平成27年度 第1回 研修会(2015年4月18日)のご案内

下記により 平成27年度 第1回 研修会を開催します。

会員・会友以外の方も出席可能です。参加希望の方は、事務局までお申込みください。

1.日 時 平成27年4月18日(土)15時00分~17時00分

2.場 所 法政大学市谷田町校舎 5階 マルチメディアホール(新宿区市谷田町     2-33)JR線・都営新宿線「市谷駅」下車

3.内 容 「林業の成長産業化と地方創生」~国産材の需要拡大の取り組みを中心に~

4.講 師 小島 孝文氏(林野庁 木材産業課長)

5.参加費 会員・学生:無料、非会員:1000円

(A-WASS事務局)

メール hanaoka@bdvision.co.jp

FAX 03-3249-5133

 

東北支部

A-WASS東北支部

 ■27年度の活動について:

岩手県「遠野市木質バイオマス利用推進プロジェクト」への応援団として、プロジェクト の協力要請に応じ、A-WASSの知見(木材の乾燥およびカスケード利用)を提供し、 活動を展開していく予定。

※詳細は今後、会員ページ等において報告する予定。

九州支部

A-WASS九州地域支部

■活動概要

 九州で、木材乾燥技術のスタンダードを確立することを目指す。また、当該地域に即した製造および流通をシステマティックにプランニングすることを当面の目標とする。

 

■お知らせ

 公共建築物の木造木質化促進シンポジウム(2016年1月26日・福岡)のページに、シンポジウムの開催報告を掲載しました。(九州大学の藤本先生が木材学会九州支部の会誌「木科学情報」に寄稿されたものです。)

東海支部

WASS東海

平成27年3月7日

■活動目標:

○勉強会(2カ月に1回実施)

木と建築、そして地域性をキーワードに勉強会を行う。 その目的は、地域材をうまく活用するための問題提起、その解決手法の検討であり、さらにメンバー間のネットワークづくり、情報共有である。中期的目標とし て、これらの勉強会で得られた知見をシンプルでわかりやすい1冊のカタログとして成果をまとめる。(工程表、工程ごとのポイント、本地域のキーパーソン育 成、相談役リストアップ等)

 

○ネットワークづくり

前回より、岐阜県若手森林業研究会(20~30代の森林業務にかかわるかたの研究会)との合同勉強会等、より幅広いネットワークが生まれている。WASS東海を通じて、参加メンバー間で新たなプロジェクトが生まれており、実務的にも本研究会の役割は重要となっている。

 

○運営委員会(1年に2~3回実施(必要に応じて))

必要に応じて、本研究会の今後の方向性を世話人、一部のコアメンバーを交えて議論する。

 

■世話人からのコメント

WASS 東海も発足から1年以上が経過し、様々な業種、年齢層の方と共に毎回有意義な勉強会を開催しております。以前に比べると一般、公共問わず国産材が使われる ようになり、またバイオマスなどを含め木材の利用用途も多様化している中で、その流れが木材業界にとってより良いものになっていくよう研鑽を積んでいきた いと思っております。また社会から木材に寄せられる期待に応えていくためにも、山に近い地域ならではのアプローチをしていければと思っています。今後とも よろしくお願いします。

(株)山共 田口房国

 

「泳ぎながら泳ぎを覚える」を合言葉に活動してまいり ました。まだまだ岐阜が中心ですが、地味ながら当初の想定以上に東海地域の林・材・公共建築分野での存在感が強くなってきたように感じております。それ は、産、学、官の各分野で活躍しているコアメンバーをはじめとするWASS東海の参加者が、「個別利害」にとらわれながらも、柔軟に地域社会の「公的利 害」の視点から課題にアプローチするよう心がけていることの成果だといえるでしょう。ここにきて、優れた木材加工技術を培ってきた企業さんや、現状打破へ と動き出した若手林業グループとの交流が広がってきたのも嬉しいことです。又、個人としては、昨夏来体調を崩してしまい、WASS関係者の皆様にご迷惑を おかけしておりますが、現下の林材業大変動期にあって、成長著しい若手とともに、何とか「変化」を促進する一滴の力でありたいと願っております。

(株)エスウッド 角田 惇

 

■活動体制および参加者

世話人    角田惇((株)エスウッド)、田口房国((株)山共)

コアメンバー 岐阜県、愛知県のエリアで活躍している民間、行政、大学、研究機関等のキーパーソン10名(世話人含む。)

参加者数   延べ45名(講師など除く。)

事務局    長田剛和((株)エスウッド)

 

■活動記録

【平成25年】

6月  WASS東海 設立準備会(コアメンバーによる)

7月  キックオフミーティング(第1回)

第1部「木と建築で創造する共生社会研究センター(平成19~24年)」の成果とこれからの課題

東洋大学工学部建築学科 教授 長澤 悟 氏

第2部「木と建築と社会」を考える

法政大学デザイン工学部建築学科 教授 網野 禎昭 氏

8月  運営委員会(コアメンバーによる)

9月  第2回勉強会

岐阜県の県産材供給と公共建築物等の木造化・木質化の現状と課題について

岐阜県林政部県産材流通課 技術主査 中通 実 氏

12月  第3回勉強会、現場見学会

準耐火木造建築物の事例~道の駅 美濃にわか茶屋を通して~

岐阜県立森林文化アカデミー 准教授 辻 充孝 氏

 

【平成26年】

3月  第4回勉強会

大規模木造公共施設の建築にかかわる問題点と解決策および低コストマニュアルの紹介

NPO法人WOOD AC 代表理事 河本 和義 氏

5月  第5回勉強会

『都市の木質化』を目指す実践のこれまでとこれから

名古屋大学大学院生命農学研究科 准教授 山崎 真理子 氏

7月  第6回勉強会

これまでも木造、これからも木造~なぜ特殊な木造をやるようになったのか~

(株)翠豊 代表取締役 今井 潔志 氏

8月  運営委員会(コアメンバーによる):

1年目成果のまとめ

9月  第7回勉強会

参加者による討論会(WASS東海2年目以降について)

12月  第8回勉強会

事例紹介 道の駅美濃にわか茶屋~計画、設計、木材調達、施工までの流れ~

岐阜県立森林文化アカデミー 准教授 辻 充孝 氏

※岐阜県若手森林業研究会との合同勉強会

 

【平成27年】

4月  第9回勉強会(4/25 予定)

大規模公共運動施設にかかわるプロポーザル、木材調達および品質管理、設計

~静岡県草薙総合運動場体育館を事例に~(仮題)

静岡県くらし環境部公営住宅課 課長 早津 和之 氏

 

※お問い合わせは、WASS東海フェイスブックページからお願いします。

https://www.facebook.com/wass.toukai?fref=nf

 

 

a-wass通信 第7号(2015年3月4日発行)をアップしました。

a-wass通信 第7号(2015年3月4日発行)を資料ページにアップしました。

今後は、A-WASS通信の発行に代えて、ホームページと連携したメール又はインターネット上の情報共有の仕組みを構築していきます。

第一期WASS、A-WASSにおいて発行された通信は、資料ページに位置を移動して公開しています。

本研究会では、会員・会友相互の情報共有及び広報活動の充実並びに会員数の拡大 上記の活動をはじめ本会の活動状況をきめ細かくお知らせするなどホームページのコンテンツを充実させ、会員・会友相互の情報・意見交換の活発化とともに新規入会者 の獲得拡大を図っていきます。

第2回 A-WASS 総会(通常総会/2015年3月7日)を開催します

下記により第2回総会(通常総会)を開催します。

会員・会友の皆様には、議案書等の資料をお送りしていますので、当日の総会及び懇親会の出欠について、返信をお願いします。また、欠席される方は、「議案への賛否表意書・委任状」を 3月 2日(月)までに返送いただくようお願いします。

総会後には、岡田秀二岩手大学教授の講演会も企画しており、総会・講演会ともに、会員・会友以外の方も出席可能です。(参加費1,000円、学生は無料) 参加希望の方は、事務局までお申込みください。

1. 日 時   平成 27年 3月 7日(土) 13:30 ~ 14:30  (受付開始:13:00~)

2. 場 所   東洋大学白山キャンパス 1号館 6階 1601教室 (交通アクセスはこちら

3. その他  総会終了後、講演会及び懇親会を予定しています。

 

講演会について (総会に引き続き、同じ会場で開催します)

日 時   3月 7日(土) 15:00 ~ 16:30

講 師   岡田秀二 岩手大学教授

演 題   「緑の産業革命を興そう」(仮題)

 

懇親会のご案内 (講演会終了後、都営地下鉄で馬喰横山駅まで移動します)

日 時   3月 7日(土) 17:00 ~

会 場   呂久呂 (東京都中央区日本橋久松町5-2)

会 費   3,000円 (懇親会場にて徴収します)

 

(A-WASS事務局)

メール hanaoka@bdvision.co.jp

FAX 03-3249-5133

 

A-WASS 活動フレーム

A-WASSが取り組むべき課題と活動フレームについて

平成26年5月13日
A-WASS事務局

  1. A-WASS は、その会則にも謳われているとおり「共生社会の理念の実現に向けて総合的・実践的に活動すること」を目指しています。
  2. その観点から、A-WASSの活動は、個々の会員・会友の断片的な興味や関心のみに依拠した「つまみ食い」ではなく、4月5日(土)のA-WASS研修会の際に提起させていただいたとおり、取り組むべき課題の全体像とそれらの課題を克服するための活動のフレーム(海図・航図に相当するもの)を明確にした上で進めるべきと考えます。
  3. 同研修会の際には、A-WASSが取り組むべき課題を、大まかに、①持続可能な森林資源の活用が図られていないこと、②地域に根差した建築・産業・文化の継承が危い状況にあること、③建築やエネルギー利用の構造が自立的でないこと、の3つと仮置きし、それらの背景要因を「課題ツリー」として分解した上で、分解された課題のそれぞれに対応した活動を浮かび上がらせるという「プロジェクト・サイクル・マネジメント(PCM)」にならった手法を提案させていただきました。
  4. また、課題・活動ツリーを運営委員会でブラッシュアップし、会員・会友に提示して、ご意見をいただきながら完成させていきたいと提案し、ご賛同いただきました。
  5. その後、運営委員会において、別紙のとおり、課題ツリーを整理し、課題ごとに、その克服のためにA-WASSとして進めるべき活動の方向性(案)をとりまとめました。
  6. 「優先度、妥当性」の欄は、項目によって、A-WASSとして優先的に取り組むべき課題か、A-WASSが比較優位を有しているか、といった観点から評価してみたものであり、当面、「◎」の活動を中心に進めていくことが妥当と考えられます。
  7. なお、この表は、とりあえずのものとして整理したものであり、今後、会員・会友の皆様からもご意見をいただき、さらに改善・充実させていくことを想定しています。皆様からのご意見をお待ちしています。

山村振興セミナー「木質バイオマスを活用した地域活性化を改めて考える ~発電、熱利用の課題と可能性~」(2015年3月3日)開催のお知らせ

林野庁の「森林資源総合利用指針策定事業」の一環として、下記のセミナーが開催されます。
山村振興セミナー「木質バイオマスを活用した地域活性化を改めて考える ~発電、熱利用の課題と可能性~」
日 時  平成27年3月3日(火) 15:00~17:30
場 所  東京農業大学世田谷キャンパス
参加費  無料(申込み制)
セミナーでは、下記の事例報告が行われます。
 ・北海道下川町「一の橋ビレジ集住化と木質エネルギー活用による集落再興」
 ・岩手県紫波町「紫波オガールタウンでの地域熱供給事業と森林再生」
 ・岡山県真庭市「発電、熱利用、小さな里山資本主義」
 ・徳島県三好市「高効率薪ボイラーによる小規模熱利用の一斉転換による効果」
また、セミナー終了後、懇親会(会費制)も行われます。
18:00~19:30 於:学内食堂
会費:2,000円軽飲食あり。
詳細は下記ホームページ及び添付ファイルをご覧ください。
ご関心のある方は、各自で申し込んで参加いただければと思います。

vol.37

木の学校づくりネットワーク 第37号(平成24年3月31日)の概要

  • 第4回木の学校づくりシンポジウム開催:
    平成23年12月17日(土)13時から白山キャンパススカイホールで、東洋大学木と建築で創造する共生社会研究センター(略称WASS)が主催する第4回木の学校づくりシンポジウムを「木がつなぐ共生社会の創造」のテーマで開催された。
    第1部では5年間にわたる研究成果を研究員が報告し、続く第2部では「木がつなぐ共生社会へ」というテーマのもと、始めに本田敏秋遠野市長は、百年の縁を100年続く絆とし友好都市と後方支援で広がる仮想流域を作り出していきたい、という考えを示した。続いて杉井範之金山町森林組合参事は、金山杉をはるばる2000㎞、海を越えて宮古島へ運び宿泊施設を建てた事例をもとに、裏山の姿が家の形であり、裏山の担い手として頑張っていきたいと述べた。最後に島崎工務店の棟梁、島崎英雄氏は‘伝統から未来へ’と題し、木に接し身体を使って覚えることを若い世代に伝えていきたいという想いを伝えた。
    第3部ではセンター研究員及びゲストによるディスカッションとして、問題提示及び討論が行われた。ここでは、「木がつなぐ可能性」というテーマで、木の学校づくりに関わる林業従事者から製材業者、施工者、設計者、発注者などのあらゆる立場から課題や意見を発言していただき、仮想流域の可能性を議論した。
  • シンポジウムの記録:
    「第1部 研究成果報告 ”木の学校づくりの課題と研究の概要”」、「第2部 各地の取り組み”木がつなぐ共生社会へ”」、「第3部 全体討論 ”木がつなぐ可能性”」他


