vol.20

木の学校づくりネットワーク 第20号(平成22年7月10日)の概要

  • 「木の学校づくりの手引書”こうやって作る木の学校”発行」:
    「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が、去る5月19日、国会において全会一致で成立した。それを受ける形で5月28日に文部科学省・農林水産省から「こうやって作る木の学校~木材利用の進め方のポイント、工夫事例~」が発行された。文部科学省からは少ない先進事例をもとに要点をまとめた「木の学校づくり」(1999)や木を活用する上での疑問点をQ&A形式で解説した「早わかり木の学校」(2008)など木の学校づくりの手引書が発行されてきたが、本書は昨年度WASSが伐採から竣工まで追跡調査を行った埼玉県の都幾川中学校の内装木質化事例を含む近年の研究成果や学校の事例37校がテーマ別に紹介されている。自治体担当者や設計者から収集した情報をもとに補助制度への申請期間や、特に木の学校をつくる上で課題となる木材の伐採・乾燥・製材・加工期間を見込んだ事業スケジュールモデルが提示され、歩留まりを上げる、木材を使いきる、同じ規格の材、架構、ディティールを繰り用いるなど、コストを抑える設計上の工夫も解説され、これから木の学校づくりに取り組む行政担当者や設計者にとって、より実践的な情報が盛り込まれている。
    本書の末部で今後の課題点としてあげられているように、JAS材や特定の地域の木材を意図して使うことが、実際どのように森林の循環に結びついているのかといった、社会システムのモデルとして各事例を評価する視点が求められており、今後WASSでは本書を貴重な資料として課題の分析に活用していく。 (*)「こうやって作る木の学校」は以下の林野庁URLから閲覧することができます。
    3月に長澤センター長の海外木造建築事例研究に同行し、スイスアルプスの麓、グラウブンデン州フリン村を訪ねた。標高1000mを越えるこの村の家々は周囲のモミやカラマツを用い数世代にわたり改修が続けられたため、木材の退色度合いにより村並はモザイク模様に見え、建築を維持させる村人の営みが一つの景観を生み出していることが魅力的に見えた。木造建築の各部位、部材は常に様々な劣化外力にさらされており、長期間維持するためには、環境条件に応じたメンテナンスを継続することが必須条件となる。
    80年代以降再び建てられるようになった日本の木の学校ではどうか。建設時には定期的な塗装や点検が計画されるものの、実際には木の特性に十分に配慮した施設維持費を計上する自治体は少ない。木の学校の設計者には木の特性をふまえ、長期間の使用を想定した設計が求められる。近年の木の学校の特性であるRC、S造との混構造や集成材の利用が見られる初期の学校が築後20年を迎えるなか、設計者の経験をふまえた現代の学校に見合うメンテナンスの手法の情報が蓄積・共有され、維持管理の体制づくりに向け、認識を深める時期を迎えている。日常的な清掃活動をはじめ、メンテナンスに対する
    積極な姿勢が地域のシンボルと
    しての学校に愛着を湧かせるは
    ずである。(樋口)
  • WASS建築生産部会の研究報告:
    ■木の学校づくりにおける建築生産上の特徴
    学校建築に木材を利用する場合、木造の戸建住宅やRC造などの学校と比較して、建築生産の中で一般的に以下のような特徴が挙げられる。

