vol.16

木の学校づくりネットワーク 第16号(平成22年3月6日)の概要

  • 巻頭コラム:飯島泰男(秋田県立大学木材高度加工研究所教授・農学博士、木質材料学(木質材料の生産・性能評価と流通システム)管理):
    今年度、林野庁・文部科学省の共管で「学校の木造設計等を考える研究会」が進められている。座長はWASSセンター長でもある長澤先生、小生もその委員に加えられ、現在、まとめの作業に入っている。当初、小生に与えられた課題は「事例に基づくコストを抑えた木造施設の整備」というものであった。そこで当研究所スタッフと能代市に協力をお願いし、関連データをまとめるとともに、補足として木造校舎建設時の「環境負荷」に関する試算結果も報告した。その内容は下記の林野庁HPに掲載されているのでご覧いただきたい。
    さて、その「環境負荷」の件である。
    日本建築学会は2009年12月、日本木材学会を含む関連16団体とともに「建築関連分野の地球温暖化対策ビジョン2050」という提言を出した。実は今から約10年前の2000年にも関連4団体とともに「地球環境・建築憲章」を策定しており、先のビジョンはこの延長線上にあるものと考えることができる。憲章ではキーワードとして建築の「長寿命化」「自然との共生」「省エネルギー化」「省資源・循環」「継承」をあげ、<環境負荷の小さい材料の採用>、<木質構造および材料の適用拡大>という項も起こされている。木材に関しては「炭素の固定により環境負荷を低減するとともに、質の高い居住環境を生み出すという点からも、木質構造および材料の利用のための環境を整える。我が国は木材資源の豊かな国である。我が国の森林の健康を守り資源の適正な更新を図るとともに、実効的な温室効果ガスの放出削減に寄与するために、国産材を有効に活用する。」と記載されている。
    これはおそらく委員として参画した、木材側の会員がこの部分を起草されたのだろうが、このときはすでに京都議定書が採択されているわけで、それを反映したとすれば当然かもしれない。
    そのさらに10年前の1990年、ITEC(国際木質構造会議)が東京で開かれている。全体の発表は約150だが、当時の木質構造での国際的な話題の中心はReliability Based Design(信頼性設計法)であったから、材料や構造の信頼性向上や評価法に関する発表が大部分であった。
    その中に少し毛色の変わった、ニュージーランドのA. H. Buchanan博士による”Timber Engineering and the Greenhouse Effect” という講演がある。内容は「各種建築用材料を製造時の消費エネルギーで比較してみると木材は他材料に比較して格段に少なく、地球温暖化が直近の課題になりつつある現在、木質建築材料の利活用はこれを防止する有効な手段になるであろう」というもので、とても先駆的なものであった。翌年、中島(現:建築研究所)・大熊両氏が木材工業誌にその概要を掲載されると、国内の「木材業界」関係の情報誌ではそれが盛んに引用されるようになっている。
    今から20年前、京都議定書採択の7年前の話である。
  • 最近のトピックス:「政府の林産業施策の方向と課題」:
    1月9日の木の学校づくり研究会では、世界唯一の日刊の木材新聞を発行している、日刊木材新聞社の宮本洋一氏に政府の林産業施策の方向と課題について、お話いただいた。
    ■「私は60年間森を育ててきたが、山で食ってきたのではなく、山に食われてきた」
    宮本氏は2009年農林水産大臣賞を授賞したある林業家の言葉を引用して日本の林業の実態ついて語った。針葉樹合板に使うロシア産カラマツの値段が上昇し、入手しにくくなってきたため価格が上昇した国産カラマツのような例外もあるが、スギの立木の値段はこの30年間で6分の1になっているという。林業家の7割が今後5年間に主伐は行うつもりはなく、育てても出せないという日本の林業の構図を木材価格の変動を示しながら指摘され、改めて深刻さを思い知らされた。そんななか山林の整備、林業の再生を最重要課題にあげられている民主党政権から新たな法案が出された。
    ■「公共建築物等における木材利用の促進に関する法案」について
    赤松農林水産大臣は1月18日の国会に提出する法案の内容について記者会見の場で明らかにした。その内容は山を守るだけではなく、森林林業の活性化を狙う、環境対策、CO2の削減に取り組むといった新政権の姿勢を示したものであった。主題は伐採に適した、成長した木を使い、公共の建物、特に階層の低い役所や学校を木造で建てるという公共建築の木造化、及び木質化。対象となる事業は建物の高さや面積によって異なり、3階建以下は木造、それ以上は木質化するという方針だという。赤松農林水産大臣は子どもたちが温もりのある木の学校で教育をうけることは、RC造の学校では意味が異なると認識しており、是非小中学校、地方の公共建築物を木造化したいと話したという。
    目標は公共施設の100パーセント木質化・内装木質化、果たして実現なるのだろうか。
    ■農林水産省木材利用推進計画について
    宮本氏からで公共建築物の木造化・木質化を具体的に規定する計画として、2009年12月に策定された木材利用推進計画について説明を受けた。政府全体の取組みとして政府の施設、省、地方公共団体にも次年度より木造化・木質化の取組み広めてゆく計画。WTOからのクレームを避けるため、使用木材については「国産材(間伐材)等。」という表現にとどまっているが、実質的に対象物品の購入にあたっては、国産材が見込まれている。期間としてはH22年~H26年の5年間、この期間の成果を発表し、効果を検証するという。他に具体的な取組みとしては、①木質施設をつくる②山の整備を進める③全国の木造施設の情報の収集と提供する④木造建築における標準歩掛の充実⑤関係部局の土木工事に木材を使うという5項目が挙げられている。
    ■期待と不安
    法案が施行され、木材利用推進計画が実行されとどうなるのだろうか。木造化施設の着工棟数は少ないと見込まれる。一方で内装木質化は床及び壁について、施工面積の5割以上を木質化するもので、膨大な量が必要になるだろうと宮本氏。そうなると供給が不安になる。現状はha当り17mと言われている山林の整備に対しては、施行しやすい山林の3分の2を対象として今後10年間でha当り100mのドイツ林業並の路網密度に達成することを目標とした森林林業再生プランが打ち出され、供給に向けた山の整備も進められている。
    参加者からは、さらに山の整備の基盤となる平成検地の必要性や床材等を加工する刃物を統一して、複数の業者間で加工木材をやり取りするような仕組みをつくる必要性を訴える意見も出された。