※パスワードは「wood」

vol.36

木の学校づくりネットワーク 第36号(平成23年12月17日)の概要

  • 木の建築フォラムWASS共催シンポジウム開催:
    11月12日(土)、秋田県能代でNPO法人木の建築フォラムとの共催シンポジウム「地域の木の学校づくり」が開催されました。会場となったのは、昭和12年に建てられた、木造の旧料亭「金勇」で、冒頭あいさつに立たれた齋藤市長から木都能代といえども木を使い続けることは容易ではないと議論と提案を歓迎する言葉をいただきました。
    2部構成のシンポジウム第1部では90年代以降7棟の木の学校を立ててきた能代市を事例にWASSの浦江先生の司会で「地域ぐるみで木の学校をつくる」と題した議論がなされ、木材調達の苦労や木の学校の教育的効果が話題となりました。また秋田県立大学木材高度加工研究所の飯島先生からは、少子化の影響で折角建てても残らないと、第2部のテーマ「木の学校のサスティナビリティ」に繋がる問題が提起されました。第2部では筑波大学の安藤先生の司会で補修され使い続けられる愛媛県の日土小学校、廃校を芸術活動に拠点に活用する越後妻有地方の学校の事例が報告されました。
    全体の議論の中で木を使うことの意義が焦点となり、第1部では崇徳小学校の佐藤校長が、苦労して建てられた木の学校の良さは子供たちにきちんと伝わっていますと意見され、第2部では会津地方の木を活用して設計してきた清水氏から木を使うことの価値を高める使い方を心がけることが大切という意見が出されました。
  • WASSへの投稿文:「第4回木の学校づくりシンポジウム開催に向けて」長澤悟:
    東洋大学 木と建築で創造する共生社会研究センター(WASS)は、文部科学省のオープンリサーチセンターとして平成19年度よりスタートしました。その目的は木の建築を実現しやすい社会システムの構築であり、特に学校建築を主軸としている点に大きな特色があります。
    学校建築を切り口とすることについては、住宅と比べ1校つくるのにも使用量が多く、大型木造建築として一般流通材と異なる材径や材寸が必要とされ、また設計上も強度や含水率等の性能保証が求められることなどから、間に合わせでは対応できないことがあります。学校建築は小規模校であっても、大空間、大規模な建築です。その点で多分野にまたがって様々な課題が伴い、総合的な対応方法が求められます。木を活かした学校建築が実現できる社会の仕組みや技術が整えば、あらゆる建築を木造化する可能性につながるとさえ言えるでしょう。また、なにより学校は次代を担う子供たちの教育の場です。木材は子どもたちが育つ場をつくる上で、快適、健康、安全、学び心地のよさ等の点で優れた特質を持っています。それとともに、木の学校建築は、そこで生活し、身近に感じることを通して、伐って、植えて、育てるという山林の保全・育成の重要性について知り、活動するきっかけとなったり、地域の活性化、技術の継承、地球温暖化対策等、木を活かした建築を作ることの意義を考えたりする教材そのものとなります。
    四半世紀にわたる大型木造建築の断絶は、設置者側、設計者の双方に生物材料である木ならではの建設スケジュール、コスト、積算、設計や維持管理のノウハウ等に関する経験の蓄積、継続の機会を奪い、その結果、木の学校づくりに二の足を踏む様子がみられるのが現状であります。また、木を中心にみると木材利用に関する地域のシステムも失なわれております。川上の林業、川中の製材・乾燥等の木材加工業、そして設計・建設・教育等の川下との結びつきも失われています。現実的な課題としては、地材地建にこだわれば価格、品質、量の確保が難しくなるため、山同士の連携や一般流通材の活用が必要な場合もあります。これらをふまえ、木の学校をつくりやすくするため、また継続してつくられるようにするためには、「山」と「まち」をつなぐ現代の流通目に見合った「流域」を新たに構築する必要があります。
    早いもので、本年は5年間時限の最終年度に当たります。この間、木の建築を取り巻く社会情勢は大きく変化してきました。森林・林業再生プランがまとめられ、とりわけ平成22年10月1日には「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(木促法)が施行され、国の方策として木材利用が促されるに至りました。
    学校建築について言えば、国レベルでは、文部科学省が進めてきた木の学校づくりが、林野庁と合同の調査研究につながり「こうやって作る木の学校」が公刊され、国土交通省の官庁営繕部では木促法を受けて、木造計画・設計基準がまとめられました。それぞれにさらに次の段階の検討が進められようとしています。各都道府県で林業の進展と木の建築に関する取り組みが進められ、地域ごとに個々の特色を踏まえた木の建築、木の学校づくりの多様な先進事例が実現されるようになっています。その渦中でWASSの活動も発展し、注目も受けるようになってきました。
    今回の本日のシンポジウムは第4回となります。振り返ると、WASSの活動は、木、木の建築、木の学校建築に関わる幅広い分野について、実態を知ること、特にそこで行動し、発言している人々を尋ね歩くことから始まりました。その中で、WASSの活動の中心となる人々と出会い、研究活動を組織し、テーマを発展させてきました。変化の激しい時代にあって世代を超えた仕事である林業の在り方、地域を支える小規模製材業や木材加工業の在り方、設計技術や木と付き合う文化を再生しながらの木の建築を実現するための企画、計画、設計、施工に関わる問題点、地球環境問題との関わり等、次々に大きな世界が開けてくる中、第1回のシンポジウムを活動2年目の平成20年度に開催しました。テーマは、「木の学校づくりで地域を元気に-木の建築による共生社会の創造」です。事例の紹介と、WASSの決意表明の場に多くの参加者が集まり励ましの言葉をいただく機会となりました。
    全国各地域において木に関わる様々な分野で、創意と行動力をもって活動している人々との出会い、個々の努力の様子、語られる言葉から大きな刺激を受け続けました。一方で、それぞれのフィールドでの取り組みが他とうまくつながっていないことの問題を感じてきました。それを踏まえ、研究は次の4つを柱として進めることになりました。
    (1) 木の学校づくりのための地域間、業種間ネットワークと好循環フローの構築
    (2) 地域実態に即した木の学校づくりの設計手法の構築
    (3) 構造・構法の開発、木の学校空間の環境評価、
    (4) 木の学校データベースの構築
    その途中経過の報告を含めて、21年度に第2回のシンポジウムを開催しました。テーマは、「木の学校づくりネットワークの構築-木の建築による共生社会の実現に向けて」です。少し方向性が見えてきた一方、難しさも具体的に感じ、「わけいっても わけいっても 深い山」という想いと、山の問題に踏み込みすぎると木の建築という本題に戻れないおそれを感じ、建築の問題を中心に活動を進めなければとも考えたりしていました。
    しかしながら、研究、交流を深め、木の建築づくりの意義をとらえていくと、山と結ぶところに木の建築、木の学校づくりを進める大きな意義があることには気づいていたのです。埼玉県ときがわ町や栃木県鹿沼市の地域材活用の取組、地域力を生かした秋田県能代市の「地産地消」の取組、大分県中津市の「地材地建」の活動等に触れる中で、それらをもとにして研究活動の方向性を皆さんに問うたのが、第3回のシンポジウムでした。テーマは、「木の学校づくりは志-山と町をつなぐ『地域材』の活用」です。
    「地域材」を活用する良い面と同時に「地域材」という限定が引き起こす問題点にあります。一つには、材の調達に苦労することです。一度に大量の木材を必要とするけれども、学校の仕事は山の仕事にとっては一過性です。突然の注文には応じられないのです。木には伐期と乾燥という工業製品では考えられない足かせがあります。この問題を解決するためには、学校建設は構想段階から4~5年の期間をとることが大事です。設計者・製材所などコーディネーターの役割を果たす人が山の人々と連携を密にして基本設計・実施設計の早い時期に「どの様な木を、どのくらい」という見積りをだし、工期のプロセスと用材の準備が合うようにしておくことが必要です。そして、丸太から適切な木取りをして使用割合を高めることが費用を抑えることにつながります。もう一つは、各地が「地域材」にこだわることによって、地域を超えて「地域材」が動けない(他地域の人々につかってもらえない)ことがおきています。学校建設が一渡り終わってしまった地域は、作り上げた協力体制を生かすことができなくなっています。
    一方、都市部では近くに森がなかったり、量的に賄えなかったりするところが多くあります。そもそも「どこから木を持ってきたらいいのか」ということが見えません.国産材を「確かな品質で」「必要な量を」「必要な時に」「適正な価格で」揃えられる市場は十全に備わっていないというのが現状です。
    そこで、「山」と「まち」を直接顔の見える関係でつなぎ、地域と地域、人と人を「木」を媒介とした物語で紡ぐ全国的なネットワークをつくることができないだろうかという課題を、山とまちをつなぐ「仮想流域構想提」として提案しました。
    その前後には、中津市と能代市で、現地での木の学校づくりシンポジウムを開催し、現在、WASSのある地元埼玉県の政策研究とも連携しています。また岩手県遠野市、山形県金山町、その他と連携しながら活動を深めているところです。  
    <シンポジウムの主題>
    第4回目となる今回のシンポジウムは「木がつなぐ共生社会の創造」をテーマとしています。木の学校づくりに関わる人たちが、森林の保全、地域の活性化、技術の継承等、地域材活用の意義について共通理解を図り、行動を起こす必要があること、しかし「地域限定」としてとらえるとかえって可能性を狭めてしまうこと、そこで地域材や地域の技術を生かす意義をとらえながら、顔の見える関係づくりが重要だと考えています。
    国際的には、2011年は国連の国際森林年でした。本センターもその趣旨に賛同しながら本年の活動を広げてきた次第です。今回のシンポジウムは5年間の活動の締めくくりとなるものですが、今後の新たな形での活動の起点ともなるものと位置付けています。本日ご参加いただいた皆様には心より感謝申し上げますとともに、ご期待に応えるべく研究活動を進めていく所存ですので、一層のご支援をお願いいたします。
  • 第32回木の学校づくり研究会より「顔の見える家づくりグループの活動とその課題」講師:安藤直人氏(東京大学大学院農学生命科学研究科教授):
    今回は、上記のタイトルである顔の見える木材での家づくりのお話だけでなく、木を取り巻く様々な活動を評価する木づかい運動のお話、圏産材という考え方など、素材としての木をとらえる中で、様々な視点からお話ししていただきました。
    ■顔見え???
    “顔見え(顔の見える関係)”とは、使用している木材の生産地や製材所などが分かる関係を指示している。「顔の見える木材での家づくり」(冊子)では、そうした関係を大事にし、地元で地元の木を使って家を建てたいと思っている人の道しるべになればという思いで、そういった活動を実践しているグループを審査し、30選、50選、そして現在65選と少しずつ数を増やしている。そして、こういった情報をまとめることで、いずれ全国各地に広がる個々のグループの活動を、同じ業種で取り組む人たちのネットワークを構築できたらということも視野に入れている。
    ■木づかい運動
    日本の山の歴史や問題、経済の問題などに目を向けると課題は山積みである。各分野で連携しながら、より良い山のサイクルを生み出す様々なレベルでの努力が必要となる一方で、国産材を利用した製品づくりなどできることがある。木づかい運動はその取り組みを評価するものであり、現在計278件の団体・企業が登録している。
    ■圏産材
    “顔見え”という地産地消の取り組みは、木の価値を伝える手段としてもわかりやすい一方で、山のある地域などに限定されていく。より大きな視点で考えていくと、木材生産地と消費地の連携が重要となる。そのなか国産材は、それが県レベルになると県産材、さらに特定の地域レベルになると地域材といった呼ばれ方をするが、産地へのこだわりが材の価格高騰など影響を及ぼすことがある。そこで、行政単位での圏域ではなく、流通による経済圏や人々の生活圏でとらえる圏産材の考え方を指摘した。
    ■建築家による創造性をもった木への取り組み
    2010年の公共建築物木材利用促進法の制定により、より幅広く木を活用することが求められている。そのなか、ただ単純に木を使えばよいというわけではなく、建築家がアート、エンジニアリングの両視点から創造性を持って取り組むことが大事であり、そのためには関連する専門分野がチームとして取り組むことになる。日本の伝統をふまえつつも、新たな技術をどのように受け入れていくか、そしてそれに取り組むことも木造の魅力の一つであると、自身が取り組んだ事例や海外の事例を紹介しながら伝えた。

    —————
    平成20年度から始まった木の学校づくり研究会は、今回をもって最終回となりました。
    この研究会はWASS外部の方々を講師として招き、WASSで活動する研究者等がより幅広い知見を得るための勉強の場として行ってきました。全32回のべ35名の講師の方々に、毎回ご講義をしていただき、さらに研究員らとともにディスカッションを繰り返してきました。
    この研究会を継続的に実施してきた成果は、WASSの木の学校づくりの研究に活かされています。これまでご協力いただいた方々には、この場をおかりして心より感謝申し上げます。(文責:牧)


※パスワードは「wood」

vol.35

木の学校づくりネットワーク 第35号(平成23年11月19日)の概要

  • ドイツフォレスターが語る森づくりシンポジウム:
    10月28日、高山市内の体育館で日独森林環境コンサルタント代表の池田憲昭氏、地元の極東森林開発(株)の中原丈夫氏とドイツ人フォレスターとオペレーターを招いた岐阜県が主催するシンポジウムが開催された。まず目を惹いたのは、報告者全員が身に着けた派手なユニフォーム。池田氏は日本とドイツの林業や林業従事者に向けられる意識の違いについて触れ、都市の未来を決めるのは農村地域の人たちであり、持続的な林業を行えば自然と経済効果が生まれる産業と林業従事者がプライドを持って作業に従事することの大切さを訴えた。シンポジウム後半の主題は道づくり。中原氏は道の中央を高くした屋根型排水作業道や暗渠を多用して、雨水の管理を徹底した欧州型の作業道の整備により、天候に左右されにくい安定した施行が可能となり、収入も安定すると林業における道づくりの重要性を指摘した。またフォレスターからは、戦後に植林された単層構造から樹種構造を豊かにし、急峻な日本地形にあった害のない森づくりを行う必要性と道づくりを充実させ国民の森林経験を高める必要性、さらに多面的な知識を学び、森林経験の豊富な地域に密着した人材の育成の必要性が指摘された。
    切り捨て間伐の残材の解放やレクリエーション等、整備された道は安定した林業の実現とともに市民と森林の結び付きを深め、多面的に森林を知り活用していくためにも有効だろう。
  • WASSへの投稿文:「公共建築物等木材利用促進法の制定と今後の展開」今泉裕治(林野庁整備課造林間伐対策室長):
    私は、平成20年5月から22年7月まで林野庁木材利用課に在籍し、政権交代直後の21年の年末からは、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」制定のための庁内専任チームの一員として、政府提出法案のとりまとめ、関係省庁との折衝、国会審議及び議員修正への対応、国が定める基本方針の策定といった作業にたずさわりました。
    また、この間、ご縁があってWASSの活動にも公私両面から関わらせていただきました。
    今回、貴重な紙面を与えていただきましたので、公共建築物等木材利用促進法の制定を中心とする施策の動向、さらにWASSの成果も踏まえた今後の展開について、思うところを述べさせていただきます。
    木促法の制定前夜
    私が木材利用課に着任したころ、国産材(用材)の年間利用量は、平成14年に約1,600万㎥で底を打ってから若干上向きに転じていたとは言え1,800万㎥前後にとどまり、木材(用材)自給率も2割を少し超えた程度で低迷している状況でした。
    そのような中、林野庁では、学校等の公共施設の木造化や内装の木質化の推進を通じて地域住民に木の良さをアピールするとともに、森林・林業の重要性に対する理解を醸成する観点から、文部科学省と連携して学校建築の計画・発注担当者を対象とした「木材を活用した学校施設づくり講習会」を毎年全国で開催してきたほか、「エコスクールパイロット・モデル事業」などを通じて地域材を活用した公共施設の整備に補助金を支出し支援してきました。
    そのような努力もあって、昭和50年代までほぼゼロであった公立学校施設(小中学校)の木造率が平成20年度には10%に達するなど一定の成果が見られたものの、公共建築分野全体の木材利用は、地域材の利用に「こだわり」を持つ一部の自治体の取り組みなどに限られてきたというのが実態ではないかと思います。
    国産材の利用促進を図ることは、やっと利用期を迎えた我が国の人工林資源を「活かすか、殺すか」に関わる重大な課題として、政治的にも関心が高まってきていましたが、林野庁においても、(恥ずかしながら)いったい何が隘路になっているのか、何から手をつければ良いのかといった実態の分析・整理が十分できていたとは言い難く、私自身も「暗中模索」の状態というのが実際のところでした。
    WASSの活動に参加して
    私とWASSの出会いは、偶然インターネットで第1回WASSシンポジウム(平成20年10月)の案内を見つけ、何かヒントが得られないかと「藁をもすがる思い」で飛び入り参加したのが最初でした。
    以来、WASSの活動には公私両面から関わらせていただき、現職に異動した後も意見・情報の交換をさせていただいていますが、このことは、私自身にとって大変貴重かつ幸運な経験になっています。
    私がWASSの活動に参加して見えてきたこと、学んだことは色々ありますが、痛感したことの一つとして挙げられるのは、私自身を含め多くの林業・木材関係者が、公共建築に木材が使われないことを嘆く割には建築の設計や発注、施工の現場の実態について不勉強で知らないことが多いということでした。他方、建築関係者サイドにおいても、積極的に木材の利用に取り組んでいる建築士などでさえ、森林や林業、木材についての知識が必ずしも十分ではないケースが多いということも分かりました。
    さらに、これら関係者間の理解不足や共通認識の欠如が、地域社会の持続的な営みの一部となるべき公共建築における木材利用を単なる目先の利益の確保の場に貶めることさえ往々にしてあるということも知ることができました。
    このようなことを通じて、私は、公共建築と木材の生産・供給に関わる幅広い関係者が、自然素材である木材の特性(長所も短所も含め)や林業・木材産業に内在するさまざまな課題を理解しつつ、相互の信頼と共通認識のもとで木材利用に取り組むことが重要であると強く意識するようになりました。
    公共建築物等木材利用促進法に基づく国の基本方針の「2(3)関係者の適切な役割分担と関係者相互の連携」には次のように記述されています:
    ・・・木材製造業者その他の木材の生産又は供給に携わる者、建築物における木材の利用の促進に取り組む設計者等にあっては、国又は地方公共団体を含め、相互に連携しつつ、公共建築物を整備する者のニーズを的確に把握するとともに、これらニーズに対応した高品質で安価な木材の供給及びその品質、価格等に関する正確な情報の提供、木材の具体的な利用方法の提案等に努めるものとする。
    これは、基本方針の原案作成を担当した私がWASSで得た上記のような考えをもとに記述したものであり、(今読み返してみると言葉足らずの感を強くしますが、)私個人としては、同基本方針の中で最も訴えたかったポイントであることを強調したいと思います。
    公共建築物等木材利用促進法がもたらすもの
    農林水産省・林野庁では、平成21年秋の政権交代以降、「森林・林業の再生」をキーワードに、林道や作業道等の林内路網の整備と高性能な林業機械の導入・普及、高い技術・技能を有する人材や地域林業の中核的な担い手たる林業事業体の育成、さらには安定的・効率的な木材の加工・流通体制の整備、国産材の需要拡大などに包括的に取り組むこととして、森林・林業政策の見直しを進めてきました。
    公共建築物等木材利用促進法の制定は、これら政策見直しの先陣を切って検討が進められたものですが、その検討過程は、これまで林野庁が国会に提出したことのある森林・林業関係の法案とはまるで異なるものとなりました。
    林野庁自体はこの法案が対象とする公共建築物を直接所管しておらず、政府として同法案を閣議決定し国会に提出するためには、建築行政や官庁営繕等を所管する国土交通省、学校施設や社会教育施設を所管する文部科学省、社会福祉施設や医療施設を所管する厚生労働省、国家公務員住宅を所管する財務省など、各省庁の理解と協力が不可欠であり、これら省庁との折衝に骨を折ることとなりました。
    そのようなことから、当時のある林野庁幹部は、この法案の作成を「完全アウェーの戦い」と表現したほどでしたが、結果的にこの法律は林野庁(農林水産省)と国土交通省の共管法となり、紆余曲折はありましたが他の省庁の理解も得られ、これまで林野庁のほかごく一部の省庁に限られていた公共建築物における木材利用の取り組みが、法の制定によって一気に政府全体の取り組みに生まれ変わった感がありました。
    また、同法案は、国会において一部修正の上、衆参両院とも全会一致で可決成立しましたが、このことは、昭和25年の衆議院による「都市建築物の不燃化の促進に関する決議」や昭和30年の閣議決定 「木材資源利用合理化方策」等から始まった木造公共建築の長い暗黒時代の終焉を告げるものと感慨深いものがありました。
    この法律の施行から一年余りを経過した本年11月15日現在、35都道府県で同法に基づく公共建築物における木材の利用の促進に関する方針が策定され、残りの府県でもそのほとんどで今年度中に方針を策定すべく作業が進められています。
    これは、国と同様に都道府県においても、公共建築における木材利用が、林業関係部局限定の取り組みから、関係部局を横断した全庁的な取り組みへと昇華したことを意味します。
    今後は、公共建築物の多くが発注・建築されている市町村や私立・民間の学校、老人ホーム、病院といった建築物にも木材利用の輪が広がることが望まれます。
    新たな「木の文化」へ - WASSの成果を踏まえて
    WASSは、「学校建築を主軸とした『木・共生学』の社会システムの構築と実践」をテーマとし、「『木』を取り巻く様々な分野を横断的な思考で捉え、現在から未来にわたって持続可能な循環型、共生型地域の実現に寄与する建築ものづくりネットワークの提言」を目標に掲げています。
    これは、資材としての木材をどのように扱い、どのようにデザインし建築基準をクリアするかといった、これまで木造建築の分野で語られることの多かった純工学的な議論とは一線を画すものであり、まさに新たな「木の文化」の構築に向けた取り組みと評価できます。
    公共建築物等木材利用促進法の制定による公共建築の歴史の転換とWASSの取り組みが時を同じくして展開されたことは、偶然ではなく必然だったのだろうと思いますが、あらためて、WASSに対する文部科学省の時宜を得た支援に敬意を表する次第です。
    今後、WASSの「木・共生学」の理念や、WASSが種をまき育てたネットワークなどの成果をさらに発展させ、近い将来、新たな「木の文化」として花開かせることができるよう、関係者一同の一層の努力が求められています。
    私自身もその実現に向け、引き続きWASSその他の関係者の皆様と協力して、公私両面にわたり取り組んでいきたいと考えています。公共建築物等木材利用促進法については、以下もご参照ください。
    林野庁: https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/koukyou/
    末松広行・池渕雅和: 逐条解説 公共建築物等木材利用促進法、大成出版社、2011年8月


