に実施してきた成果は、WASSの木の学校づくりの研究に活かされています。これまでご協力いただいた方々には、この場をおかりして心より感謝申し上げます。(文責:牧)


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vol.26

木の学校づくりネットワーク 第26号(平成23年2月19日)の概要

  • 第3回木の学校づくりシンポジウム 「木の学校づくりは志 山とまちをつなぐ『地域材』の活用」 概要報告:

    1.29WASSメッセージ
    東洋大学 木と建築で創造する共生社会研究センター(WASS)

    WASSは、三つの志をもっています。
    一、「地域材」による木の学校づくりをしようとするところを応援する志
    二、山の木を活用し、再び木を植え・育てる林業の循環を応援する志
    三、森と学校、山とまちをつなぐ物語づくりを応援する志

    WASSは、どこでも、どの自治体でも、「木の学校づくり」が実現できるようにするために三つの実践をします。
    一、WASSモデルの「木の学校づくり」を、これまでの調査・研究で集めた「知恵」と「各地のキーマン」をつないで実現します。
    二、全国の、山林に関わる”川上”、製材・乾燥・加工・家具など”川中”、そして、設計・施工など”川下”の人々から意見や取組みを集め、WASSモデルの山と木のネットワークをつくります。
    三、全国の首長、自治体の行政担当者、教育委員会に、WASSから山と木の地域ネットワークグループを紹介し、木の学校づくりによる、山とまちが連携する糸口を「仮想流域モデル」としてつくります。
    2011年1月29日 第3回木の学校づくりシンポジウム

    「1.29WASSメッセージ」は、平成23年1月29日に東洋大学白山キャンパスのスカイホールにて開催した第3回木の学校づくりシンポジウム「木の学校づくりは志 山とまちをつなぐ『地域材』の活用」(主催:WASS、後援:林野庁)の最後にシンポジウムのまとめとして木の学校づくりに対するWASSの志と今後の活動における決意表明を発表したものである。
    このシンポジウムはタイトルに示されるように、多くの課題の中から特に「地域材の活用」を一つのテーマとしている。地域材を活用することは、その意義については理解が得られやすいが、一方で木材の品質や量の確保、地域の体制やスケジュールなど個々の条件に応じた工夫を求められることも多い。
    そして、木の学校づくりのシステムが整っていない状況で、その目標を達成する上で様々な困難があり、実現に向けて木の学校づくりの意義を忘れないで進めていく高い志が必要となる。また、地域ということを閉鎖的、限定的にとらえずに山とまちがそれぞれの情報を十分に共有し、志をもって地域間をしっかり繋いでいくことが大切なことである。
    そこで、今回は地域材が活用された木の学校づくりの紹介とともに、その中で直面する課題について各事例を通して示してもらい、WASS、パネリスト、会場も含めてディスカッションを行った。
    当日、会場には木材関係者、設計者、行政関係者など、遠方よりの来場者も含めて200名を超える方々が参加した。
    シンポジウムはまず冒頭で、林野庁長官の皆川芳嗣氏と文部科学省大臣官房文教設企画部長の辰野裕一氏からの来賓挨拶が行われた。皆川氏は、かつては木造校舎を通じて得られていた木や森との絆が失われてきた状況の中で、公共建築物木材利用促進法など「非常に大きな反転のチャンスを迎えているのが今の時代」と述べ、また、辰野氏は「各地域における学校というものは木から出発している、そこに根ざしている」ということで「木材の利用・活用の推進に力をいれていきたい」と木の学校づくりに対するエールが送られた。

    地域の取り組み紹介
    続いて、地域材を活用して木の学校づくりを進めてきた地域である大分県中津市と秋田県能代市の各市長によって、それぞれの取り組みが紹介された。
    中津市は市町村合併により山林が市の77.5%を占める地域となり、木材を学校などの公共建築物に使用する取り組みが始まった。そこで、RC造等の現在主流となっている建物と同等、それ以下の値段で建設することを目標に、市内の業者が参加する中津市木造校舎等研究会が作られ、木造での建設における検討が行われた。ここで整理されたポイントとして「無理のない材の選択」、「木材調達のタイミング、乾燥期間の確保」、「在来技術の活用」などがあり、地材地建での木造体育館を低コストで実現する運びとなった。
    能代市では木都である地域を再び活性化させたいという思いから木の学校づくりの取り組みが始まり、現在は建物16校中7校が木造となっている地域である。平成6~12年の草創期は木造によるコストアップ、木材の調達、木造の建築技術といった課題に直面する中で木造校舎の建設が進められていった。平成15~18年の転換期ではコストを抑えるために地元産材を使いながら、工法を工夫して木の学校づくりが行われ、草創期と比較するとコストを削減することに繋がった。そして現在はその次の段階として、これまでの木の学校づくりの課題の検証を行った上で、関係者による木材品質の共通理解、必要木材数量の事前公開などの取り組みが新たに行われている。
    以上のように両地域ともに、コストを下げながら木の学校づくりを実現するための工夫が行われていることが示された。