    ①戸建住宅とは異なり規模が大きいため、短期間に大量の木材を調達し、施工しなければならない
    ②コンクリートや鉄骨などの材料とは異なり、木材は乾燥期間を必要とするため、木材の発注から納品までのリードタイムが長い
    ③公共事業の場合、事業費が単年度予算で組まれるため、伐採時期や乾燥期間などのスケジュール設定が難しい
    ④地域産材など木材の産地を指定する場合が多い ⑤木材の特徴として、特に製材の場合、基準に見合った品質の材料を揃えるのが難しいことが多い
    これらの特徴が関連しあうことで、例えば、短い準備期間で大量の良質材料を調達する必要がある、単年度予算のために十分に乾燥した木材を準備することが困難である、設計者の指定する仕様と地域の木材調達能力の間に格差がある、などの問題が発生することとなる。それに伴い、設計者・施工者・木材供給者がスケジュール、報酬、木材調達等についての多様な困難に直面することから、一連の生産プロセスを分析し、効果的なプロジェクト運営を可能としていくことは重要である。
    ここでは、学校建築に木材を利用する際の建築生産プロセスの中で、仕様書に着目して調査を行った結果について報告する。設計図書における仕様書は、発注者からの要求も含めて、使用する木材を国産材や地域産材に限定する場合の木材調達に密接に関わっており、その役割は大きいと考えられる。
    ■標準仕様書の現状
    木造建築に関連する標準仕様書の中で学校建築の木質化に関わる代表的なものとして次の4つ仕様書が挙げられる。
    ①木造建築工事標準仕様書(平成22年版)
    :国土交通省大臣官房官庁営繕部監修
    ②公共建築工事標準仕様書(平成22年版)
    :国土交通省大臣官房官庁営繕部監修
    ③公共建築改修工事標準仕様書(平成22年版)
    :国土交通省大臣官房官庁営繕部監修
    ④建築工事標準仕様書 JASS11 木工事 2005
    :日本建築学会

    右表に示すように、これらの仕様書では木材の品質について、日本農林規格(JAS)が大きな基準となっている。①~③では原則として「日本農林規格による」と表記され、JAS材を使用することが前提である。これに対して、④では最初に「特記による」と書かれており、日本農林規格は特記がない場合の品質基準という位置付けである。つまり、④の仕様書では木材の品質を設計者が指定することが前提であり、①~③と比べて使用可能な木材の範囲が広がっていることが分かる。
    ①~③は官庁営繕関係統一基準として定められたもので、国家機関の建築物やその附帯施設などに対しての適応が意図されている。学校建築の場合、公共事業であるとともに国からの補助金を受けているといった事情から、一般的にこれらの仕様書が標準仕様書として用いられることが多い。こうした背景から、仕様書作成の際にはこれらの内容の影響を大きく受けることになると考えられる。
    ■地域産材の利用とJAS材
    標準仕様書で木材品質の基準となっているJASであるが、規格の中で製材の品質として節、割れ、曲がりなどの欠点や保存処理、含水率、寸法、曲げ性能などの項目があり、等級を定めている。
    このようにJAS材は木材製品としての品質管理がなされており、構造材や内装材などの建材として利用しやすい木材であるが、一方で地域の木材を利用して学校建築の木質化を行う場合には品質とは別の問題が生じる可能性がある。
    全国の製材工場数は6865工場であるのに対して、JAS認定工場は613工場と全体の9%であり、製材生産量は全体の10~20%程度である。北海道、東北地方、九州地方を除くと、10工場以下が大勢を占めており、全くない県もある。このため、市区町村単位だと認定工場のある地域は非常に限定され、地域産材としてのJAS材の入手が難しくなる。
    また、学校建築の木質化では大量の木材が必要であり、地産を木材利用の方針とした場合には地域内の複数の工場で構造材・造作材の種類別、数量で分担して製材し、材料を調達している状況が多い。
    JAS認定工場は製材規模や必要な設備、認定のための手数料を含めた維持費などが必要となるため、地域の小規模な製材所では負担が大きく、JAS認定工場であることが困難な状況もある。
    以上より、学校建築の木質化において市区町村単位で地元の木材を利用する場合、その木材供給能力を考慮せずに仕様書の中でJAS材を指定してしまうと、JAS認定工場がなく、地元の製材業者では対応できない事態が発生する可能性が大きい。
    ■実際の事例における特記仕様書
    地域産材を利用した学校建築での特記仕様書の事例として、A中学校屋内運動場(滋賀県a市b地域)を取り上げる。この建物はRC造の構造体の上に木造のアーチ梁による小屋組を架け渡した構造であり、その部分に地域産材が利用されている。
    木材は地元産の支給木材とそれ以外に分けられており、特記仕様書内で施工者調達分についても表面仕上、含水率、樹種とともに、「木材は極力b産または、a市内にて調達した材料を使用する様努めること」と地域産材を用いることが指定されている。
    小屋組に使用する木材(支給木材)については構造詳細図にて「スギ、E70、含水率25%以下」と記述がある。これらの値は特別高品質のものではないが、大スパンのアーチ梁の安全性を確保するための指定であり、設計者の指示で品質検査の徹底がなされている。これは、建物に使用する全ての木材に対して一律にその性能を指定するのではなく、必要な部分に対して必要な性能を確実に確保するという考え方である。
    この事例のように地域産材によって学校建築を建設する場合、特記仕様書において使用する木材の産地指定や木材を供給する地域の状況などを考慮して品質を指定することは重要である。
    品質が保証されたJAS材は利点が多いが、地域産材を使用することを前提とした場合、現状では大きな困難が生じる可能性が大きい。一方で、建物としての適正な品質を保障するためには、JAS材以外の木材の性能をどのように確保するかも大きなテーマであり、特記仕様書での指定方法とともに設計者の判断が問われることになる。