※パスワードは「wood」

vol.34

木の学校づくりネットワーク 第34号(平成23年10月30日)の概要

  • 木づかい顕彰受賞:
    10月18日、東京大学弥生講堂一条ホールにて、低炭素社会の実現をめざし、「コンクリート社会から木の社会」へ転換することを促進させる取組として林野庁が後援する「木づかいシンポジウム」と「平成23年度木づかい運動感謝状贈呈式」が開催されました。シンポジウムの冒頭、主催者のNPO法人活き活き森ネットワークより、国産材の使用に功績のあった事業者に対して、「木づかい顕彰」の贈呈が行われました。
    贈呈に先立ち皆川林野庁長官よりお祝いの言葉があり、また東京大学農学部の安藤直人教授より受賞者の紹介を受けました。多数の応募の中から選
    ばれた受賞者は木材加工メーカーや家具製作会社、木材の博物館など多業種にわたり、WASS研究センターは木の学校づくりシンポジウムや研究会の開催を通じ、国産材の利用の促進に貢献してきた点が評価されました。WASS研究センターからは浦江真人准教授が参加され(財)日本木材総合情報センター理事長より感謝状の贈呈を受けました。会場では引き続きシンポジウムが行われ、東日本大震災の復興に向けた木材供給の課題が議論される中、全国規模の流通網を整備するだけではなく、身近な地域圏内の流通を充実させることが、災害の備えとして大切だという意見もだされました。
  • WASSへの投稿文:「”木のまち・木のいえづくり”を目指す若者のための教育プログラムの構築」飯島泰男氏(秋田県立大学木材高度加工研究所):
    1.事業の経緯
    昨年(平成22年)5月「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律(以下、単に「促進法」という)」が公布された。本法やそれに関する告示で想定している公共建築物の冒頭には「学校」が挙げられている。また筆者の在住する秋田県が建設した木造公共建築物の統計資料をみても、平成13~20年度の8年間、計130件(県公表データを事業年度別件数に修正)、75.8千m2のうち、面積比で47%が体育館等も含めた学校施設である。また市町村立の小中学校もこの20年間に約20校が建設されている。このように学校建築は「公共建築物」の代表的な例といえるだろう。一方、林野庁ではほぼ同時期に「森林林業再生プラン」を公表、この中で「地球温暖化防止への貢献やコンクリート社会から木の社会への転換を実現するための木材利用の拡大」の重要性を述べている。
    これら一連の動きは、木材資源の利活用推進にとって、いわば「追い風」の状況には違いないのではある。しかし、プランの中で同時に「地域材住宅の推進とそれを支える木造技術の標準化、木造設計を担える人材の育成」を検討事項として掲げていることからも分かるように、いくつかのハードルも存在している。
    このうち後者の問題については、促進法公布後、林野庁・国交省の共管で「木のまち・木のいえ担い手育成拠点」事業が開始され、木活協が事業推進団体となって一般公募が開始された。そこで筆者と井上正文先生(大分大)が木造建築に関連した大学・大学院学生を対象にした「教育プログラムの構築」を日本木材学会として提案、これが採択され、昨年度から事業を進めている。これはWASSとは直接の関係はないが、参考のため、ここでご紹介する。
    なお、東京周辺では東大、東京都市大+工学院大がそれぞれ同種の試みを行っている。またこの内容については先般の建築学会大会(木質構造部門)で報告しているので、併せてお読みいただければ幸甚である。
    2.大学における木造建築教育の現状と打開策
    筆者の専門領域は「木材学」であり、大学においてその観点から木造建築教育にも携わっている。そこでこの事業を開始するにあたって、建築分野および木材分野の先生方と、大学における木造教育の現状についての情報交換を行った。その結果、工学部・建築系からは、
    ・一級建築士の受験資格を教科の基本としているのが、建築系大学の現状
    ・各大学の専門・研究室決定時期の前に、木造ファンを増やすことが重要。
    ・「建築材料」での木材の取り扱い時間は短く、「構法」「建築史」で木材(木構造)について知る機会が多い。
    ・教科書の知識、座学だけでなく、山や工場の見学・実務家の話を聞くなど、実習内容が必要。
    また、農学部・木材系からは、
    ・木造住宅関連科目は縮小方向、森林全般・生物に興味を持つ学生が多く、木造関連科目の人気が低い年度もある。
    ・就職は住宅メーカーが多い。設計製図に加え法規等の2級建築士資格対策の科目の設置。
    という現状が報告されている。
    最近では「木造建築教育」を「売り」にした建築学科も増えつつあり、今後の木造に対する社会ニーズは向上していく機運はあるが、木造教育を行っている先生を対象にしたアンケートからは、よい教科書がない、全体的に木造・木材関連に割ける時間が少ないが、教科を増やしていくことも困難という結果がでている。
    そこで現実的な打開策として、現行の教科構成に並行する形で、まずは、工・農にまたがる大学間連携による木造・木材教育の試行を推進し、そのなかで、同時にそれを教えられる教員の養成・教員間のコラボレーションの形成を目論んだのが、今回のプログラムの提案である。
    こうした活動を契機として、大学間連携が有効な手段であるかどうかを検証し、将来はカリキュラム編成を変えられる仕組みづくり(単位互換制も含む)への展開の考慮しようとしたわけである。また「構造」「材料」「構法」を想定した推奨シラバスの作成も進めている。
    3.試行プログラム
    初年度はスタートが遅れ、九州3大学、東北2大学の連携にとどまったが、本年度はすでに東北3大学(秋田県立大・日大・八戸工大)、北陸5大学(金沢工大・信州大・福井大・金沢大・富山大)、東海6大学等(三重大・名古屋大・静岡大・岐阜森林アカデミー・名古屋工大・岐阜工専)の地域セミナーが終了し、約70名の学生・院生が参加した。また12月には九州で4大学(大分大・熊本県立大・九州大・佐賀大)の連携プログラムを行う予定になっている。
    以上のセミナープログラムはいずれも1泊2日程度であり、また必ずしも統一的なものではなく、一応「木材利用と地球環境保全」「木質材料・木材加工の現場見学」「木造住宅の構造設計」「木造住宅の意匠設計・施工技術」が含まれるよう要請はしているが、地域の現状や講師陣の専門領域の状況を踏まえてプログラミングをしているため、バラエティに富んだものになっている。これらを総合し、次年度(申請が通れば、ではあるが)共通化のできるところを考えて行きたいと思っている。
    昨年の受講者計30名に対するアンケートによれば、
    ●総合的感想―とても面白かった:16/面白かった:12
    ●今後も同様のセミナーがあれば―ぜひ参加したい:18/できれば参加したい:7
    とかなり好評であり、「どのテーマに興味を持ちましたか?」に対しては、建築設計や木材関連など、いわゆる「木質構造」の授業ではあまり深く教えらえていないと思われるテーマへの興味が強いように思われた。
    木造に関する日頃の活動を学生間で情報交換しあう今回の試みは、お互いに刺激を受けたようで今後のセミナーの在り方を考える上で大きな示唆となった。この成果を総括すると以下のようにまとめられる。
    ●今後の定期的なセミナー開催が重要である。
    ●学生を対象にしたセミナーは、開催時期および経費配分(とくに旅費・宿泊等)に配慮が必要-寒い時期、就職活動時期は避ける。可能なら、夏休み中が最適。
    ●学生・院生は、木質構造のみならず木造建築を取り巻く多方面(設計技法・構造・木質材料・木材流通・地球環境など)にわたる情報を求めていることに配慮すべき。
    ●講師との個別の交流・情報交換は木造建築へのモチベーションを向上させる。
    ●セミナーの中で座学・見学の組み合わせは有効。
    4.今後の展開
    試行地域に関東、関西、中国・四国が含まれていないのは、他意はない。参加校が増えるのは歓迎したいところである。
    ただし、予算がかなり縮小され、また、おそらく次年度で事業が終了であろうから、その先のことも見据えた取り組みが必要であろうと考えている。すなわちメーリングリスト等の情報ネットワークを構築して、分野横断型の教育内容に関する情報交換を継続的に行うこと、そして、その中で各参加大学内あるいは大学間での独自の各種取り組み、たとえば、学内外補助金の制度(各大学での学内プロへの応募や文部科学省・国土交通省関連)等を有効に活用も併せて検討していくこととしたいと思っている。