    PD「地域材による木の学校づくりの課題と方策」
    続く、このパネルディスカッションでは中津市と能代市で木の学校づくりを行った設計者によって、設計の際の課題と工夫として以下のような例が示された。
    ・地域の現状を把握するため、原木、製材、大工、施工業者などの現状調査を行った。
    ・大工との打ち合わせでは設計図だけではなく、納まりや手順などについて大工の提案も受け入れながら検討を行った。
    ・材料強度が不明なので、材料試験を行った。
    ・市場に流通している一般住宅に使用される材料を用いる設計とし、木材調達におけるトラブルを回避した。
    ・木材納入の窓口となる流通業者が現場への納品前に自分達の基準で返品などを行ったことがあり、関係者の共通認識のもと現場監督や設計者、設置者が見て基準を決定するようにした。
    ・大量の木材の準備期間が2~3ヶ月しかなかったことから、着工の6ヶ月前に数量公開を行った。
    ・現場で手戻りや無駄が出ないように、木拾い表や施工図の早期作成を施工者に求めた。
    ・普通の大工が誰でもできるような在来構法での設計を行った。
    また、「地域材による木の学校づくりにおける設計者の役割」ということに対して、言葉の違いはあれど、各パネリストは「全ての分野にある程度精通するコーディネーター」ということを挙げていた。

    PD「山とまちをつなぐ新しいしくみの創出」
    中津市、能代市では地元の木材を用いた、地元の業者による木の学校づくりの試みであり、お互いに共通する課題や工夫が見られた。それらを踏まえた上で、ここでは林野庁、製材所、設計者の方々をパネリストとしてむかえ議論が行われた。
    そして、今後の木の学校づくりを見すえた新しい仕組みを考えていく場合の大きな問題点として次の3つの項目が示された。

    ①必ずしも全てを地元でまかなうことができない
    ②地元の需要はあるところで限られている
    ③地域内で成功した仕組みを他の地域に展開できるか

    これに対してWASSは各地域の山とまちをつなぐ「仮想流域」という考え方の提案を行った。将来的に森林の整備が確実に行われ、材料が確実に確保でき、山に確実に再造林されるという循環が達成されるまでは、地域材に焦点を当てていかないと木材利用の流れをつくるのは難しい。そこで、木の学校づくりを進めるにあたって、「木材はあるが建物需要がない山」と「建物需要があるが木材がないまち」とをネットワークでつなぎ、再造林まで含めた循環を地域間で構築する、地域材で山とまちをつなぐという考え方である。パネリストからは、こうしたネットワークをつなぐ役割やそのための情報発信をWASSが果たしていくことに対して期待が寄せられた。
    そして、最後に紙面冒頭に示した「1.29WASSメッセージ」が発表され、シンポジウムの終了となった。

  • ~みなと森と水サミット2011開催~:
    2011年2月9日から19日まで東京都港区で第4回みなと森と水会議が開催された。初日の9日には港区エコプラザにおいて武井雅昭区長をホストとした全国各地の23の自治体の首長とのサミットが開催され、都市における木材の活用による日本の森林再生と地球温暖化防止への貢献を掲げた「間伐材を始めとした国産材の活用促進に関する協定書」への調印式と今回より参加した自治体の首長による地域紹介、これからの都市部と山間部の交流に関するフリーディスカッションが行われた。最後に首長たちによって「みなと森と水サミット2011宣言」が発せられ、10日間にわたる会期の初日を飾った。
    今年度より参加した自治体は長野県信濃町、岐阜県高山市、東白川村、和歌山県新宮市、島根県隠岐の島町、徳島県三好市、那賀町、高知県馬路村、四万十町の9市町村で、竹島を抱える離島でありながら林野庁の助成を受け、近年木質バイオマス事業に取り組む隠岐の島町の他、木造の小中連係校を建設中の三好市や村民の6割が林業従事者で、村内に新築される木造建築に檜の柱80本を進呈する取り組みを続けている東白川村等いずれも地域材の活用に熱心に取り組む自治体ばかりであった。
    フリーディスカッションでは前回までに参加していた自治体の首長を中心に各市町村の取り組みや、みなと森と水ネットワーク会議(英語名:Unified Networking Initiative For Minato “Mori”&”Mizu”Meeting略称Uni4m)への期待が述べられた。象徴的な発言としては飛行機による移動により港区との庁舎間の移動時間が近隣の自治体より近いという北海道紋別市の宮川良一市長による人的交流への言葉で、交通網を背景に港区や他の自治体と組んだエコツアーの企画や、森林セラピー、農商工連携など木材にとどまらない市民参加の多面的な交流への期待が述べられた。他方、参加自治体が増えると港区からの受注競争がより厳しくなるという率直な指摘も出されており、各地から地域材の性能、規格、価格、供給可能量が提示され、「みなとモデル二酸化炭素固定認証制度」に基づく協定材の運用が実施された際に、地域材の流通プロセスを公正に築き、港区が各自治体とどのような連携を築けるのか、地域材活用モデルとしての実体が注目される。最後に掲げられた4つの宣言文すべてに以下のように組織の実行力を意識した「体」という文字が用いられ制度の構想から実行へ移ろうとする意気込みを伝えていた。