  • 第18回木の学校づくり研究会より-「日本の林業の実態と国家戦略」講師:梶山恵司氏(内閣官房国家戦略室内閣審議官):
    ■林業は国家戦略の重要課題
    これまでの森林・林業政策を抜本から見直すために現在、林野庁を中心として「森林・林業再生プラン」という大掛かりな改革案が検討されている。日本の森林は林齢構成から今後50年生を超える木が増えていく状況にある。そのため、林業は現段階でしっかりとした基盤を作ることによって地域経済を支える柱になるため、国家戦略の重要課題の一つとして位置づけられている。
    これからの林業として「保育から利用へ」と転換がなされようとしている。つまり、「木を育てる林業」と「木を利用しながら森林整備を進める林業」は根本的に異なり、これからは伐採技術、機械導入による工程管理、コスト計算、マーケティングなどが要求される新しい林業を築き上げることが将来に向けて重要なことであり、この政策の狙いとなる。
    ■日本の林業の現状
    林業は先進国型の産業であり、世界の木材生産量の2/3は先進国によるものとなっている。1992年以降の丸太生産量を見ると、ヨーロッパ、北米では生産量が伸びているのに対して、日本では現在まで低下し続けている。
    日本の林業が衰退した原因として、外材の導入などがよく挙げられるが、そうではなく「自分達のせい」と梶山氏は分析する。日本の木材生産量の推移のデータによると、現在まで生産量はずっと低下し続けているが、1960年代では6000万m3の木材を生産していた。実はこの生産量が問題であり、当時の日本の森林の蓄積量が20億m3だったことを考えると過伐であったということになる。当時は木材の需要が大きく、価格も非常に高かったため林業は儲かる仕事だったという背景があり、実は現在ではなく当時がある種異常な状況であったということになる。その後の生産量の低下に対して、むしろ外材は供給量の低下を補っていたことになり、林業衰退の要因とは反対の見方となる。
    ヨーロッパの林業と比較した場合、日本では林業機械を見ても問題点が浮かび上がる。ヨーロッパで使われているハーベスタ、フォワーダなどの林業機械は当然のことながら林業用に設計され、生産における効率性などが重視されている。それに対して、日本では基本的に土木用の重機を改造したものであり、効率性もさることながら安全性についても不十分なものである。路網についても同様でフィンランドでは1960~1990年代に集中投資を行って整備がなされてきた。日本では路網整備が遅れているが、山の管理のためにも早急に進める必要がある。
    また、所有者をサポートする体制も重要である。日本では所有規模が小さい、複雑であることから個人の所有者が林業の担い手となりにくくなっているが、これはヨーロッパなどの先進国に共通のことである。そのため、ヨーロッパでは森林管理の専門家や組織が個人所有者をサポートし、役割分担や連携などがうまくとられている。一方、日本でその役割が期待されていたのは森林組合だが、その大部分が公共事業に依存して活動しており、残念ながら森林管理などの専門性や計画性がないまま間伐などが進められてきた。
    ■森林・林業再生プランでの実践
    このプランでは①基本政策、②路網、③人材育成、④森林組合改革、⑤木材流通・加工・利用、⑥予算の抜本的見直し、の6つの大きな検討項目が掲げられている。これらは密接に関係しあっている事柄であり、総合的な推進が必要となるが、その中でも人材育成と森林組合改革(公共事業からの脱却)は非常に大きなテーマとなっている。人材育成については現在5つの地域での集中投資によるモデル事業が実践されており、ドイツやオーストリアのフォレスターによる指導や研修が行われている。
    新しい林業の基盤が今まさに築き上げられようとしており、今後の展開が期待される状況である。(文責:松田)