※パスワードは「wood」

vol.33

木の学校づくりネットワーク 第33号(平成23年9月24日)の概要

  • 第二回埼玉県産木材活用の研修会:
    8月31日、子供たちの夏休みが明けるのを前に、ときがわ町で第二回埼玉県産木材活用の研修会が開催されました。町長の関口定男氏が講師・案内役として先頭に立ち、ときがわ町の協力で町内産材を活用した木造や内装木質化された施設をめぐるバスツアーとなり、川上や川中、川下にあたる市町村より43名が参加しました。
    面積の7割が山林であるときがわ町では、木材産業が盛んで、山林の活性化と教育環境の向上に効果がある町内の教育施設への木材の活用を①イノベーション②オリジナリティ③ローコストマネージメントをモットーに率先して行ってきました。各施設の視察に先立ち内装木質化された勤労福祉会館で行われたレクチャーでは、コストや時間がかかる、火災に弱い、傷みやすいといった、内装木質化に対する不安に対し、関口町長から町内の事業を例に、経済性や情操面への効果の他、特に梅雨の季節でも廊下の結露が起こらない、冬期にも湿度が保たれると環境面への効果についての指摘がありました。
    関口町長からはそれぞれの市町村での取組みを激励する言葉を受けるなか、研修会の参加者にとっては、コストやメンテナンスへの配慮とバランスを取りながら地域材を活用する手法を、実際に床表面をはつり手入れをされた学校の姿や、流通材と地域の木材を併用する工夫から目の当たりにする貴重な機会となりました。
    (文責:樋口)
  • WASSへの投稿文:「地元の木材を活用した学校づくり」清水公夫 氏(清水公夫研究所):
    私は2年前、WASSの第12回「木の学校づくり研究会」において「設計者からみた木の学校づくりの現状と課題」というテーマで木材の利用の仕方が異なる3つの統合小学校について講演をした。この講演が縁で現在もWASSの研究会と係わっている。
    〈宮川小学校〉
    事例の1つの宮川小学校(写真1~3)は福島県会津美里町にあり、雪国としては積雪量があまり多くない会津盆地に位置している。この学校は5つの小学校が統合された新設校で、町当局からは地元の杉材を利用した木造建築を要望された。校舎は13クラスで、4000㎡近い延床面積となり、敷地の広さから屋根からの落雪や除雪を考えると平屋建ては難しく2階建となる。2階建の木造校舎の事例はあるが、私の考えは一部木造の平屋建てとRC造の混構造、杉材の利用方法、また、屋根からの落雪の処理、除雪も考慮した提案であることを説明し、町当局の了解を得た。雪国に住んでいる人々は常に屋根の落雪の雪処理をどうするかを考えた生活をしている。平面構成の段階で屋根の形など雪に対して十分考慮した設計が求められている。
    基本設計は子供達、先生方、地域の人々とワークショップを行い、どのような学校をつくりたいのか、設計者から細かい説明をし、参加者からの意見をくみ上げ、設計内容に反映していった。「木」については地元の山から木を切り出し、製材し、製材品をつくり出す流れをつくるため、山林の所有者、伐採・切り出しをする林業者、製材業者の10社による地元産材供給連絡協議会が設立された。スムーズな製材品の流れをつくるため、お互いの立場に配慮しながら話し合った。設計段階で構造材、板材など製材品として必要とする量を提示し、協議会はどの山を切り出すか、1本の木材から歩留りの良い製材方法など無駄なく使う方法を検討した。設計の最終段階で構造材の大きさ、板材の厚さ、使用部材の寸法、使用する箇所の入った図面を提示し、協議会に見積書を求めた。一般的には木材の金額は建設工事費の中に入っているため、建設業者と木材業者が交渉して金額は決まるのだが、今回は建設工期と木材の切り出しが冬季間にかかるため、設計段階で木材の金額を決め、建設工事費の中に組み入れた。参考として一般流通材の見積金額と比較すると協議会からの見積金額と差があり、全体の建設工事費のバランスの調整に時間を取られた。町内の杉山には50~60年の成木が多く、町当局もそれらの杉材を使用することで、林業・製材業で働く人への雇用にも配慮している。金額の調整に時間がかかったのは、設計の算出量と建設時の使用量の差をどうするのか。建設時の使用量は一般的に多くなるため、どのくらいの量を確保するのか。施工会社の安い金額の提示に対してその差をどうするのか、など細かい詰めをした。支給材ではなく、あくまでも建設工事費の中に組み入れることが町当局の条件だった。建設工事が始まり、施工会社が再度使用材の量を算出し、協議会とスムーズに契約した。
    以上が地元産材を活用し、建設までの流れであるが、「地元産材の使用」の条件を特記事項に明記し、決定された施工会社には材料供給先の連絡協議会に見積りを依頼することを説明した。協議会と施工会社がスムーズに話し合いが出来たのは、設計書の使用材の量と施工会社との量とにあまり差がなかったことと、製材品の品質をどこまで許容できるかを設計者と協議会とで話し合っていたため、協議会は原木から製品化できる量を算出して、原木の本数を確保していた。木材の割れやそりの発生を少なくするためにどのような施工方法があるか、8mの丸太の柱に対し、背割れを入れても割れが発生した時はどうするかなど、初期の段階で施工会社、協力業者の大工、連絡協議会と細かい部位まで打合せをした。細かい打合せは細部まで確認しておくことで設計者の意図を伝え、施工の手戻りを少なくし、品質の良い建物をつくることを心がけているからで、木工事だけでなく、施工会社を通して他の職種にも設計者の意図を伝えている。
    使用木材量は360m3 で、木造平屋建て(低学年棟)に構造材・内装材として90m3、食堂等の集成梁にラミナ材として110m3、外装材・内装材の壁・天井材、二重床のフローリング下地の床板として160m3 を使用している。特に外装に杉板を張る場合、雨風にさらされ、腐れ、色褪せが起こりやすいため、塗料や軒を長くして直接雨が当らないようにするなど、長持ちさせる工夫をしている。構造計画としては、低学年棟は中央に丸柱を立て軸組を構成している。食堂は一般的な集成材にて計画している。
    〈山の木を使って設計する〉
    山林所有者から製材業までのネットワークの組織と山の下見から切り出しと、設計段階から係わったのは初めてのことである。1988年に設計した幼稚園(園舎と体育館で2596㎡)が初めての大規模な木造建築で、当時はまだ、木の流通にはあまり関心がなかった。今から20年前、林業者と山林に入った時、林の中は手入れがなく、切り出しても原木が安く、経済的に合わないという話だった。このままでは山が荒れてくると思った。その後、木材を使用した建物を意識して設計するようになった。
    幼稚園・保育所・平屋建の小学校など木造建築を設計してきたが、木造建築の提案に対し、発注者には公共施設はS造・RC造のイメージがあり、高どまりの建築コストも障害になり、話し合いに時間がかかった。建設された木造建築の内部空間の良さなどから、最近は発注者も木造に関心が高まり、積極的に木造建築を求めるようになった。
    30年近く会津地方の豪雪地帯の公共施設を設計し、春夏秋冬に変化する山々の美しさの中で仕事をしてきた。遠くからは雑木林の中に豊かな杉林が見えるが、50年以上経った成木の林である。杉林の中に高齢林や新しく植林された若齢林が少ない。外国は木を切り、再植林を繰り返し森づくりが行われていると聞くが、成木の伐採後は雑木林になっていくのではないかと思われる。町村には建設業の従事者が多いのに林業者の従事者は少ない。今回のプロジェクトで山の所有者、林業者、製材業者と話をすると65歳以上の高齢の従事者が30%以上で、毎年従事者が減っている。危険と隣り合わせのため労働 災害が多く、労働安全への取り組みが遅れている。他産業より賃金も低く、1日1万円前後では労働力の確保が難しく、成木を間伐することもできない。今の林業組合の体制でこの地方の森林面積を担うのは難しいなど、林業の現状を知ることができた。
    今回の木材は手入れされた山林から切り出したが、集成材のラミナ材として製材した中で強度不足の部分が多くあり、原木の本数は増えた。また、一般流通材の単価に少しでも近づけようと使用する箇所を増やし、分止りを上げることに努力したが、切り出す原木の数を下げることは難しかった。
    〈山と向き合う〉
    ばらつきのない製材品として品質の確保された材木を流通させるためには、山の管理はもちろんのこと、中山間の人口は減少し、地域経済が疲弊している現状を知り、林業は地域に根ざした産業であることを地域の人々は自覚することが大切と思う。豊かな集落が限界集落となるなど、地域の経済の現状を知り、地元産(県単位)の木材で地元の職人が仕事ができる設計を心がけている。建物の建設を通して職人の働き場をつくり出し、少しでも地域経済が活性化することに配慮している。構造材も集成材を使用しないで、一般流通材で構成することに取り組み、温もり、肌目、触感といった木材固有の特質を意匠に反映し、豊かな内部空間をつくることに努力している。熱・音の絶縁にも有能さを利用し、環境づくりに使用したいと考えている。
  • 第30回木の学校づくり研究会より「地域材と向き合う」講師:有馬孝禮氏(東京大学名誉教授、前宮崎県木材利用技術センター所長)、工藤和美 氏
    (東洋大学理工学部建築学科教授、シーラカンスK&H代表):
    今回は木材について長年研究をされている有馬孝禮先生と木の学校の設計者である工藤和美先生を講師として開催された。
    有馬孝禮先生は1942年生まれ。東京大学農学部助手、建設省建築研究所研究員などを経て、東京大学農学部教授。その後、宮崎県木材利用技術センター所長を務められ、現在、独立されている。
    建築研究所ではわが国への2×4(ツーバイフォー)導入に関する実験を数多く手がけられたということであった。
    著書は「なぜ、いま木の建築なのか」(学芸出版社)、「木材の住科学―木造建築を考える」(東京大学出版会)、「木材を生かすシリ-ズ 木材は環境と健康を守る」(産調出版)など。
    講演では木材、特に杉についての木材の性質についての説明から始まり、木材を使い建築することがいかに二酸化炭素排出削減につながるかということを強調しておられた。
    また、地域材を活用していく方法として、地域材を使う住宅建設のグループについては製材の人々が中に入っていることが円滑に運営しやすく、また、建主や木を売る側が金額に対して過度の期待を持たないことがポイントとなることなど、経験からえた知見がのべられ、社会で実際に木を活用していく上での重要なことを知ることができた。
    また、国際化の中での木材資源ということで、価格は国際相場と結びついており、為替レートや円高が関係していることが理解できた。
    最後に、木の建築材料としての利用は貴重で、チップに流れてしまうと木材産業が成り立たなくなることという警告も心に残った。 
    次に建築事例の紹介があった。宮崎県の全天候型運動施設「木の花ドーム」の例では、木材を多く使いながら、適度に鋼材などで補強し実現している。このように実際の社会の中での木材の使用については、構造でも人と人との連携でも、様子を見て「ほどほどに」行うことが重要であるということであった。「ほどほどに」というのは、様子を見ながら、調整しつつ、行うということで、長年にわたり社会の中で木材使用を実現してきた、先生からのこの研究会で我々にいただいた大切なヒントといえよう。 
    植生の未来予測の説明からは、森林を維持していくために、これからも植林し、森林を未来へ残していくべきであることも理解できた。
    木材の性質については改めて乾燥と木材の関係の複雑さを理解した。先生の書かれた書物で読んでも理解できないことが、先生の説明をお聞きし、理解することができた。木の等級は上下ではなく選択の指標であること という説明も木に関するしくみを理解する上で貴重な一言であった。
    木の学校についてのメッセージとしては、「木造校舎」はひとつの単語で意味を持つ。「コンクリートの校舎」という一つの単語はない・・・・という先生のしめくくりに、WASSの一員として、確かにそうであるという、発見と同意の気持ちをもった。
    工藤和美先生からは計画中の山鹿小学校と川辺小学校の統合小学校についての詳細が紹介された。地域との関係を重視した基本計画では、学校が山鹿市の千人灯籠という行事のフィールドとしても工夫されていることが理解できた。
    屋根架構への地域の杉材の利用など、部材寸法を含めて具体的に紹介された。その中で、構造的な強度を確保するために、杉材に加えて桧材も使用した経緯を話された。
    これについては前半のご講演者有馬先生の言われる「ほどほどに」という考え方が当てはまるわけで、完璧、完全に杉を使用せず、他の材も受け入れたことに対して、その後の議論でも、会場の参加者から賛意が示された。木の建築を社会で実現するヒントがつかめた意義深い研究会であった。今後の展開が楽しみである。
    (文責:宮坂)


※パスワードは「wood」

vol.32

木の学校づくりネットワーク 第32号(平成23年8月6日)の概要

  • 第1回埼玉県産木材活用の研修会開催
  • 木造の仮設住宅による災害復興プロジェクト
  • WASSへ投稿文:松田昌洋氏:
    “学校建築”の誕生
    明治5年(1872)の学制発布によって、日本初の学校制度が定められた。当時の小学校校舎は寺院や民家を借用したものが70%以上(明治8年(1875))を占めており、いわゆる”学校建築”の整備は進んでいない状況であった。明治12年(1879)の教育令を経て、明治19年(1886)の学校令によって義務教育が開始されて以後、就学率が上昇し、校舎が整備されていくこととなる。また、これらの建物には洋風建築技術や工学が導入され、木造の継手・仕口が伝統構法から金物や釘などによる接合となり、洋小屋やトラスなどが登場する。
    明治時代
    明治28年(1895)に文部大臣官房会計課建築掛は学校建築の規範を示すために「学校建築図説説明及設計大要」を発行した。この中で、廊下幅6尺、教室幅21尺、階高12尺1寸の片廊下式平屋の尋常小学校などの実例(図1)が示されており、洋小屋や吊りボルト、接合具としてのボルトや帯金物などが導入されている。ただし、ここでは建築構造についてはあまり言及されておらず、原則平屋とすることや地盤から天井までの寸法の規定などが関係する程度である。
    木造建築が大打撃を受けた明治24年(1891)の濃尾地震の翌年に、文部省は建築物の耐震研究機関として震災予防調査会を設立した。そして、明治28年(1895)に出された「小学校改良木造仕様」(震災予防調査会報告vol.6)では明治27年(1894)に発生した庄内地震後の指針として、基礎、小屋組の寸法等の規定や、ボルト接合による筋かいや方杖、火打土台などが提案されている。
    大正時代
    濃尾地震以来、耐震要素としての筋かいという考え方が登場するが、筋かいの設置が制度として初めて現れたのは大正2(1913)年の「東京市建築条例案」である。この第3編第2章「木造、木骨造及び土蔵造建物」では筋かいの設置とともに高さ制限、土台の設置、柱の小径、継手・仕口の規定が盛り込まれている。その後、大正7年(1918)の「警視庁建築取締規則案」を経て、大正8年(1919)に「市街地建築物法」が制定された。この中で3階建て木造建築に筋かいを使用することが初めて定められた。ただし、木造建築では仕様は規定されたが、構造計算は求められていない。関東地震の翌年、大正13年(1924)の耐震に重点を置いた改正(地震力としての水平震度0.1の導入)でも木造建築は仕様の強化(柱の小径の増加、2階建てまでの建物についても筋かい、方杖設置を義務化)のみである。また、市街地建築物法は都市部のみの適用であり、都市部でも防火規定等を除いて適用されない地域もあった。
    昭和時代~現在
    昭和2年(1927)の「木造小学校建築耐震上ノ注意」(震災予防調査会報告vol.101)では、住宅などの小規模建築と同じ構法で小学校が建てられている状況が多いことから、校舎の耐震上の要点を指摘している。ここでは2階建ての場合には通し柱を多くすることや筋かい、方杖、火打を設けて三角形を構成すること、接合部には金物を用いて補強することが挙げられている。
    昭和9年(1934)の室戸台風では多くの木造小学校が倒壊した。市街地建築物法には風圧力についての規定はなかったことから日本建築学会は木造規準調査委員会を設置し、実大実験を行うとともに昭和13年(1938)に「木造二階建小学校校舎構造一案」を提案した。委員会では地震力とともに一定の風圧力にも抵抗しうる構造を目指して検討が行われ、水平構面剛性を確保する(小屋組や床構面を固めて建物全体で水平力に抵抗する)構造が採用されている。具体的には廊下部分を中心に、小屋梁や
    床の火打に替えて、端部ボルト留めの水平ブレースを設置している(図2)。またこの結果、壁を設けることのできない教室内部の構面にある方杖は、柱と梁の接合部の補強材としてのみ位置づけられることとなった。
    木造規準調査委員会の検討過程で、荷重の組み合わせや長期及び短期の許容応力度の考え方が持たれるようになったことから、昭和18年(1943)、19年(1944)年の「臨時日本標準規格」を発展させ、昭和22年(1947)に「日本建築規格建築3001 建築物の構造計算」、これに準拠した日本建築学会「木構造計算規準」が作成された。また、同年に「日本建築規格 小学校建物(木造) JES1301」(昭和24年(1949)に「日本建築規格 木造小学校建物 JES1302」、「日本建築規格 木造中学校建物 JES1303」に変更)が制定された。
    昭和24年(1949)には日本建築学会「木構造計算規準・同解説 附 木造学校建物規格の構造計算」が発行された。ここではJES1302、1303の2階建て木造校舎の一般教室部の構造計算例が図面とともに示されている。「木造二階建小学校校舎構造一案」と大きく異なる部分は、1階の教室間仕切壁端部の柱が2本ずつになったこと、水平ブレースが廊下だけではなく教室側にも設置されたことなどが挙げられる。
    昭和25年(1950)年に市街地建築物法が廃止となり、建築基準法が施行された。地震力が水平震度0.1から0.2に引き上げられるなどの変更があったが、木造建築については壁量規定が盛り込まれたことが大きな特徴である。このきっかけとなったのは木造校舎も大きな被害を被った昭和23年(1948)の福井地震である。この地震で被害を受けた木造住宅と壁量との関係が調査され、耐震性確保のために筋かいなどの壁が必要であるということになった。壁量規定は住宅に限らず、木造であれば学校建築などにも適用される規定であるが、現在では一部の構造計算を行った場合などは外すことが可能となっている。
    昭和31年(1956)に2階建て、平屋の木造校舎の構造設計標準を規定したJIS A 3301(木造学校建物)が制定された。木造建築の構造についての技術的困難を取り除き、経済的で安全な学校が建設されることを意図したものとなっており、教室の大きさなどによって場合分けがなされ、それぞれについての架構及び仕様が定められている。なお現在、新築で使用されることはまずないと考えられるが、この規格に従った場合は建築基準法施行令第48条の規定を外すことができる。
    昭和36年(1961)の日本建築学会「木構造設計規準・同解説」は昭和34年(1959)の建築基準法改正に伴い、昭和24年の規準を大幅に改正したものであり、集成木材構造設計規準が新しく追加された。木構造計算例としてJIS A 3301の木造校舎の構造設計計算(図3)も掲載されている。
    その後、建築基準法改正によって昭和56年(1981)に新耐震基準の導入、平成12年(2000)に性能規定化が行われ、構造設計そのものの考え方も大きく変わってきた。また、昭和62年(1987)に大断面構造用集成材の燃えしろ設計が告示で示され、平成16年(2004)にはJAS製材もその対象となった。そして、平成23年(2011)5月に国土交通省大臣官房官庁営繕部「木造計画・設計基準」が制定され、木の学校づくりを進めやすい状況への第1歩を踏み出したところである。