    【四万十町より提供された檜材で作られた協定書のカバー】
    「みなと森と水サミット2011宣言」より抜粋
    一つ、すべての自治体に開かれた「運動体」であること
    一つ、精神的にも体力的にも自立した「事業体」であること
    一つ、お互いの文化を認め合い支えあう「共同体」であること
    一つ、自治体の枠組を超えて一致する「連合体」であること

    (文責:樋口)

  • 第24回木の学校づくり研究会より「持続可能な森林経営・木材利用と循環社会」 講師:藤原 敬氏(ウッドマイルズ研究会 代表運営委員、全国木材協同組合連合会 専務理事)
    ■地球環境時代の始まり
    1980年代前半に各国の森林管理当局の担当者が直面した課題として、1988年をベースにしたFAO(国連食糧農業機関)の熱帯雨林調査の報告書の発表と同時期に作成されたアメリカ合衆国政府の「西暦2000年の地球」という報告書の問題提示があった。その中で毎年日本の国土の3分の2程度の熱帯林が急速に減少しているというデータが発表され、それ以降、各国で様々なレベルの議論があった。1992年の地球サミットでは途上国との政治的なバランスを考慮し結局は実現されなかったものの、地球環境条約、生物多様性条約が提起され、その前年には森林条約も提起されていた。それまでローカルな問題であった森林の問題が大きな国際問題として認識されるようになったのはこの頃である。近年では中国の植林がグローバルな森林面積の増加に寄与しているが熱帯雨林の減少はとまっていない。
    ■木材利用促進と環境保護
    現在IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)等は20 世紀の間に12倍になった化石燃料の使用量を21世紀中に半減させる目標を示し、原子力エネルギーへ依存する方向性も模索しているが、21世紀後半にはバイオマスエネルギーの活用が必要となり、そのために木質資源が重要になってくるという見方が一般的である。そのため木材利用の促進は環境政策として定義されているものであり、木材業界の支援のための産業政策としての動きではないことを確認しておきたい。また現在地球上でCO2が増加している主たる理由は、化石資源の燃焼であるが、その5分の1程度が熱帯雨林の伐採に伴うものであるといわれている。そのため熱帯雨林をどのように安定させていくかが課題となっており、木材の利用推進と持続可能な森林の運営が裏腹の問題となっている。
    ■トレーサビリティを担保するしくみの模索
    国際的に熱帯雨林の破壊を防ぐしくみを構築するためにも、木材を循環型社会の資材と見なすためにも、木材生産に関わる環境負荷を明確にすることが求められている。また既に日本の建築物に関する環境性能評価基準CASBEE*や先行するイギリスやアメリカの基準の中では持続可能な森林から産出した木材への評価とローカルな資材の活用という概念が含まれている。日本の木材輸入量はアメリカ、中国に次いで世界で3番目。輸入量に距離を掛けてマイレージを算出すると、日本はアメリカの4倍のマイレージをかけ木材を使用している現状がある。そのためトレーサビリティを確保して環境負荷を明示していくことが重要になる。それを担保する手法として、国際的な認証基準にもとづいてメーカーや木材業者を認定して繋ぎ、最終的に自治体や消費者に対してグリーン購入法にもとづいて所定の森林から産出した材であることを認定する方法や、木材製品に産地やCO2排出量を示すラベルを貼るカーボンフットプリントのような方法があり、エンドユーザーに生産に関わる環境負荷の情報を如何に伝えるかが共通した課題となっている。ただし木材の場合は製造元の大規模な施設で製造される鉄等と異なり、伐採地の森林と加工施設、機材を持ち込む場合等生産の経路が複雑でコントロールすることが難しい。また国産材と輸入材を比べた場合、これまでは輸入材の方が国産材よりもCO2排出量が多いと想定されていたが、木材乾燥に重油を用いると大きな負担となることがわかった。厳密には海路と陸路、輸送車両の規模によりCO2排出量は異なるため、カーボンフットプリントが普及していくと新たな議論が生じることになる。このような課題を背景にクレディビリティの点から、まず近くのものを使っていくことが重要だということがコンセンサスになっている。
    *Comprehensive Assessment System for Building Environment Efficiency
    (文責:樋口)


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