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vol.16

木の学校づくりネットワーク 第16号(平成22年3月6日)の概要

  • 巻頭コラム:飯島泰男(秋田県立大学木材高度加工研究所教授・農学博士、木質材料学(木質材料の生産・性能評価と流通システム)管理):
    今年度、林野庁・文部科学省の共管で「学校の木造設計等を考える研究会」が進められている。座長はWASSセンター長でもある長澤先生、小生もその委員に加えられ、現在、まとめの作業に入っている。当初、小生に与えられた課題は「事例に基づくコストを抑えた木造施設の整備」というものであった。そこで当研究所スタッフと能代市に協力をお願いし、関連データをまとめるとともに、補足として木造校舎建設時の「環境負荷」に関する試算結果も報告した。その内容は下記の林野庁HPに掲載されているのでご覧いただきたい。
    さて、その「環境負荷」の件である。
    日本建築学会は2009年12月、日本木材学会を含む関連16団体とともに「建築関連分野の地球温暖化対策ビジョン2050」という提言を出した。実は今から約10年前の2000年にも関連4団体とともに「地球環境・建築憲章」を策定しており、先のビジョンはこの延長線上にあるものと考えることができる。憲章ではキーワードとして建築の「長寿命化」「自然との共生」「省エネルギー化」「省資源・循環」「継承」をあげ、<環境負荷の小さい材料の採用>、<木質構造および材料の適用拡大>という項も起こされている。木材に関しては「炭素の固定により環境負荷を低減するとともに、質の高い居住環境を生み出すという点からも、木質構造および材料の利用のための環境を整える。我が国は木材資源の豊かな国である。我が国の森林の健康を守り資源の適正な更新を図るとともに、実効的な温室効果ガスの放出削減に寄与するために、国産材を有効に活用する。」と記載されている。
    これはおそらく委員として参画した、木材側の会員がこの部分を起草されたのだろうが、このときはすでに京都議定書が採択されているわけで、それを反映したとすれば当然かもしれない。
    そのさらに10年前の1990年、ITEC(国際木質構造会議)が東京で開かれている。全体の発表は約150だが、当時の木質構造での国際的な話題の中心はReliability Based Design(信頼性設計法)であったから、材料や構造の信頼性向上や評価法に関する発表が大部分であった。
    その中に少し毛色の変わった、ニュージーランドのA. H. Buchanan博士による”Timber Engineering and the Greenhouse Effect” という講演がある。内容は「各種建築用材料を製造時の消費エネルギーで比較してみると木材は他材料に比較して格段に少なく、地球温暖化が直近の課題になりつつある現在、木質建築材料の利活用はこれを防止する有効な手段になるであろう」というもので、とても先駆的なものであった。翌年、中島(現:建築研究所)・大熊両氏が木材工業誌にその概要を掲載されると、国内の「木材業界」関係の情報誌ではそれが盛んに引用されるようになっている。
    今から20年前、京都議定書採択の7年前の話である。
  • 最近のトピックス:「政府の林産業施策の方向と課題」:
    1月9日の木の学校づくり研究会では、世界唯一の日刊の木材新聞を発行している、日刊木材新聞社の宮本洋一氏に政府の林産業施策の方向と課題について、お話いただいた。
    ■「私は60年間森を育ててきたが、山で食ってきたのではなく、山に食われてきた」
    宮本氏は2009年農林水産大臣賞を授賞したある林業家の言葉を引用して日本の林業の実態ついて語った。針葉樹合板に使うロシア産カラマツの値段が上昇し、入手しにくくなってきたため価格が上昇した国産カラマツのような例外もあるが、スギの立木の値段はこの30年間で6分の1になっているという。林業家の7割が今後5年間に主伐は行うつもりはなく、育てても出せないという日本の林業の構図を木材価格の変動を示しながら指摘され、改めて深刻さを思い知らされた。そんななか山林の整備、林業の再生を最重要課題にあげられている民主党政権から新たな法案が出された。
    ■「公共建築物等における木材利用の促進に関する法案」について
    赤松農林水産大臣は1月18日の国会に提出する法案の内容について記者会見の場で明らかにした。その内容は山を守るだけではなく、森林林業の活性化を狙う、環境対策、CO2の削減に取り組むといった新政権の姿勢を示したものであった。主題は伐採に適した、成長した木を使い、公共の建物、特に階層の低い役所や学校を木造で建てるという公共建築の木造化、及び木質化。対象となる事業は建物の高さや面積によって異なり、3階建以下は木造、それ以上は木質化するという方針だという。赤松農林水産大臣は子どもたちが温もりのある木の学校で教育をうけることは、RC造の学校では意味が異なると認識しており、是非小中学校、地方の公共建築物を木造化したいと話したという。
    目標は公共施設の100パーセント木質化・内装木質化、果たして実現なるのだろうか。
    ■農林水産省木材利用推進計画について
    宮本氏からで公共建築物の木造化・木質化を具体的に規定する計画として、2009年12月に策定された木材利用推進計画について説明を受けた。政府全体の取組みとして政府の施設、省、地方公共団体にも次年度より木造化・木質化の取組み広めてゆく計画。WTOからのクレームを避けるため、使用木材については「国産材(間伐材)等。」という表現にとどまっているが、実質的に対象物品の購入にあたっては、国産材が見込まれている。期間としてはH22年~H26年の5年間、この期間の成果を発表し、効果を検証するという。他に具体的な取組みとしては、①木質施設をつくる②山の整備を進める③全国の木造施設の情報の収集と提供する④木造建築における標準歩掛の充実⑤関係部局の土木工事に木材を使うという5項目が挙げられている。
    ■期待と不安
    法案が施行され、木材利用推進計画が実行されとどうなるのだろうか。木造化施設の着工棟数は少ないと見込まれる。一方で内装木質化は床及び壁について、施工面積の5割以上を木質化するもので、膨大な量が必要になるだろうと宮本氏。そうなると供給が不安になる。現状はha当り17mと言われている山林の整備に対しては、施行しやすい山林の3分の2を対象として今後10年間でha当り100mのドイツ林業並の路網密度に達成することを目標とした森林林業再生プランが打ち出され、供給に向けた山の整備も進められている。
    参加者からは、さらに山の整備の基盤となる平成検地の必要性や床材等を加工する刃物を統一して、複数の業者間で加工木材をやり取りするような仕組みをつくる必要性を訴える意見も出された。