    参考文献
    (1)西川航太:近代木造校舎の耐震改修法に関する研究
       -方杖と水平構面の剛性に着目して-、
       東京大学大学院修士論文、2009年3月
    (2)坂本功 監修:日本の木造住宅の100年、
       社団法人 日本木造住宅産業協会、1997年
    (3)杉山英男:地震と木造住宅、丸善、平成8年
    (4)日本建築学会図書館デジタルアーカイブス
       (https://news-sv.aij.or.jp/da1/index.html)

vol.31

木の学校づくりネットワーク 第31号(平成23年7月16日)の概要

  • 木でつくる2050年ゼロカーボン社会:
    6月24日、港区の建築学会建築会館ホールにおいて木材活用推進協議会が主催するシンポジウム『木の魅力を拡げる』が開催され、世界の次世代の建築デザインに与えられるLEAF(リーフ)賞を厚木市の七沢希望の丘初等学校において受賞した建築家の中村勉氏の講演会が開催された。
    中村氏は2007 年のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告によって人工的な原因によるものであるという指摘を受けた地球環境問題について、人口増加の問題もふまえ同時に解決する取り組みが必要だと指摘した。特に基本的な理念としては、建物と敷地、建物と地域、海まで含めた様々な地域の範囲を設定して、物質を循環させることができる小さな環境世界を形成することに重点を置き、都市のコンパクト化や環境特性を活かしたまちづくりの提案が出された。
    建築のスケールにおいても小さな環境世界で自立した建築をつくることを念頭に、木材の性能の評価、自然光を活かした照明計画、地熱利用やバイオマス暖房、都市下水に頼らない排水処理など、支援エネルギーを活用した自立型の建築の提案が出された。丘陵地の地形と一体となるように配置された七沢希望の丘小学校は、自然から学ぶことを教育理念の基本としており、同時にエネルギーにおける中村氏の提案を集約した取り組みでもあった。
    (文責:樋口)
  • WASSへ投稿文:「木造公共建築をつくるためのフロー(設計者の視線から)」藤野珠枝氏:
    今年は国際森林年であり、森林・林業基本計画の変更が行なわれ、日本の森林林業の大きな転換期=森林・林業再生元年となる年。その半年が過ぎました。昨年10月に「公共建築物木材利用促進法」が施行され、公共建築物には木材を使うことが国の基本姿勢であることが示されました。平成21年12月の「森林・林業再生プラン」、昨年11月の「森林・林業の再生に向けた改革の姿」とその骨子等の公表等、いよいよ日本の森林・林業は、豊かな森をつくり、すばらしい資源である森林を多方面から活用し、それを永遠に持続してゆく方向に舵がきられました。そのひとつが山の木を活用する建築づくりです。
    「森と木と建築と市民をつなぐ」ことを目指して活動してきた私はワクワクした胸の高鳴りを押さえきれず、これまで共に木造公共建築設計の仕事をしてきた北川原温建築都市研究所とともに、建築設計者の経験と視線から木造公共建築をつくる際に必要なフロー図をつくってみました。これはWASSで目指している「どこでもだれでも木の建築づくりができるように」なるためにも役立つかな、と思えています。
    建築設計者はその文字どおり建物の設計だけをしていると思われがちですが、実際はそこに至るまでの状況整理、調整、そして竣工後のメンテナンス対応など、発注者が建設に至るまでのソフトの対応と、所有者利用者が心地よく使いつづけるためのフォローが欠かせません。“木の学校づくりネットワーク”通信30号で石井ひろみ氏がいくつかの実践例を示して下さったように、木を使った建築をつくるにはそれに加えて「木材の調達」という誰かがやらねばならない欠かせない仕事があり、それが設計者の役割・使命となることが現実には多くあります。
    「木材のコーデュネーターが必要」とはWASSのこれまでの調査等からも明らかになっている課題であり、「設計者が木のことを知らない」ともよく言われることですが、これまで長きにわたり大型の木造建築がつくられて来なかった日本の実情ではやむを得ないことで、実際に携わって来た設計者はひとつひとつを手探りでつくって来たと言っても過言ではありません。
    「木の建築をつくるにはどのタイミングで何をしなければならないか」が明瞭であれば、もとより勤勉で、学び、創ることが好きで建築設計の仕事に携わっている設計者にとっては、たとえ初めてでもそれに果敢に挑戦し、より良いものとなって成し遂げられやすくなることが見えて来ます。流れが分かれば課題が分かりその解決方法を見いだす道を探れる。設計とは常に立ちはだかる課題をひとつずつクリアして現実に建築をつくっていく仕事なので、フェイズごとにいつ何が必要かを示すこの単純明瞭なフロー (図1)が役立つのではないでしょうか。
    また、公共建築とは多くの市民が「地元にこういうものが欲しい」と構想段階から関わり、ともにつくる過程に参加し、愛着をもって利用し、自分たちで出来うるメンテナンスをするものであるべきで、これを「建築づくり」の中に組み込むことを忘れてはなりません。公共建築の真の発注者は市民です。
    この図で描いている公共建築とは、国や自治体という公が発注するものに限らず、病院や幼稚園、銀
    行、コンビニエンスストアなど民間のものであっても不特定多数の市民が利用するものは公共建築と想定しています。つまり、この図を見る方が設計者であろうと利用する側の市民であろうと発注者であろうと、誰でもどのタイミングで何が必要かが分かるように現しています。私達はまずは一市民であるということを再認識して、自分を「市民」の位置において眺めてみて下さい。
    構想→計画→設計→施工→竣工という流れの、設計と施工の間に入る「木材調達」。その時間のセッティングと、用意される木材の責任を誰が担うのか、が大きなポイントです。ここで、木材を建築工事と分けて分離発注するか、建築工事とともに一括発注するかがケースバイケースで決断されます。そして、この期間には市民が実際の山や木、製材、構造実験等を見る機会を得られれば、ともにつくる過程に参加できることにも繋がります。設計者は、どのような方法で木材調達がなされようとも、他の建築材料と同様に設計に即した的確な材料であるかを確認しなければなりません。ここでは地域の木を良く知る地元の研究機関等の協力が大きな力となります。
    木材という生物材料は他の建築材料と違って「同じものが無い」、つまりそのままでは工業製品同等には扱いにくい素材です。それが面白いとも言えます。合板、集成材、エンジニアリングウッド。工業製品にすれば扱いやすくはなりますが、「木の良さを生かす」ことが出来にくくなります。
    木の文化を持つ日本には、大工という長い歴史を持つ職能があり、また山には木を植え育て伐る=林業という職能があり、そして製材業という木の本質を知らなければ出来ない職能があります。
    山と木と建築とのつながりがほぼ途切れてしまっている現代にこれらを繋いで木の建築をつくる、という役割を誰かが担えば工業製品だけに頼らなくとも木を活かした建築づくりが可能ということ。
    つまりはどの立場の方々も、建築がつくられる流れを知り、市民の役割、山にある素材(立木→丸太)、材料となる木材(流通と製材)、そして建築(設計と施工)との関わりが見える様になれば、もっと木の建築がつくられやすくなるでしょう。このフロー図でそんなことを読み取ってもらえれば幸いです。
  • 第28回木の学校づくり研究会より:「公共建築物の木造計画・設計規準について」講師:大橋好光 氏(東京都市大学教授):
    昨年5月の「公共建築物木材利用促進法」成立を受けて、今年の5月、国土交通省の官庁営繕部より公共建築物の「木造計画・設計規準」が発表されました。大橋先生は、この基準を検討するための委員会で座長を務められました。今回は、公共建築物に関する戦後の動きを含め、制定された規準についてお話いただき、参加者と議論を交わしていただきました。その一部をご紹介します。
    ■公共建築物木造計画・設計規準
    木造計画・設計基準は今年の5月10日に公表されました。この基準は、国土交通省の営繕部内部の人が設計するときに参照する基準となります。しかし、文部科学省の管轄下にある教育施設や、厚生労働省の管轄下にあるデイサービス施設などは、それぞれの官庁の基準を優先した上で、国交省の基準を参照することになると考えられます。
    基準の中で、耐火建築物をどこまで対象とするかが大きな問題となっています。東京のような大都市で木造の公共建築物が一気に増えていくとは思いませんが、地方都市の都市部の中では木造の公共建築物を建てたいという要望はあると思います。このような方向性に対して、耐火建築物をどこまで広げていくのかということが関係してくると考えます。今年、防火に関して話し合われていきますが、非常に重要な項目になってくると思います。現段階では、耐火性能を必要とされる部分はRC造でつくるなどのことが考えられますが、そうすると混構造の建物になります。また、避難用の公共建築物については今回の基準の中では触れていません。
    公共建築物は普通の建築基準法に適合すればよいだけでなく、さらに長期にわたって使用する建物という区分に当てはまることが特徴です。長い期間使えるようにしなければなりませんので、耐震性能を1.25倍、性能表示の耐震等級2に相当するものになります。また、地震時に建物がどのくらい変形してよいかということについては、3/4以内に抑えることになっています。このような規定がある中で、どのように具体的に設計していくかが課題になってくると思います。
    公共建築物を木造で造るときに使用する材料については、集成材やLVLは規格が決まっているので問題ありませんが、問題となるのは製材です。私は、公共建築物は設計の手順や構造計算が、他の建築物のお手本になるような手順を組めるべきだと思いますので、製材についてもJAS材にするという規定にするよう強く要請しました。委員会の先生方にも賛同していただき、基準の中で規定されています。しかし、離島などどうしてもJAS材の入手が困難な場合や、短期的に使用するものについては、拡大解釈できない範囲内で例外規定を設けています。またJAS材という規定に加えて、含水率が調整されたものとしており、原則的に15%以下にしています。
    ■今後の取り組み
    この基準の制定を受け、国交省の営繕部に木材利用推進室ができました。推進室を中心に、今年進めるべきことは3つあります。1つは木造耐火基準検討会です。防火専門である長谷見先生を座長に委員会を発足させて運用します。2つ目は、今回の法律と基準ができましたが、これだけでは実際にはなかなかうまく動いていかないだろうということで、主な地方公共団体の営繕の部局の人を集めて、木造の建物を造って実際に運用を動かしていくにはどうしたらいいかという勉強会を開きます。予算や材料、設計の話がいろいろとありますが、2年ほど勉強会を続けて、この基準をもっと具体的に動かす時のマニュアルなどの手引書のようなものを作りたいと言っています。3つ目は、設計と工事の2段階で参照する図書がありますが、木造工事の標準仕様書を、基準に対応するよう見直しすることです。
    (文責:牧奈)


