vol.10

木の学校づくりネットワーク 第10号(平成21年7月11日)の概要

  • 巻頭コラム:「木・共生学データベースの試み」篠崎正彦(東洋大学理工学部建築学科准教授、建築計画学):
    WASSはオープン・リサーチ・センターとして開設されています。この「オープン」には研究を大学内のみで展開するのではなく、社会との境界を開いていく(オープンにしていく)という意味が込められています。社会との境界を開くことで2つの流れが生まれます。学外の幅広い人材との共同研究(外→中への流れ)と、研究成果を広く社会に公開していく(中→外への流れ)という2つの流れです。
    「外→中の流れ」については、様々な場で活躍される方々を客員研究員として招いているほか、講演会・シンポジウムを通して多くの関係者のご意見を伺うことにより木とそれを取り巻く社会のあり方について広い視野で研究が進められています。
    一方、「中→外の流れ」では、研究成果を論文や発表会という形で公表することはもちろんですが、木と関わる現場、教育に携わる現場により近い所で成果を利用してもらえるようにする必要があるとも感じています。そのような試みの一つとして、「木・共生学データベース」の構築があります。
    木を使った学校建築を作ろうと考えても、どの様な事例があるのか、どのように木を用いているのか(構造では?、内装の仕上げでは?)、コストはどうなのか、学校の規模や所在地域ごとに差はあるのか、等様々な疑問が浮かびます。また、短期間に大量の木材を準備できる生産者がいるのか、自治体による木材利用促進施策はどうなっているのか、まちづくりとの関わりはどうなっているのかなど、浮かんでくる疑問は限りなくあります。
    木をもっと取り入れた学校を作りたい、木の利用を図ることで環境共生的な地域づくりを進めたいと考える人は多くいますが、この様な基本的な情報を共有した上で議論を進めることが、より有意義かつ効果的な実践に結びつくのではないでしょうか。
    「木・共生学データベース」は、上に挙げた疑問になるべく応えようと、様々な事例を分かりやすく整理し(誰でも使える)、インターネットを通じて利用でき(どこでも使える)ようにしようとするものです。今年度ではこれまでWASSに集まった学校建築の事例を公開しようと作業を進めています。引き続き、木づかいを促進しようとしている団体や自治体の施策についてもデータベース化を進めたいと考えています。
    少しでも内容が充実し、かつ、誰もが使いやすいデータベースを構築・公開することでWASSの目的である「木材の利用を通じた共生型地域社会の実現」に貢献できればうれしい限りです。
  • 最近のトピックス:「第8回 木の学校づくり研究会報告」:
    2009年6月13日に行われた「第9回 木の学校づくり研究会」では、 構造家の増田一眞氏より、「木造校舎の構造設計と課題-大分県中津市鶴井小学校を例として-」という題目で、構法論・形態論をふまえ、無垢材による伝統木造の特徴と木造校舎の実例についてご講演をいただきました。
    ■集成材と無垢材、現代木構造と伝統木造はどう違うのか?
    耐久性、無垢材の寿命は法隆寺が実証しているように千数百年、一方集成材はせいぜい50年しかもたない。接着材を用いることで、木本来の寿命を縮めることなる。さらに接着材を用いることで劣化の進み具合を判断しにくくなり、突然の崩壊を招く場合もある。また集成材は設備費用の償却、独占価格により、無垢材より高額なうえ、廃材処理に有効な方法がなく費用も高くかかる。さらに刃物で加工するのが困難なため、集成材が普及すると大工の仕事が奪われてしまう。伝統木造は無垢材の特性を生かす構造を隠さないため大工は腕をふるうことができる。またメンテナンスが容易で、解体移築が可能。また根曲がり材も適材適所に配置することで、合理的な構造体をつくることもできる。現代木造が平面的な構造体であるのに対して、伝統木造は腰壁、垂れ壁、袖壁等を含め、柱の曲げ抵抗を生かす立体的な構造である。先生のご指摘通りであれば何故、現代木造が普及するのか不思議ですらある。
    ■日本の場所討ちコンクリート造から見えること
    戦後、日本は伝統木造の継ぎ手仕口による緊結手法を省みず、コンクリート造の場所打ち一体性に希望を見出した。場所打ちのコンクリート造の耐久性はせいぜい60年。プレキャストコンクリート造の場合は、理論上必要な水セメント比に近い値で施工可能なので、約9000年の耐久年数となっている。水を絞ることで強度を高めることができ、コンクリートの断面積を半減させることができる。しかし一般的には場所打ちコンクリート造が普及定着している。さらに一般的な日本の建設現場では、型枠は使い捨てされているが、集成材といえども、大量消費の時代は終わっている。一方、プレキャストコンクリートの場合はジョイント部分を外すことで解体移築も可能である。つまり伝統木造と同様に部材を取り外すことで行うことができる。ヨーロッパでは殆どの現場がプレキャストコンクリートを用いて構築している。日本では木造においても、コンクリート造においても素材を効果的に生かすことができていない。
    ■鶴井小学校の事例について
    間伐材は弱齢で赤みが少なく、建築材料としては劣る。鶴井小学校では間伐材であっても、材をつないでいくことで、長いスパン、大断面に匹敵する構造材をつくれなか試みた。そして現場で4寸の板を重ね、熱を加えながら、Rに沿わせて蒸し、何枚も曲げ加工をしたうえで、ダボで縫い合わせ、アーチ型の合成張をその場で加工した。
    ■学校の計画の課題と提案(質疑応答より)
     鶴井小学校のプロポーザルから建設までの経緯や具体的な構法に関する質問が出されたが、他の学校の計画にも生かせるような汎用性に関する質問について増田先生は以下のように述べられた。現在の建築指導課の体制では、無垢材による学校づくりの要望が通りにくい。地元の山では資格を持って製材している者はいないのに、木材自体は天然の素材にJAS規格のような工業規格を要求めるのは基本的に間違いではないか。代わりに設計者に材料試験(強度・ヤング率)を義務づければ良いことだと思う。また工務店に複雑な構造計算をやれといっても無理があるのなら、縮小模型実験を計算の代わりに義務づけて実験的に証明すれば良いのではないだろうか。
  • 調査研究報告:「木材切り出しの現場から」:
    埼玉県のある山で木材切り出しの現場を見学しました。ここでは間伐のように、山主に指定された木のみを一本一本切り出していました。また、周辺の木を傷つけないように切り、枝の絡みなどを取り除きながら、斜面や隣地境界線の木を運び出せる状態にするまで一本につき30分はかかっていました。これらの手間を考えると、決して効率が良いとは言えず、皆伐にはない様々な苦労がうかがえます。