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vol.15

木の学校づくりネットワーク 第15号(平成22年1月9日)の概要

  • 巻頭コラム:「WASSのネットワーク構想」:花岡崇一(森の贈り物研究会主宰):
    「木の学校づくり」を切り口にした「木と建築で創造する共生社会」を研究するにあたって、最初に考えたのは次の二点でした。一つは、「木の学校づくり」を実現した地域には人々のどんな思いと協力、課題と解決策があったのかを明らかにすること。二つ目は、自ら林業の現状と課題をつかみ、林業や木製品の製造に関わっている人々の思いを受け止め、共に考え・行動する場となることでした。
    そのために、林業者、加工者、行政者、設計者(意匠・構造)をお訪ねし、報告をいただく場として、建築学科の周囲に外部協力者の研究会や専門家の講演会を組織しました。現在「木に関わる事柄」を自前で議論することができるメンバーが揃った定例研究会に成長しました。この参加者が、WASSの理念を共有しながらゆっくりとした歩みで人と人を結びはじめました。ネットワークの核になる部分です。次に、各地の事例研究を徹底して始めました。秋田県能代市のように市をあげて木造校舎建設を進めている地域、栃木県茂木町、長野県川上村のように学校林や町村有林を活用している地域、大分県中津市のように、市の主導で木造建設の研究会を立ち上げ、市民や企業の参加を促しながら建設を進めている地域、既設校舎の改修に「木質化」を意図的に進めている埼玉県ときがわ町のような地域、それぞれの地域の実情に応じた試みが行われ、素材として「木」を使うこと自体の難しさや地域の林産業のあり方、大きくは法律の壁などの課題を克服してきた貴重な経験を集めることができました。これらを横につなぐ事によって、新たに木の学校をつくろうとする地域や人々に大きな手助けができるネットワークです。
    今年WASSが取り組むネットワークづくりは、首長・行政・設計者・林産業者・学校関係者をそれぞれつなぎ、経験の集約とよりよい取り組みを展望する方策をつくり、新たに「木の学校づくり」に挑戦する地域や人々に「確実な成果」を「回す」ことだと思います。そのことを通して、地域と地域、仕事と仕事、人と人がつながった社会を創っていくことがWASSの使命だと考えています。
  • 最近のトピックス:第13回 木の学校づくり研究会 報告:
    2009年12月12日に行われた木の学校づくり研究会では、東京農工大学の服部順昭教授より、「カーボンフットプリント(CFP)と林野庁の「見える化」事業について」というテーマでお話いただきました。その内容について紹介いたします。
    ■カーボンフットプリント(CFP)とは?
    CO2をはじめとする温室効果ガスの排出量は、産業部門は企業努力で減っていますが、家庭部門や業務部門は増えており、それを削減していくためにカーボンフットプリント(CFP)を使うということになります。2008年3月の京都議定書目標達成計画で「CO2排出量の見える化」という言葉が登場し、同年7月の閣議決定における「低炭素社会づくり行動計画」で「カーボン・フットプリント制度等の見える化」の導入が明記されました。このような活動は化石資源の延命を図り、後世まで繋いでいくという観点からも非常に重要です。
    CFPの算定には、ライフサイクルアセスメント(LCA)をツールとして利用します。LCAは火山活動などの自然領域と人間の活動による人工領域間のマテリアルフォローを定量的に見て、製品やサービスの資源調達から、製造、使用、廃棄に至るまでのライフサイクルにおいて、投入した資源量やエネルギー量、環境に与えた負荷量を求め、その影響を総合的に評価する手法です。何が環境に悪いのかを知り、人為的な部分をコントロールすることで環境影響の小さな社会を実現しよう、ということになります。
    CFP制度はLCAの手法を活用し、商品及びサービスのライフサイクル全体を通して出る温室効果ガス排出量をCO2に換算し、表示する仕組みです。
    表示は右図のCFPマークを商品1つ1つに貼り付け、サプライヤー差などの付加的な表示も行います。例えばA、Bのメーカーで、ある商品の値段が一緒だとすると、CFPの値の高いメーカーの商品は売れません。そうなるとCFPの高いメーカーは下げる努力をせざるを得ません。このような狙いもCFPには含まれており、CO2排出量の少ない商品の選択や普及を図ることで削減効果が非常に大きくなります。
    ■CFPの現状とこれから
    経済産業省、環境省、農林水産省などで検討や指針・基準などの策定が進められ、CFP商品として販売を始めているところも実際にあります。
    木材関連では、林野庁で昨年に「木材利用に係る環境貢献度の「見える化」検討会」が開催され、林野庁版の「木材利用に係る環境貢献度の定量的評価手法について(中間とりまとめ)」が作られ、これから「見える化」を推進して行くことになります。そして、業界標準値や削減率などを示すために必要な目安となるデフォルト値は、使用量の多い製品から、製材、集成材、合板、パーティクルボードを取り上げ、国産材、外材の別で今年度NPO法人才の木で試算が始まっています。特に、土台などの保存処理木材は薬品を使用することもあり、この業界団体はすでに動き始めています。ところが、原材料である丸太が一番遅れており、その後の計算が難しいという状況があります。
    また、CFPを行うときには必ずPCR(商品別算定基準:商品ごとに定めた共通の算定法)が出来ている必要があります。これは政府が作るものではなく、業界が主体とならなければ出来上がりません。木材製品(木質部材)のPCR原案策定計画の申請はNPO法人才の木が代表者となっており、PPR-043で産業環境管理協会から計画を承認されました。対象製品は製材、集成材、合板、パーティクルボード、繊維版、防腐処理木材となっており、これからPCRを作成していくこととなります。