※パスワードは「wood」

vol.30

木の学校づくりネットワーク 第30号(平成23年6月11日)の概要

  • 港区の新制度説明会の報告:
    港区では2011年10月より都市と山間部が共同で低酸素社会の実現を目指す取り組み「みなとモデル二酸化炭素認証制度」を開始する。この新制度の説明会が5月18日、赤坂区民ホールにおいて開催され、企業や市民に向け先進事例の紹介とともに、具体的な制度の運用手続きに関する説明がなされた。
    <対象とする建築物>
     この制度によって港区内で建築される延べ床面積5000㎡以上の建築物については、区への申請が必要となり、規定を外れる建築物についても建築主が自主的に申請を行い、認証を受けることができる。対象となった建築物は、構造材、内装材等に使用された協定木材及び合法木材の構造材、内装材、外溝材家具等の使用量を評価される。
    <対象とする木材>
     認証の対象となる木材は、港区と協定を締結した23の自治体から産出された木材及び木材製品(協定木材)。協定木材は森林施業計画等により、適切に管理され、伐採後の確実な更新が保証された森林から生産された木材とする。ただし協定材のみだけでは対応できないと認められる状況に限り、国内で生産された合法木材(林野庁が策定した「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」により合法性が証明された木材で国産材のもの)も対象とすることができる。
     港区は2050年には2000トン二酸化炭素の固定を目指している。今後、担当部署として制度運営事務局を設け、各方面からの問い合わせに対応する。実質的に協定材以外の木材の使用が認められた枠組みの中で、各協定自治体の思惑に応えられるのか、今後の展開に期待したい。
    (文責:樋口)
  • WASSへの投稿文:「地場の木と地域の人でつくる学校建築」石井ひろみ氏(アーキテラス一級建築士事務所)
    私が今まで携わった学校建築は、地元の財産としての木の学校をつくることを目的に、工種も木造と決められ町有林などの地場の木材を用いることが大前提でプロジェクトがスタートしているケースが多く、設計初期から地元の林業家や木にかかわる技術者たちとパートナーシップを取った形でプロジェクトが進んでゆきました。また、木材の調達・管理(図1)のコーディネートもプロジェクトの工程中一貫して設計者の大きな使命となり、RC造やS造の同規模公共建築と比較すると、設計業務の時間と労力が数倍必要となりました。これらは、設計者も発注者である市町村も大規模木造の公共建築の事例が少ないため、互いに手探りしながらのことであったように感じます。様々な地域で経験を重ね、その地域の環境や風土や文化を知る先人からの知恵を受け継いだ地元の方の声を深く取り入れ、一歩一歩ノウハウを模索し構築したようにも思います。また、実施設計時には自治体にある林業研究の専門機関や大学と協力し、木材の強度や仕口の強度試験を行いました。工事着工後には手刻みで仕口加工を施す大工さんと膝をつきあわせて技術検討を行う機会が多いのも大変印象深いものです。
    木造の学校づくりは設計時から竣工時まで地元の大勢の『ひと』が一体となり、地域の一大プロジェクトとして時間を共有しながら記憶が深く互いの胸に刻まれてゆくような思いを感じています。
    1.地場の材と地域のひとを学校づくりに活かす
    表1は設計監理を手掛けた木の学校建築の6事例で、共通した主だった特徴が三つあります。
    ① 地場の材を無垢材のまま構造部材や仕上げ部材として活用しています。特に柱は丸太(皮むき)のまま計画し、子供達の目線で手を伸ばし丸太の肌に触れ、森のなかにいるような情緒的な体感ができるような表現を試みています。廊下や教室に等間隔でならぶ丸太を見ると1つ1つ表情が異なる子供達の個性のように見え、自然のままの木に触れることにより子供達の情緒もより安定する傾向のようです。
    ② 地場の木材の選定・伐採・皮むき・材料検査(採寸、番付)・乾燥・品質検査(強度確認)といった木材の調達・管理の一連の工程を、地場の技術とひとを活かしながら進めました。
    ③ 材の自然乾燥を前提に設計工程を組み(図2)、基本設計完了時に木の伐採に取りかかりました。設計初期段階に、伐採予定の山に出向きその地域の材の特徴や数量などの情報を収集した上で架構や構法を検討し基本設計に入ります。地場の木の情報にあわせ基本設計時にその地域独自の架構デザインを決め精度高く構造計算まで行うことは、設計者への作業負担は多いのですが、基本設計完了時点までに構造材や仕上げ材の数量や仕様を決定し、材のコストも精度高く見通しをつけ、木材の調達・管理の仕様書をそれぞれの地域にあわせ作成します。
    2.木材の調達・管理/地域との関係性(表1参照)
    <地域と材の関係『パターン1』>
    大分県立日田高等学校屋内体育館(表1実例1)
    林業県である大分でも初めての大型木造公共建築ということもあり材の乾燥調達を請負工事入札前にどういうタイミングで誰が行い、その材に誰が責任を持つのかが大きな課題となり、試行錯誤の結果、木材の調達管理から工事施工まで一括で工事請負者に託しました。
    木材の所在と責任範囲と情報が一貫することで発注者である自治体も設計監理者も監理は比較的に楽ではあるものの、経費がやや高めにつくこと・工事請負者が前面になり地元の人々の技術を表立って活かすシーンが少なく終わりました。
    <地域と材の関係『パターン2』>
    『パターン1』の経験を活かし、その後は、地元の森林組合に木材の調達管理業務を請負工事契約とは別に発注するながれとし、自然乾燥を終えた段階で材を工事請負者に受け渡す工程を組みました。お金の流れも責任の所在もシンプルで、一般的に今後も取り組みやすいものと思います。また、風土も環境も異なる地域で育つ地場の木を相手に、全国一律のノウハウで木材の調達・管理の仕様書を提示したとしても通用しないと痛切に感じたこともあり、地域特有の智恵や環境を知る地域のひとから意見や古くから受け継がれる特有の文化を広いながら進めることも、地域の財産としての地域性豊かな木の学校づくりの成功ポイントと考えます。
    <地域と材の関係『パターン3』>
    熊本県葦北郡芦北町佐敷小学校校舎(表1実例4)
    図3のように芦北町には森林組合以外にも、木に関する専門的な知識と地元特有の技術を持った組織や個人が多数存在し、それぞれの長所を活かしプロジェクトの一員して各々が協力的に材の調達管理から加工までの各工程を分担し、大きな輪が生まれました。『パターン2』に比べると登場人物も多く、不安要因もありましたが、各自の地元への思いと智恵を、総合的に終結させ成功した事例です。それに加え、この地域特有の幸運がいくつか重なりました。末口から元口までほぼ太さも揃ったまっす
    ぐな長い杉が町有林には多く、丸太の芯を有孔する技術と12m級の材を乾燥させる釜(蒸煮減圧処理)が地域に存在し、このような恵まれた背景を活かし、スギ丸太を通し柱とした2階建ての無垢材を構造材とした学校建築が実現しました(図4)。
    地域の多数の技術を活かすことができた木の学校でしたので、竣工までの長い期間、町の多くの方々が興味を持ってプロジェクトを見守ってくれたように思います。
    <地域と材の関係『パターン4』>
    新潟県上越市立清里中学校校舎(表1実例5)
    プロジェクトスタート時点では工種の規定がなく、設計者がプロポーザルで木造を提案し実現したものです。よって発注者は、木造で学校を作るという概念がもとからないため木材の調達管理の話には大変消極的なうえ、請負工事の入札前に材の調達が事前に行われていることが表面化するのは問題があるとの認識もあり地場の木を自然乾燥して用いることはできず、基本的にベイ松などの輸入品を含めた市場流通材で構造部材と仕上げ部材をまかなったため、地場の材と地域の技術を用い地域の財産的としての学校をつくるという社会的メッセージは達成できませんでした。私の経験の中ではイレギュラーなケースですが、一般的に木造で学校を設計する場合、このパターンが多いのかもしれません。
    3.子供目線で見る木の学校の今後
    木の学校づくりにいくつか携わってみて、プロジェクトの工程が長く各プロフェッショナルとの関わりが多いこともあり、無事に竣工を迎えると作り手同士の心が何か温かいものでつながるような気がします。また子供目線に立ったパフォーマンスも色とりどりで、工事途中では在校生たちへ地場の林業の紹介や建築の成り立ちについて説明する機会を設けたり、上棟式の際には梁材に生徒に記念サインを刻んでもらったりと、地域性豊かな思い出につながる時間をも生みます。
    けれども、学校の計画段階において、発注者である行政や管理運営する学校との打ち合わせで要する時間の大半は、物と人の管理のしやすさという視点にウエイトがおかれてしまい、木の空間の良さや事例を子供目線で語られるシーンは極めて少ない印象です。少子化時代に突入し、子供をとりまく環境や時代が大きく様変わりし、子供を最優先に考えた社会づくりや教育は、次の時代に向け大変重要なことです。これら木の学校づくりに関わった技術者や、実際に地場の木の学校で学び暮らす教育者や子供達の声を幅広く全国へ向けたメッセージとして発信することができるのであれば、大変有意義なものとして活用できるのではないかと感じています。
    WASSへ参加半ばの2009年に長女を出産しました。それまで、子供の空間の設計はいくつか手がけてきましたが、WASSでの活動に加え、実際の小さな子供の行動や心理を自分に引き寄せイメージをすることがより現実的になり、今までとは違った視点での子供の空間に対する建築的な気づきが、一呼吸おいたように見えてきました。
    小さい子供が何か新しいものに気がついたり、学び知ったことを自身の手で自ら出来るようになったときの目を輝かせ誇らしげにする瞬間は、本当にキラキラと表情がまぶしく輝き、可愛らしいものです。保護者や教育者に昨今は、0歳児から子供の自立を促すような子供への接し方が注目されているようです。子供を管理監督するのではなく(教え込むのではなく)、個性溢れ知的好奇心みなぎる子供の自発的な成長と自立を、添え木のような役割で手助けするようなスタンスが、保護者や教育者の責任であるとの考えのようです。
    団塊ジュニアとして育った我々世代の学校の環境は、1クラスの児童数生徒数が40~45名前後で、1学年のクラス数も多く、勉強への取り組み方や学校での生活のあり方など、すべてにおいて管理されていた時代でした。まっすぐな廊下に教室が多数南向きにならべられ、食事も遊びも勉強もと、終日ただただ直方体の教室で過ごし、コモンスペースなどの子供同士の共有空間やゆとりの空間は存在しませんでした。30年経った現在でもまだ、当時の感覚や環境が現場には染み付いている印象を感じます。私は子育てに大変興味を抱く現在の環境と設計者である立場から、新しい時代に向けた学校建築や子供を取りまく空間のスタイルが(素材や構法をも含めたハード面が)、教育現場のソフト面を牽引するような社会的メッセージを建築を通じ発信することができたら・・・と、思う昨今です。
    子供が自発的に本に手を伸ばし選び、学び、そして本を元の場所に片づける。それを何度も何度も同じ場所で繰り返し自分のものとしてゆくように、子供を取り巻く環境や空間の質は成長過程のなかで大変重要なことのように思います。
  • 第27回木の学校づくり研究会より「製材を用いた構造デザイン~学校建築を中心に~」講師:山田憲明 氏(増田建築構造事務所):
    山田先生は、これまで製材を用いた構造デザインの多数のプロジェクトに取り組んでこられました。その中で、近年竣工した4つの学校建築の事例を通して、構造設計の仕事についてお話いただきました。また、これまで携わったプロジェクトに関する木材関係のデータを整理していただき、構造設計者の立場から意見をいただきました。
    ■木を使って設計する時のスタンス
    「秋田スギと鉄と伝統技術によるハイブリッド」(国際教養大学図書館棟/2008)、「大学所有のスギと掘立柱+方杖によるラーメン構造」(東北大学エコラボ/2010)、「隅角偏心した扇構造」(昭島すみれ幼稚園/2011)、「遊具のような構造」(緑の詩保育園/2011)。個々のプロジェクトの条件を詳細に見ていくと、なかなか同じ構造にならない。しかし普遍的な技術を使い、今ある技術を組み合わせる工夫をしている。例えば、接合部では追掛け大栓継ぎなどの伝統的な手法から、木同士のボルト接合やプレート金物を使うこともある。また、合理的な構造として木とスチールを組み合わせることもある。これらを一つ一つ組み合わせることが創造性であって、その際に全体を見渡せないと、施工性や力学的な部分、美しさのバランスは一朝一夕にはいかないということを、日々感じている。
    そのなか、東北大学は今回の東北地方太平洋沖地震で大きな被害を受けたが、エコラボは被害が全く無かった。実際現地に状況を見に行き、周囲の被害を受けた建物と比べてみると、木造か否かが要因ではなく構造のシンプルさが要因だと考えられる。
    ■構造設計者の立場から考えること
    大規模木造で学校を造る場合、無理なく集木できる木材のサイズや、木材加工業者の技術レベル等の事前情報が少なく、建設地の事情に深く踏み込んだ構造計画ができないということから、地域ごとの情報整備が進んでほしいという思いがある。それから、元請業者が入札で決定される場合には下請けとなる木造専門業者の技術レベルが見えない。さらに、木造専門業者の技術レベルに対する客観的な指標がなく、設計図書の記載等による業者選定条件をつけにくいという問題がある。そのため、入札金額だけでなく、施工者の技術レベルを適正に評価して施工者選定できる仕組がほしいと思う。
    法的・工学的には、もえしろ設計や壁量を満たさない構造の許容応力度計算では、法的にJAS材が義務づけられるため、これらの整理が必要だと思う。
    また技術的には、ほとんどのプロジェクトで天然乾燥する時間がなく、人工乾燥に頼るざるを得ない状態である。その場合、乾燥窯の容量、地域的事情、工期的理由から高温乾燥になることが多く(特に長大材)内外部の割れが出やすくなるということで、低温乾燥等、良質な乾燥方法の普及が必要となっている。さらに、木工事規模が大きい、予算が厳しい等の条件があると、地元大工の手刻みだけでは量的にも、金額的にも対応できないことが多くあり、その場合プレカット業者による工場加工が必要になる。しかし、住宅用プレカット機では加工形状の自由度が低いため、集成材加工工場等が持つ高性能プレカット機に頼ることになるが、高性能プレカット機を持つ工場の数が限られるため地元材をわざわざ遠方のプレカット工場まで運搬して加工し、再び建設地まで運搬する無駄が生じるという問題がある。大規模工事に対応できる地元の大工ネットワークがほしいということと、高性能プレカット機が普及してほしいと思う。
    最後に、地元木材に通じているキーマンがいないと木材生産がさほど盛んでない地域では地産地建がやりにくい。木材キーマンの増加、あるいは地産地建ができるネットワークがほしいと考えている。
    (文責:牧奈)


※パスワードは「wood」

vol.29

木の学校づくりネットワーク 第29号(平成23年5月14日)の概要

      

  • 『日本林業はよみがえる』読書会開催:4月16日、森の贈り物研究会事務所において、昨年6月に発足した菅内閣の内閣官房国家戦略室内閣審議官として、第18回木の学校づくり研究会において「日本林業の実態と国家戦略」と題してご講演いただいた梶山恵司氏を囲み、著書『日本林業はよみがえる』の読書会が開催された。
  • 調査研究報告:「地域材を活用した学校づくりの課題~木質建材調達はニッチな業者から~」二国純生氏(有)二国事務所 代表取締役)
  • 第26回木の学校づくり研究会より「木造建築物の耐久性と維持保全」講師:中島正夫氏(関東学院大学工学部教授):
    中島先生は、これまで木造建築の維持保全をテーマに、公共施設の維持管理体制や手法の調査に取り組まれてきた。今回は1980年代以降に建てられるようになった国内の大規模木造建築や日本よりも構造用集成材の歴史が古いアメリカの事例調査の結果をふまえ、課題点をお話しいただいた。
    ■木造建築物の維持保全
    一般的に木材は経年劣化しやすい材料としてとらえられているが、木材といえどもある環境が維持されれば、劣化もある一定のレベルで推移していく。しかし木造建築物の仕上げ部分の劣化に応じて構造物としての性能も下がるため、ある時点で点検補修をして性能回復を計り、それを一生のうち何度か行って、あるところで一定レベル以上の性能低下に達した時点で、大規模な修繕をして、当初の性能まで回復させる必要がある。この維持保全は大きく分けると事後保全と、予防保全に分かれ、事後保全は何か起こってから対処すること指し、予防保全は予防を行うことをいう。これまでの維持保全の特徴としては事後保全が中心的であったが、これからは安全性の確保やコスト削減のために情報に基づいて保守・補修をしていくことが、必要となる。 維持保全のあり方は、材料構法の保守方法や材料の耐用年数の情報、材料メーカーや施工者から提供されるべき施工図面に基づく定期的な点検、必要に応じた交換、補修などを行っていくことである。そして設計者には、保守監理計画をきちんと立案し、その情報を所有者・管理者に提供することが求められる。
    ■維持保全の実態
    大規模木造建築が年間数棟建てられるようになった1990年代前半に、全国の学校施設を中心に文化、スポーツ施設の所有者に行ったアンケート調査では、施設の管理運営を委託しているところは、全体の2割に満たず、維持保全のための図書を備えているところはさらに少なく、半数以上の施設から維持保全をしていないという回答があった。現状は変わってきているかもしれないが、20年前の維持保全に対する意識cは低いといわざるを得ない状況であった。また不具合の内訳としては、雨漏り、建具のゆがみや反り、開閉不良、柱の割れや床鳴り、腐朽や蟻害などがあげられた。一方2000年代行われた築30年以上経つ集成材を用いた施設を対象とした調査からでは、腐朽や蟻害などの生物劣化に加え集成材自体のはく離や割れがみられた。
    ■耐久性の評価
    1930年代より集成材の利用がみられるアメリカの事例調査で、築74年経過しているカゼイン接着剤を用いた教会を確認した。この教会では構造材として用いられたパイン材の集成材は、はく離量が少なく、特別な修繕を経験することがないまま、健全な耐久性を保っていた。一般的には耐久性が劣るといわれるカゼイン接着剤も屋内使用して乾燥状態におかれていると長持ちをすることがわかった。一方で日本の場合は、温暖湿潤で台風などの気象状況により風雨による劣化や生物劣化を起しやすい環境にあることも考慮しなければならない。
    メンテナンスインターバルをどの程度に設定し、どの部位のどんな材料を使った場合、どのくらいの年数でどのような状況になるのかといった材料の耐応年数の傾向は、使われ方や環境に応じて異なる。この点に関するデータベースが相当量蓄積されてくると、大規模木造建築でもかなりきめ細やかな維持保全ができるようになるが、現状ではまだまだそこまでデータが整理されていないのが実情である。木材利用促進法により今後、木造の公共施設がますます増えると思われるが、劣化が激しければ木造にしてよかったと思ってもらえない。メンテナンスが十分行き届く体制を整えることは、木造建築物の評価を保つためにも重要な課題である。