※パスワードは「wood」

木はいいんだプロジェクト

A-WASSでは、調査研究「地域材の利用とりわけ木造・木質建築物が発揮する多面的な機能の体系的整理」(通称:木はいいんだプロジェクト)を進めています。

本プロジェクトは、木材や建築など関連分野の学術関係者をはじめ、幅広い関係者の参画のもと、その多面的機能を網羅的・体系的に整理することにより、木材、とりわけ地域材(国産材)を利用することの意義についての理解の増進につなることを目的としています。

平成26年度は、「緑と水の森林ファンド」(公益社団法人 国土緑化推進機構)の助成を得て、文献及び現地調査を行い、地域材の利用がもたらす効果について整理し、報告書にとりまとめました。

報告書はこちら

調査結果(要約版)はこちら

調査研究の趣旨

森林は、国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、公衆の保健、地球温暖化の防止、林産物の供給等の多面にわたる機能(多面的機能)を有しており、日本学術会議によれば、わが国の森林は、貨幣換算できるものだけでも年間約70兆円の機能を発揮している。

他方、建築物の木造化や木質化は、「第二の森林」を創り出すことにも例えられ、森林と同じように、地域の振興や炭素の貯蔵、教育面、健康・心理面での効果など多面的な機能を発揮している(し得る)ことが明らかになってきているが、これら木材の利用が有する多面的な機能については、森林のように網羅的・体系的に整理されていない。

このような中、我が国の森林資源は、戦後造成された人工林を中心に確実に成長・充実してきており、これら森林資源を持続的・循環的に利用していくためにも、木材利用の意義を体系的に整理し、建築等の木材利用に携わる関係者をはじめ国民・消費者に対しわかりやすく提示していくことが急務である。