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木はいいんだプロジェクト

A-WASSでは、調査研究「地域材の利用とりわけ木造・木質建築物が発揮する多面的な機能の体系的整理」(通称:木はいいんだプロジェクト)を進めています。

本プロジェクトは、木材や建築など関連分野の学術関係者をはじめ、幅広い関係者の参画のもと、その多面的機能を網羅的・体系的に整理することにより、木材、とりわけ地域材(国産材)を利用することの意義についての理解の増進につなることを目的としています。

平成26年度は、「緑と水の森林ファンド」(公益社団法人 国土緑化推進機構)の助成を得て、文献及び現地調査を行い、地域材の利用がもたらす効果について整理し、報告書にとりまとめました。

報告書はこちら

調査結果(要約版)はこちら

調査研究の趣旨

森林は、国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、公衆の保健、地球温暖化の防止、林産物の供給等の多面にわたる機能(多面的機能)を有しており、日本学術会議によれば、わが国の森林は、貨幣換算できるものだけでも年間約70兆円の機能を発揮している。

他方、建築物の木造化や木質化は、「第二の森林」を創り出すことにも例えられ、森林と同じように、地域の振興や炭素の貯蔵、教育面、健康・心理面での効果など多面的な機能を発揮している(し得る)ことが明らかになってきているが、これら木材の利用が有する多面的な機能については、森林のように網羅的・体系的に整理されていない。

このような中、我が国の森林資源は、戦後造成された人工林を中心に確実に成長・充実してきており、これら森林資源を持続的・循環的に利用していくためにも、木材利用の意義を体系的に整理し、建築等の木材利用に携わる関係者をはじめ国民・消費者に対しわかりやすく提示していくことが急務である。

そこで、本調査研究は、木材や建築など関連分野の学術関係者をはじめ、幅広い関係者の参画のもと、これらの機能を網羅的・体系的に整理することにより、木材とりわけ地域材(国産材)を利用することの意義についての理解の増進につなげようとするものである。

 

有識者と会員・会友等有志による検討会を開催しました
有識者と会員・会友等有志による検討会を開催しました

P1010937 (640x480)

P1010742 (640x480)
栃木県鹿沼市で現地調査を実施しました