※パスワードは「wood」

vol.28

木の学校づくりネットワーク 第28号(平成23年4月16日)の概要

  • 第3回木の学校づくりシンポジウム報告~地域の取り組み紹介(秋田県能代市)~:
    「地域力を生かす取り組み~山とまちをつなぐ『地域材』の活用~」齊藤滋宣氏(秋田県能代市長):
    ■「木都・能代」
    東北は大変な雪でございまして、雪の降らないところと比べると、荷重がまったく違います。耐震等を考えますと構造そのものが温かい地域とは違いますので、木にかかる荷重が大変大きい。ということは、費用もかかりますが、それだけ木で大型公共物、大型建築物を造るのが大変困難な地域であることをまず頭に入れていただきたいと思います。
    能代市は秋田県の日本海側にあり、人口6万257人、世帯数2万4583世帯、森林面積2万4883haです。能代市には二つの顔があり、一つは「バスケの街」、もう一つは今日のテーマ「木都・能代」と言われる昔から木で大変栄えた街であります。戦前では「東洋一の街」と言われ、日本一の高いスギ(高さ58m、直径1m64cm)があり、その1本の木から55坪の木造の家が建つと言われております。秋田スギで栄えた能代市と二ツ井町が平成18年に合併いたしまして、新しく能代市となりました。東洋一の木材の貯木場と言われた「天神貯木場」があったのも、能代市の二ツ井という地区です。最盛期の昭和36年には517事業所、従業員数7512人、製品出荷額499億9000万、約500億あったわけですが、今は114事業所、従業員1089人、製品出荷額185億と激減しております。
    そういう中で我々は「木都」と謳われたこの能代を何とかもう一度元気のある街にしたい、そのためには一番誇ることのできる秋田スギを使って、歴史と文化が脈々と受け継がれ技術とその経験が今に生きているこの資源をブラッシュアップして世の中に問うてみたい、という思いでまちづくりに励んできました。我々が「木の学校づくり」というものを目指すことにより、子ども達に快適で、健康で、勉強する環境に恵まれた学校を造ってあげたいという思いと同時に、木の素晴らしさを日本国中に知ってもらい、秋田スギの時代をもう一度取り戻し、地域を活性化することができないかという思いで取り組んだわけです。
    ■「木の学校づくり」の実践と検証
    市内には小・中学校が19校あり、そのうち小中一体校が1校ありますので、実質18校。そのうち7校が木造で造られております。
    平成6~12年に、崇徳小学校、第五小学校、東雲中学校の3校を手がけました。特に、歴史と文化の街・檜山と言われる檜山地域にある崇徳小学校を造るに際しまして、地域に多くの木材資源がありますから、地域住民の方達が小学校を建て直すにあたり、我々地域の木材を使って木造の学校を造ることはできないだろうかという声が多く上がりました。昭和61、62年の頃から地域住民の皆様方が木の学校づくりのためにいろいろな勉強会を開くようになり、市民の皆さん、木材産業関係者の皆さん、設計者、工事関係者、行政が一緒になりまして、木の学校づくりに取り組んだわけです。また、この取り組みが始まってから、一貫して学校につきましては木造の学校づくりということが能代市で始まりました。木造だと高いのではないか、木材の調達はどうするのか、そういう建築技術がしっかりと受け継がれてきているのか、雪国ですから構造的に大丈夫なのか、そのことによってさらにコストが増すのではないかという不安の中からの出発でしたが、立派な学校を建てることができました。
    次に転換期となった平成15~18年。先ほどの3校を建てた時は、建築費は坪単価90万~100万ぐらいかかり、若干高いコストがかかっていましたから、次のコンセプトは、少しでも地元産材を使いながら、工法を工夫し、できるだけ安い費用で学校を造ることができないかということでした。そして、関係者が集まりまして、常盤小中学校、そして浅内小学校を建築する計画を作りました。地元でどうやって材を調達するか、そして今使われている材で学校を造ることができないだろうか、さらにトータルコストをいかに安くしていくかということを考えました。最初の頃の学校と比べるとデザインもシンプルになってまいりました。そういう成果が現れまして、プロポーザル方式で学校建築が進められ、皆様方の知恵を結集し、坪単価60万~80万にまで削減することができました。
    そして、次の段階に入るわけです。二ツ井小学校、市立第四小学校は、合併した後にできあがった学校で、二ツ井小学校で約1500m3、第四小学校で1300m3の木材が建物に使われています。地元産材と地元の大工さんによって、できるだけ安い費用で長持ちする学校というコンセプトのもとに造り上げました。2カ年事業で2校同時に建築したわけですが、地元の皆さん方に参加していただくことで、地域の経済の活性化を図りたいという思いがあり、結果、学校1校あたり延べ1万人以上の大工さんを雇用することができました。この両校は坪単価約70万円程度で造ることができました。
    この三つの時期を経て今日に至るわけです。崇徳小学校、第五小学校、東雲中学校を建てた後に、いろいろな課題が各種の皆さん方からお話しされましたので、今後の学校建築にどう活かしていくかを研究するために、公共建築物整備産学官連携事業の中で、今までに建てた学校の検証、これからの対策といった木の学校づくりの研究が始まりました。この組織は、秋田県立大学の木材高度加工研究所、木材加工推進機構、地元の木産連、商工会議所、設計士の皆さん、工務店・建築組合、そして行政が一緒になりまして進めてまいりました。その結果、品質にばらつきがあることが、建築のコストを非常に高くし、差し障りがあることが分かりました。また、規格・グレードの共通理解がなければ、我々が目標としているコストを下げることと能代の材を全国展開するときに、決していい形で作用していかず、切り出した原木を全て使い切る工夫が要るといったことが総括としてまとめ上げられました。そして今度の二ツ井小学校、さらには第四小学校に活かしていこうということが始まりました。検証していきますと、乾燥が甘かったり、木をいじめすぎると維持管理に費用がかかることも分かり、できるだけ早く木材を供給できる体制を作るために、木材供給グループを組織化することにいたしました。そのことにより供給資材等の品質の確保、さらに品質の向上へ寄与することができたわけです。
    このように工夫しながら2校の建築してまいりましたが、それぞれ一般流通材の活用を図ることによりコストを下げてまいりました。さらに適材適所の木材の使用により、またそれも可能となってきました。第四小学校と二ツ井小学校を市民の皆様方に一般公開しましたときに、入ってこられた市民の皆さんが一斉にワーッという声を上げるのです。それは木目の美しさでありました。中には芯もあったり、普通に見るとあまりきれいに見えない材もありましたが、集成材を使ったり、そういう節目のあるものを使ったことにより、逆に市民の皆様方にはデザイン的に、今までと違う感覚で木材というものを改めて見直す機会になったのではないかと思います。
    最初の頃は坪単価100万かかっているところもありました。それが最少で60万まで減少することができました。単価の減少要因はいろいろあると思いますが、一つには、極めて特殊な材料を使わなくなり、あるものでできる検討を設計の先生方や工事業者の皆様方が工夫していただいたおかげだと思います。今後もそういうノウハウを生かしながら適材適所で地元産材を活用した木の建物づくりにがんばっていかなければならないと思っております。
    ■‘木の文化’と‘技術’が見えるまちづくり
    学校を建ててみていろいろなことが分かりましたが、私が一番痛感するのは、木材を広く皆さん方に使っていただくためには、安くて丈夫なものをしっかりと造らなければいけないということです。例えば、木は使っているうちに劣化します。そういうときに、今までのように劣化したところをただ現状回復するために直せばいいのではなく、将来使いやすくなるために改修することで先々コストがかからなくなっていく、さらに計画のときからそういう発想を持つことにより、できる限り将来への改修費用がかからない工夫もしっかりとしていかなければいけないと思っています。学校を通じて木のよさ、素晴らしさを知っていただきたい。そのことは我々が先人から受け継いできた能代の木の文化をさらに引き継いでいくことであり、受け継がれてきた技術・知識といったものがさらに活かされるまちづくりになっていくのではないかと思っております。
    能代市には、本日お話しました7校の木造の小中学校のほかに、旧料亭金勇という天然秋田スギが最盛期の頃に造られた料亭があります。持ち主から市に寄贈いただきまして、今は市で管理しながら秋田スギの見える場所にしていきたい、木にこだわったまちづくりの殿堂にしていきたいという思いで、旧料亭金勇の活用に工夫を凝らしているところです。
    また、技術開発センター「木の学校」というものがあります。木の桶、樽、組子といった、日本中に誇れる技術があり、こういった技術を活かしながら、一般の市民の方達でも木を使っていろいろな木工製品を作られる場所を確保し、少しでも多くの皆さん方に木に触っていただきたい、木に親しみを持っていただきたいということで、市民の皆様方に開放しているところです。
    さらに、秋田県は全国小・中学校学力テストナンバー1、ナンバー2を誇るところです。因果関係は分かりませんが、木の校舎に入ることにより学力がアップされたと言われるようなまちになりたいと思っております。大手予備校のパンフレットに「秋田に学べ、教育」と書かれたポスターがあります。その最後のところに「我々の夢です。秋田の学校は全て木造であるがゆえに学力日本一」と書かれるような学校づくりを目指したいと思っております。
    最後になりましたが、木材を使ったバイオマス発電、東北電力ではチップを使った混焼発電も始まろうとしています。それこそ川上から川下まで切り出した木は、ただの一つも無駄にすることなく、その木を活用しながら、その木の恩恵を受けながら、そして我々はこの木を大切にしながら、木とともにまちづくりに励んでいきたいと思っております。
    次の課題は、今まで学校づくりで培ってきたこの技術と経験、そして素晴らしいこの原材料をぜひとも日本全国中の皆様方に知っていただく、使っていただく努力をしていきたいと思っておりますので、今日お集まりの皆様方の中でぜひとも能代のスギを使ってみたい方がおられましたら、ご遠慮なくご一報いただきたいと思います。
    (文責:牧奈)


※パスワードは「wood」

vol.27

木の学校づくりネットワーク 第27号(平成23年3月31日)の概要

  • 第3回木の学校づくりシンポジウム報告~地域の取り組み紹介(大分県中津市)~:
    「鶴居小学校体育館における中津市の取り組み~地材地建(中津モデル)~」新貝正勝氏(大分県中津市長):
    地域材の活用が主要テーマということですが、今回私どものほうで造りました鶴居小学校体育館は総木造で、しかも伝統構法を活用し、日本古来の造り方となっております。そして、山国川流域産木材を積極的に使用するということで、いわゆる地域材を使う「地材地建」という考え方のもとに造り上げたわけでございます。
    中津市の概要をご説明いたします。中津市は大分県の北西、ちょうど福岡県との県境にございまして海、山に囲まれています。中津、三光、本耶馬渓、耶馬溪、山国とありまして、一番小さい中津が旧中津市で面積が55km2でした。中津市はこれら下毛4町村と平成17年3月に吸収合併いたしました。面積は9倍の広さ、55km2から491km2になりました。山林の割合は、旧中津市はわずか3%でしたが、合併しまして77.5%が山林とほとんど全てが山林になったわけでございます。そしてこの中をちょうど縦貫する山国川という川があります。これはちょうど山国から源流を発し、この中を通って河口に到達する、中津市だけで流域が構成されるという珍しい川にもなったわけでございます。
    さて、市域の4分の3が山林となり、今大変な状況になっているわけです。そうなりますと、考え方を変えていかなければならない。何とかして木材利用を図っていきたい。そして地材地建で公共建物にもこれを使っていきたいと考えたわけです。
    中津市の山林の状況ですが、平成8年と18年を比べてみますと、非常に大きな違いが出ていることは皆様もご存じの通りでございます。林業従事者は20%減。それから、以前は再造林を放棄するところがなかったわけですが、再造林放棄箇所は52箇所、130ha。ほとんど再造林しようという意欲がわかないというのが現状です。そういった中で木材価格も低下してきております。スギはかつて1万2800円/m3だったのが今7700円/m3、ヒノキは2万4800円/m3だったのが今1万8000円/m3というような形で木材価格も非常に低下してきている。ですから採算に合わない。採算に合わないから造林もしない。そうすると山が荒れていく。これを何とかしなければ日本の国土はいったいどうなるんだということになります。これは今、全国津々浦々で起こっている現象だと思っております。これを国家として何とか再生していく、そして豊かな森林というものをつくりあげていくことが我々にとっての使命であると考える次第であります。
    そういった中で、ではどうしたらいいのかということです。現状における山々について先ほど林野庁長官からもお話がございましたが、実は今、非常にいい木が育っているのです。ちょうど40年とか50年とかのものが一番たくさんあるのです。35年以降のところでは面積的に見ても、大変多くの木々が育っているわけで、ちょうど使い頃のいい物が使われずに放置されているのが現状であります。この現状をやはり打破していかなければならないということでございます。
    そこで公共建物、特に学校といったものに木材を使用していこうということで始めたわけであります。木材を使うときに一番困ったことは、まず、国産材と輸入材との問題です。輸入材は安いという神話があるのですね。はたして本当でしょうか。もう輸入材は安くないのです。国産材と比較しましても、国産材のほうが現状において安くなっている。しかし、一般の人はまだまだ輸入材のほうが安いと思っている方が多いと思います。そういった神話を打破していかなければならない。そして国産材が実は安い、使い勝手もいいということを理解していくことが必要だと思います。
     それからもう一つの常識があります。公共建物を建てるときにRCとか鉄骨で造るほうが普通の建て方なのだ、木造は異質なのだという考え方です。そして常識的に言えば、木造で体育館を造ることになれば、だいたい3割方高くなる。現実にそうなのです。これを変えていかなければならない。
     ですから、鶴居小学校の体育館を造るときに私どもは、どうしたらいいかということを考えました。一番の目標に何を置くか。普通に造ったときには、RCや鉄骨で造ったときと同等か、それ以下の値段で出来上がることが必要だということを一つの目標に置いたわけです。では、そういったことが果たしてできるのかということです。
     そこで、木材利用が進まないことや、一般的な建て方に対して木造で建てたときにどうなるかということで、中津市木造校舎等研究会を設立いたしました。構法等の工夫により、木造校舎等を非木造より安く建設することができないのかということをテーマとして掲げたわけです。そして、市内の事業者を積極的に活用する。地元材を積極的に活用する。ここが一番重要です。それから、建築にかかる質の向上と低コスト化を図る。研究会においては民間事業者が主体となって研究する。このような形で研究いたしました。
     木造がなぜ高いかと言うと、特許を使ったりしているのです。それから乾燥にものすごい時間をかけるといったことで、実は3割方高くなることが多いわけです。ですから、無駄なことはやめようではないか。木材においても一般的に流通している木材を使っていく。乾燥にもあまり時間がかからないようにしていく。そして、特許を使わない。特許を使いますと、後々これはまた大変です。維持管理も大変です。ところが、立派な体育館などを木造で造っているところは、すごいものを造っているのです。見てみますと、特許を使っていたりして、そのことによって高くなっている。ですから、そういうことをやめようということで、研究会で研究してもらいました。
    そこで、研究会で整理されたポイントです。
    まず、無理のない材の選択。地域材で一般的に流通しているものを使おう。材種にしても材寸にしても普通に使われているものを使っていこうではないかということです。
    それから木材調達のタイミングを考える。十分な乾燥期間を確保するためにも早めの手当が必要です。これは予算とも絡んできます。予算はだいたい1年とか、長くても2年ですから、それに合わせて建築しなければいけない。新しいことをやろうとすると新たに設計するだけの時間的余裕がなくなってくるわけです。新しいことをやるためには、今回だけは特別というような時間的な設定が必要になります。ですから研究会を作って、設計者にも、こういう設計でやって下さいというようにやる時間的余裕が必要になる。
    それから在来技術の活用。地域の大工さんで対応できる技術で計画するということです。そうなれば、地域の大工さんが働く余地ができる。地域の経済効果が見込める。また、技能や技術の継承につながると考えたわけです。
    さらには耐久性、メンテナンス計画への配慮。建設コストだけではなくライフサイクルコストで考えよう。そして、ライフサイクルコストから考えても安上がりにできる。そのようなことで検討したわけであります。
    その結果、整理されたことは、中津で産出された原木を使う、中津で加工された木材を使う、中津で流通される資材・器具を使う、中津の技術者で可能な木造建築物を低コストで実現するということでございました。
    そういったことを総合して鶴居小学校体育館ができあがりました。構造的にはアーチ型の伝統的な構法で造っております。一部、鉄の棒なども使っておりますが、無くてもこれはちゃんと出来上がる構造になっているのです。今日は増田先生にもお出でいただいておりますが、増田先生のご指導を得ながら建物を造り上げていったわけでございます。
    鶴居小学校体育館の建設期間は平成20年9月から平成22年2月まで、債務負担行為により2カ年の事業で行いました。建設費は1億6729万円かかりました。ご参考までに、ちょうど同じ規模の体育館をこの数年前に造りました。それはRC造でございましたが、1億8822万円かかりました。比較しますと1割ちょっと安くできあがったわけです。ですから、やろうと思ってできないことはない。普通であれば3割方高いものが1割方安くできたという事例でございます。
    木材使用量300m3ということですけれども、これは製材に換算したもので、実際の原木ですと約600m3を少し超える。ですから、原木にして1800本の原木が使用されたわけです。そして、山国川流域産ということで、これはまた厳密なる検証を行いました。ですから、全然よその木材は入っておりません。これは本物かどうかを全部トレースできます。ものすごい長大なものについては、鹿児島まで持っていってプレカットしたわけですが、これが他のものの中に紛れ込んでしまうと困るわけです。山国川流域産と言って地材地建を標榜しているわけですから、それが他のものとすり替えられたということがないように厳密なる検証ができ、トレーサビリティが完璧に行われるような形でこれを造り上げたわけです。
    以上、鶴居小学校体育館の建設の過程について申し上げました。私どもはこれによりまして、地材地建はやろうと思えばできるという確信を持っておるところでございます。そして今、小学生が非常に喜んでおります。というのは、木のぬくもり、それから特に出来上がりたての木の香りは素晴らしいものがございます。小学生が出来上がったところに入ってきたときにワーッという歓声がわき起こったのです。そのようなことで、素晴らしい体育館を造り上げることができました。
    以上、簡単ですけれども、私からの事例報告といたします。ご清聴いただきまして、大変ありがとうございました。
    (文責:松田)
  • 第25回木の学校づくり研究会より「バイオ乾燥の概要と不燃木材への応用」講師:伊藤隼夫氏(日本不燃木材株式会社社長):
    ■火事を利用した不燃木材
    カリフォルニアの山火事で多くの別荘が燃えた。
    森の中に好んで木造の別荘が建てられる米国では火から守れる別荘をつくりたいという需要がある。就寝時間に火事が襲ってきた場合、15~30分で火が入ってくるようでは逃げることができない。もし10㎝でも、木材に不燃塗料を浸透させることができれば1時間燃えない木材をつくることができるといわれている。しかし米国農水省白書によれば、木材に塗布した薬剤は約2mmしか木材に浸透しない、木材を減圧した場合でも5mm程度しか浸透しないとされている。また木材を高温乾燥機にかけた場合、木材の中の薬剤はとんでしまい、残っている場合でもモルダーをかけるとほとんど残らないというのが現状である。これまで日本でも欧米でも塗っただけで不燃木材とする技術の開発は不可能に近いと考えられてきた。そのような背景から米国の不燃木材の研究者からの共同研究の提案を一旦は断るものの、後に火事の際の熱を利用して木の中に薬剤を入れるという発想に思い当たった。
    火事の熱を受けて木材の表面が高温になると、木の細胞の中に不燃材が入り込み、木のごく表面が燃えるだけの不燃木材となる技術である。その技術のもとには木の中の水の流れをコントロールして薬剤を細胞の中に留めるという発想があった。                                    ■木の中の水を制御する
    全ての細胞には細胞膜があり、その中には水が含まれていて、浸透圧によって水は濃い方から薄いほうに移動する性質がある。これまで木の細胞に含まれる水も浸透圧によって膜の間を移動していると考えられていたが、7年前に米国の研究者によって水チャンネルが発見された。木の細胞内にはバクテリアやウィルス、菌類等から身を守る免疫機能をもったリグニンや蟻酸などを含む結合水があり、水チャンネルが開くと結合水が細胞膜から外に出され、やがて道管を通って木の外に出てゆくことになる。高温乾燥・減圧乾燥だと木の細胞をばらばらに壊さないと中の水ができず、細胞を破壊するときに蟻酸が出てしまう。蟻酸のような酸は、バクテリアや菌類を殺せるような強さをもっている一方で、木の外に出ると、様々なところを酸化させてしまうという悪影響をおよぼすものでもある。細胞膜の中に入っている水だけを外に出すことができれば、酸化による影響を回避することができ、また細胞を破壊させずに生のままの強度を保つこともできる。水チャンネルの開閉をコントロールすることでそれを実現にしたのがバイオ乾燥の技術である。一般に乾燥後の木材の含水率は15%程度とされているが、バイオ乾燥を行えば含水率は6~7%となる。
    ■バイオ乾燥の実用性
    バイオ乾燥材は蟻酸が出ず、狂いが少ないことから特殊な木材を扱う東京文化財研究所や文化財建造物保存技術協会などで採用されている。また文部科学省が奨励し、博物館・美術館でのバイオ乾燥材が使われる動きがある。高温乾燥機を使用した場合、一週間から10日の乾燥と一週間の養生が必要となる大径木でもバイオ乾燥機の場合は2週間乾燥させて、翌日には製品として出荷することができる。浜離宮の松の茶屋では200年保つようにと注文を受け、構造材を不燃材料として処理した他、江戸時代の小屋組も背割りは入れずに処理できた。約40度で仕上げると細胞の中に入っていった薬剤が結晶化し、半永久的に細胞の中に留まる。通常30~40℃程度と高温の環境を必要としないことから、棒状のヒーター以外の機械類を必要とせず、施設も木造とすることができるため高額な設備費はかからない。現在、学校に使われている不燃系の木材の9割は外壁も含め実際に燃えてしまう。学校は学生や地域の方が使う場所。何とか燃えない安全な学校をつくれないかという思いがあり、バイオ乾燥技術の普及に取組んでいる。
    (文責:樋口)