そこで、本調査研究は、木材や建築など関連分野の学術関係者をはじめ、幅広い関係者の参画のもと、これらの機能を網羅的・体系的に整理することにより、木材とりわけ地域材(国産材)を利用することの意義についての理解の増進につなげようとするものである。

 

有識者と会員・会友等有志による検討会を開催しました
有識者と会員・会友等有志による検討会を開催しました

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栃木県鹿沼市で現地調査を実施しました

会の理念

 「木と建築で創造する共生社会実践研究会」(A-WASS)趣意書
- 森と里とまちをむすぶ持続可能な循環型地域づくりに向けて -

平成19 年度に文部科学省のオープン・リサーチ・センターとして東洋大学に設立された「木と建築で創造する共生社会研究センター」(WASS)は、産・学・官・民の幅広い関係者の参画のもとで「学校建築を主軸とした『木・共生学』の社会システムの構築と実践」をテーマに研究活動を進めました。5 年間にわたる活動を通じ、木の学校づくり、木の建築づくりを進めるための課題を明らかにし、それを実現するための林業・林産業、製材業、建築、教育、行政等にまたがる関係者の分野横断的な「ネットワーク」を構築し、新しい可能性を切り拓いてきました。

この間、平成22 年には「公共建築物等木材利用促進法」が成立するなど、学校をはじめとする大型建築物の木造化・木質化の流れは一気に加速し、WASS の成果もこれら木の建築の現場で活かされるに至っています。

「木と建築で創造する共生社会実践研究会」(A-WASS)は、上記のWASS の理念と成果を継承し、「木の学校づくり、木の建築づくり」を核としながら、その切り口にとどまらず、持続可能な森林資源の活用を通じ、地域に根差す建築・産業・文化の継承、発展を図り、また、木の建築と木質エネルギーを結びつけ、自立的な循環型地域づくりを進めることにより、共生社会の理念の実現に向けて活動することを目的とします。

関連する各分野で創造的に思考し、行動する人々を相互に繋ぐことにより、総合的・実践的な活動を展開していきます。

平成26年2月1日

 

「木と建築で創造する共生社会研究センター」(WASS)の基本的な考え方 【抜粋】

古来、日本人は日常生活の中で五感を通して「木の文化」に接してきました。建築、生活、芸術全般にわたって「木」は衣食住、伝統文化の伝承を支える資源で した。「木」は日本にあって、唯一育成、再生利用できる生物系天然資源です。今日では、循環型社会、地球温暖化防止に向け「木」の植物としてのCO2吸収・固定化機能や国土保全に果たす役割、建築材料としての優れた特性や地域活性化の効果が期待されており、その有効活用手法が求められています。

「学校建築を主軸とした『木・共生学』の社会システムの構築と実践」をテーマに研究を進めています。
その中で建築学、都市工学、環境工学、森林科 学、学校教育、地域行政等の学際的視点と、計画、設計、構造、室内環境、木造技術(大工)、建築生産、教育環境、むらおこし、景観保存、国土保全、地球環 境、文化・技術の継承等、総合的観点から、「木」の効果的活用を推進するための課題に取り組みます。そして、「木」の活用が森林保全、里山維持、地域振 興、地域の建築文化の継承等、生活環境形成、地球環境保全への社会的認識の高揚を促すものとなるよう、WASSの研究事業を通じて社会的実践的な期待に応 えていきたいと考えています。

■WASSの目標

「木 ・共生学」の理念を構築、普及、それを推進するための社会システムの構築と社会実践
「木」を取り巻く様々な分野を横断的な思考で捉え、現在から未来にわたって持続可能な循環型、共生型地域の実現に寄与する建築ものづくりネットワークの提言

framework

運営体制

「木と建築で創造する共生社会実践研究会」令和6年度 役員名簿


会長

  • 長澤  悟 (東洋大学 名誉教授)

副会長

  • 浦江 真人(東洋大学理工学部建築学科 教授)

運営委員

  • 二国 純生(二国事務所)
  • 長田 剛和(㈱エスウッド)
  • 今泉 裕治(元 林野庁)(兼 事務局長)

監事

  • 新貝 敏憲(㈲新貝商店)(兼 運営委員)

※令和6年6月29日通常総会にて承認