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vol.6

木の学校づくりネットワーク 第6号(平成21年3月14日)の概要

  • 巻頭コラム:「京都市の景観保全のための独自の防火規制への取り組み」野澤千絵(東洋大学工学部建築学科准教授):
    都市計画の分野では、過去の自然災害や大火等による甚大な都市災害の経験から、都市の不燃化が災害に強いまちづくり実現のための主要な方針の一つとなっている。そのため、都市の中心市街地、主要な駅前、官公庁街、幹線道路沿道など不燃化の必要性が高い地域などに、建物を燃えにくい構造とするように規制する「防火地域」「準防火地域」が都市計画で定められている。その一方で、我が国の歴史的な都市は、一般的に、狭い道路に歴史的な木造建物が密集した都市形態が多い。
    わが国を代表する歴史都市・京都では、都心部に木造の京町家が建ち並んだ歴史的な景観を有する地域が多く、こうした地域に準防火地域が指定されている。例えば、歴史的に独自の建築様式を有するお茶屋の立ち並ぶ祇園町南側地区では、地区特性に応じた独自の景観基準を定め、当地区固有の景観保全の取り組みを展開している。
    しかし、準防火地域のままでは、新・増築を行う場合、軒裏の化粧板仕上げ、外壁の土壁塗りや腰板張り、外観の開口部についての木製出格子、木製建具の使用などが不可能であるなど、木造あらわしを基調とする伝統的様式の建築が困難であるという問題があった。準防火地域の指定を都市計画として解除すれば、確かに伝統的様式の建築は可能となるが、地域全体として防火性能を低下させてしまう恐れがあり、都市防災上は好ましくない。また、当地域の地元まちづくり組織は、伝統的建造物群保存地区のような、静的固定的な規制による景観保全は行いたくないという意向が強かった。
    そこで、景観に寄与する伝統的様式に限って、防火上の柔軟性を持たせる仕組みが検討され、最終的に、準防火地域を解除するとともに、独自の防火条例(平成14年10月施行)を適用した。これは、相対的には制限の緩和となっているが、法制度上では、準防火地域を解除することを起点にした上で、条例で40条による地方公共団体の条例による制限の附加を行うという、(かなりマニアックな)論理で地区独自の景観保全の取り組みを展開させている。
    このように、我が国を代表する歴史的町並みを保全するためであっても、建築物に「木」を使うことに対する様々な法制上のハードルが存在していた。今後、WASSの研究目的の一つである地域産木材の好循環フローの構築のためには、小手先の法制度の操作ではなく、地域の実情に応じて実質的に取り組みができるよう、「最低限の基準(建築基準法)や「国土の均衡ある発展(都市計画法)」といった法制度の考え方そのものも抜本的に転換していく必要があるのではないだろうか。
  • WASS調査報告:
    秋田県能代市では平成6年度以降、小中学校の改築においては木造化を行う、という方針によって木造校舎が建てられてきました。これまでに5つの小中学校で木造校舎が建てられ、現在も2つの小学校が木造で建設中です。
    近年では、このように地場産材を用いて建てられた校舎がいくつもある地域は珍しく、どのようにして校舎に木材が使われているのかを調べるために、WASSで現地調査を行いました。
    この地域では古い木造校舎も多く、地場産材である天然秋田スギがふんだんに使用されています。しかし戦後になると、校舎は鉄筋コンクリート造のものが多く、木造校舎はしばらくの間建てられていませんでした。
    こういった状況の中で、平成7年竣工の崇徳小学校は、能代市が30年ぶりに建設する校舎であり、また秋田スギを用いた建物にしたいという地元の熱意を受けて、木造(一部鉄骨造)の校舎となりました。この校舎を建築するにあたっては、防火や水廻りなどの木造であることの問題がありましたが、特に木材の乾燥についての問題が木造校舎(公共建築)特有の問題として大きかったようです。
    公共建築の場合、入札後に施工業者が決定することから、木材の発注はその後となるため着工までの期間が短く、乾燥材をそろえることが難しい状況にあります。校舎のような大規模建築では、乾燥材を大量に必要とするためなおさらです。崇徳小学校では、地元の協力もあって木材産業関連団体に事前に準備をしておいてもらうことができたため、工事を進めることが可能となった経緯があります。
    崇徳小学校以降、能代市では4つの小中学校が建てられてきましたが、その中で木造校舎建築に関する課題を乗り越えるために色々な取り組みがなされてきました。
    例えば、発注者、設計者、木材関係者で設計の段階から協力して事前の準備を十分に行ったことなどが挙げられます。また、以前に建てられた木造校舎に対しての検証や分析も行い、施工者も含めた市の公共建築についての研究会なども実施されました。
    そのような過程を経て、設計者も「作りやすく、あたりまえにできること」を考えて設計を行う、などの工夫を行っています。例えば、特殊な寸法の木材の場合、準備をしても使用されなかったときにリスクを伴うことから、定尺材を利用することでこれを回避し、木材を調達しやすい状況を作り出しています。また、次第に木材供給側の理解度も高まり、設計者が木材業者に合わせるだけではなく、木材業者が設計者に合わせることも可能となってきました。その中で生まれたのが下記の常盤小中学校や浅内小学校の木造校舎です。
    しかし、残念なことに現在建設中の2校が竣工すると木造校舎の建築予定は現段階ではないため、これまでに積み上げてきたノウハウが失われていくことが懸念されます。WASSとしても能代市の取り組みを1つの代表的な事例としてを分析し、他の地域での取り組みにも生かせるようにしていかなくてはならないと強く感じています。