※パスワードは「wood」

vol.26

木の学校づくりネットワーク 第26号(平成23年2月19日)の概要

  • 第3回木の学校づくりシンポジウム 「木の学校づくりは志 山とまちをつなぐ『地域材』の活用」 概要報告:

    1.29WASSメッセージ
    東洋大学 木と建築で創造する共生社会研究センター(WASS)

    WASSは、三つの志をもっています。
    一、「地域材」による木の学校づくりをしようとするところを応援する志
    二、山の木を活用し、再び木を植え・育てる林業の循環を応援する志
    三、森と学校、山とまちをつなぐ物語づくりを応援する志

    WASSは、どこでも、どの自治体でも、「木の学校づくり」が実現できるようにするために三つの実践をします。
    一、WASSモデルの「木の学校づくり」を、これまでの調査・研究で集めた「知恵」と「各地のキーマン」をつないで実現します。
    二、全国の、山林に関わる”川上”、製材・乾燥・加工・家具など”川中”、そして、設計・施工など”川下”の人々から意見や取組みを集め、WASSモデルの山と木のネットワークをつくります。
    三、全国の首長、自治体の行政担当者、教育委員会に、WASSから山と木の地域ネットワークグループを紹介し、木の学校づくりによる、山とまちが連携する糸口を「仮想流域モデル」としてつくります。
    2011年1月29日 第3回木の学校づくりシンポジウム

    「1.29WASSメッセージ」は、平成23年1月29日に東洋大学白山キャンパスのスカイホールにて開催した第3回木の学校づくりシンポジウム「木の学校づくりは志 山とまちをつなぐ『地域材』の活用」(主催:WASS、後援:林野庁)の最後にシンポジウムのまとめとして木の学校づくりに対するWASSの志と今後の活動における決意表明を発表したものである。
    このシンポジウムはタイトルに示されるように、多くの課題の中から特に「地域材の活用」を一つのテーマとしている。地域材を活用することは、その意義については理解が得られやすいが、一方で木材の品質や量の確保、地域の体制やスケジュールなど個々の条件に応じた工夫を求められることも多い。
    そして、木の学校づくりのシステムが整っていない状況で、その目標を達成する上で様々な困難があり、実現に向けて木の学校づくりの意義を忘れないで進めていく高い志が必要となる。また、地域ということを閉鎖的、限定的にとらえずに山とまちがそれぞれの情報を十分に共有し、志をもって地域間をしっかり繋いでいくことが大切なことである。
    そこで、今回は地域材が活用された木の学校づくりの紹介とともに、その中で直面する課題について各事例を通して示してもらい、WASS、パネリスト、会場も含めてディスカッションを行った。
    当日、会場には木材関係者、設計者、行政関係者など、遠方よりの来場者も含めて200名を超える方々が参加した。
    シンポジウムはまず冒頭で、林野庁長官の皆川芳嗣氏と文部科学省大臣官房文教設企画部長の辰野裕一氏からの来賓挨拶が行われた。皆川氏は、かつては木造校舎を通じて得られていた木や森との絆が失われてきた状況の中で、公共建築物木材利用促進法など「非常に大きな反転のチャンスを迎えているのが今の時代」と述べ、また、辰野氏は「各地域における学校というものは木から出発している、そこに根ざしている」ということで「木材の利用・活用の推進に力をいれていきたい」と木の学校づくりに対するエールが送られた。

    地域の取り組み紹介
    続いて、地域材を活用して木の学校づくりを進めてきた地域である大分県中津市と秋田県能代市の各市長によって、それぞれの取り組みが紹介された。
    中津市は市町村合併により山林が市の77.5%を占める地域となり、木材を学校などの公共建築物に使用する取り組みが始まった。そこで、RC造等の現在主流となっている建物と同等、それ以下の値段で建設することを目標に、市内の業者が参加する中津市木造校舎等研究会が作られ、木造での建設における検討が行われた。ここで整理されたポイントとして「無理のない材の選択」、「木材調達のタイミング、乾燥期間の確保」、「在来技術の活用」などがあり、地材地建での木造体育館を低コストで実現する運びとなった。
    能代市では木都である地域を再び活性化させたいという思いから木の学校づくりの取り組みが始まり、現在は建物16校中7校が木造となっている地域である。平成6~12年の草創期は木造によるコストアップ、木材の調達、木造の建築技術といった課題に直面する中で木造校舎の建設が進められていった。平成15~18年の転換期ではコストを抑えるために地元産材を使いながら、工法を工夫して木の学校づくりが行われ、草創期と比較するとコストを削減することに繋がった。そして現在はその次の段階として、これまでの木の学校づくりの課題の検証を行った上で、関係者による木材品質の共通理解、必要木材数量の事前公開などの取り組みが新たに行われている。
    以上のように両地域ともに、コストを下げながら木の学校づくりを実現するための工夫が行われていることが示された。

    PD「地域材による木の学校づくりの課題と方策」
    続く、このパネルディスカッションでは中津市と能代市で木の学校づくりを行った設計者によって、設計の際の課題と工夫として以下のような例が示された。
    ・地域の現状を把握するため、原木、製材、大工、施工業者などの現状調査を行った。
    ・大工との打ち合わせでは設計図だけではなく、納まりや手順などについて大工の提案も受け入れながら検討を行った。
    ・材料強度が不明なので、材料試験を行った。
    ・市場に流通している一般住宅に使用される材料を用いる設計とし、木材調達におけるトラブルを回避した。
    ・木材納入の窓口となる流通業者が現場への納品前に自分達の基準で返品などを行ったことがあり、関係者の共通認識のもと現場監督や設計者、設置者が見て基準を決定するようにした。
    ・大量の木材の準備期間が2~3ヶ月しかなかったことから、着工の6ヶ月前に数量公開を行った。
    ・現場で手戻りや無駄が出ないように、木拾い表や施工図の早期作成を施工者に求めた。
    ・普通の大工が誰でもできるような在来構法での設計を行った。
    また、「地域材による木の学校づくりにおける設計者の役割」ということに対して、言葉の違いはあれど、各パネリストは「全ての分野にある程度精通するコーディネーター」ということを挙げていた。

    PD「山とまちをつなぐ新しいしくみの創出」
    中津市、能代市では地元の木材を用いた、地元の業者による木の学校づくりの試みであり、お互いに共通する課題や工夫が見られた。それらを踏まえた上で、ここでは林野庁、製材所、設計者の方々をパネリストとしてむかえ議論が行われた。
    そして、今後の木の学校づくりを見すえた新しい仕組みを考えていく場合の大きな問題点として次の3つの項目が示された。

    ①必ずしも全てを地元でまかなうことができない
    ②地元の需要はあるところで限られている
    ③地域内で成功した仕組みを他の地域に展開できるか

    これに対してWASSは各地域の山とまちをつなぐ「仮想流域」という考え方の提案を行った。将来的に森林の整備が確実に行われ、材料が確実に確保でき、山に確実に再造林されるという循環が達成されるまでは、地域材に焦点を当てていかないと木材利用の流れをつくるのは難しい。そこで、木の学校づくりを進めるにあたって、「木材はあるが建物需要がない山」と「建物需要があるが木材がないまち」とをネットワークでつなぎ、再造林まで含めた循環を地域間で構築する、地域材で山とまちをつなぐという考え方である。パネリストからは、こうしたネットワークをつなぐ役割やそのための情報発信をWASSが果たしていくことに対して期待が寄せられた。
    そして、最後に紙面冒頭に示した「1.29WASSメッセージ」が発表され、シンポジウムの終了となった。

  • ~みなと森と水サミット2011開催~:
    2011年2月9日から19日まで東京都港区で第4回みなと森と水会議が開催された。初日の9日には港区エコプラザにおいて武井雅昭区長をホストとした全国各地の23の自治体の首長とのサミットが開催され、都市における木材の活用による日本の森林再生と地球温暖化防止への貢献を掲げた「間伐材を始めとした国産材の活用促進に関する協定書」への調印式と今回より参加した自治体の首長による地域紹介、これからの都市部と山間部の交流に関するフリーディスカッションが行われた。最後に首長たちによって「みなと森と水サミット2011宣言」が発せられ、10日間にわたる会期の初日を飾った。
    今年度より参加した自治体は長野県信濃町、岐阜県高山市、東白川村、和歌山県新宮市、島根県隠岐の島町、徳島県三好市、那賀町、高知県馬路村、四万十町の9市町村で、竹島を抱える離島でありながら林野庁の助成を受け、近年木質バイオマス事業に取り組む隠岐の島町の他、木造の小中連係校を建設中の三好市や村民の6割が林業従事者で、村内に新築される木造建築に檜の柱80本を進呈する取り組みを続けている東白川村等いずれも地域材の活用に熱心に取り組む自治体ばかりであった。
    フリーディスカッションでは前回までに参加していた自治体の首長を中心に各市町村の取り組みや、みなと森と水ネットワーク会議(英語名:Unified Networking Initiative For Minato “Mori”&”Mizu”Meeting略称Uni4m)への期待が述べられた。象徴的な発言としては飛行機による移動により港区との庁舎間の移動時間が近隣の自治体より近いという北海道紋別市の宮川良一市長による人的交流への言葉で、交通網を背景に港区や他の自治体と組んだエコツアーの企画や、森林セラピー、農商工連携など木材にとどまらない市民参加の多面的な交流への期待が述べられた。他方、参加自治体が増えると港区からの受注競争がより厳しくなるという率直な指摘も出されており、各地から地域材の性能、規格、価格、供給可能量が提示され、「みなとモデル二酸化炭素固定認証制度」に基づく協定材の運用が実施された際に、地域材の流通プロセスを公正に築き、港区が各自治体とどのような連携を築けるのか、地域材活用モデルとしての実体が注目される。最後に掲げられた4つの宣言文すべてに以下のように組織の実行力を意識した「体」という文字が用いられ制度の構想から実行へ移ろうとする意気込みを伝えていた。

    【四万十町より提供された檜材で作られた協定書のカバー】
    「みなと森と水サミット2011宣言」より抜粋
    一つ、すべての自治体に開かれた「運動体」であること
    一つ、精神的にも体力的にも自立した「事業体」であること
    一つ、お互いの文化を認め合い支えあう「共同体」であること
    一つ、自治体の枠組を超えて一致する「連合体」であること

    (文責:樋口)

  • 第24回木の学校づくり研究会より「持続可能な森林経営・木材利用と循環社会」 講師:藤原 敬氏(ウッドマイルズ研究会 代表運営委員、全国木材協同組合連合会 専務理事)
    ■地球環境時代の始まり
    1980年代前半に各国の森林管理当局の担当者が直面した課題として、1988年をベースにしたFAO(国連食糧農業機関)の熱帯雨林調査の報告書の発表と同時期に作成されたアメリカ合衆国政府の「西暦2000年の地球」という報告書の問題提示があった。その中で毎年日本の国土の3分の2程度の熱帯林が急速に減少しているというデータが発表され、それ以降、各国で様々なレベルの議論があった。1992年の地球サミットでは途上国との政治的なバランスを考慮し結局は実現されなかったものの、地球環境条約、生物多様性条約が提起され、その前年には森林条約も提起されていた。それまでローカルな問題であった森林の問題が大きな国際問題として認識されるようになったのはこの頃である。近年では中国の植林がグローバルな森林面積の増加に寄与しているが熱帯雨林の減少はとまっていない。
    ■木材利用促進と環境保護
    現在IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)等は20 世紀の間に12倍になった化石燃料の使用量を21世紀中に半減させる目標を示し、原子力エネルギーへ依存する方向性も模索しているが、21世紀後半にはバイオマスエネルギーの活用が必要となり、そのために木質資源が重要になってくるという見方が一般的である。そのため木材利用の促進は環境政策として定義されているものであり、木材業界の支援のための産業政策としての動きではないことを確認しておきたい。また現在地球上でCO2が増加している主たる理由は、化石資源の燃焼であるが、その5分の1程度が熱帯雨林の伐採に伴うものであるといわれている。そのため熱帯雨林をどのように安定させていくかが課題となっており、木材の利用推進と持続可能な森林の運営が裏腹の問題となっている。
    ■トレーサビリティを担保するしくみの模索
    国際的に熱帯雨林の破壊を防ぐしくみを構築するためにも、木材を循環型社会の資材と見なすためにも、木材生産に関わる環境負荷を明確にすることが求められている。また既に日本の建築物に関する環境性能評価基準CASBEE*や先行するイギリスやアメリカの基準の中では持続可能な森林から産出した木材への評価とローカルな資材の活用という概念が含まれている。日本の木材輸入量はアメリカ、中国に次いで世界で3番目。輸入量に距離を掛けてマイレージを算出すると、日本はアメリカの4倍のマイレージをかけ木材を使用している現状がある。そのためトレーサビリティを確保して環境負荷を明示していくことが重要になる。それを担保する手法として、国際的な認証基準にもとづいてメーカーや木材業者を認定して繋ぎ、最終的に自治体や消費者に対してグリーン購入法にもとづいて所定の森林から産出した材であることを認定する方法や、木材製品に産地やCO2排出量を示すラベルを貼るカーボンフットプリントのような方法があり、エンドユーザーに生産に関わる環境負荷の情報を如何に伝えるかが共通した課題となっている。ただし木材の場合は製造元の大規模な施設で製造される鉄等と異なり、伐採地の森林と加工施設、機材を持ち込む場合等生産の経路が複雑でコントロールすることが難しい。また国産材と輸入材を比べた場合、これまでは輸入材の方が国産材よりもCO2排出量が多いと想定されていたが、木材乾燥に重油を用いると大きな負担となることがわかった。厳密には海路と陸路、輸送車両の規模によりCO2排出量は異なるため、カーボンフットプリントが普及していくと新たな議論が生じることになる。このような課題を背景にクレディビリティの点から、まず近くのものを使っていくことが重要だということがコンセンサスになっている。
    *Comprehensive Assessment System for Building Environment Efficiency
    (文責:樋口)


※パスワードは「wood」