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vol.2

木の学校づくりネットワーク 第2号(平成20年11月15日)の概要

  • 巻頭コラム:工藤和美(東洋大学理工学部建築学科教授、建築家/シーラカンスK&H)「木はいいよね!落ち着くし、触れるし、やさしいし。何かストレスが無くなる感じで、子ども達の怪我が減ったのよ。」これは、一年点検で訪れた時、さつき幼稚園の園長先生から頂いたお言葉。コンクリート造の旧園舎で、25年間過ごしてこられた経験と照らし合わせてのこの感想は、今まさに私たちが進めて行こうとしているWASSの活動へのエールのようにも聞こえてきます。もちろん、地球環境への配慮、心理学的効果や科学的根拠もさることながら、使い手の満足があってこそ木が生きてくるし、多くの木を用いることができると感じています。学校建築の設計を手がける時に、他の施設と比べて私がもっとも頭を悩ますのが、掲示物の多さです。日本の学校では、特に幼稚園や小学校においては、「環境整備」という呼び方で部屋を飾る事が多く、掲示可能な壁が必要だと求められています。現在、多くの学校で使用されている工業製品の壁仕上げでは簡単には掲示ができません。ところが、木質仕上げの部屋では、天井でも壁でもちょっとしたピンがあれば簡単に掲示することができます。学校のような大きな建築では、仕上げの量も大変なものです。木に囲まれた空間になることで、掲示の場所を探し、掲示方法を如何しようかと頭をひねるといったストレスから解放されます。しかし、木と付き合うには少しのんびりした心構えも必要です。木は呼吸しているので、湿気を吸ったり乾燥したりと1年を通して伸び縮みします。落ち着くまで少々暴れますし、勝手の悪い時期もあります。その時、あせって処理するのではなく、1年2年と様子を見るだけの余裕も必要です。子どもの成長を見守る親の目をもったユーザー教育も大切なのかもしれません。学校は、子ども達が一日の大半を過ごす空間です。心地よさをもった木の学校づくりを広げることは、未来を担う人を育てる上で、重要な役割を担うことになります。「木はいいよね!」をますます広げましょう。

※参考リンク: 話題の木造施設――「初めての大規模」を語る 対談:松永安光氏/近代建築研究所代表+工藤和美氏/シーラカンスK&H代表

  • WASSシンポジウム報告:平成20年10月25日にWASSの第1回シンポジウムが秋田、三重、群馬、山梨など遠路からの方々を含め300余名の参加者を迎えて開催されました。・・
  • WASS研究室から

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